【完結】お役御免?なら好きにしてやる!

オレンジペコ

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16.エヴァンジェリンの来訪

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新婚旅行を終えシリウスと二人、また新居での生活が始まった。

使用人はいるけど、退屈だから何か新しいことに挑戦しようと思い立ち、料理を教えてもらって作ってみることに。
そしたらシリウスも目を輝かせて一緒にやりたいと言い出し、俺と一緒に教わることになった。
野菜の切り方から火を通す順番、調味料の説明から味つけまで教わっていざ実践!

「味つけ、これくらいかな?」
「どれどれ」

首をひねりながら味見をする俺の横へと食器洗いを終えたシリウスがやってきて、スプーンで味見。

「うん。美味い!」
「本当か?」
「ああ。ランスロットはいい嫁になるな」
「そうかな?まあ俺はシリウスの嫁だからシリウスの口に合えばそれでいいんだけど」
「ランスロット…」

気づけば腰を抱かれながらチュッと嬉しそうにキスされていた。
なんだかくすぐったいし、すごく新婚さんって感じだ。
こう言うのもいいな。
照れ臭いけど嬉しいかも。

そんな感じでイチャイチャしながらのんびり過ごしていると、ある日本邸から呼び出しがかかった。


***


【Side.エヴァンジェリン】

意気揚々と国境を越え、隣国にあるバーリッジ公爵家の立派な門をくぐる。
昔から交流があるから特に気後れすることはないけれど、流石宰相家。
どこもかしこも凄くお金が掛けられている。
もうすぐここで贅沢な暮らしができると考えると自然と頬だって緩んでしまう。

「まあ!エヴァンジェリン!久しぶりね」

先触れを出しておいたからか、公爵夫人が笑顔で出迎えてくれた。
相変わらず華やかで綺麗な方だ。

「お久しぶりです、おば様」
「さあさあ入ってちょうだい」
「はい。お言葉に甘えてお邪魔します」

そして日当たりのいいテラスでとっても美味しい紅茶を頂きながら、美味しいお菓子にも舌鼓を打つ。
久しぶりに満ち足りた気分になれた気がして、思わず笑み崩れてしまった。

(これよ、これこれ。やっぱり私にはこういう生活が良く似合うわ)

ある意味あんな風に聖女の仕事を多々押し付けてくる王子の妃なんかになるよりも、公爵家の嫁になってのんびり優雅に暮らす方が自分には合っている気がする。
だってここでなら聖なる力なんてなくったって、何も問題なんかないのだから。

そうして落ち着いてお茶を楽しんで一息ついたところで、公爵夫人が笑顔で話を振ってくれた。

「それで、エヴァンジェリン。今日はどうしたの?突然」
「おば様。それが……」

私はそこからまずはランスロットの家出の話からしてみることに。

「私が王子にプロポーズをされたことを聞いたランスロットが、何が気に入らなかったのか突然家を飛び出してしまったのです。落ち着いたら帰ってくるだろうと家族揃って待っていたのに、気づけばシリウス様を騙して結婚していたようで…」
「そうなの。それで?」
「はい。私達はその話を陛下から突然聞かされて、驚いて慌てふためきましたわ。何故教えてくれなかったのかと。勝手だとは思いませんか?家族にも話さず突然結婚だなんて」
「まあ。そうね。私の方から伝えればよかったわ。ごめんなさいね」
「いいえ!おば様は何も悪くありませんわ!悪いのは不義理を働いたランスロットですもの」

ここで肩を落としておけばまず悪い印象は持たれないはず。
悪いのはランスロットだとしっかり訴えておかないと。

「しかも慌てて迎えにきた両親にも会わず、そのまま新婚旅行に行ったとも聞きましたわ。自分勝手にも程があります」
「ごめんなさいね。それはシリウスが浮かれて連れて行ってしまったのよ」
「いいえ!シリウス様はランスロットに都合よく嘘を吹き込まれてそれを信じてしまっただけだと思いますわ。なのでシリウス様は怒らないであげてくださいませ」
「わかったわ」

