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番外編
番外編Ⅱ ナナシェにて⑫ Side.母メリーナ
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休日になったら────そう思っていたのに、休日がない。
ここに来てほぼ二ヶ月が経ったけど、そう言えば休日らしい休日を取った覚えがなかった。
最初の二週間は仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいだったから気にしていなかったけど、それ以降は休みが欲しいわと頻繁に口にしていた。
そう言えば夫が溜め息を吐きながらでも、少し時間を融通してくれたからだ。
仕事を代わるからその間だけでもゆっくりしろと言ってくれたり、買い出しついでに自分の物を買う時間を少しだけ取ってもいいぞと言ってくれたりしていた。
なのに新しい教育係にはそれが全くない。
つまり毎日ずっと働いているということになる。
「信じられない!食堂でも週に一度は休みがあったわよ?!」
そう言ったら、普通の使用人は交代で週に一回休みを取っている。休みがないのはお前が罪人だからだと言われた。
失礼にも程があるだろう。
しかも『教育係の間、ラヴィアンは貴女に付き合って一度も休みを取ってなかったのよ?可哀想だと思わないの?』と嫌味まで言われた。
そんなの知らないわ。
勝手にそうしていただけでしょう?
寧ろ休んでくれたら私だってサボりやすかったのに、酷いわ。
そもそもの話、私が罪人だと言ってくるのもどうかしている。
「あれは冤罪だったのよ?!」
「冤罪じゃないでしょ?男達を誑かして金を巻き上げて、なんの前振りもなく自分の子供達に身売りさせようとするなんて本当にクズよね」
「そうやって反省しないから監視されるんだよ、あんたは」
他の使用人にまでそう言って溜め息を吐かれた。
(何も知らないくせに!)
子供は親の言うことを聞き、親に感謝して親に恩を返すものだ。
だからあれは話を通してなかったのが悪かっただけで、それ以外何も間違ってはいない。
家族内の事に口出ししないでほしかった。
「私が望んだら言う通りに従うのが子供でしょう?!今度はちゃんと本人達に言ってやるわよ!私の為に身を売って稼いでこいってね!」
そう叫ぶように口にした途端、窓ガラスがビリビリするほどの勢いで『この、馬鹿者が!!』と誰かが叫び、そのあまりの声の大きさに驚いて腰を抜かしてしまう。
見るとそこにはガナッシュ様の姿があり、何やら物凄く怒っているようだった。
きっと私が理不尽なことを言われているのを見兼ねて、教育係の女を叱ってくれたのだろう。
でもできればもっと小さな声で叱りつけて欲しかった。
あれは流石にビックリしすぎて心臓が止まるかと思ってしまったから。
「ガ、ガナッシュ様!驚きましたわ。突然大声を出さないでくださいませ。巻き添えで私まで驚いてしまいましたわ」
だからそう言って、腰が抜けてしまったから手を貸してほしいと口にした。
甘えるにも絶好のシチュエーションだ。
皆に仲の良さを見せつけて、自分達が間違っているのだと言うことを思い知らせてやりたかった。
それなのにガナッシュ様は訳の分からない事を言ってくる。
「何が巻き添えだ!私はお前自身を叱りつけたのだ。馬鹿も休み休み言え」
「……え?」
私を…叱った?
何故?
「お前は本当にどうして自分が牢へ入れられたのか、理解していないな」
「あれは冤罪ですわ!私は何も悪くありませんもの!」
「ほぉ?言い分を聞こうか」
そうしてガナッシュ様が聞く姿勢を見せたから、私は自分の思う通りに話をした。
子は親に従い、親へ育ててもらった恩を返すべき存在だと。
ならば身を売って金を稼げと私が言えば当然それに従うべきだと。
「なるほど。お前の言いたい事はよくわかった」
その言葉に初めて話が通じたと嬉しくなる。
だって兵士達もここの使用人達も誰一人として理解を示してはくれなかったのだから。
(流石ガナッシュ様だわ)
これでもう安心だ。
そう思ったところでおかしな事を言われた。
「つまりお前は、自分の両親が老後の資金が足りないから今すぐ身を売って金を用立ててくれと言えば、文句も言わず喜んで自ら身を売りに行くと言うのだな?」
「……え?」
何故…そうなるのだろう?
