【完結】お役御免?なら好きにしてやる!

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
2 / 48

1.プロローグ

しおりを挟む
思えば俺はきっと我が家では不要な子供だったんだろう。

兄が一人、そしてその次に生まれたのが男女の双子。
兄は家を継ぐし、双子の姉は政略結婚に使える。
じゃあ双子の弟である俺は?
兄に何かがあった時の予備。
ただそれだけなんだと思う。
だからきっとそんな心ないことが言えたんだ。




「聖なる力が顕現した?嘘を吐くな!」
「本当です!実は今日凄い大怪我が綺麗に治ってびっくりして…」

俺がそうやって正直に力が顕現したことを報告した際、何故か父から叱責を受けた。

「聖なる力を持ってるのがエヴァンジェリンではなくお前だと?ふざけるな!どうせお前が腹の中でエヴァからその力を奪ったんだろう?!」
「そんな?!言い掛かりです!」

そんな話、聞いたこともない。
その後図書室で調べて、その力は女性特有の力ではないという記述も見つけたし、別におかしくはないと思ったのだけど……。

「ランスロット。聖なる力をエヴァンジェリンに返したか?」
「そんなこと、できるはずがないじゃないですか!」

返すも何もこれは俺自身の力だ。
その力を他者に譲渡するなんてできるはずがない。
完全に言い掛かりとしか言えないだろう。
なのに母まで一緒になって責めてきた。

「ランスロット!いい加減になさい!他人の力を奪って恥ずかしくないの?!」
「ですから、そんなことはしていません!」
「だっておかしいじゃないの!聖なる力は聖女の力。女性に顕現する力だと相場が決まっているのよ?!早く返しなさい!」
「確率的に女性に多いだけであって、男性に顕現することもあるって本には書いてありました!」

そう訴えても『嘘つき』『泥棒』『さっさと返せ』、そんな言葉を家族から投げつけられ、俺は泣いた。

そして『返せないならその力はエヴァのために使え』と言い放たれ、表向き聖なる力は姉が持っているように偽装されることとなった。
毎日俺は聖なる力を聖輝石という石に補充という形で入れさせられたのだ。

聖輝石────その名の通り聖なる力を蓄えておくことができる希少な石である。
そこに蓄えられた聖なる力は魔力がある人間なら誰でも取り出し使うことができる。
だから姉はそこに蓄えられた聖なる力を自分の力と偽り、様々な人の前で披露してその地位を盤石なものへと築き上げていった。

そして現在俺達は18才になったのだが……。

「ランスロット。私、王子にプロポーズされたの。だからもう貴方に頼る必要はなくなるわ。喜びなさい。お役御免、お払い箱よ」

満面の笑みでそんなことを言ってきた姉。
正直何故婚約が決まったら必要がなくなるのかがさっぱりわからなかった。
なのに『察しが悪いわね』と呆れたような顔で姉は俺へと言い放つ。

「王子妃になったら私はお城に上がるのよ?聖女の仕事なんてしなくて済むようになるってことくらい、理解できないかしら?」
「王子は『聖女』と結婚したいんだろ?エヴァンジェリンが好きとかじゃなく」

なら聖女としての力を示せないと困るんじゃないのかと思って言ったのに、そう言った途端一気に不機嫌になられて、『失礼なこと言わないで頂戴!』と思い切り平手打ちを食らった。

「王子は『聖女』ではなく私個人を望んでくださったのよ!ちゃんと『エヴァ愛してる、結婚してくれ』って言ってくださったもの!」

どうやら俺の勝手な杞憂だったらしい。

「全く姉の幸せも願えないなんて、どういうつもりだ?」
「そうよ!双子の姉の幸せを何だと思っているのかしら!」
「所詮盗人。元々性格が悪いんだろ」

しかもそんな感じで家族は言いたい放題だ。
俺は一応心配して言ったんだけどな。

「じゃあいざ聖女の力を示せって言われたらどうするんだよ?」
「そんなのこれまで通り、上手くやったらいいだけの話でしょう?」
「そうだ!お前がフォローしたらいいだけの話だ!」
「ちゃんと聖輝石に力を込めた物をエヴァが持っていれば問題はない」
「それにどうせそんなこと言われないわよ。王子妃に無理を言えば不敬罪だって言えば済む話なんだから」

さっきもう俺はお払い箱だって言わなかったか?
これまで通りフォローしろだなんて、舌の根も乾かないうちによく言うなと呆れてしまう。

「自分の存在意義を見出そうとしてそんなことを言い出すなんて愚かね。ランスロット。でも無駄よ。」

嘲るようにそう言ってくるエヴァンジェリン。
『お前の心配なんて必要ない』『お前の役割はもう終わったも同然』と言わんばかりの目を向けてくる両親と兄。

(これが家族のすることか?)

今まで利用するだけ利用してきてこれかといい加減腹が立った。

「もういい!皆好きにすればいいだろ?!」

どうして今までこんな家族に黙って従ってきたんだろう?
いつか『ありがとう』と言ってもらえるんじゃないかなんて、甘い考えを持っていた自分にも腹が立って仕方がなかった。

(もうこんな家知るか!俺だって好きにしてやる!)

俺はこの日とうとう理不尽に耐えきれなくなって、感情のままに家を飛び出した。



しおりを挟む
感想 135

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...