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番外編
番外編Ⅱ ナナシェにて⑮ Side.父ラヴィアン
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妻に離婚を言い渡し、背を向ける。
この国に戸籍があるわけじゃないから正式な書類なんて物はないが、夫婦として終わったのだという事は本人にしっかり伝わったはずだ。
愛情はなくなったはずだが、きっと家族としての情は残っていたんだろう。
部屋に戻ってから、これまでの思い出がいくつも思い出されて涙が出た。
だから…気づかぬうちに約束していた夜のお茶会の時間が、過ぎてしまっていたらしい。
コンコンという控えめなノック音が耳へと届き、ハッとなってドアを開けるとそこには心配そうな顔をしたガナッシュ様が立っていて、入っていいかと聞いてきた。
「どうぞ」
部屋はちゃんと綺麗にしているから特に困ることもないしと招き入れる。
「すみません。約束していたのに行けなくて」
「いや。何かあったんだろう?目が赤くなっているじゃないか」
ガナッシュ様の手がそっと伸ばされ、目元を優しく撫でてくる。
「ここで話しにくいなら、私の部屋でゆっくり聞くぞ?」
いつも通りのガナッシュ様に思わず甘えてしまいたくなる。
でも昼間に妻が迷惑をかけたようだし、なんとなく申し訳なくて躊躇してしまった。
「私には言い難いことか?」
「…いえ。単に私のケジメの話に過ぎないので」
「ケジメ…」
そう呟き、ガナッシュ様が思考を巡らせる。
「メリーナに別れを告げたと聞いた。その…泣いていたのはメリーナに未練があるからか?」
そう聞かれ、私はすぐにそれは違うと口にした。
「妻への気持ちはもうありません。ただ…昔の思い出が思い出されて感傷に浸ってしまっただけです」
「そうか…」
結局端的に話す事にはなってしまったが、ガナッシュ様は迷惑がるでもなく話を聞いてくれ、そっと抱き寄せ、背を軽く叩きながら『頑張ったな』と言ってくれた。
その優しさと温もりに安心させられて、引っ込んでいたはずの涙がまたこぼれ落ちていく。
「私の前では何も取り繕わなくていい。気にせず頼ってくれ」
あまりにも頼り甲斐のあるその言葉に心がグラついて、より一層惚れてしまいそうになった。
(ダメ…なのに)
そう思ったところでガナッシュ様が何かを言い掛け、話を聞こうと顔を上げた私と視線が絡み合う。
「ラヴィアン。私は……」
けれどガナッシュ様の腕にグッと力が入ったところで、コンコンコン!と強めにドアをノックする音が割り込んできて、心臓が飛び上がるかと思った。
「はい!」
焦りながらもなんとか返事をすると『私よ!開けてちょうだい!』という妻、いやもう元妻か。そんなメリーナの声が聞こえてきて戸惑いを隠せない。
さっきの今で一体何の用だろう?
(もしかして慰謝料でも寄越せと言いに来たのか?)
そう見当をつけ、渋々立ち上がりドアをそっと開くと、私の顔を見るなり『やっぱり別れたくなかったんじゃない!』と意味不明なことを言われた。
「泣くくらいなら強がってあんなこと言わなければよかったでしょう?!」
「……は?」
「やっぱりどう考えても貴方が私のことを愛してる気持ちがそう簡単になくなるとは思えなくて、確かめに来てみればやっぱり思った通りじゃないの!」
何やら勘違いしているメリーナの勢いが凄すぎて、口を挟む隙が無い。
「そうよね!おかしいと思ったわ。明日にはやっぱりよりを戻そうって言い出すんでしょう?大丈夫。私にはちゃんとわかっているわ」
どこかホッとしたような顔でそう言ってくるメリーナを見て、ここはちゃんと言わないとと思うのだが、彼女の口上は止まらない。
「貴方が私と別れたくないって言うなら私は許すわ。今日ちょうどお昼寝をした後に名案が浮かんだところだったの。ガナッシュ様の愛人になれるのが一番だけど、それ以外にもお金を手に入れる方法はあったのよ。あの子達に身売りさせる必要もないし、これならきっと機嫌もすぐに直してもらえるわ!」
その言葉を聞き、また碌でもない事を思いついたんじゃないかと不安になる。
しかも昼寝をした?仕事もせずに?
