【完結】竜王は生まれ変わって恋をする

オレンジペコ

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【本編】

27.練習台

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煌びやかなパーティー会場へと戻るとディオン様の友人達がまた集まってきた。
どうやら久し振りに集まったせいで話が尽きない様子。
邪魔になってもいけないからまたそっと場を外そうとしたのだけど、グイグイ割り込んでくる女性二人に押しのけられるように輪から弾き出された。

(凄い。貴族なのに平民並みにグイグイいくな)

久し振りに押しの強い人達を見たけど、やっぱりこれは人族ならではだと思う。
種の保存のためにもこれくらい逞しくなければいけないんだろうな。

そしてディオン様はやっぱり人気者のようだ。
皆に平等に接しているようだし、その辺りの社交性は流石だと思う。
そうして観察していたら隣からスッとグラスが差し出された。
誰だろうと思ったら、まさかの皇太子殿下で驚いた。

「大丈夫か?」

どうやら輪から弾かれたところを見て心配してくれたらしい。
優しい人だ。

「はい。ご心配いただきありがとうございます」

それから少し話してお礼を言われた。
あれから無事に外務大臣も交えて具体的に交渉がまとまった事。
その後パーティーで俺と話した他の国の人達ともいくつか有意義な話ができた事などなど。

「城の関係者でもないのに有難い限りだ」
「いいえ。折角こうして服まで用意してパーティーへ招待頂いたのです。せめてものお礼とでも思ってくださればそれだけで」
「そうか」

そんな話をしていたら、皇太子殿下に気づいた令嬢が俺を睨んできた。

「殿下!お越しでしたらすぐに場所を空けましたのに」

その声に周囲の者達もササッとディオン様の前まで場所を譲る。
どうやら二人の仲は公認らしい。
それはまあ俺もわかってるからいいのだけど…。

パシャッとワインをズボンにかけられたのには驚いた。

「あら。手が滑ってしまいましたわ」
「まあ大変!それではここにはいられませんわね。早く染み抜きをしないと汚れが取れなくなってしまいますわよ?」
「折角の一張羅が台無しになっては大変!早々にお帰りくださいまし」

クスクスと悪意に満ちた笑いが出始める。
どうやらディオン様と皇太子の仲を邪魔する平民認定されてしまったようだ。
誤解なんだけど、ここで何を言っても意味はないことくらいはわかる。
だからさっさと望み通り場を辞そうと思ったのに…。

「ラスター!」

ディオン様が俺のところへ飛んできて、近くの給仕からおしぼりをもらって応急処置的にトントンと叩くように水分を吸い取った後、いきなりフワッと横抱きに抱き上げた。

「殿下。大変申し訳ありませんが、本日はこれで失礼します」
「ああ。構わない。俺も俺がわざわざ用意して贈った服を汚されて興が冷めたところだ。リリアン侯爵令嬢。高位貴族にあるまじき振る舞い、しかと覚えておこう」

しかもそんなセリフと共に皇太子殿下から冷たい眼差しを送られた令嬢はガクガク震えて真っ青だ。
ディオン様の目もちょっと怖い。

「リリアン侯爵令嬢。ラスターは皇太子殿下の正式な招待客であることをお忘れなく」

ディオン様は冷え切った声でそう言うと、そのままスタスタと歩き始めた。

「ディオン様!歩けるので降ろしてください!」
「この方が絡まれずに帰れるから我慢してほしい。早く一緒に帰ろう?これ以上こんな場所にラスターを置いておきたくない」

その言い方はズルイと思う。
これじゃあまるで恋人である皇太子殿下と話すより、俺を守る方を優先してくれてるみたいじゃないか。

「ディオン様。俺のせいで殿下と仲直りする時間を取れず申し訳ありません」

本当に申し訳なくて仕方なかったのだけど、言われた方のディオン様は不思議そうに首を傾げてきた。

「仲直り?」
「皇太子殿下と喧嘩なさっていたのでは?」
「???」
「???」

二人揃って首を傾げる。

「…ラスター。俺は別に殿下と喧嘩なんてしていない。どうしてそんな勘違いを?」
「それは…」

さっきあんなに思い詰めた顔をしていたからと言いたいところだけど、それを口にすることで悲しい事を思い出させてしまうのも悪い気がして、言うに言えなくなった。

「ラスター?」

俺の顔を覗き込み隠し事はなしだと言うようにじっと見てくるディオン様。
ここは最もらしい言い訳を口にしなければ。

「えっと…ほら!さっき俺を練習台にしてましたし」
「…………」

(何故そんなに残念そうな顔を?!)

