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5.別邸へご案内
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「じゃあランスロット。サインの方、よろしく」
ちょっとおかしな空気になりそうだったけど、それを吹き飛ばすように今度は爽やかに言ってくるシリウス。
こういうところが本当にこいつは上手い。
「わかった」
そして改めて俺は書類へと目を通す。
その内のいくつかには父のサインが入ってるんだけど、どうしてだろう?
不思議だ。
(まあいっか)
きっと早い段階で不要と判断されてたんだろうなとサラッと流し、サラサラと各書類にサインをして、不備がないのを確認してからシリウスへと手渡した。
「ん。大丈夫だな」
そしてシリウスの方でもしっかりと確認をした上でそれを執事へと手渡す。
「今日中に手続きを頼む」
「かしこまりました」
そして退室するのを見送って、暫くお茶を楽しんだところで新居に案内すると言われ驚いた。
「ここに住むんじゃないのか?」
「ここでも良かったけど、ランスロットを探しに侯爵家の者達に突撃してこられたら困るだろう?」
確かに言われてみればその通りだ。
皆は『婚約者になったんだから聖女の力を示す必要は今後なくなる』とかなんとか言っていたけど、万が一ということは十分に考えられる。
その際に今聖輝石に込めてある力がなくなったらきっと焦って俺を探しに来るだろう。
その時にまず真っ先に思い浮かぶのは当然バーリッジ公爵家となる。
俺と一番親しかったのはシリウスだし、それくらい家族は把握している。
だからシリウスがそう言うのも当たり前と言えば当たり前だった。
「じゃ、じゃあ…?」
「大丈夫。この日のために俺がお金を出して用意しておいた別棟があるんだ」
俺達二人の新居だと言って案内してくれたのは、敷地内にある別邸だった。
小ぢんまりはしているけど、二人で住むには十分すぎる広さの邸宅だ。
「ここと、後は聖フィオナーレ国じゃなくてサイヒュージ国側の王都にも同じくらいの大きさの邸を用意してるから、ここがバレたらそっちに行くのも手ではある」
どうやらシリウスはあれこれ考えて色々用意してくれていたらしい。
本当にこんなにしてくれるなんて何と言っていいのか。
「シリウス…嬉しい。ありがとう」
取り敢えずお礼をと思いそう口にしたら、唇が触れ合うスレスレの距離へとスッとシリウスの顔が近づいてきて、どこか甘さを含んだような声で耳元へと囁きを落とされた。
「大事なランスロットのためだ。これくらいさせてくれ」
不意打ちのようなその行為に思わずドキッと胸が弾んでしまう。
(一瞬…唇が触れた気もしたけど、気のせい…だよな?)
シリウスの顔をそっと窺うと、その表情はいつもと変わらないように見えたし、きっと気のせいだろう。
というより、もしかしたら勢い余って一瞬だけ触れたとかそういう感じだと思う。
意識する方がおかしい……はず。
「さあランスロット。別邸を案内しよう」
「え?あ、ああ、うん」
ちょっと戸惑いを隠せないけど、きっと気のせいだろうと思いながら俺はそのままどこか弾んだ足取りで歩くシリウスの後をついて行く。
「こっちがメインの部屋で、わざわざ廊下に出なくてもいいように、俺とランスロットの部屋は続き部屋になってるんだ」
「へぇ~夫婦の部屋っぽいな」
「ハハッ。もう夫婦だろう?さっきサインだってしたんだから」
「そうだった」
確かに言われてみれば書面上はもう夫婦だった。
うっかりうっかり。
「で、こっちがキッチンとダイニング。こっちが応接室。一応客室はあるけど、後は書斎と書庫。あ、風呂は一緒に入れるように広めに設計してもらったから!」
その言葉を聞いて、そう言えばシリウスはお風呂にゆっくり浸かりながら話すのが好きだったなと思い出す。
よく一緒に入りながらくだらない話で盛り上がってたっけ。
そのせいで一回のぼせた時は慌てて運んでくれて、一生懸命口移しで水を飲ませながら何度も謝ってくれたんだよな。
懐かしい思い出だ。
そんな感じで一通り別邸内を案内してもらってから、俺は部屋で荷ほどきをしたんだけど────。
「そうだ、シリウス。俺さ、家を出る時に何も持たずに出てきたから、バーリッジ公爵家で執事長に色々借りたんだ」
「金とかか?」
「それもあるけど、服とか。でもその服ってお前のだったから俺には大きくてさ、取り敢えず最初に寄った街で服だけ買って、お前のシャツはその…パジャマ代わりにさせてもらってたんだよ」
ゴメンなって言って謝ったら、気にしなくていいと微笑まれて、洗っておくから気にせず渡してくれって言ってそのまま受け取ってくれた。
なんだか申し訳ない。
「じゃあ俺はこれを本邸に持って行ってくるから、その間はゆっくり休んでてくれ」
気遣うようにそう言ってシリウスは部屋から出て行ったから、俺はお言葉に甘えてそのままソファにゴロンと横たわる。
「はぁ~…。断然こっちの方が実家より居心地がいいよな」
家出してきて良かったと思いながら俺は笑顔でそっと目を閉じた。
ちょっとおかしな空気になりそうだったけど、それを吹き飛ばすように今度は爽やかに言ってくるシリウス。
こういうところが本当にこいつは上手い。
「わかった」
そして改めて俺は書類へと目を通す。
その内のいくつかには父のサインが入ってるんだけど、どうしてだろう?