(あり得ないだろう?!)
驚きに気を取られている間にメリーナは嬉々としてその思いつきの名案とやらを口にしてくる。
「お給料の半分を貰えば良かったの!皆衣食住が保証されたところで働いているからこれなら誰も困らないし、私の懐も温まるわ。貴方から別れを切り出されたから、貴方から貰えなくなるって焦ったけど、これなら大丈夫よね?私に九割くれるなら別れたりしないから安心して?」
満面の笑みでそう言い放ってくるメリーナに、何をどう言えばいいのかわからず、ただただ口をパクパクさせることしかできない。
呆気に取られるとはまさにこの事だろう。
そんな私を後ろからまるで安心させるかのようにそっと包み込んでくれる温もりが…。
「ガナッシュ様…」
***
【Side.ガナッシュ】
ラヴィアンをメリーナの教育係から外し、夜寝る前に二人きりで茶を飲みながら過ごす時間を設けて早二週間。
ラヴィアンの顔に笑顔が戻り、夜もよく眠れるようになったのか、顔色もすっかり良くなった。
そしてそんなラヴィアンと過ごす穏やかな夜がずっと続けばいいのにと願っている自分に気づいてしまう。
募っていく愛しい感情を止めることができない。
そして今日、そんな愛しいラヴィアンの妻の座に胡座をかいているメリーナのとんでもない発言を耳にし、とうとう溜まりかねて怒鳴りつけてしまった。
子は親に従わなければならない?
それで身売りさせられたらたまったものではないだろう。
ラウルもエヴァンジェリンも可哀想だ。
その後も意味不明な返答の数々に頭が痛くなる。
どうしてこんな女がラヴィアンの妻なんだろう?
特別頭が良いわけでもないのに、さりげなく思考誘導する器用さを持ち合わせているから始末に負えない。
そのせいでラヴィアン達家族は歪んでしまっていた事がよくわかった。
(私がメリーナの立場にいたなら、ラヴィアンにそんな事を絶対にさせなかった)
国への虚偽申告は罪な事だと諭し、息子が聖なる力を顕現させた事を誇れと言ってやっただろう。
そう考えると胸が痛かった。
奪ってやりたい。
強くそう思う。
こんな碌でもない女から引き離し、ラヴィアンを自分のものにしてしまいたかった。
それを必死に理性で押し留め、なんとかメリーナに考えを改めるよう伝える。
敵に塩を送るような行為でしかないが、ラヴィアンの為だと自分に言い聞かせ気持ちを押し込めた。
その後、外に買い物に出ていたラヴィアンが帰ってきた。
タイミングよく外に出ていてさっきのゴタゴタを目撃せずに済んで良かったと思う。
あんなものを聞かされていたらきっとショックを受けただろうから。
メリーナの教育係を引き継いだリンに差し入れをするラヴィアンの姿を見て、あの姿がきっと本来のラヴィアンなんだろうとホッとする。
少しでも歪められた性格を矯正してやれたのなら、ここで雇った甲斐もあるというものだ。
そんな事を考えていたらいつの間にかこちらへと歩いてきていたラヴィアンと鉢合わせてしまった。
何とも気まずい。
でも何も知らないラヴィアンはどこか嬉しそうにしながら『夜のお供にハーブクッキーを買ってきた』などと言ってくる。
可愛すぎて、クッキーじゃなくお前を食べたいと言いたくなった。
はっきり言って私はラヴィアンが思っているほど高潔な人格者ではない。
性欲だって普通にあるし、無自覚に煽られたら困るのだ。
そんな風にすぐに溢れそうになる気持ちを抑えていたと言うのに、その日の夜、ラヴィアンがメリーナに離婚を突きつけていたと使用人の一人が伝えに来たことで状況が変わった。
なんでも部屋の前の廊下で言い合っていたらしい。
(ラヴィアンがメリーナに別れを切り出した…)
これはある意味チャンスだ。
きっと今夜のお茶の時間にラヴィアンはその話をしてくるだろう。
そこで上手く気持ちを伝えたら────そんな不埒な事を考えてしまったからダメだったんだろうか?
ラヴィアンはいつもの時間に部屋へとやってこなかった。
(何かあったのか?)
