【完結】お役御免?なら好きにしてやる!

オレンジペコ

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18.エヴァンジェリンの暴走

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本邸からの呼び出しに応じて応接室へとやってくると、そこには公爵夫人である義母とエヴァンジェリンの姿があった。
一体何をしに来たんだろう?
また聖輝石に力を込めろと言いに来たんだろうか?

そんな事を考えながらシリウスの横で首を傾げていたら、突然ツカツカと傍へとやってこられた。

「ランスロット」
「なんだよ?エヴァンジェリン」
「単刀直入に言うわ。貴方にシリウス様は勿体ないの。さっさと離縁してここを去りなさい」

どこか優越感に満ちた笑みを浮かべながら紡がれたその言葉に目を瞠り、思わず固まってしまう。
今の言葉を聞く限り、どうやらエヴァンジェリンの目的は俺の聖なる力ではなく、シリウスの妻の座だと読み取れたからだ。
しかもこれ見よがしにシリウスの腕に絡みついて、甘えながら挑発してくるから酷かった。

「シリウス様だって貴方みたいな男より私の方がずっと嬉しいに決まっているわ。私の方が美人だし、性格だっていいし、子供だって産めるのよ?わかったらさっさと…きゃっ?!」

エヴァンジェリンの身体がいきなり前方へと投げ出される。

「触るな性悪女。吐き気がする」

そこへシリウスの冷え切った声が投げつけられて、エヴァンジェリンは呆然となりながらシリウスへと目を向けた。
きっと何が起こったのか理解できないんだろう。
言われたセリフもそうだけど、振り払われたというのがすんなり頭に入ってこないようだった。

シリウスもちょっとは我慢してたんだけど、本気で無理だったみたいで、虫ケラを見るような目でエヴァンジェリンを見てる。
こういうところはわかりやすい。

(シリウスが昔からエヴァンジェリンのこと大嫌いだって知ってただろ?もしかして気づいてなかったのか?)

シリウスの兄レグルスならそれなりにエヴァンジェリンとも友好的に接していた(だからと言って別に好きではない)ものの、シリウスの態度は徹底して嫌悪感丸出しだったんだけどな。

(もしかして照れ隠しと思い込んでたとかか?)

それか俺が二人の仲を邪魔してるだけと思い込んでたか。きっとどっちかだろう。
エヴァンジェリンの謎の自信がどこから出てくるのか不思議でしょうがなかった。

「母上。どうしてこんな女をもてなしていたんです?さっさと追い払ってくれればよかったのに」
「まあ!酷いわね。一応昔からの付き合いだし、話くらいは聞いてあげようと思っただけじゃない」
「それで?何か有意義な話でも聞けたんですか?」
「ええ、聞けたわ。侯爵家の現状とかね」
「そうですか。じゃあもういいでしょう?さっさと追い出してください。不愉快この上ないですから」

なんで折角結婚できたのに別れないといけないんだとブツブツ言うシリウスを見て、俺は思わずキュッとシリウスの服の裾をつまんでしまう。
捨てられないとわかっていても、これまでの経験上何かされるんじゃないかと不安になってしまったのは確かだから。

そんな俺にすぐに気づいてシリウスが優しく抱き寄せてくれる。

「ランスロット。そんなに不安そうにしなくても大丈夫だ。俺がランスロットのこと、大好きなのは知ってるだろ?」

エヴァンジェリンに向ける眼差しとは大違いな優しい眼差しに、胸がじわりと温かくなっていく。

「シリウス…」
「チュッ。心配しなくても俺が守ってやる」

(お、男前!!)

いつも以上にシリウスがカッコよく輝いて見えた。
今以上に好きになるからやめてくれ。

そして急にイチャイチャし始めた俺達に公爵夫人は『あらあら。相変わらず仲良しね』と好意的だが、エヴァンジェリンはそうじゃなかったらしく、怒りを爆発させてしまった。

「なによ、なによ、なによ!ランスロットのくせに生意気なのよ!!どうして一人だけ幸せそうにしてるの?!貴方には不幸が似合ってるのよ!その立場は私にこそ相応しいんだから、さっさとよこしなさい!!」

しかも余程腹が立ったのか、風魔法まで発動してきた。
どうやら感情任せに発動したらしく、全く制御できていない。
まともに食らったら大怪我だ。
でも素早くシリウスが水の壁を展開して俺や義母へ当たらないようにしてくれたから、そっちは大丈夫だったんだけど……。

「あらぁ…。これは流石に見逃せないわね」

義母が言うように、部屋の中は酷い惨状になってしまっていた。
エヴァンジェリンの風魔法は部屋を滅茶苦茶にしてしまっていて、壁や家具、床のカーペットに至るまで被害が出てしまっている。
テーブル上のカップや側にあったソファに至ってはズタズタだ。
これ、被害総額いくらになるんだろう?
考えただけで眩暈がしそうだ。

「エヴァンジェリン?とんでもない事をしでかしてくれたわね。当然だけど、この部屋の被害額は全部ひっくるめてアルバーニ侯爵家…ああ、今は子爵家だったかしら?そちらに請求させていただくわね」

