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10.新婚旅行に行ってきます。
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「ランスロット。結婚したことだし、新婚旅行に行かないか?」
ある日シリウスがそんなことを言い出した。
平穏な生活を過ごして、ここでの生活にも慣れてきたなと思ったところでのその提案。
「新婚旅行って、どこに?」
「ほら。前にヴェイガー国の遺跡に興味があるって言ってただろ?」
「……!うん!」
「普段ならちょっと二の足を踏む場所も、新婚旅行の名目なら行きやすいかなって思って」
「嬉しい!ありがとう!」
ずっと気になってたけど行くに行けなかった場所だ。
行けるのなら是非行きたい。
あまりにも嬉しくて思わずシリウスに飛びついてしまった。
そんな俺を危なげなく抱きとめて、シリウスがクスクスと笑う。
「どういたしまして」
「俺、シトラス城の跡地とか、レイガーの廃墟とか色々見たいんだけど、大丈夫かな?」
「もちろん。ランスロットが行きたい場所は全部行こう」
「やった!」
そうと決まったら早速旅行の準備に取り掛からないと。
「持っていく服は一週間分くらいでいいかな?」
「足りなかったら買えばいいし、三日分くらいでいいんじゃないか?」
結構移動があるから荷物は少なめの方がいいとシリウスが言うから、俺は荷物を最低限に絞って準備を整えた。
「じゃあ、行くか」
「ああ!すっごく楽しみ!」
そうして俺達は仲良く新婚旅行へと旅立った。
***
【Side.アルバーニ侯爵】
王都から三日。
国境を越え、バーリッジ公爵家の領地へとやってきた。
情報ではシリウス様と結婚したランスロットは確実にここに居るはず。
そう思い突撃したのに、屋敷の執事は『いない』の一点張り。
「嘘を吐くな!」
いい加減腹が立ってそう怒鳴りつけたら、バーリッジ公爵夫人が姿を見せた。
「まあまあ。騒がしいと思ったらアルバーニ侯爵ご夫妻ではありませんか。お久しぶりですわ」
「……!バーリッジ公爵夫人!うちのランスロットがシリウス様と結婚したと伺いました!一体どういうことです?!我々は何も聞いてはおりませんが?!」
「まあ!嫌ですわ。もう何年も前から二人は婚約関係にあったではありませんか。結婚は予定調和ですわ」
「何を馬鹿なことを…!」
「うふふ。いくら私でも冗談でこんなことは言いませんわ。証拠もほらここに」
夫人が手にする書類は確かに二人の婚約証明書。
日付は三年前。
サイン欄には偽造などではなく自分のサインがきっちりと入れられている。
(何故だ?!)
そう考えたところでふと数年前のことを思い出した。
あれは確か…バーリッジ公爵が新しい法律を通すために動いているのだと聞いた時だっただろうか?
『は~やれやれ。同性婚についてはまだまだ理解が得られにくいな』
『仕方がないですよ。革新的なことをするには抵抗があって当然です』
『そうだな…』
『いつもバーリッジ公爵にはお世話になっていますし、我々にも何かお手伝いできるのなら手伝うんですがね』
『本当か?』
『ええ。もちろんです』
『それならうちの息子シリウスと君の息子ランスロットの婚約を結ぶという態で議会を通してみようか…。それなら国同士の友好関係にも繋がるから通しやすくなる』
『それは名案ですね。うちの愚息の名が役に立つのならいくらでも使ってやってください』
酒の席でそんな話をしたような覚えがある。
その後書類が送られてきたからサラッとサインをして送り返したような…。
(そうだ!それで一つ恩を返せたとホッと胸を撫で下ろしたんだった…!)
