黒衣の魔道士

オレンジペコ

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第一部 アストラス編~王の落胤~

20.※思い込み

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ゆらゆらと体を揺らされる感覚にゆっくりと意識を浮上させて、クレイはまた快楽の波にのまれそうになった。
「うぁっ…!」
まさか気を失っている間も犯されているとは思っても見なかった。
自分を揺さぶっているのは他の誰でもないロックウェルに他ならなくて────。
「あっあ…んっ…!ロ…ロック…ウェ…ル!」
「…気が付いたか?」
「な…んで…ッ!」
「何故も何もお前が私を離してくれないからに決まっているだろう?は…ッ」
抗議の声を上げようとしてもロックウェルは全く聞いてくれそうになかった。
どうも体の相性が良すぎるのか、彼もまたこの関係に溺れているように見えた。
恍惚とした表情がなんとも色っぽくてそそられる。
「ハッ…はぁッ…!んんっ…!」
けれどこの調子で抱かれ続けては前回の二の舞だ。
(気持ち良すぎてやめられないのもわかるけど…な)
なんとか上手く止める方法はないものだろうか?
このままでは非常にまずい。
また熱を出してしまうかもしれない。

(そうだ…)

もういっそ攻めに転じてみてはどうだろうか?
こちらが受け身に回りすぎるからきっとロックウェルが調子に乗るのだ。
「あ…あぁッ…!」
快感が身を貫く。

(仕方がない。早く自分でなんとかするしかない…な)

白魔道士に比べたら些細なものだが、自分にだって一応回復魔法は使える。
一先ず体を起こせるくらいの体力さえ取り戻せれば攻めに転じることも可能だろう。
早くしないとそれこそ体力切れで呪文を唱えられなくなくなってしまう。
「はっ…うっ…」
だからなんとかタイミングを見計らい頑張って魔力を発動させて体力回復を試みたのだが……。
そんな自分にロックウェルが何を思ったのか嬉しそうにニヤリと笑った。

「クレイ…そんなに私にもっと責め立ててほしいのか?」

(…この…隠れSめ!)
友人の時は思っても見なかった。
まさかロックウェルにここまでSっ気があっただなんて────。
前回は怒らせたからだと思い込んでいたが、もしかしたらベッドの中でだけSになるタイプなのかもしれないと思い直す。
しかしいつまでも大人しく思い通りになってやるつもりはない。

クレイは僅かな隙を狙って立場を逆転させ、ロックウェルを押し倒した。

「はぁ……。ロックウェル…」
この騎乗位の体位ならもう好き勝手にされることはないだろうと安堵しながら笑み、そっとロックウェルが自分にしてくれたように魔力を含んだ口づけを落としてみる。
「…ッ!」
驚いたように目を瞠ったロックウェルだったが、そのままうっとりとしたように身を任せ始めたので自分の好きなように攻めてみることにした。
気持ちよさそうなロックウェルを見ていると自分も一緒に気持ち良くなりたい衝動に駆られてしまう。
「んっ…あっ…」
腰を上げては落とし、ゆっくりと自分の好きなところを探る。
「はっ…はぁ…。好い…。んん…」
そうしてゆらゆらと腰を振っていると突然中でロックウェルのものが大きくなったのを感じた。
それと同時に腰を支えられ、ロックウェルが下から激しく突き上げ始める。
「やっ…!な、急に、何…をっ…!」

「今のはお前が悪い…」

「なっ…んで…?!」
「自分の胸に聞いてみろ」
そして情欲の熱がこもった瞳に見つめられながら結局そのまま貪るように揺さぶられた。
「あっあっあっ…やめっ…!そんなにされたら壊れ…る…!」
「…大丈夫だ。何度でも私が回復魔法を唱えてやる」
「そ…んな…ッ!」
「お前が望むなら一日中でも抱き合ってやるから…」

冗談ではない。さすがにそんなに付き合ってはいられない。
(いくらなんでも死んでしまう…)
なんとか終わりにしなければ────。

「お願…っい…だか…らっ…!」
感じすぎて潤む瞳で訴えてもちっとも聞いてくれないロックウェルに一体どう言えばわかってもらえるのか?
「はぁ…。も、感じすぎておかしくなる…」
またイッてしまったところでロックウェルに凭れながら正直にそんな言葉を吐くと何故か嬉しそうに引き寄せられた。
「クレイ…他の奴の事なんか忘れて、こうしている間だけでもずっと私の事だけを考えてくれ」
まるで乞うようにそう言われたが、クレイには何故そんなことを言われるのかがさっぱりわからなかった。
「……そんなこと…言われなくても、ここ最近はお前の事しか考えてないのに…」
封印が解かれてから此の方、ロックウェルには悩まされてばかりなのだ。
それに、特に今は早く終わってもらわないと身体が辛くて仕方がない。
当然それ以外に考えられるはずもないではないか。
しかしその言葉を紡いだ途端、そのまままた体位を変えられて何故か激しく責め立てられた。
「え?やっ…はぁんっ…!」
つい嬌声が口を突いて出るがロックウェルはそれさえも嬉しそうに聞き流し、そのまま何度も背に口づけを落としてくる。
「クレイ…本当にお前はどうしようもなく罪作りだ…」
意味が分からないが自分は何か罪なことをしてしまったのだろうか?
「も…頼むから…終わりにしてくれ…ッ」
「……わかった」
(本当に?)
そう思いながら振り返るようにロックウェルを見つめたが、どうやら本当に終わりにしてくれるようだった。
その表情は何故か嬉しそうで、まるで安心させるかのようにそっと優しく唇が重ねられる。
(よ…よかった…)
一体何が彼をそうさせたのかはわからなかったが、終わってくれるのならもうこの際何でもよかった。
「あっ…ロックウェル…!はぁッ、もっ、いっぱい奥に出して…ッ!」
そしてどうか満足してそのまま終わってくれ…。

