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第一部 アストラス編~王の落胤~
16.※逃走
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「や…はぁ…んぅ…」
まるで獣のように襲い掛かられ、クレイはその快楽に翻弄されていた。
魔力のこもった口づけがまるで媚薬のように体を侵し、抗えない。
これまで女と寝たことは幾度もあったが、こうして男に抱かれるのは初めての事だ。
それなのに体は快感を拾い上げてビクビクと震えてしまう。
これは相手がロックウェルだからなのか。それとも与えられる魔力の所為なのか────。
(やめてくれ…)
真っ直ぐに自分へと向けられるその熱い眼差しがまるで自分の心を捕らえようとでもしてくるように感じられてクレイは身をよじった。
(これ以上俺の心に入ってこないでくれ)
折角もう会わないようにしようと思っていたのに、こんなことをされたら益々離れられなくなってしまうではないか。
「クレイ…」
自分の名を呼ぶ声の熱に勘違いしてしまいそうになる。
お前が求めているのは自分からの愛情ではないだろう?
ただ自分を服従させたいだけではないのか?
「ああっ…!」
幾度目かわからぬ精を吐き出し、余韻に浸る間も無く揺さぶられながらクレイはロックウェルから与えられる甘美な快楽に酔いしれた。
(どうせ最初で最後だ)
今この時さえ過ぎればこの事はなかったことになるだろう。
それならばもういっそ何も考えずにお前に溺れてしまおうか?
「はぁ…。そこ、好き…」
喘ぎ疲れてはいたものの、ロックウェルはまだまだやめる気配がない。
だから少しでも感じたくてそう呟いたのだが、その途端ロックウェルは嬉しそうに責め立ててきた。
「クレイ…。もっともっと私に溺れろ」
「はぁ…っ!あっ!んんっ……ロックウェル!」
その喘ぎに煽られるようにロックウェルは自分を責め立て続け、やがてクレイは気を失うように眠りへとついた。
***
身体が辛い────。
クレイは重い体をゆっくりと起こしながら自分に一体何があったのかをぼんやり思い出していた。
(そうだ────)
何故か昨日ロックウェルに襲われたのだ。
一体何が切欠でどうしてそうなったのか自分でもよくわからなかった。
今回の件で黙って裏から手を貸したのが逆鱗に触れたのだろうか?
それとも相手の黒魔道士と勝手に交渉したのがまずかったのか?
(結果的に首を突っ込んでいたことに違いはないからな…)
だからと言ってこんな風に自分を凌辱するなんて間違っていると思うのだが…。
クレイはそっと傍らで眠るロックウェルへと視線を移した。
銀髪の貴公子と呼ばれるほど整った顔立ちのロックウェル。
当然こう言った経験は多いだろうとは思っていたが…。
「初めてじゃなさそうだったな」
ポツリとそんな言葉が口を突いて出た。
昨夜の事を思い返しては見たもののどこか手慣れた様子だったので、ロックウェルは恐らく相手が男というのも経験したことがあったのだろう。
体は辛いが中が傷ついたりはしていないようだった。
しかしかなり負担は大きかったようで…。
「どう考えてもやりすぎだ…」
流された自分もどうかと思うが、いくらなんでもあれほど貪るように蹂躙しなくても良いではないか。
「まずいな」
どうも熱が出てきたようだった。
しかしここで寝込むわけにもいかない。
一先ずロックウェルから逃げなければ────。
昨日のあの様子だと起きた途端にまた何かされそうな気がする。
このまま暢気にここに留まるほど自分も馬鹿ではない。
ロックウェルが眠っている今の内に逃げるのが一番だろう。
クレイはそっと寝台から抜け出すと重い体をなんとか動かし衣服を身に着けた。
(悪いな、ロックウェル。俺はこれ以上お前の思い通りになる気はないんだ)
『クレイ…私のものになれ』
一体何を思ってあんなことを言ってきたのかはわからないが、これ以上身も心も傷つけられるのは御免だった。
(やっぱりお前の前に姿を見せるんじゃなかった…)
あの熱い声が何故か胸に残って仕方がない。
そうして切なくロックウェルの顔を見遣った後、クレイはそっと部屋から抜け出した。
影渡りもできなくはなかったが、魔力の発動を感じてロックウェルが起きるのが怖かった。
今の状態では遠くには逃げられないし、簡単に捕まってしまいそうな気がする。
(できるだけ離れたところで一気に影を渡って逃げよう)
そう考えながらズルズルと体を引きずるように歩いた。
ゆっくりと歩を進めていると前から見知った人物がやってくるのが見えた。シリィだ。
あちらも自分に気が付いたようで驚いたように声を掛けてくる。
「クレイ?!」
「…ああ」
「どうしたの?てっきり姿が見えないからあのまま帰ったのかと思ってたのに。もしかしてロックウェル様と飲んでそのまま泊まったの?」