冷たい声が応接室に静かに響く。

「……え?」
「何を驚くの?当然でしょう?貴女がやったんですもの」
「そんなっ!これはランスロットの…っ!」
「またランスロットのせいにする気なの?自分が魔法でズタズタにしたくせに人のせいにしないでちょうだい。シリウスが水魔法で守ってくれなかったら危うく私まで大怪我するところだったのよ?これまで親しくしてきたから大抵のことには目を瞑って来たけれど、このことは国を通してきっちり抗議させていただくわ。縁切りも覚悟することね」

そう言って義母は蔑むような眼差しをエヴァンジェリンに向け、常にないほど怒りを滲ませた様子で『つまみ出してちょうだい』と指示を出した。
それを受けて使用人達がエヴァンジェリンを外へと追い出しにかかる。
まさかこんな風に追い出されるとは思っていなかったんだろう。
エヴァンジェリンは焦ったように義母へと謝り始めた。

「お、おば様!私が悪かったですわ!ごめんなさい!許して、許してください!おば様!!」

けれど必死の謝罪も義母の心には全く響かなかったようで、エヴァンジェリンはそのまま使用人の手で屋敷から追い出されてしまう。
他の使用人達も片付ける為に道具を取りに行ったから、部屋には俺達と義母だけになっていた。

「おか…いえ、公爵夫人。姉が大変申し訳ありませんでした」

精一杯深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にするけど、お前もついでに出て行けと言われそうで、怖くて頭があげられない。
でもそんな俺へとかけられたのは存外優しい声で……。

「ランスロット。頭を上げてちょうだい?」

その声に恐る恐る頭をあげると、義母は穏やかに俺を見つめてくれていた。

「まあ…お気に入りのティーセットが全部壊れてしまったのは残念だけど、これでアルバーニ家を入国禁止にしやすくなったし、概ね計画通りよ。気にしないで」

どうやら義母は俺の為に色々考えてくれていたらしい。
でも流石にコレは予想外だっただろう。
気にしないでと言われても気にしないで済むはずがない。
なのに義母は重ねるように優しく俺へと声を掛けてくれる。

「ランスロットのせいじゃなくて、これはエヴァンジェリンのせいよ。間違えないで」
「…はい」
「私はね、これからも貴方にはお義母様と呼んでもらいたいの。このせいで貴方に一歩引かれたら悲しいわ」

義母が優し過ぎて泣いてしまいそうだ。
そんな義母に感謝して、俺はそっとテーブルの方へと目を向けた。

「お義母様。そのティーセット…治せるかわからないけど、聖魔法を試してみてもいいですか?」
「え?」
「もしかしたら直るかもしれないし」

そう口にしたら、義母は緩く笑って『じゃあダメ元でお願いしようかしら?』と言ってくれる。

「直ったら嬉しいけれど、無理でも別に怒りはしないわ。その時はアルバーニ家への請求書に上乗せするだけの話だし、気楽にやってちょうだい」

俺が気負わずにすむよう気遣ってくれる優しい義母。
そんな彼女の大事なものを俺も守りたい。
そう思って深呼吸して手を翳し、元のティーセットをイメージしながら『どうか綺麗に元通り修復できますように』と願い、聖魔法を発動させた。
すると俺の願いに応えるようにみるみる砕けたティーセットが元通りになってホッと安堵の息を吐く。

「まあ!凄いわ!」

これには義母もシリウスも驚いたように目を丸くしていた。
聖魔法に感謝だ。

「えっと…他のところもやりましょうか?」

これでエヴァンジェリンのやらかしも免除されるのではないかとそう申し出てみたけれど、何故か二人揃って笑顔で『そこまでしなくていい』と言ってきた。

「取り敢えず、旦那様が帰ったら事情を話すからここはこのままでいいわ」
「エヴァンジェリンにはちゃんと自分のやらかしたことの責任を取らせるべきだ。ランスロットがこれ以上尻拭いする必要はない」

なかなか手厳しい。
まあ確かにこれからは俺が尻拭いをすることなんてできないんだし、エヴァンジェリンには自分で責任をとるというのを覚えていってほしいと思う。

「じゃあランスロット。行こうか」

笑顔で手を差し伸べてくれるシリウスの手を取って、俺は別邸へと帰ったのだった。


****************

※上手く皆様に伝えられるよう本文に入れられなかったので、エヴァンジェリンが何故キレたのかをここで一応補足しておきますm(_ _)mすみません。

ずっと下に見てきた褒められるはずのないランスロットが公爵夫人からベタ褒めされている→どうやらシリウスもランスロットと本気の恋仲みたい→後がない自分を認識して焦ると共に、姫ポジションが似合うのは自分の方なのにと苛立つ→ランスロットさえ譲ってくれたら丸く収まるのに、まるで幸せを見せつけるように目の前でイチャついてくるなんて最悪よ!→結論。この性悪がぁあっ!という思考回路からのブチ切れ、でした。

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