────気持ちいいことにも限度と言うものがあるのだから…。

ついそんな本音がこぼれ落ちそうになった。


***


ぐったりとしてしまったクレイを満足げに見遣りながらロックウェルは幸せな気持ちに浸っていた。
今日のクレイはどこまでも素直で、たまらなく扇情的だった。
回復魔法をかけてまで自分を押し倒して求めてくれるとは思っても見なかったし、不慣れながら一生懸命快感を追い求める様もたまらなく可愛く思えて仕方がなかった。
熱っぽい眼差しで自分を見下ろしてくるその艶姿にどうしようもなく煽られた自覚はある。
しかも自分の事しか考えていないとまで言ってくれた上に、最後はあんなセリフまで言ってくれるとは────。
「クレイ…」
サラリとその黒髪を梳くように撫でると、情事の色を滲ませたクレイの潤んだ瞳がこちらを向いた。
「ロックウェル…」
「大丈夫か?」
慈しむように撫でると辛そうに身をよじりながら悪態をついてくる。
「全然大丈夫じゃない」
「すまない。ついお前が可愛すぎて…」
「…そういうことを言うな」
不機嫌そうにプイッと横を向いてしまったクレイをこちらへと向かせ、優しく口づけを落とした。
「すぐに回復してやるから一緒にシャワーへ行こう」
そう言いながら回復魔法を唱えて手を差し出すと、クレイは戸惑いながらもそっとその手を取ってくれる。
「……助かった」
「ああ」
にこやかに答えるとクレイもはにかむように笑ってくれて、なんだかそれが昔に戻ったようで嬉しかった。
これはもう恋人同士と言ってしまっても良いのではないだろうか?
クレイが自分を求めてくれるのなら自分も応える気持ちがあった。
これからは好きな時にこうしてクレイと愛し合いたい。
そうしたらこれまでの蟠りも嫉妬も全てなかったものにできるような気がした。

(そう言えば一つ問題が残っていたな)

クレイは確かシリィから恋人役を頼まれたと言っていた。
シリィがどういうつもりかはわからないが、クレイが自分を勧めていたことから鑑みるに相手はどうやら誰でもいいようだ。
ここでむざむざクレイをシリィの恋人役などにさせてしまっては自分との逢瀬ができなくなってしまうのではないだろうか?




「クレイ。シリィの恋人役の件だが」
「え?ああ。あれか」
ソファに座って頭を拭きながらクレイが何でもないことのように答える。
「あれは姉を安心させたいから恋人役をやってほしいと頼まれたんだ」
「サシェを?」
「ああ。例の王子との結婚が潰れてしまっただろう?それでシリィの嫁ぎ先がなくなるんじゃないかと心配して嘆いているらしい」
それで自分にはもう相手がいるから心配しなくていいと言ってやりたいのだと言っていたとクレイがサラリと告げた。
「だからお前を勧めていたんだが…」
先程までの甘い雰囲気はすっかりなくなり、いつも通りのクレイが淡々と続ける。
「どうもシリィは相手がお前なのは嫌らしくて、それなら俺がやってもいいかと…な」
「…お前はそれでいいのか?」
「別に…仕事だし。それにシリィには借りがあるしな」
クレイらしい返答ではあったが、その言葉にロックウェルは首を傾げた。
「借り?」
「ああ。前回お前に襲われた時に熱が出て辛かったんだが、回復魔法をかけてもらえたお蔭ですごく助かったんだ」
さすが白魔道士と褒めるクレイにロックウェルの心に昏い影が落ちる。
(なるほど…?)
そう言えばシリィの所為で前回クレイをあっさりと逃がしてしまったのだ。
この借りは返さねばなるまい。
「…それは確かに大きな借りだな」
しかもそれを使ってクレイを恋人役にしようとするなど不届き千万だ。
(シリィには思い知らせてやらないとな…)
知らず昏い笑みを浮かべてしまう。
けれどクレイは純粋に恩返しのつもりのようだし、ここで下手に横やりを入れるのはまずいだろう。
「わかった。じゃあ私も彼女から話を聞いて、何かいい案が思いついたら協力するとしよう」
何事もなかったかのように爽やかにそう提案するとクレイも嬉しそうに笑った。
「助かる。シリィやサシェのことはお前の方が良く知っているし、そう言ってもらえたら心強い」
そこに感じられるのは確かな信頼────。
(クレイ…)
お前から信頼を取り戻せた事が今こんなにも嬉しい。
「じゃあまた連絡するから…」
そんな次の約束が嬉しい。

ロックウェルはやっと取り戻せた関係に微笑みながら、そっとクレイを見送った。



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