黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

32.※足りない代償

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ソファに押し倒されてそのまま犯されたのまではいつも通りと言えばいつも通りだったのに────。

ロックウェルはそのままあっさりと一度だけ抱いて、シャワーを勧めてきた。
珍しいこともあるものだと思いつつシャワーを借りたら、今度は『今日は帰ってくれていい』と言われてしまう。
こんなことは初めてで正直ショックだった。
けれどロックウェルに視線をやるもこれ以上語る気はないと言わんばかりで……。

「もういい。わかった」

こうなったら直接ロイドに問い詰めてやると思い、クレイは踵を返した。
ロイドが何かを吹き込んだのは一目瞭然だし、それをロックウェルが言わないのには何か訳があるのだろう。
(俺を抱くなとでも脅されたのか?)
けれどそんな脅しに屈するロックウェルではないだろう。
(…落ち込んでいたようにも見えたしな)
いずれにしろロイドが余計なことをしてくれたのには違いないのだ。
ロックウェルの情事に慣らされた身体が、一度では足りないと内に熱を燻らせる。

「はぁ…」

そうやってため息を吐きながら王宮を出たところで、自分の前にロイドが待ち構えていたかのように姿を現した。
「ふっ…狙い通りだな。クレイ」
しかもそんな風に微笑むから、腹が立って仕方がない。
「お前のせいでロックウェルがおかしい。何を言ったんだ?」
「別に?お似合いだと言ったのが気に障ったのかもな」
「ふざけるな!絶対に何か吹き込んだだろう?!」
激昂する自分にロイドが笑顔で尋ねてくる。
「もしかして調教でもされそうになって逃げてきたとか?」
「そんなはずがないだろう?!」
全くの見当違いだ。
「それは残念」
喰えない笑みで受け流すロイドにクレイは一度大きく息を吐くと、一体何が目的だと低く問うた。
「お前のせいで全く足りない!!」
もっと抱いてほしかったのにとつい本音を叫んだクレイにロイドがしたり顔で誘いをかける。
「足りなかったなら今から私と寝ないか?」
「絶対にお断りだ!!」
「魔力を交流させて、一緒に気持ち良くなればいいじゃないか」
「俺は男はロックウェルだけで十分なんだ!」
「でも足りないんだろう?」
「……!!」
「まあどうしてもと言うなら別に前のように口づけだけでもいい。それでも十分欲求不満の解消にはなるだろう?」
「……」
「私を利用してくれていい。クレイ…一緒に行こう」
そうやって手を伸ばしてくるロイドをクレイは思い切り睨み付けるが、その誘いが魅力的なものであるのは確かだった。



(あと一歩…か)
ロイドがそう思いながらほくそ笑んだところで、バシッ!と二人の間に閃光が走った────。
そちらを振り向けばそこにはロックウェルの姿が見える。
(あーあ。残念…)
今回は諦めざるを得ないなと思いながらロイドはにこやかにそちらへと向き合った。


***


初めて…一度だけでクレイを解放した。
クレイは拍子抜けはしたようだが、それ以上何も言わなかった。

「もういい。わかった」

ただそれだけを言って部屋を出て行ったが、ロックウェルはロイドから言われた言葉がずっと引っ掛かっていて、すぐに追い掛けることができなかった。
けれど一人になって暫し考えたところで、それがロイドの狙いだったのかもしれないということに思い至り愕然とした。
(迂闊だった!!)
もしかしたらクレイの家でロイドが待ち構えているかもしれない。
ロイドは明らかにクレイ狙いだったのだから…。
自分達の関係を知って、クレイを誘うのに使えると思われたかもしれない。
隙を突いてくる可能性は十分に考えられた。

「クレイ…!!」

そこまで思い至ったところで慌てて部屋を飛び出しクレイの後を追う。
まだ間に合うだろうか?
影を渡って帰られていたら間に合わないかもしれない。
そんな焦燥感と共に王宮の外へと出たところで、その声が耳に飛び込んできた。