「…まあ似たようなものだ」
その後も、仲直りしたのかとか昨日はありがとう等色々言ってくれたが、正直何かを話すのも億劫で、ただ短く答えるので精一杯だった。
そんな自分にシリィが気付き、心配げに尋ねてくる。
「もしかして二日酔い?あ、それとも熱?!辛そうだし顔が赤いわよ?風邪を引いたの?」
彼女の大きな声がロックウェルの部屋まで届かないか心配になりながらクレイはその重い口を開いた。
「熱が…出て…体が怠いんだ」
「大丈夫?気疲れもあったのかしら…。あ、私疲労回復の魔法なら得意だからすぐに掛けてあげられるわよ。待ってて!」
少しでも楽になるからと、そう言うや否やシリィは笑顔で呪文を唱え始める。
(これは…感謝してもし足りないかもしれないな…)
そう思ったと同時にポゥッと体が光り、疲労感が一気に霧散し身体が軽くなった。
「後はもしまだ熱っぽかったら熱冷ましの薬草を…」
そうやってシリィがアドバイスをし始めたところで後ろから鋭く声が上がる。
「シリィ!」
その叱責するかのような声にシリィがびくりと飛び上がるが、対するクレイはニッと笑った。
「シリィ。この借りは必ず返すから」
「え?ちょっ…」
クレイは最後にそっとロックウェルへと微笑みを向けるとそのまま迷わず影へと身を沈めた。
これだけ身体が楽になれば一気に遠くまで逃げられる。
「クレイ!!待て!」
どこか遠くにその言葉を聞きながら、クレイはロックウェルからまた逃げ出したのだった。
***
「くそっ!」
ロックウェルは怒りに震えながらクレイの消えた床を勢いよく叩いた。
そんな姿にシリィはオロオロとしているが知ったことではない。
(折角容易に逃げられないよう散々啼かせたと言うのに…)
正直無体なことをしたという自覚はあるが、逃げられないようにと犯せるだけ犯した。
それなのにまさかこんな風に逃げられるとは思っても見なかった。
近くで魔力の発動を感じてハッと我に返って隣を見るとそこにはすでにクレイの姿がなかった。
慌てて廊下に出るとシリィと一緒にいるクレイの姿があって安堵したが、そこには自分が思ったような辛そうな様子はなく、瞬時に事態を悟った。
(余計なことを…!)
恐らくシリィが回復魔法を使ったのだろう。
案の定あっさりとクレイは自分の前から姿を消してしまった。
回復前の状態なら遠くへは逃げられなかっただろうし追うことも可能だったが、すっかり回復してしまった後ではそれすらもうどうにもならない。
(クレイ!私から逃げ切れると思うなよ?絶対に捕まえてやる!)
そうしてロックウェルはギラリと光る眼差しでクレイを自分の獲物へと定めたのだった。
まるで獣のように襲い掛かられ、クレイはその快楽に翻弄されていた。
魔力のこもった口づけがまるで媚薬のように体を侵し、抗えない。
これまで女と寝たことは幾度もあったが、こうして男に抱かれるのは初めての事だ。
それなのに体は快感を拾い上げてビクビクと震えてしまう。
これは相手がロックウェルだからなのか。それとも与えられる魔力の所為なのか────。
(やめてくれ…)
真っ直ぐに自分へと向けられるその熱い眼差しがまるで自分の心を捕らえようとでもしてくるように感じられてクレイは身をよじった。
(これ以上俺の心に入ってこないでくれ)
折角もう会わないようにしようと思っていたのに、こんなことをされたら益々離れられなくなってしまうではないか。
「クレイ…」
自分の名を呼ぶ声の熱に勘違いしてしまいそうになる。
お前が求めているのは自分からの愛情ではないだろう?
ただ自分を服従させたいだけではないのか?
「ああっ…!」
幾度目かわからぬ精を吐き出し、余韻に浸る間も無く揺さぶられながらクレイはロックウェルから与えられる甘美な快楽に酔いしれた。
(どうせ最初で最後だ)
今この時さえ過ぎればこの事はなかったことになるだろう。
それならばもういっそ何も考えずにお前に溺れてしまおうか?
「はぁ…。そこ、好き…」
喘ぎ疲れてはいたものの、ロックウェルはまだまだやめる気配がない。
だから少しでも感じたくてそう呟いたのだが、その途端ロックウェルは嬉しそうに責め立ててきた。
「クレイ…。もっともっと私に溺れろ」
「はぁ…っ!あっ!んんっ……ロックウェル!」
その喘ぎに煽られるようにロックウェルは自分を責め立て続け、やがてクレイは気を失うように眠りへとついた。
***
身体が辛い────。
クレイは重い体をゆっくりと起こしながら自分に一体何があったのかをぼんやり思い出していた。
(そうだ────)
何故か昨日ロックウェルに襲われたのだ。
一体何が切欠でどうしてそうなったのか自分でもよくわからなかった。
今回の件で黙って裏から手を貸したのが逆鱗に触れたのだろうか?
それとも相手の黒魔道士と勝手に交渉したのがまずかったのか?