来ると言って来なかったのは初めてだ。
ここに来られなくなるような何かがあったのではないかと不安を覚え、ラヴィアンの部屋へと向かう。
もしかしたらメリーナに絡まれたのかもしれない。
もしそうなら助けてやらないと。
(あの女は本当に考え方がおかしいからな)
そう思いやってきたのだが、どうやら部屋で泣いていたらしい。
そして話を聞き、あんな女でもラヴィアンは大切に思っていたのだと胸が苦しくなる。
慰めてやりたい。
そう思ったからそっと抱き寄せ、頑張ったなと口にした。
あんな女、別れてよかったのだ。
夫婦仲が上手くいっていた時の思い出は確かに色鮮やかかもしれないが、いつかは色褪せていくと実経験から知っている。
自分なら気持ちを汲んでやれる。
だから頼って甘えてこの腕の中に落ちてきてほしい。
「ラヴィアン。私は……」
お前を愛しく思ってる。
そう告げようとしたところで邪魔が入った。
しかもやってきたのはメリーナで、泣いていたラヴィアンを見て勘違いの自論を展開し、更にとんでもない話までしてきた。
「貴方が私と別れたくないって言うなら私は許すわ。今日ちょうどお昼寝をした後に名案が浮かんだところだったの。ガナッシュ様の愛人になれるのが一番だけど、それ以外にもお金を手に入れる方法はあったのよ。あの子達に身売りさせる必要もないし、これならきっと機嫌もすぐに直してもらえるわ!」
(全く反省していないな?!)
昼寝をしていたと聞いて、頭がまた痛くなった。
ラヴィアンもそれは同じだったのか、驚きすぎて固まってしまっている。
しかも続く言葉がまた酷かった。
「お給料の半分を貰えば良かったの!皆衣食住が保証されたところで働いているからこれなら誰も困らないし、私の懐も温まるわ。貴方から別れを切り出されたから、貴方から貰えなくなるって焦ったけど、これなら大丈夫よね?私に九割くれるなら別れたりしないから安心して?」
とんでもない事を全く悪気なく名案とばかりに言い放つメリーナに怒りが湧いた。
(こんないかれた女に誰がラヴィアンを渡すか!!)
最早遠慮する気はない。
ラヴィアンは私が守る!
そんな強い思いでラヴィアンを腕の中へと閉じ込めて、私はメリーナを鋭く睨みつけた。
この国に戸籍があるわけじゃないから正式な書類なんて物はないが、夫婦として終わったのだという事は本人にしっかり伝わったはずだ。
愛情はなくなったはずだが、きっと家族としての情は残っていたんだろう。
部屋に戻ってから、これまでの思い出がいくつも思い出されて涙が出た。
だから…気づかぬうちに約束していた夜のお茶会の時間が、過ぎてしまっていたらしい。
コンコンという控えめなノック音が耳へと届き、ハッとなってドアを開けるとそこには心配そうな顔をしたガナッシュ様が立っていて、入っていいかと聞いてきた。
「どうぞ」
部屋はちゃんと綺麗にしているから特に困ることもないしと招き入れる。
「すみません。約束していたのに行けなくて」
「いや。何かあったんだろう?目が赤くなっているじゃないか」
ガナッシュ様の手がそっと伸ばされ、目元を優しく撫でてくる。
「ここで話しにくいなら、私の部屋でゆっくり聞くぞ?」
いつも通りのガナッシュ様に思わず甘えてしまいたくなる。
でも昼間に妻が迷惑をかけたようだし、なんとなく申し訳なくて躊躇してしまった。
「私には言い難いことか?」
「…いえ。単に私のケジメの話に過ぎないので」
「ケジメ…」
そう呟き、ガナッシュ様が思考を巡らせる。
「メリーナに別れを告げたと聞いた。その…泣いていたのはメリーナに未練があるからか?」
そう聞かれ、私はすぐにそれは違うと口にした。
「妻への気持ちはもうありません。ただ…昔の思い出が思い出されて感傷に浸ってしまっただけです」
「そうか…」
結局端的に話す事にはなってしまったが、ガナッシュ様は迷惑がるでもなく話を聞いてくれ、そっと抱き寄せ、背を軽く叩きながら『頑張ったな』と言ってくれた。
その優しさと温もりに安心させられて、引っ込んでいたはずの涙がまたこぼれ落ちていく。
「私の前では何も取り繕わなくていい。気にせず頼ってくれ」
あまりにも頼り甲斐のあるその言葉に心がグラついて、より一層惚れてしまいそうになった。
(ダメ…なのに)
そう思ったところでガナッシュ様が何かを言い掛け、話を聞こうと顔を上げた私と視線が絡み合う。
「ラヴィアン。私は……」
けれどガナッシュ様の腕にグッと力が入ったところで、コンコンコン!と強めにドアをノックする音が割り込んできて、心臓が飛び上がるかと思った。
「はい!」
焦りながらもなんとか返事をすると『私よ!開けてちょうだい!』という妻、いやもう元妻か。そんなメリーナの声が聞こえてきて戸惑いを隠せない。
さっきの今で一体何の用だろう?