「今さっき自分で言っていたではないか。子は親に育ててもらった恩を返すべきだから、身を売って金を稼いでこいと言われればそれに従うべきだと」
「…え?そ、そんな事っ、私の両親は言ってきませんわ?!」
私の両親は貴族だ。
そんなこと言ってくるはずがない。
「貴族だから?金があるから?分からないだろう?お前達一家が国外追放されて、大変な思いをしているかもしれないじゃないか」
「そっそれなら、それこそラウルやエヴァンジェリンに稼がせれば…っ」
もし仮にそうだとしても、私が身売りしなければならないなんてそんなことあるはずがない。
なのに事も無げにガナッシュ様は言った。
「間違うな。お前は子が親に恩を返すべきだと言っていた。孫は関係ない。巻き込むな」
孫は関係ない?
私は関係あるのに?
「そんな!私はそんな事絶対にしません!元侯爵夫人なんですよ?!高貴な身の上なんです!」
「それを言うならラヴィアンは元侯爵でお前よりもずっと偉いな?娘と息子も元侯爵令嬢と元侯爵令息だ。皆高貴な身の上だぞ?違うか?」
それは…それは確かにそうかもしれないけど…!
「違います!だってもう皆その立場はなくなって、何も持たない平民ですもの!」
そうよ。皆身分を剥奪されて平民になったのよ?
私とは違うわ。
そう思ったのに────。
「馬鹿だな。それを言うならお前も同じ平民じゃないか」
「……え?」
その言葉は不思議と鮮やかに耳へと届いた。
ガナッシュ様がまるで私に言い聞かせるかのように再度言う。
「お前も、平民だ」
平民…平民?
誰が?私が?
そんなこと認められない。
認められるはずがない。
「わ、私は元侯爵夫人で…」
そう。ただの平民じゃない。
元、貴族だ。
だからそう言ったのに、そんなものは何の免罪符にもならないとばかりにガナッシュ様は現実を突きつけてくる。
「だからそれはラヴィアン達も一緒だと言っている」
「わ、私とは違って、皆罪人で…」
「お前がここでそれを言うのか。…そうだな。それならお前にもわかりやすい母国の罪に関して、まずはわからせてやろう」
「…?」
「お前は、お前も含めて一家揃って国に対する虚偽申告罪という罪を犯した罪人だと理解出来ているか?」
お前も含めて────その言葉に過剰に反応する。
「私は関係ありませんわ!」
私はやっていない。
そう反発し主張するが、それは認められなかった。
「家ぐるみでやったくせにそれは通用せんだろう」
「夫が…夫が全部悪いのよ!」
だって一家の主人ですもの。
私が罪を被る必要はない。
そうでしょう?
なのに『それは違う』とガナッシュ様は私を追い込んでくる。
「夫が間違った事をしようとしているのに止めなかったのはお前の責任だろう?妻の役割を全うせず、寧ろ嬉々として賛成していたそうじゃないか。なんとも罪深い事だな」
夫が間違ったことをしようとしていたら止めるのが妻の責任?
そんなこと、知らないわ。
だって私が望みを叶えるためにそうなるようにわざわざ誘導したのよ?
止めるはず、ないじゃない。
それが罪深いですって?
そんなはずがないわ。
「ち、違うわ!あの時はランスロットなんかが聖なる力を顕現させたなんて言い出すから、生意気なその鼻をへし折ってやろうって思っただけよ!私は悪くないわ!」
「ほぉ?ならば悪いのはその息子の方だとでも言うのか?」
「そうよ!あの子は本当に昔から生意気で、ちっとも可愛くなかったもの!隣国の宰相家にだって一人だけ気に入られて憎らしいったらなかったわ!スケープゴートにされて当然の子だったのよ!」
私は悪くない。
悪いとしたらそれはランスロットだ。
大人しく一生我が家でスケープゴートとして暮らしていけばよかったのに、そうしなかったあの子が悪い。
「…だからラヴィアンを止めなかったのか?」
「そうよ!あの子をスケープゴートにする為にね!ちょっと上手くやればあっという間に家族皆あの子に冷たくなったわ。お蔭で家族の絆は深まったし、私は良い事しかしていないでしょう?!責められる筋合いはないわ!」
だから私まで罪人だと言うのは間違っている。
そう主張したのに、返ってきた言葉は思いがけない真逆の言葉だった。
「なるほど。つまり、お前が諸悪の根源だったと言うことか」
諸悪の根源?
