【完結】竜王は生まれ変わって恋をする

オレンジペコ

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【本編】

47.その後のダンジョン

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ダンジョンの一件があってすぐヴィクターさんの件があったから、領主様やディオンが俺に心労をかけないようにとその後のギルドからの情報は耳に入らないようにしていたのだけど、流石に心配になって実家に顔を出しがてらギルドへと情報を聞きに行った。

「お、ラスター!」

顔見知りの冒険者達が次々と声を掛けてくれる。

「お前、死にかけたんだって?」
「ワイバーンと刺し違えたって聞いたぜ?もう大丈夫なのか?」

どうやらすっかり噂になっているらしい。

「もう大丈夫。それより今ダンジョンは?」
「ああ、すっかり落ち着いたようだ」

スタンピードの兆候は収まって、ダンジョン内部が完成して安定したようだと冒険者達は教えてくれる。

「まあ城から来た兵達も見回りを手伝ってくれてるし、暫く様子見はするが、このまま問題なく終わるはずだ」

それと共にダンジョンの内部調査も入ったようで、そこでは薬草や鉱石などの資源が多く確認されたらしい。

「これまでこの領地で確認されず、輸入に頼っていた薬草なんかも生えてたらしくてな、薬師達が大喜びしたぞ」

それはいい。
ダンジョン探索は命がけだろうし、ポーション類の需要がどうしても高まる。
良くも悪くもダンジョンと冒険者達は長い付き合いになっていくことだろう。




そんな風に色々情報を仕入れて屋敷へと帰ると、皇太子殿下が領主様と何やら話しているところに出くわした。
立ち聞きするわけにもいかないし、そっと離れようと思った俺を領主様が呼び止める。

「ああ、ラスター。ちょうどよかった。実はな、皇太子殿下が二か月後に誕生日を迎えるにあたって城でパーティーが開かれるらしい。準備などの関係上、ひと月後に城に戻ると仰せなんだが…」

なるほど。納得の理由だ。
それは帰らなくてはならないだろう。

「それでな?ディオンとラスターもそのパーティーに参加してほしいとのことなんだが…どうだろう?」
「それはもちろんお祝いしたく思いますが…、俺なんかが参加してもいいんでしょうか?」

前回のパーティーでのディオンの友人達の様子を見る限り、場を乱すことにしかならないんじゃないかと思えて仕方がなかった。
参加しない方がいいような気がする。
だから素直に皇太子殿下へと訊いてみる。

「その…俺の参加はご迷惑になるだけでは?」
「もしかして以前会った令嬢達を気にしているのか?もしそうなら気にしなくていい。お前にワインをかけたあの者を呼ぶ気はないからな」

彼女は確か侯爵令嬢ではなかっただろうか?
あっさりと『彼女は呼ばない』と口にする皇太子殿下に驚いて目を丸くしていると、何故かクスリと笑われた。

「ラスター。お前はディオンの恋人だろう?堂々と隣に立てばいい。その方が俺も『お前だからディオンを譲った』と胸を張って言えるだろう」

優しい眼差し。
この人は本当に俺達を認めてくれている。
それがわかって胸が温かくなった。

「それに辺境伯家の養子になったと発表するにはもってこいの場だ。貴族の仲間入りをしたのだと周知させるためにも是非前向きに考えてくれ」

その言葉に俺は笑顔で礼を述べ、素直に受け入れる。

「勿体ないお言葉ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
「そうか。では俺達が王都に戻るタイミングで一緒に移動しよう。ゆっくり話すいい機会だ。ディオンにも伝えておいてくれ」
「はい。お伝えしておきます」

そうして一礼すると満足そうに頷いて皇太子殿下は戻っていく。
領主様はそんなやり取りを優しく見守って、『ディオンをよろしく頼む』と言って頭を撫でてくれた。

「今回はヴィクターがいないし、他の従者が必要ならまた言ってくれ」

そう言えばヴィクターさんはどうなったんだろう?
その後が全く伝わってこないからちょっと気になり尋ねてみた。

「領主様。その…ヴィクターさんは今どこに?」
「ヴィクターか?最初は牢に入れていたんだが、殿下の側近のリック様が殿下に媚薬を盛った件を城に報告したら審議にかけることになってな、実は王都送りになったんだ。会うことはないと思うが、一応気を付けてくれ」

どうやらヴィクターさんは皇太子殿下とディオンをくっつけたいがためにやってはいけないことをやってしまったらしい。
これは庇いようがない。

「わかりました。心に留めておきます」

そう答えて、俺は自室へと戻った。


***


【Side.ヴォルフガング】

辺境伯領に滞在してまだひと月も経っていないのに、ダンジョンの件があったせいで早く帰城をと言い出す貴族が多々出たと手紙が届いた。

(もっと長く滞在してもっと色々学びたかったのに…)

彼ら曰く、危険なことをするなら先に婚約者を決めて結婚式を早々に行い、子作りをしろとのこと。
きっと帰ったらこれ幸いと花嫁候補が笑顔で待ち構えているんだろう。
こっちは気持ちの整理をしつつ立派な王になるために学びに来ているのに、後継さえ残せば死んで結構と言われたようで腹が立った。
帰城を言い出した輩達は俺が上に立ったら即閑職に回してやろうか?

怒っていたらリックがちょっと考えた後でグイッと引き寄せて、宥めるように抱き込んできたから少しだけ落ち着いた。
いいな。
こういうのはちょっと恋人っぽいかもしれない。

「お前のことも公言したいな」
「冗談はやめてください。刺されでもしたらどうするんです?」
「ヴィクターみたいな奴がいるかもしれないと言いたいのか?」
「ええ。普通にいると思いますよ?皆貴方とディオン様を応援していたので」
「そうか…そうだな。それにしても…お前がヴィクターの件を城に報告するとは思っていなかったな」

ヴィクターの名を口に出したことでふと思い出しリックへと尋ねてみれば、溜息交じりに答えてくる。

「最初はまあ…知らない仲でもないので反省してくれたらそれでいいかと思っていたんですが、ラスターを刺し殺しに行ったと聞いて危険人物を放置する方が危険だと考え直したんです。きっちり裁いてもらった方が逆恨みにも合わなくて良いかと」
「なるほどな」

リックの言い分は尤もだ。
逆恨みでラスターだけではなくディオンまで狙われたらたまったものではない。

「それよりリック。城に帰るまでにちゃんと俺に手は出せよ?」
「……はい?」
「抱いていいと言っている。帰ったら花嫁候補が列をなしていそうだし、そっちの対処で忙しくなって早々かまえなくなるしな」
「またそんなことを…」

呆れたように溜息を吐くリック。
でももうリックが俺をどれだけ好きか知ってるから、この先に進んでもいいんじゃないかと思っているんだ。
きっとそうしたらディオンへの想いも完全に吹っ切ることができる────そんな気がした。


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