すっかり忘れていたが、確かに自分でサインをしていたと思い出した。
「それに、こちらにもきっちり貴方のサインが入っておりますのよ?」
その言葉に蒼白になりながら目を通すと、それはランスロットの国籍変更届だった。
「こ…これは……」
「そちらは見覚えがあるのでは?」
それは去年だったか、学園卒業後の子供の話になった時のこと。
『シリウス様は優秀だから、卒業後の進路も安泰ですな』
『まあ!ランスロット様も優秀と聞いていますわよ?』
『いつも言いますが、あんな奴に敬称など不要ですよ、公爵夫人。我々はあいつがシリウス様に悪影響を与えていないかをいつも心配しているくらいなんですから』
『まあ酷い。そんなことを仰らないで上げてくださいな。流石に可哀想ですわ』
『ハハハッ。公爵夫人はお優しいですな。ですがランスロットはいっそのこと国籍を抜いてやろうかと思うほど不出来な奴なんです』
『…………家の籍ではなく国籍、ですか?』
『そうですよ!どうせこの国に居たってあんな奴じゃあ碌に職につけないでしょうし。いっそそちらの国で平民にでもなった方が良いのではないかと常々思ってるんです。幸いここからは隣国はすぐですし、バーリッジ公爵領ならこちらよりも豊かなので、職は溢れているでしょうしね』
『そうですか。まあそういうことでしたら、ランスロット様はこちらで受け入れさせていただきますわ』
『お任せできますか?』
『ええ。手続き書類の方はまた送らせていただきます』
『ありがとうございます!これで卒業後はあいつをいつでも追い出せます!ハハハハッ!』
「思い出していただけました?」
にこやかに優雅な笑みを浮かべる公爵夫人。
「貴方がいらないと言ったのですよ?彼を」
「……っ!ですが、こんなに急にっ…!」
「確かに急ではありましたわね。結婚式もまだですし…」
「そ、そうでしょう?!ここはひとつ両家で話し合って、きちんと手順を踏みましょう!」
公爵夫人の言葉に一筋の光明を見出し、ランスロットとまずは会えるよう訴えてみる。
けれど返ってきた言葉は無情だった。
「申し訳ないわ。うちの子が先走って、昨日新婚旅行に出掛けてしまいましたの」
「し、新婚旅行…?」
「ええ。あの子ったら、やっと大好きなランスロットと結婚できたと浮かれていて、嬉しそうに出掛けて行きましたわ」
「ど…どこへ?」
「それがヴェイガー国なの。あの感じだときっとひと月は帰ってこないかもしれないわ」
「ひ…ひと月……」
「困ったわね…」
公爵夫人は本当に困ったように頬に手を当て、小首を傾げながら悩まし気に息を吐いた。
その様子にこちらとしてもこれ以上言えることはないと悟ってしまう。
「…………わかりました。では戻ったらランスロットに連絡を入れるようお伝えください」
「ええ。もちろんよ」
にっこり笑顔で了承を貰い、我々は公爵家を後にする。
(ランスロット…!!)
どこまでも思い通りにならない展開に怒りがこみ上げ、地団駄を踏んだのだった。
****************
※ちなみに公爵夫人は全部わかった上でアルバーニ侯爵を転がしています。
内心はシリウス同様怒り心頭で『誰が帰すか!』と言った感じ。
ある日シリウスがそんなことを言い出した。
平穏な生活を過ごして、ここでの生活にも慣れてきたなと思ったところでのその提案。
「新婚旅行って、どこに?」
「ほら。前にヴェイガー国の遺跡に興味があるって言ってただろ?」
「……!うん!」
「普段ならちょっと二の足を踏む場所も、新婚旅行の名目なら行きやすいかなって思って」
「嬉しい!ありがとう!」
ずっと気になってたけど行くに行けなかった場所だ。
行けるのなら是非行きたい。
あまりにも嬉しくて思わずシリウスに飛びついてしまった。
そんな俺を危なげなく抱きとめて、シリウスがクスクスと笑う。
「どういたしまして」
「俺、シトラス城の跡地とか、レイガーの廃墟とか色々見たいんだけど、大丈夫かな?」
「もちろん。ランスロットが行きたい場所は全部行こう」
「やった!」
そうと決まったら早速旅行の準備に取り掛からないと。
「持っていく服は一週間分くらいでいいかな?」
「足りなかったら買えばいいし、三日分くらいでいいんじゃないか?」
結構移動があるから荷物は少なめの方がいいとシリウスが言うから、俺は荷物を最低限に絞って準備を整えた。
「じゃあ、行くか」
「ああ!すっごく楽しみ!」
そうして俺達は仲良く新婚旅行へと旅立った。
***
【Side.アルバーニ侯爵】
王都から三日。
国境を越え、バーリッジ公爵家の領地へとやってきた。
情報ではシリウス様と結婚したランスロットは確実にここに居るはず。
そう思い突撃したのに、屋敷の執事は『いない』の一点張り。
「嘘を吐くな!」
いい加減腹が立ってそう怒鳴りつけたら、バーリッジ公爵夫人が姿を見せた。
「まあまあ。騒がしいと思ったらアルバーニ侯爵ご夫妻ではありませんか。お久しぶりですわ」
「……!バーリッジ公爵夫人!うちのランスロットがシリウス様と結婚したと伺いました!一体どういうことです?!我々は何も聞いてはおりませんが?!」
「まあ!嫌ですわ。もう何年も前から二人は婚約関係にあったではありませんか。結婚は予定調和ですわ」
「何を馬鹿なことを…!」
「うふふ。いくら私でも冗談でこんなことは言いませんわ。証拠もほらここに」
夫人が手にする書類は確かに二人の婚約証明書。
日付は三年前。
サイン欄には偽造などではなく自分のサインがきっちりと入れられている。
(何故だ?!)
