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【番外編】

番外編.フランテーヌからの客人① Side.ディオン

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フランテーヌ国から客人がやってきた。
何もワイン会の日に被るようにやってこなくてもいいのに。
お陰でラスターについて行くことができなかったと苦々しく思う。

「【ようこそいらっしゃいました。本日案内役を務めさせていただくことになりましたディオン=ウィルランと申します。どうぞお見知りおきを】」
「【おぉ!見事なフランテ語ですね。素晴らしい!】滞在中、どうぞ宜しく!」

それから応接間へと案内し、フランテーヌ国からの客人達一人一人に自己紹介をしてもらった。
メインはやはり王弟パトリック=フラン。
後は外務大臣とその補佐官数名が今回の訪問客だ。
国王との謁見を終えたら皇太子と交流を深めるため暫く滞在するらしい。
言ってみれば次期国王の見極めも兼ねた視察と言ったところか。
皇太子はその座を従兄弟に譲るべく今はラスターと一緒に根回しの真っ最中だし、下手に侮られるようなことはできないからきっちり仕事をしなければならない。
俺も隙を与えないようにしっかり務めは果たそう。
ラスターにも頼まれたことだし、絶対に手は抜けないし、抜くつもりもない。

卆なく役割を果たし、豊富に話題を振って心地よく過ごしてもらえるように尽力する。
結果的に王弟には気に入ってもらうことができ、皇太子の評価も上々。
ここまでこなせばきっとラスターにも褒めてもらえるだろう。

それはいいんだ。

それよりもワイン会でラスターが誰かに粉をかけられていないかの方がずっと気になる!

「おかえり。ディオン」

仕事を終えて帰ってきたらラスターが笑顔で出迎えてくれて、胸がキュンと高鳴った。
こういうのって密かに憧れていたから凄く嬉しい。
離れたくなくていつも行き帰りはくっついていたけど、たまにはこういうのもありかもしれない。

「ラスター!ただいま!」

ぎゅぅうっ!と抱き着くと嫌がることなく受け止めて笑ってくれるラスター。
でもこの入り交じった香水の匂いは嫌だな。
他の奴からの移り香なんてその身に纏わないで欲しい。
後で一緒にお風呂に入って綺麗に洗い落そう。

「ディオン。お風呂にする?それとも先に食事?」
「ラスターとお風呂がいい」
「俺と?」
「俺以外の匂いがついてるのが嫌だ。今すぐ洗い流したい」

独占欲全開でそう言ったらクスクス笑われて、いいよと言ってもらえた。
嬉しい。

そこから一緒に湯殿に行って丁寧に洗って、一緒に湯船に浸かって今日の客人の話をしながらのんびり寛ぐ。

(あ~…幸せだ)

移り香も消せたし凄く満足。
そんなことを思ってたら、ラスターがふと思いついたように『ディオンってこういう時、絶対手を出さないし誠実だよね』と言ってくれた。
勿論だ。
俺はラスターを雑に愛する気はない。
するならじっくり時間をかけて愛したい。
でもそう言ったら『たまには前戯は控えめでもいいよ』って言われたんだけど、どういう意味だろう?
後で聞いてみようか。

それから仲良く一緒に食事をして、その後お土産にもらったというワインを一緒に飲みながらワイン会での話を聞き出した。
俺のラスターに粉をかけたりしてたら後できっちり牽制しないといけないし、絶対に誤魔化されないぞと思いながらその表情を見極めつつ今日のことを話してもらう。
なのに俺があまりに嫉妬を見せたからか、ラスターは困ったように笑って『そんなことは一切なかったし、何だったらディオンとの惚気話を口にしていたくらいだ』なんて言い出した。

「ラスターが…惚気話?」

全く想像がつかない。
いつも周囲には俺ばっかりが『ラスターが好きだ!』ってアピールしてるのに、逆のことをラスターが?