「お前のせいで全く足りない!!」

遠くでそんなクレイの声が聞こえて、驚いてそこへと駆けつけると、そこにはロイドと一緒にいるクレイの姿があった。
間に合ったとホッとしたのも束の間、もっと抱いてほしかったのにと叫ぶクレイの言葉に思わず赤面してしまう。
まさかこんなセリフを聞けるとは思ってもみなかった。
けれど続くロイドからの言葉に怒りが湧く。

「足りなかったなら今から私と寝ないか?」

正直、やはりこれが狙いだったのかと言いたくなった。
あっさり抱けば『足りないだろう?』と誘い、しつこく抱けば『そんなひどい奴はやめておいて自分にしないか?』と誘うつもりだったのではないだろうか?

「絶対にお断りだ!!」
「魔力を交流させて、一緒に気持ち良くなればいいじゃないか」
「俺は男はロックウェルだけで十分なんだ!」

そんなクレイの言葉が嬉しく心に響くが、悪魔のように甘く誘う言葉は止まらない────。

「でも足りないんだろう?」
「……!!」
「まあどうしてもと言うなら別に前のように口づけだけでもいい。それでも十分欲求不満の解消にはなるだろう?」
「……」
「私を利用してくれていい。クレイ…一緒に行こう」

ゆっくりと差しのべられた手に、クレイの瞳が揺れる。
口づけだけでもいいからと言われたことで僅かに迷いが生じたのがわかってしまった。
それがわかったからこそ、呪文を唱えて二人の間に割り込んだのだ────。




「クレイ!」
そう声を掛けると二人の顔がこちらへと向けられる。
「ロックウェル?!」
クレイが驚いたように声を上げるが、どこかホッとしたように表情を緩ませたのが見て取れて安堵に胸をなで下ろす。
「足りなかったならもっと抱いてやるから今すぐ戻ってこい」
そう言うとあっさり自分の元へと身を翻して戻ってくれたのでホッと息を吐いて抱きしめた。
以前までならまず素直に戻っては来なかっただろうが、今は自分の所に真っ直ぐに来てくれる。
それが再確認できて嬉しかった。
ここで向こうに走られてはたまらない。
「残念。また日を改めて出直してくるとするか」
「もう来なくていい!」
クレイが鋭く拒絶の言葉を吐くが、ロイドは全く気にするそぶりも見せぬままあっさりと笑顔で姿を消した。
「全く!最悪だ!」
あの黒魔道士めと悪態を吐くクレイをそっと抱き寄せてそのままゆっくりとその唇を塞ぐ。
「んっ…んんっ…」
そうしてすぐにうっとりと身を任せ始めたクレイに、ロックウェルはあっという間に心奪われてしまった。
「はぁ…」
唇を離すとクレイが熱の孕んだ眼差しで自分を見つめてくる。
足りなかったのはどうやら本当のようで、色香を纏いその全てで自分を誘ってくるさまに、思わずゴクリと喉が鳴った。
これでは我慢などできるはずもない。

(クレイ…本当にお前はどうしようもなく私を惹きつけるな…)

ロイドの件はもう後回しにして、今すぐにでも食べてしまいたくて仕方がなかった。
「間に合ってよかった」
そう言いながらも身体に宿った熱を鎮める為に手はクレイの服を脱がす方へと動いてしまう。
けれどその手に気づいたクレイが慌ててストップを掛けてきた。

「ま、待て!こんなところで襲うな!」

自分から誘っておいてお預けだなどと…クレイは本当にどこまで酷い男なのだろう?
「…部屋まで我慢できそうにない。今は夜中だし、外でするのも初めてではないから構わないだろう?」
誰に見られるでもなしと甘く誘いながら尋ねると、クレイは真っ赤になって口をパクパクした後、自分を抱きしめると同時に一気に影を渡って先程までいた居室へと場を移した。

