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第一部 アストラス編~王の落胤~
28.調査
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ここアストラス王国の王宮の片隅にあるその部署で、茶色いくせ毛の男は暢気に欠伸をしていた。
「はぁ…あ。そろそろ仕事でも入らないもんかなぁ」
そんな男に呆れたような声が掛けられる。
「室長…先程陛下から部屋に来るようにと通達が参りましたよ?」
「それは俺個人に?それともこの『魔法薬物研究開発室』宛に?」
「前者ですね。まあでも何かありましたらお声掛けください」
そう言って彼女はすぐに踵を返して行ってしまった。
この部署は表向きは薬室付きと前置きが付くが、正直王宮内の誰に聞いても『あるのは知っているが、正直何の部署なのか良くわからない』という答えが返ってくるであろう部署だ。
それもそのはずで、ここは王直属の部署の為、王からの依頼で面々が四方八方飛び回っていることが多いからだ。
実際は、諜報、毒を使った暗殺、新薬の開発、対外交渉、護衛など王からの依頼があればなんでもこなす部署だった。
「へぇ。わざわざご指名で?なんだか楽しくなりそうな予感がするな」
そう言いながら男はニッと笑いながら王の居室へと向かった。
「陛下…お呼びと伺い只今馳せ参じました」
「ショーン。来たか」
静かに礼を取る自分に、目の前の王は朗らかに笑いながら椅子を勧めてくれる。
「堅苦しい挨拶は終わりにしてくれて構わない」
そんな王の言葉に甘えて、ショーンと呼ばれた男は勧められた椅子へと腰かけた。
「それで?何をお望みです?」
「…お前に調査を依頼したい」
「調査?」
「ああ。ロックウェルが封印していた魔道士についての仔細が知りたい。それとその男が今回サシェを助けた男と同一人物なのかどうかも…」
「了解しました。すぐにお調べしますので、暫くお待ちくださいね♪」
そうやって明るく答えて、すぐにショーンは件の魔道士が封印されていたという森へと足を運んだ。
鬱蒼と生い茂る木々を掻い潜り、シリィと言う魔道士から聞き出した大樹へと真っ直ぐに向かう。
「ここか…」
それは一目ですぐにわかるような有様だった。
まるでその一帯が薙ぎ払われたかのように円形に吹き飛ばされている。
一部倒れていない場所は恐らく封印を解きに来た二人が防御魔法を使った場所なのだろう。
「これは確かに凄いな」
これほどの魔力の暴走を収めるとはあの二人も大したものだ。
「さて…と」
ショーンはそこに残された魔力の爪痕へと手を添える。
「ふむふむ。なるほど?まるで甘いカクテルみたいな魔力だな」
そして指先をぺろりと舐め、楽しげに笑った。
「これなら見つけやすそうだ」
そのまま痕跡を辿り、ゆっくりと歩を進める。
どうやらロックウェル達と行動を共にしたのは間違いないようだ。
逃げられたわけではないらしい。
けれど────。
「おや?」
森の途中で急にその魔力の質が変わる。
確かに彼の魔力のはずなのに、まるで彼のものではないようなものへと変化したのだ。
言ってみれば折角のカクテルを水割りにしてしまったような感じで、濃厚さがすっかり消えてしまった。
(これは……)
恐らくその魔力を封印する魔法を掛けたに違いない。
けれどそれをしたのが本人なのか、ロックウェル達なのかまではわからなかった。
一体何故そんなことになったのかまではわからなかったが、これは調べ甲斐がありそうだ。
そしてショーンはそのまま魔力の痕跡を辿りながら王宮へと戻る。
「ああ、やっぱり」
辿ってきたその痕跡は真っ直ぐに王宮へと入り、そのままロックウェルの執務室まで続いていた。
「へぇ…。彼は何度かここに来ているな」
スッと神経を研ぎ澄まし、王宮内の隅から隅まで気を探る。