(結果的に首を突っ込んでいたことに違いはないからな…)
だからと言ってこんな風に自分を凌辱するなんて間違っていると思うのだが…。
クレイはそっと傍らで眠るロックウェルへと視線を移した。
銀髪の貴公子と呼ばれるほど整った顔立ちのロックウェル。
当然こう言った経験は多いだろうとは思っていたが…。
「初めてじゃなさそうだったな」
ポツリとそんな言葉が口を突いて出た。
昨夜の事を思い返しては見たもののどこか手慣れた様子だったので、ロックウェルは恐らく相手が男というのも経験したことがあったのだろう。
体は辛いが中が傷ついたりはしていないようだった。
しかしかなり負担は大きかったようで…。
「どう考えてもやりすぎだ…」
流された自分もどうかと思うが、いくらなんでもあれほど貪るように蹂躙しなくても良いではないか。
「まずいな」
どうも熱が出てきたようだった。
しかしここで寝込むわけにもいかない。
一先ずロックウェルから逃げなければ────。
昨日のあの様子だと起きた途端にまた何かされそうな気がする。
このまま暢気にここに留まるほど自分も馬鹿ではない。
ロックウェルが眠っている今の内に逃げるのが一番だろう。
クレイはそっと寝台から抜け出すと重い体をなんとか動かし衣服を身に着けた。
(悪いな、ロックウェル。俺はこれ以上お前の思い通りになる気はないんだ)
『クレイ…私のものになれ』
一体何を思ってあんなことを言ってきたのかはわからないが、これ以上身も心も傷つけられるのは御免だった。
(やっぱりお前の前に姿を見せるんじゃなかった…)
あの熱い声が何故か胸に残って仕方がない。
そうして切なくロックウェルの顔を見遣った後、クレイはそっと部屋から抜け出した。
影渡りもできなくはなかったが、魔力の発動を感じてロックウェルが起きるのが怖かった。
今の状態では遠くには逃げられないし、簡単に捕まってしまいそうな気がする。
(できるだけ離れたところで一気に影を渡って逃げよう)
そう考えながらズルズルと体を引きずるように歩いた。
ゆっくりと歩を進めていると前から見知った人物がやってくるのが見えた。シリィだ。
あちらも自分に気が付いたようで驚いたように声を掛けてくる。
「クレイ?!」
「…ああ」
「どうしたの?てっきり姿が見えないからあのまま帰ったのかと思ってたのに。もしかしてロックウェル様と飲んでそのまま泊まったの?」
「…まあ似たようなものだ」
その後も、仲直りしたのかとか昨日はありがとう等色々言ってくれたが、正直何かを話すのも億劫で、ただ短く答えるので精一杯だった。
そんな自分にシリィが気付き、心配げに尋ねてくる。
「もしかして二日酔い?あ、それとも熱?!辛そうだし顔が赤いわよ?風邪を引いたの?」
彼女の大きな声がロックウェルの部屋まで届かないか心配になりながらクレイはその重い口を開いた。
「熱が…出て…体が怠いんだ」
「大丈夫?気疲れもあったのかしら…。あ、私疲労回復の魔法なら得意だからすぐに掛けてあげられるわよ。待ってて!」
少しでも楽になるからと、そう言うや否やシリィは笑顔で呪文を唱え始める。
(これは…感謝してもし足りないかもしれないな…)
そう思ったと同時にポゥッと体が光り、疲労感が一気に霧散し身体が軽くなった。
「後はもしまだ熱っぽかったら熱冷ましの薬草を…」
そうやってシリィがアドバイスをし始めたところで後ろから鋭く声が上がる。
「シリィ!」
その叱責するかのような声にシリィがびくりと飛び上がるが、対するクレイはニッと笑った。
「シリィ。この借りは必ず返すから」
「え?ちょっ…」
クレイは最後にそっとロックウェルへと微笑みを向けるとそのまま迷わず影へと身を沈めた。
これだけ身体が楽になれば一気に遠くまで逃げられる。
「クレイ!!待て!」
どこか遠くにその言葉を聞きながら、クレイはロックウェルからまた逃げ出したのだった。
***
「くそっ!」
ロックウェルは怒りに震えながらクレイの消えた床を勢いよく叩いた。
そんな姿にシリィはオロオロとしているが知ったことではない。
(折角容易に逃げられないよう散々啼かせたと言うのに…)
正直無体なことをしたという自覚はあるが、逃げられないようにと犯せるだけ犯した。
それなのにまさかこんな風に逃げられるとは思っても見なかった。
近くで魔力の発動を感じてハッと我に返って隣を見るとそこにはすでにクレイの姿がなかった。
慌てて廊下に出るとシリィと一緒にいるクレイの姿があって安堵したが、そこには自分が思ったような辛そうな様子はなく、瞬時に事態を悟った。
(余計なことを…!)
恐らくシリィが回復魔法を使ったのだろう。
案の定あっさりとクレイは自分の前から姿を消してしまった。
回復前の状態なら遠くへは逃げられなかっただろうし追うことも可能だったが、すっかり回復してしまった後ではそれすらもうどうにもならない。
(クレイ!私から逃げ切れると思うなよ?絶対に捕まえてやる!)
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