何を言っているのだろう?
悪いのは私じゃないわ。
ちゃんと話したじゃない。
どうして皆そんな冷たい目で私を見るの?
ガナッシュ様…貴方は私を気に入って、愛人にしてくれるからここに引き取ってくれたんでしょう?
違うの?
皆から向けられる視線の冷たさに、言いようのない不安が込み上げてくる。
「メリーナ。お前がそのスケープゴートの立場にされたら、お前はどう思う?」
「…え?」
ガナッシュ様のその言葉に戸惑いながらも考えてみる。
誰かに陥れられて、誰も味方になってくれなくて、蔑んだ冷た目で見られる。そんな自分を。
(あら?今の私の立ち位置と一緒じゃないかしら?)
つまり私は誰かにスケープゴートにされているって事?
それを気づかせるために、ガナッシュ様は敢えてここで言ってくれた。
そう言う事なのかしら?
そう思ったからそれをそのまま伝えたら、溜め息を吐かれながら、全然違うと言われた。
「今の現状はお前自身の行いが悪いからそうなっているだけで、誰かがお前を陥れたわけでない事くらいわかるだろう?」
そう…なのだろうか?
でも何が悪かったのかがさっぱりわからない。
「正直言いたい事は沢山あるが、今のお前にこれ以上言っても無駄だろう。一先ず頭を冷やせ、メリーナ。それから先程自分が口にした言葉の数々を思い出して、どこに問題があったのかをよく考えるんだ。お前には自らを振り返る時間が必要だ」
ガナッシュ様は感情的に怒鳴るでもなく、暴力を振るうでもなく、ただ淡々とした冷たい声でそれだけを言うとその場から去っていった。
(何よ…何なのよ……)
そんなガナッシュ様の姿を見て、もしかしたら自分の何かが間違っていたのかと…そんな考えがふと頭を過り、慌ててそれを否定するように首を横に振る。
(私は悪くない。私は正しい。そうよ間違ってなんていないはずよ)
そう強く自分に言い聞かせながら、私はふらふらと自室へと向かった。
ここに来てほぼ二ヶ月が経ったけど、そう言えば休日らしい休日を取った覚えがなかった。
最初の二週間は仕事を覚えるのにいっぱいいっぱいだったから気にしていなかったけど、それ以降は休みが欲しいわと頻繁に口にしていた。
そう言えば夫が溜め息を吐きながらでも、少し時間を融通してくれたからだ。
仕事を代わるからその間だけでもゆっくりしろと言ってくれたり、買い出しついでに自分の物を買う時間を少しだけ取ってもいいぞと言ってくれたりしていた。
なのに新しい教育係にはそれが全くない。
つまり毎日ずっと働いているということになる。
「信じられない!食堂でも週に一度は休みがあったわよ?!」
そう言ったら、普通の使用人は交代で週に一回休みを取っている。休みがないのはお前が罪人だからだと言われた。
失礼にも程があるだろう。
しかも『教育係の間、ラヴィアンは貴女に付き合って一度も休みを取ってなかったのよ?可哀想だと思わないの?』と嫌味まで言われた。
そんなの知らないわ。
勝手にそうしていただけでしょう?
寧ろ休んでくれたら私だってサボりやすかったのに、酷いわ。
そもそもの話、私が罪人だと言ってくるのもどうかしている。
「あれは冤罪だったのよ?!」
「冤罪じゃないでしょ?男達を誑かして金を巻き上げて、なんの前振りもなく自分の子供達に身売りさせようとするなんて本当にクズよね」
「そうやって反省しないから監視されるんだよ、あんたは」
他の使用人にまでそう言って溜め息を吐かれた。
(何も知らないくせに!)