不思議だ。
(まあいっか)
きっと早い段階で不要と判断されてたんだろうなとサラッと流し、サラサラと各書類にサインをして、不備がないのを確認してからシリウスへと手渡した。
「ん。大丈夫だな」
そしてシリウスの方でもしっかりと確認をした上でそれを執事へと手渡す。
「今日中に手続きを頼む」
「かしこまりました」
そして退室するのを見送って、暫くお茶を楽しんだところで新居に案内すると言われ驚いた。
「ここに住むんじゃないのか?」
「ここでも良かったけど、ランスロットを探しに侯爵家の者達に突撃してこられたら困るだろう?」
確かに言われてみればその通りだ。
皆は『婚約者になったんだから聖女の力を示す必要は今後なくなる』とかなんとか言っていたけど、万が一ということは十分に考えられる。
その際に今聖輝石に込めてある力がなくなったらきっと焦って俺を探しに来るだろう。
その時にまず真っ先に思い浮かぶのは当然バーリッジ公爵家となる。
俺と一番親しかったのはシリウスだし、それくらい家族は把握している。
だからシリウスがそう言うのも当たり前と言えば当たり前だった。
「じゃ、じゃあ…?」
「大丈夫。この日のために俺がお金を出して用意しておいた別棟があるんだ」
俺達二人の新居だと言って案内してくれたのは、敷地内にある別邸だった。
小ぢんまりはしているけど、二人で住むには十分すぎる広さの邸宅だ。
「ここと、後は聖フィオナーレ国じゃなくてサイヒュージ国側の王都にも同じくらいの大きさの邸を用意してるから、ここがバレたらそっちに行くのも手ではある」
どうやらシリウスはあれこれ考えて色々用意してくれていたらしい。
本当にこんなにしてくれるなんて何と言っていいのか。
「シリウス…嬉しい。ありがとう」
取り敢えずお礼をと思いそう口にしたら、唇が触れ合うスレスレの距離へとスッとシリウスの顔が近づいてきて、どこか甘さを含んだような声で耳元へと囁きを落とされた。
「大事なランスロットのためだ。これくらいさせてくれ」
不意打ちのようなその行為に思わずドキッと胸が弾んでしまう。
(一瞬…唇が触れた気もしたけど、気のせい…だよな?)
シリウスの顔をそっと窺うと、その表情はいつもと変わらないように見えたし、きっと気のせいだろう。
というより、もしかしたら勢い余って一瞬だけ触れたとかそういう感じだと思う。
意識する方がおかしい……はず。
「さあランスロット。別邸を案内しよう」
「え?あ、ああ、うん」
ちょっと戸惑いを隠せないけど、きっと気のせいだろうと思いながら俺はそのままどこか弾んだ足取りで歩くシリウスの後をついて行く。
「こっちがメインの部屋で、わざわざ廊下に出なくてもいいように、俺とランスロットの部屋は続き部屋になってるんだ」
「へぇ~夫婦の部屋っぽいな」
「ハハッ。もう夫婦だろう?さっきサインだってしたんだから」
「そうだった」
確かに言われてみれば書面上はもう夫婦だった。
うっかりうっかり。
「で、こっちがキッチンとダイニング。こっちが応接室。一応客室はあるけど、後は書斎と書庫。あ、風呂は一緒に入れるように広めに設計してもらったから!」
その言葉を聞いて、そう言えばシリウスはお風呂にゆっくり浸かりながら話すのが好きだったなと思い出す。
よく一緒に入りながらくだらない話で盛り上がってたっけ。
そのせいで一回のぼせた時は慌てて運んでくれて、一生懸命口移しで水を飲ませながら何度も謝ってくれたんだよな。
懐かしい思い出だ。
そんな感じで一通り別邸内を案内してもらってから、俺は部屋で荷ほどきをしたんだけど────。
「そうだ、シリウス。俺さ、家を出る時に何も持たずに出てきたから、バーリッジ公爵家で執事長に色々借りたんだ」
「金とかか?」
「それもあるけど、服とか。でもその服ってお前のだったから俺には大きくてさ、取り敢えず最初に寄った街で服だけ買って、お前のシャツはその…パジャマ代わりにさせてもらってたんだよ」
ゴメンなって言って謝ったら、気にしなくていいと微笑まれて、洗っておくから気にせず渡してくれって言ってそのまま受け取ってくれた。
なんだか申し訳ない。
「じゃあ俺はこれを本邸に持って行ってくるから、その間はゆっくり休んでてくれ」
気遣うようにそう言ってシリウスは部屋から出て行ったから、俺はお言葉に甘えてそのままソファにゴロンと横たわる。
「はぁ~…。断然こっちの方が実家より居心地がいいよな」
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