(ないない)

流石に嘘だろう。
ラスターの冗談だと思う。
なのにラスターはあっさりと言うんだ。

「そう。イザベラ嬢がディオンのどこが好きなんだって言ってくるから困ったよ」
「……え?」
「ん?」

ラスターは不思議そうだけど、俺の中には不安が込み上げてきてしまったんだからしょうがない。
イザベラ嬢には散々魔王だなんだと言われてきたし、余計なことでも吹き込まれてまたラスターが離れていくんじゃないかと思っても仕方がないだろう。
取り敢えずここは状況確認だ。

「ラスター!困るほど俺の好きな点が思いつかなかったとか?!」

ここでイザベラ嬢にアピールがされてなかった場合、あの女ならほら見たことかときっと俺を散々こき下ろしにかかるだろう。
それでラスターが即俺から離れるとは思わないけど、万が一ということもなくはない。

なのにそんな不安を抱える俺を安心させるようにラスターはそっとグラスを置いて、俺に身を寄せキスをしてくれた。

(う、嬉しい…!)

「こんなにディオンを好きなのに伝わってないなんて悲しいな」
「でも…」
「今日は誰も知らない可愛いディオンを俺だけが知ってるんだって再確認した」

俺の大好きな優しくて穏やかな笑顔。
正直すごく愛されてるなと思う。
前世では誰もが憧れ尊敬の眼差しを向けていた竜王陛下が、今は俺だけの────恋人。
しかもその証のようにラスターは俺の膝へと自ら座ってきてくれて、何度も何度もキスをしてくれる。
たまらない。
好きが溢れて止められない。

「ディオンに愛される幸せをお裾分けできないのが残念だったな」

しかもそんなことまで言ってくれるんだから喜ばないわけがなかった。

「ディオン…」

ラスターが俺の名を甘く呼びながら一つ二つと順にシャツのボタンを外していき、そっと胸元へと唇を寄せる。
そしてそのまま唇を落としたかと思うとチュウッと可愛く吸い上げてきた。
その上俺の心を鷲掴みにするような言葉まで口にしてくるものだから、それだけで俺の心は一気に『今すぐ抱きたい!』と言う方向へと向かってしまう。

「ディオンの心に、俺の心をあげる」

こんな殺し文句を言ってくる方が悪い。

「ん、ぅんっ…!」
「ラスター…俺の心も全部受け取って欲しい」

押し倒して俺も同じ場所へと口づけ、ラスターは俺のだと主張すべく所有の印を刻むと何とも言い難い表情をされたけど、誘ったのはラスターだ。
抗議は受け付けない。

「母上にも束縛夫は嫌われるって手紙で言われたけど、ラスターが好き過ぎて離れられないんだ」

言い訳かもしれないけど、それは本当だ。
俺はラスターほどできた人間じゃないから、しっかり捕まえておかないととどうしても思ってしまう。

「俺に離してもらえないって書いたらいいのに」

なのにラスターは優しいから、あっさりそれを許して『自分を理由にすればいい』と言ってくれるんだ。
とは言えどこからどう見てもそれは嘘だって誰にでもわかるから、言えるはずもない。
本当にそうだったらどれだけ嬉しいことか。

「それはない。俺が捕まえてないとラスターはどこかに飛んでいきそうだし、もっと束縛して欲しいくらいだ」

もっともっと俺に夢中になってほしいのに、ラスターはそんな俺をあやすように『もう十分大好きだ』って言ってくる。
そして優しく笑ってこう言うんだ。

「やっぱりディオンは可愛い」

悔しいからいっぱいいっぱい気持ち良くさせて、俺が与える快感から抜け出せないようにしてあげよう。
だってほら。
俺を愛おし気に見つめるその眼差しに情欲が滲み始めて、ラスターは今日も俺を求めてくれる。

「今日もいっぱい、愛して?」

こう言ってくるからには俺に抱かれるのは好きなはず。
だからいっぱいいっぱい感じさせて、今日も沢山愛そう。
想いが伝わるように。
もっともっと好きになってもらえるように。

「ディオン────」

ツガイが愛おしそうに俺へと抱き着いてくるこの瞬間がたまらなく大好きだから、俺は幸せな気持ちに包まれながら今日もツガイを沢山囀らせるべくその肌へと手を滑らせる。
好きなところを余すところなく愛し尽くそう。

まだまだ、夜は始まったばかりだ。



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