子供は親の言うことを聞き、親に感謝して親に恩を返すものだ。
だからあれは話を通してなかったのが悪かっただけで、それ以外何も間違ってはいない。
家族内の事に口出ししないでほしかった。
「私が望んだら言う通りに従うのが子供でしょう?!今度はちゃんと本人達に言ってやるわよ!私の為に身を売って稼いでこいってね!」
そう叫ぶように口にした途端、窓ガラスがビリビリするほどの勢いで『この、馬鹿者が!!』と誰かが叫び、そのあまりの声の大きさに驚いて腰を抜かしてしまう。
見るとそこにはガナッシュ様の姿があり、何やら物凄く怒っているようだった。
きっと私が理不尽なことを言われているのを見兼ねて、教育係の女を叱ってくれたのだろう。
でもできればもっと小さな声で叱りつけて欲しかった。
あれは流石にビックリしすぎて心臓が止まるかと思ってしまったから。
「ガ、ガナッシュ様!驚きましたわ。突然大声を出さないでくださいませ。巻き添えで私まで驚いてしまいましたわ」
だからそう言って、腰が抜けてしまったから手を貸してほしいと口にした。
甘えるにも絶好のシチュエーションだ。
皆に仲の良さを見せつけて、自分達が間違っているのだと言うことを思い知らせてやりたかった。
それなのにガナッシュ様は訳の分からない事を言ってくる。
「何が巻き添えだ!私はお前自身を叱りつけたのだ。馬鹿も休み休み言え」
「……え?」
私を…叱った?
何故?
「お前は本当にどうして自分が牢へ入れられたのか、理解していないな」
「あれは冤罪ですわ!私は何も悪くありませんもの!」
「ほぉ?言い分を聞こうか」
そうしてガナッシュ様が聞く姿勢を見せたから、私は自分の思う通りに話をした。
子は親に従い、親へ育ててもらった恩を返すべき存在だと。
ならば身を売って金を稼げと私が言えば当然それに従うべきだと。
「なるほど。お前の言いたい事はよくわかった」
その言葉に初めて話が通じたと嬉しくなる。
だって兵士達もここの使用人達も誰一人として理解を示してはくれなかったのだから。
(流石ガナッシュ様だわ)
これでもう安心だ。
そう思ったところでおかしな事を言われた。
「つまりお前は、自分の両親が老後の資金が足りないから今すぐ身を売って金を用立ててくれと言えば、文句も言わず喜んで自ら身を売りに行くと言うのだな?」
「……え?」
何故…そうなるのだろう?
「今さっき自分で言っていたではないか。子は親に育ててもらった恩を返すべきだから、身を売って金を稼いでこいと言われればそれに従うべきだと」
「…え?そ、そんな事っ、私の両親は言ってきませんわ?!」
私の両親は貴族だ。
そんなこと言ってくるはずがない。
「貴族だから?金があるから?分からないだろう?お前達一家が国外追放されて、大変な思いをしているかもしれないじゃないか」
「そっそれなら、それこそラウルやエヴァンジェリンに稼がせれば…っ」
もし仮にそうだとしても、私が身売りしなければならないなんてそんなことあるはずがない。
なのに事も無げにガナッシュ様は言った。
「間違うな。お前は子が親に恩を返すべきだと言っていた。孫は関係ない。巻き込むな」
孫は関係ない?
私は関係あるのに?
「そんな!私はそんな事絶対にしません!元侯爵夫人なんですよ?!高貴な身の上なんです!」
「それを言うならラヴィアンは元侯爵でお前よりもずっと偉いな?娘と息子も元侯爵令嬢と元侯爵令息だ。皆高貴な身の上だぞ?違うか?」
それは…それは確かにそうかもしれないけど…!
「違います!だってもう皆その立場はなくなって、何も持たない平民ですもの!」
そうよ。皆身分を剥奪されて平民になったのよ?
私とは違うわ。
そう思ったのに────。
「馬鹿だな。それを言うならお前も同じ平民じゃないか」
「……え?」
その言葉は不思議と鮮やかに耳へと届いた。
ガナッシュ様がまるで私に言い聞かせるかのように再度言う。
「お前も、平民だ」
平民…平民?
誰が?私が?
そんなこと認められない。
認められるはずがない。
「わ、私は元侯爵夫人で…」
そう。ただの平民じゃない。
元、貴族だ。
だからそう言ったのに、そんなものは何の免罪符にもならないとばかりにガナッシュ様は現実を突きつけてくる。
「だからそれはラヴィアン達も一緒だと言っている」
「わ、私とは違って、皆罪人で…」
「お前がここでそれを言うのか。…そうだな。それならお前にもわかりやすい母国の罪に関して、まずはわからせてやろう」
「…?」
「お前は、お前も含めて一家揃って国に対する虚偽申告罪という罪を犯した罪人だと理解出来ているか?」
お前も含めて────その言葉に過剰に反応する。
「私は関係ありませんわ!」
私はやっていない。
そう反発し主張するが、それは認められなかった。
「家ぐるみでやったくせにそれは通用せんだろう」
「夫が…夫が全部悪いのよ!」
だって一家の主人ですもの。
私が罪を被る必要はない。
そうでしょう?