最初の濃厚な気だけを手掛かりに辿ったならば、結果は『封印されていた黒魔道士はここには来ていない』となるが、薄まった方の気で探れば簡単に足跡を見つけることができた。
ロックウェルの執務室や私室。
王宮の回廊にホール。そして王宮庭園。
それらが物語るのはサシェの件で貢献したという魔道士が件の魔道士だというその結論のみ。
だからこそ中間報告で王へとその話を持っていったのだが────。
「……それは間違いないのか?」
「ええ。森で何があったのかは知りませんが、どうも力をちょっぴり封印したようでしたよ」
王の言葉にそう答えたが、王は何故か納得がいかないようだった。
「…サシェを助けた者は碧眼だったと聞いている」
「そうらしいですね」
「それならばあり得ない」
どうして王がそこにそれほど拘るのかはわからないが、瞳の色で言うのならこういう可能性も考えられると口にしてみた。
「もしかして魔力の封印をする時に目の色も変えちゃったとかかもしれませんよ?」
あれだけの力の持ち主ならそれくらい朝飯前だろうとショーンは思いつくままに話す。
「たとえば赤とか、オッド・アイとかだと黒魔道士として仕事をするにあたって目立ってしょうがないでしょうし、だから変えたとか?仕事がやりやすいやりにくいとか、色々あるんじゃありませんか?」
けれどその言葉を口にした途端、王の雰囲気が変わった。
「目立つから…変える?…そうか。あり得るな」
先程までの焦燥感のようなものが消え、どこか嬉しそうな…納得がいったような表情を見せたのだ。
「陛下?」
けれど王はフッと笑うとショーンへと新たな依頼を出してきた。
「わかった。ではクレイと言う黒魔道士についてもう少し調べてくれ」
「了解しました♪」
何でも調べますよと言いながらショーンはすぐさま調査へと戻る。
(面白いな)
王がこれほど固執するのには何か理由があるのだろうか?
もしこれで瞳の色が紫であったとしたら────。
(さて、詳細を知るのが今から楽しみだ)
こうしてショーンは街へと調査の場を移したのだった。
「はぁ…あ。そろそろ仕事でも入らないもんかなぁ」
そんな男に呆れたような声が掛けられる。
「室長…先程陛下から部屋に来るようにと通達が参りましたよ?」
「それは俺個人に?それともこの『魔法薬物研究開発室』宛に?」
「前者ですね。まあでも何かありましたらお声掛けください」
そう言って彼女はすぐに踵を返して行ってしまった。
この部署は表向きは薬室付きと前置きが付くが、正直王宮内の誰に聞いても『あるのは知っているが、正直何の部署なのか良くわからない』という答えが返ってくるであろう部署だ。
それもそのはずで、ここは王直属の部署の為、王からの依頼で面々が四方八方飛び回っていることが多いからだ。
実際は、諜報、毒を使った暗殺、新薬の開発、対外交渉、護衛など王からの依頼があればなんでもこなす部署だった。
「へぇ。わざわざご指名で?なんだか楽しくなりそうな予感がするな」
そう言いながら男はニッと笑いながら王の居室へと向かった。
「陛下…お呼びと伺い只今馳せ参じました」
「ショーン。来たか」
静かに礼を取る自分に、目の前の王は朗らかに笑いながら椅子を勧めてくれる。
「堅苦しい挨拶は終わりにしてくれて構わない」
そんな王の言葉に甘えて、ショーンと呼ばれた男は勧められた椅子へと腰かけた。
「それで?何をお望みです?」
「…お前に調査を依頼したい」
「調査?」
「ああ。ロックウェルが封印していた魔道士についての仔細が知りたい。それとその男が今回サシェを助けた男と同一人物なのかどうかも…」
「了解しました。すぐにお調べしますので、暫くお待ちくださいね♪」
そうやって明るく答えて、すぐにショーンは件の魔道士が封印されていたという森へと足を運んだ。