(もしかして慰謝料でも寄越せと言いに来たのか?)
そう見当をつけ、渋々立ち上がりドアをそっと開くと、私の顔を見るなり『やっぱり別れたくなかったんじゃない!』と意味不明なことを言われた。
「泣くくらいなら強がってあんなこと言わなければよかったでしょう?!」
「……は?」
「やっぱりどう考えても貴方が私のことを愛してる気持ちがそう簡単になくなるとは思えなくて、確かめに来てみればやっぱり思った通りじゃないの!」
何やら勘違いしているメリーナの勢いが凄すぎて、口を挟む隙が無い。
「そうよね!おかしいと思ったわ。明日にはやっぱりよりを戻そうって言い出すんでしょう?大丈夫。私にはちゃんとわかっているわ」
どこかホッとしたような顔でそう言ってくるメリーナを見て、ここはちゃんと言わないとと思うのだが、彼女の口上は止まらない。
「貴方が私と別れたくないって言うなら私は許すわ。今日ちょうどお昼寝をした後に名案が浮かんだところだったの。ガナッシュ様の愛人になれるのが一番だけど、それ以外にもお金を手に入れる方法はあったのよ。あの子達に身売りさせる必要もないし、これならきっと機嫌もすぐに直してもらえるわ!」
その言葉を聞き、また碌でもない事を思いついたんじゃないかと不安になる。
しかも昼寝をした?仕事もせずに?
(あり得ないだろう?!)
驚きに気を取られている間にメリーナは嬉々としてその思いつきの名案とやらを口にしてくる。
「お給料の半分を貰えば良かったの!皆衣食住が保証されたところで働いているからこれなら誰も困らないし、私の懐も温まるわ。貴方から別れを切り出されたから、貴方から貰えなくなるって焦ったけど、これなら大丈夫よね?私に九割くれるなら別れたりしないから安心して?」
満面の笑みでそう言い放ってくるメリーナに、何をどう言えばいいのかわからず、ただただ口をパクパクさせることしかできない。
呆気に取られるとはまさにこの事だろう。
そんな私を後ろからまるで安心させるかのようにそっと包み込んでくれる温もりが…。
「ガナッシュ様…」
***
【Side.ガナッシュ】
ラヴィアンをメリーナの教育係から外し、夜寝る前に二人きりで茶を飲みながら過ごす時間を設けて早二週間。
ラヴィアンの顔に笑顔が戻り、夜もよく眠れるようになったのか、顔色もすっかり良くなった。
そしてそんなラヴィアンと過ごす穏やかな夜がずっと続けばいいのにと願っている自分に気づいてしまう。
募っていく愛しい感情を止めることができない。
そして今日、そんな愛しいラヴィアンの妻の座に胡座をかいているメリーナのとんでもない発言を耳にし、とうとう溜まりかねて怒鳴りつけてしまった。
子は親に従わなければならない?
それで身売りさせられたらたまったものではないだろう。
ラウルもエヴァンジェリンも可哀想だ。
その後も意味不明な返答の数々に頭が痛くなる。
どうしてこんな女がラヴィアンの妻なんだろう?