にこやかに話を聞いてくださる公爵夫人に私の心は弾んでしまう。

「それにしても…嘘を吹き込む、ね。エヴァンジェリン。貴方がそう言うからには何か心当たりでもあるのかしら?」
「もちろんありますわ!そもそも陛下に虚偽申告をしたのはランスロットなんです」
「……と言うと?」
「ランスロットは私から聖魔法を奪ったお陰で聖魔法が使えるのに、さも自分の力だと言うように言い張って、王家に虚偽申告をしたのですわ」
「つまり、ランスロットが聖魔法を使えると国に追加報告をしたことに対して、虚偽報告だと言っているの?」
「ええ。そうですわ。だってその力は元々私のものですもの。ですから私の聖魔法でしょう?ランスロットが虚偽報告しているのに、何故私達が罰せられないといけないのでしょう?ランスロットが勝手なことをするから事がややこしくなって、私達は爵位を二つも落とされる羽目になりましたし、私なんて王子との婚約まで白紙に戻されてしまったのです。あんまりだと思いませんか?」
「……よくわからない理屈だけれど、つまりランスロットが全部悪いと言いたいのね?」
「そうですわ!ランスロットのせいで我が家は降格処分になって、お父様はやけになってお酒ばかり呑むようになってしまいましたし、お母様は心が疲れてしまって実家に帰ってしまいました。お兄様も悪い人達に騙されて借金まみれ。ランスロットのせいで皆あっという間に不幸になってしまったんです。そんなランスロットを引き受けてしまった皆様が不幸になってはと思い、私、思い切ってここに来たんです」

涙ながらに訴えると、公爵夫人がそっとハンカチを差し出してくれる。

「泣かないで、エヴァンジェリン。色々あったのね」
「おば様…!」

わっ!と泣きつくと優しく頭を撫でて慰めてもらえた。

(計算通りよ!)

これで後はランスロットをここから追い出してもらって、私を代わりにここに住まわせてもらえば何も問題はない。

「グスッ…。それでおば様、ランスロットはその後旅行から帰ってきましたの?」
「ええ。とっても楽しんで帰ってきたようよ」
「では今はここに?」
「いいえ。ここには住んでいないわ。彼はシリウスと別邸に住んでいるのよ」
「え?」

どうやらランスロットは本邸に住まわせてはもらっていないらしい。

(ふふっ…。笑ってしまうわね)

大方男同士の結婚だったせいで公爵夫妻から認めてもらえなかったのだろう。
そのせいで別邸暮らしを余儀なくされたなんて、これが笑わずにいられるだろうか?
とは言え実際に笑ってしまってはいけない。ここは我慢だ。

「ねえ、おば様?私、名案が思い浮かんだんですの」
「まあ。何かしら?」
「ええ。これはおば様にも朗報だと思いますわ」

ランスロットがこんな扱いを受けているのなら必ず喜んでもらえるはず。
そう確信を持って私は艶美に微笑み、ここに来る前に考えていた案を堂々と言の葉に乗せた。

「シリウス様とランスロットを別れさせて、私を花嫁に迎えませんか?」

まだ二人の結婚式は行われてはいない。
書類一つでしか繋がっていない二人だ。
別れるなんてすぐだろう。

(そもそもシリウス様だって友情から一時的に結婚しただけでしょうし)

きっとランスロットの我儘に乗せられただけのはず。
そう思いながら公爵夫人の方を見遣ると、彼女はとても美々しく微笑みながら優雅に扇を広げその口を開いた。

「ごめんなさいね?それはお断りさせてもらうわ。私達にも選ぶ権利がありますもの」
「え?」
「やっぱり我が家に迎えるのなら、性格の良い可愛いお嫁さんじゃないと。性根の腐った果実は、お断りよ?」


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