そう考えたところでふと数年前のことを思い出した。
あれは確か…バーリッジ公爵が新しい法律を通すために動いているのだと聞いた時だっただろうか?
『は~やれやれ。同性婚についてはまだまだ理解が得られにくいな』
『仕方がないですよ。革新的なことをするには抵抗があって当然です』
『そうだな…』
『いつもバーリッジ公爵にはお世話になっていますし、我々にも何かお手伝いできるのなら手伝うんですがね』
『本当か?』
『ええ。もちろんです』
『それならうちの息子シリウスと君の息子ランスロットの婚約を結ぶという態で議会を通してみようか…。それなら国同士の友好関係にも繋がるから通しやすくなる』
『それは名案ですね。うちの愚息の名が役に立つのならいくらでも使ってやってください』
酒の席でそんな話をしたような覚えがある。
その後書類が送られてきたからサラッとサインをして送り返したような…。
(そうだ!それで一つ恩を返せたとホッと胸を撫で下ろしたんだった…!)
すっかり忘れていたが、確かに自分でサインをしていたと思い出した。
「それに、こちらにもきっちり貴方のサインが入っておりますのよ?」
その言葉に蒼白になりながら目を通すと、それはランスロットの国籍変更届だった。
「こ…これは……」
「そちらは見覚えがあるのでは?」
それは去年だったか、学園卒業後の子供の話になった時のこと。
『シリウス様は優秀だから、卒業後の進路も安泰ですな』
『まあ!ランスロット様も優秀と聞いていますわよ?』
『いつも言いますが、あんな奴に敬称など不要ですよ、公爵夫人。我々はあいつがシリウス様に悪影響を与えていないかをいつも心配しているくらいなんですから』
『まあ酷い。そんなことを仰らないで上げてくださいな。流石に可哀想ですわ』
『ハハハッ。公爵夫人はお優しいですな。ですがランスロットはいっそのこと国籍を抜いてやろうかと思うほど不出来な奴なんです』
『…………家の籍ではなく国籍、ですか?』
『そうですよ!どうせこの国に居たってあんな奴じゃあ碌に職につけないでしょうし。いっそそちらの国で平民にでもなった方が良いのではないかと常々思ってるんです。幸いここからは隣国はすぐですし、バーリッジ公爵領ならこちらよりも豊かなので、職は溢れているでしょうしね』
『そうですか。まあそういうことでしたら、ランスロット様はこちらで受け入れさせていただきますわ』
『お任せできますか?』
『ええ。手続き書類の方はまた送らせていただきます』
『ありがとうございます!これで卒業後はあいつをいつでも追い出せます!ハハハハッ!』
「思い出していただけました?」
にこやかに優雅な笑みを浮かべる公爵夫人。
「貴方がいらないと言ったのですよ?彼を」
「……っ!ですが、こんなに急にっ…!」
「確かに急ではありましたわね。結婚式もまだですし…」
「そ、そうでしょう?!ここはひとつ両家で話し合って、きちんと手順を踏みましょう!」
公爵夫人の言葉に一筋の光明を見出し、ランスロットとまずは会えるよう訴えてみる。
けれど返ってきた言葉は無情だった。
「申し訳ないわ。うちの子が先走って、昨日新婚旅行に出掛けてしまいましたの」
「し、新婚旅行…?」
「ええ。あの子ったら、やっと大好きなランスロットと結婚できたと浮かれていて、嬉しそうに出掛けて行きましたわ」
「ど…どこへ?」
「それがヴェイガー国なの。あの感じだときっとひと月は帰ってこないかもしれないわ」
「ひ…ひと月……」
「困ったわね…」
公爵夫人は本当に困ったように頬に手を当て、小首を傾げながら悩まし気に息を吐いた。
その様子にこちらとしてもこれ以上言えることはないと悟ってしまう。
「…………わかりました。では戻ったらランスロットに連絡を入れるようお伝えください」
「ええ。もちろんよ」
にっこり笑顔で了承を貰い、我々は公爵家を後にする。
(ランスロット…!!)
どこまでも思い通りにならない展開に怒りがこみ上げ、地団駄を踏んだのだった。
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※ちなみに公爵夫人は全部わかった上でアルバーニ侯爵を転がしています。
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