鬱蒼と生い茂る木々を掻い潜り、シリィと言う魔道士から聞き出した大樹へと真っ直ぐに向かう。
「ここか…」
それは一目ですぐにわかるような有様だった。
まるでその一帯が薙ぎ払われたかのように円形に吹き飛ばされている。
一部倒れていない場所は恐らく封印を解きに来た二人が防御魔法を使った場所なのだろう。
「これは確かに凄いな」
これほどの魔力の暴走を収めるとはあの二人も大したものだ。
「さて…と」
ショーンはそこに残された魔力の爪痕へと手を添える。
「ふむふむ。なるほど?まるで甘いカクテルみたいな魔力だな」
そして指先をぺろりと舐め、楽しげに笑った。
「これなら見つけやすそうだ」
そのまま痕跡を辿り、ゆっくりと歩を進める。
どうやらロックウェル達と行動を共にしたのは間違いないようだ。
逃げられたわけではないらしい。
けれど────。
「おや?」
森の途中で急にその魔力の質が変わる。
確かに彼の魔力のはずなのに、まるで彼のものではないようなものへと変化したのだ。
言ってみれば折角のカクテルを水割りにしてしまったような感じで、濃厚さがすっかり消えてしまった。
(これは……)
恐らくその魔力を封印する魔法を掛けたに違いない。
けれどそれをしたのが本人なのか、ロックウェル達なのかまではわからなかった。
一体何故そんなことになったのかまではわからなかったが、これは調べ甲斐がありそうだ。
そしてショーンはそのまま魔力の痕跡を辿りながら王宮へと戻る。
「ああ、やっぱり」
辿ってきたその痕跡は真っ直ぐに王宮へと入り、そのままロックウェルの執務室まで続いていた。
「へぇ…。彼は何度かここに来ているな」
スッと神経を研ぎ澄まし、王宮内の隅から隅まで気を探る。
最初の濃厚な気だけを手掛かりに辿ったならば、結果は『封印されていた黒魔道士はここには来ていない』となるが、薄まった方の気で探れば簡単に足跡を見つけることができた。
ロックウェルの執務室や私室。
王宮の回廊にホール。そして王宮庭園。
それらが物語るのはサシェの件で貢献したという魔道士が件の魔道士だというその結論のみ。
だからこそ中間報告で王へとその話を持っていったのだが────。
「……それは間違いないのか?」
「ええ。森で何があったのかは知りませんが、どうも力をちょっぴり封印したようでしたよ」
王の言葉にそう答えたが、王は何故か納得がいかないようだった。
「…サシェを助けた者は碧眼だったと聞いている」
「そうらしいですね」
「それならばあり得ない」
どうして王がそこにそれほど拘るのかはわからないが、瞳の色で言うのならこういう可能性も考えられると口にしてみた。
「もしかして魔力の封印をする時に目の色も変えちゃったとかかもしれませんよ?」
あれだけの力の持ち主ならそれくらい朝飯前だろうとショーンは思いつくままに話す。
「たとえば赤とか、オッド・アイとかだと黒魔道士として仕事をするにあたって目立ってしょうがないでしょうし、だから変えたとか?仕事がやりやすいやりにくいとか、色々あるんじゃありませんか?」
けれどその言葉を口にした途端、王の雰囲気が変わった。
「目立つから…変える?…そうか。あり得るな」
先程までの焦燥感のようなものが消え、どこか嬉しそうな…納得がいったような表情を見せたのだ。
「陛下?」
けれど王はフッと笑うとショーンへと新たな依頼を出してきた。
「わかった。ではクレイと言う黒魔道士についてもう少し調べてくれ」
「了解しました♪」
何でも調べますよと言いながらショーンはすぐさま調査へと戻る。
(面白いな)
王がこれほど固執するのには何か理由があるのだろうか?
もしこれで瞳の色が紫であったとしたら────。
(さて、詳細を知るのが今から楽しみだ)
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