なのに『それは違う』とガナッシュ様は私を追い込んでくる。
「夫が間違った事をしようとしているのに止めなかったのはお前の責任だろう?妻の役割を全うせず、寧ろ嬉々として賛成していたそうじゃないか。なんとも罪深い事だな」
夫が間違ったことをしようとしていたら止めるのが妻の責任?
そんなこと、知らないわ。
だって私が望みを叶えるためにそうなるようにわざわざ誘導したのよ?
止めるはず、ないじゃない。
それが罪深いですって?
そんなはずがないわ。
「ち、違うわ!あの時はランスロットなんかが聖なる力を顕現させたなんて言い出すから、生意気なその鼻をへし折ってやろうって思っただけよ!私は悪くないわ!」
「ほぉ?ならば悪いのはその息子の方だとでも言うのか?」
「そうよ!あの子は本当に昔から生意気で、ちっとも可愛くなかったもの!隣国の宰相家にだって一人だけ気に入られて憎らしいったらなかったわ!スケープゴートにされて当然の子だったのよ!」
私は悪くない。
悪いとしたらそれはランスロットだ。
大人しく一生我が家でスケープゴートとして暮らしていけばよかったのに、そうしなかったあの子が悪い。
「…だからラヴィアンを止めなかったのか?」
「そうよ!あの子をスケープゴートにする為にね!ちょっと上手くやればあっという間に家族皆あの子に冷たくなったわ。お蔭で家族の絆は深まったし、私は良い事しかしていないでしょう?!責められる筋合いはないわ!」
だから私まで罪人だと言うのは間違っている。
そう主張したのに、返ってきた言葉は思いがけない真逆の言葉だった。
「なるほど。つまり、お前が諸悪の根源だったと言うことか」
諸悪の根源?
何を言っているのだろう?
悪いのは私じゃないわ。
ちゃんと話したじゃない。
どうして皆そんな冷たい目で私を見るの?
ガナッシュ様…貴方は私を気に入って、愛人にしてくれるからここに引き取ってくれたんでしょう?
違うの?
皆から向けられる視線の冷たさに、言いようのない不安が込み上げてくる。
「メリーナ。お前がそのスケープゴートの立場にされたら、お前はどう思う?」
「…え?」
ガナッシュ様のその言葉に戸惑いながらも考えてみる。
誰かに陥れられて、誰も味方になってくれなくて、蔑んだ冷た目で見られる。そんな自分を。
(あら?今の私の立ち位置と一緒じゃないかしら?)
つまり私は誰かにスケープゴートにされているって事?
それを気づかせるために、ガナッシュ様は敢えてここで言ってくれた。
そう言う事なのかしら?
そう思ったからそれをそのまま伝えたら、溜め息を吐かれながら、全然違うと言われた。
「今の現状はお前自身の行いが悪いからそうなっているだけで、誰かがお前を陥れたわけでない事くらいわかるだろう?」
そう…なのだろうか?
でも何が悪かったのかがさっぱりわからない。
「正直言いたい事は沢山あるが、今のお前にこれ以上言っても無駄だろう。一先ず頭を冷やせ、メリーナ。それから先程自分が口にした言葉の数々を思い出して、どこに問題があったのかをよく考えるんだ。お前には自らを振り返る時間が必要だ」
ガナッシュ様は感情的に怒鳴るでもなく、暴力を振るうでもなく、ただ淡々とした冷たい声でそれだけを言うとその場から去っていった。
(何よ…何なのよ……)
そんなガナッシュ様の姿を見て、もしかしたら自分の何かが間違っていたのかと…そんな考えがふと頭を過り、慌ててそれを否定するように首を横に振る。
(私は悪くない。私は正しい。そうよ間違ってなんていないはずよ)
そう強く自分に言い聞かせながら、私はふらふらと自室へと向かった。
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