「あ、あんな場所で襲おうとするなんて絶対にロックウェルはおかしい!!この変態!!」
恥ずかしそうにそう叫ぶが、そうさせたのはクレイなのに…。
「お前が誘ったんだろう?あんなに可愛い顔をする方が悪い」
「お前はいつもすぐに可愛いと言うが、そもそもそれがおかしい!俺は可愛くない!」
「可愛い」
「今まで言われたこともないし、お前の目がおかしいんだ!こら、勝手に脱がすな!」
そうやって必死に抵抗してくるクレイをそのまま寝室へと連れ込んで寝台へと放り投げ、すぐさま押し倒す。

「足りなかったんだろう?」

そう言って微笑みながら口づけると、クレイは抵抗はやめ甘えるように腕を回してきた。
やはりここでならなんでも許してくれるらしい。

「はぁ……こんな体にした責任は取ってくれるのか?」

不本意そうにしながらも自分だけを求めてくれるクレイを幸せな気持ちで見つめながら、耳元に甘い囁きを落とす。
「もちろんだ。朝まで一緒に気持ち良くなろう」
「…?!さ、さすがにそこまではいらない…!」
焦ったように言うクレイの唇を何度も塞ぎ、そのままゆっくりと快楽の海へと誘っていく。
悪いがこのままほどほどで終えられる自信などあるはずがない。
「んっ…あぁっ…」
そうやって身を任せ始めたクレイを前に、そう言えばと大事なことを思い出した。
ロイドの所為でうっかりしていたが、勅命を思わず忘れてしまうところだった。

「昼間持って来た件をお前に話すのを忘れていた」
「んっ…。なんだ?」

半分夢見心地で口づけを交わしながら問うクレイに続けて言う。

「国王からの勅命で、お前を近日中に王宮に連れてきてほしいと言われてな」
「……断る。絶対に嫌だ」
「言うと思った」
「それなら言うな」
クレイはもうこの話は終わりだと口づけを再開し始めたが、ここで引き下がるわけにはいかない。
何しろ王宮勤めの自分にとって王の勅命は絶対だ。
ロックウェルは嫣然と微笑むとクレイの瞳を見つめながら交渉に入った。
「では…引き受けてもらえるまでお前を説得させてくれ」
「え?」




それから────。

「あっあっ…!やっ…もっロックウェル…早くッ…!」
「ここも…ここも好きだろう?」
「はぁっんッ!いいッ…!はぁッ、そこ、もっと奥こすって欲しッ…あぁッ!!」

散々啼かせて溺れさせて────。

「…今日はドライでもイってみようか…クレイ?」
「いやっ!嫌だッ…!!はぁっ…やぁあっ…!!んふぅ……ッ」
「ほら、気持ちいいだろう?」
「ふぁあっ…!やっ…何?!…ッおかしくなる…!ひッ…!もっ、手、離して!あっ、や!あぁああぁーーーッ!!」

何度も回復させては身体に教え込んで────。

「それで?私の顔を立ててくれるか?クレイ」
「あっあっ…ロックウェルッ…!」
「王宮に来てくれるな?」
「はぁ…ッ!イクっ!も、イク…からぁ…!許してぇ… !」
「…いい子だ」

────確実に言質を取る。

「クレイ…約束だ」
「うっ…ロックウェル…。はぁ…中…、も、いっぱいで熱いぃ…。もっ…虐めないで…。気持ち良すぎて死んじゃう…」
(本当に…調教したくなるほど可愛いとはこのことだな)
快楽に堕ちた恋人を可愛がりながらロックウェルはそっと微笑をこぼした。
(どうしてこいつの口から飛び出す言葉はどれもこれも私を熱くさせるんだろうな)
ロイドに言われずとも、もうこのままクレイの身体をどこまでも開発してやろうとロックウェルは開き直ることにした。
目に涙を浮かべながら息も絶え絶えに懇願するクレイの身体をギュッと抱き締め、最後だとばかりに思い切り突き上げ、中へと白濁を流し込む。
「ひっ、やあぁあーーーッ……!!」
甲高く啼いて腰を突き出しビクビクと身体を震わせながら意識を飛ばしたクレイを抱き締めながら、ロックウェルは満足そうに眠りについたのだった。


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