特別頭が良いわけでもないのに、さりげなく思考誘導する器用さを持ち合わせているから始末に負えない。
そのせいでラヴィアン達家族は歪んでしまっていた事がよくわかった。
(私がメリーナの立場にいたなら、ラヴィアンにそんな事を絶対にさせなかった)
国への虚偽申告は罪な事だと諭し、息子が聖なる力を顕現させた事を誇れと言ってやっただろう。
そう考えると胸が痛かった。
奪ってやりたい。
強くそう思う。
こんな碌でもない女から引き離し、ラヴィアンを自分のものにしてしまいたかった。
それを必死に理性で押し留め、なんとかメリーナに考えを改めるよう伝える。
敵に塩を送るような行為でしかないが、ラヴィアンの為だと自分に言い聞かせ気持ちを押し込めた。
その後、外に買い物に出ていたラヴィアンが帰ってきた。
タイミングよく外に出ていてさっきのゴタゴタを目撃せずに済んで良かったと思う。
あんなものを聞かされていたらきっとショックを受けただろうから。
メリーナの教育係を引き継いだリンに差し入れをするラヴィアンの姿を見て、あの姿がきっと本来のラヴィアンなんだろうとホッとする。
少しでも歪められた性格を矯正してやれたのなら、ここで雇った甲斐もあるというものだ。
そんな事を考えていたらいつの間にかこちらへと歩いてきていたラヴィアンと鉢合わせてしまった。
何とも気まずい。
でも何も知らないラヴィアンはどこか嬉しそうにしながら『夜のお供にハーブクッキーを買ってきた』などと言ってくる。
可愛すぎて、クッキーじゃなくお前を食べたいと言いたくなった。
はっきり言って私はラヴィアンが思っているほど高潔な人格者ではない。
性欲だって普通にあるし、無自覚に煽られたら困るのだ。
そんな風にすぐに溢れそうになる気持ちを抑えていたと言うのに、その日の夜、ラヴィアンがメリーナに離婚を突きつけていたと使用人の一人が伝えに来たことで状況が変わった。
なんでも部屋の前の廊下で言い合っていたらしい。
(ラヴィアンがメリーナに別れを切り出した…)
これはある意味チャンスだ。
きっと今夜のお茶の時間にラヴィアンはその話をしてくるだろう。
そこで上手く気持ちを伝えたら────そんな不埒な事を考えてしまったからダメだったんだろうか?
ラヴィアンはいつもの時間に部屋へとやってこなかった。
(何かあったのか?)
来ると言って来なかったのは初めてだ。
ここに来られなくなるような何かがあったのではないかと不安を覚え、ラヴィアンの部屋へと向かう。
もしかしたらメリーナに絡まれたのかもしれない。
もしそうなら助けてやらないと。
(あの女は本当に考え方がおかしいからな)
そう思いやってきたのだが、どうやら部屋で泣いていたらしい。
そして話を聞き、あんな女でもラヴィアンは大切に思っていたのだと胸が苦しくなる。
慰めてやりたい。
そう思ったからそっと抱き寄せ、頑張ったなと口にした。
あんな女、別れてよかったのだ。
夫婦仲が上手くいっていた時の思い出は確かに色鮮やかかもしれないが、いつかは色褪せていくと実経験から知っている。
自分なら気持ちを汲んでやれる。
だから頼って甘えてこの腕の中に落ちてきてほしい。
「ラヴィアン。私は……」
お前を愛しく思ってる。
そう告げようとしたところで邪魔が入った。
しかもやってきたのはメリーナで、泣いていたラヴィアンを見て勘違いの自論を展開し、更にとんでもない話までしてきた。
「貴方が私と別れたくないって言うなら私は許すわ。今日ちょうどお昼寝をした後に名案が浮かんだところだったの。ガナッシュ様の愛人になれるのが一番だけど、それ以外にもお金を手に入れる方法はあったのよ。あの子達に身売りさせる必要もないし、これならきっと機嫌もすぐに直してもらえるわ!」
(全く反省していないな?!)
昼寝をしていたと聞いて、頭がまた痛くなった。
ラヴィアンもそれは同じだったのか、驚きすぎて固まってしまっている。
しかも続く言葉がまた酷かった。
「お給料の半分を貰えば良かったの!皆衣食住が保証されたところで働いているからこれなら誰も困らないし、私の懐も温まるわ。貴方から別れを切り出されたから、貴方から貰えなくなるって焦ったけど、これなら大丈夫よね?私に九割くれるなら別れたりしないから安心して?」
とんでもない事を全く悪気なく名案とばかりに言い放つメリーナに怒りが湧いた。
(こんないかれた女に誰がラヴィアンを渡すか!!)
最早遠慮する気はない。
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そんな強い思いでラヴィアンを腕の中へと閉じ込めて、私はメリーナを鋭く睨みつけた。
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