意味がわからない。

「…じゃあこの後馬車で引き続き練習に付き合ってほしい」
「あ、はい。構いません」

どうやら俺を練習台にするのは確定らしい。

ラスターの口説き方・・・・・・・・・を練習するから、そのつもりで色々教えてほしい、な」

俺の口説き方?俺式ってことかな?
実践から得た知識じゃないけどいいんだろうか?

「俺のやり方は本からの受け売りばかりですよ?いいんですか?」
「それは関係ないから。ラスターがこうやって口説かれたら嬉しいとか、こう言うのが好きというのを全部教えてほしい。それをちゃんと覚えて実践していくから」

どうやらディオン様的にはそれでいいようだ。
それにしても、俺が好きな口説かれ方か…。
悩ましいな。
敢えて言うならツガイにされたら嬉しいことになるけど…。

「ラスター。手を」

考えているうちにどうやら馬車止めまで着いてしまったらしい。
二人で中へと乗り込んだら馬車はすぐさま走り出す。


***


【Side.ディオン】

パーティー会場に戻るとすぐ友人達に囲まれた。
ラスターと引き離されて不快だったけど、一緒にいて巻き込む方が可哀想だからとグッと我慢する。
後でちゃんとフォローしよう。
そう思いつつもチラチラと様子を見ていたら皇太子がやってきて話し始めた。
特に問題なく穏やかに話しているようだし、何も問題はないだろうと目を離したところでサッと道が開かれる。
どうやら皇太子がこの場にいることに気づいて、いつものように周囲が気を遣ったようだ。
これは俺達が親しい友人だと皆が知っているからこそのことで今に始まった事ではない。
いつも通りのなんてことのない光景。
でも一つだけ違うことがあった。

パシャッとワインをわざとかける令嬢。
心配しているフリをして内心では『さっさと帰れ』と思っている令嬢達。
その光景をクスクスと笑いながら楽しんでいる者達。

(俺のツガイになんて事を…!)

許せない!
でもそれよりも何よりもラスターが心配で、飛んでいった。
皇太子から贈られた服が汚れるのは正直どうでもいいが、ラスターが気にしたら大変だ。
こんな風に悪意に晒されて、きっと嫌な思いでいっぱいになったに違いない。
すぐに連れ出してあげないと。

「殿下。大変申し訳ありませんが、本日はこれで失礼します」
「ああ。構わない。俺も俺がわざわざ用意して贈った服を汚されて興が冷めたところだ。リリアン侯爵令嬢。高位貴族にあるまじき振る舞い、しかと覚えておこう」

どうやらワインをかけたのはリリアン侯爵令嬢だったらしい。
あそこの領地へは帰ったら経済制裁だ。
俺のツガイに手を出してタダで済ませる気はない。

「リリアン侯爵令嬢。ラスターは皇太子殿下の正式な招待客であることをお忘れなく」

一先ず建前を口にして、本音はその声に滲ませその怒りを暗に伝えた。

(鉄鉱石の取引を停止してやる!覚えていろ)

そしてラスターを抱き上げ、急いで馬車止めへと向かった。

「ディオン様!歩けるので降ろしてください!」
「この方が絡まれずに帰れるから我慢してほしい。早く一緒に帰ろう?これ以上こんな場所にラスターを置いておきたくない」

恥ずかしがって降ろしてくれと言われるが、それは嫌だった。
早くこんな場所から連れ出さないとという気持ちが強いからだ。
なのにラスターはこんなにはっきりと言っているのにまた誤解したように言ってくる。

「ディオン様。俺のせいで殿下と仲直りする時間を取れず申し訳ありません」
「仲直り?」
「皇太子殿下と喧嘩なさっていたのでは?」
「???」
「???」

そんな誤解をするようなことがあっただろうか?
全く心当たりがない。
これはちゃんと聞いておかないと。

「…ラスター。俺は別に殿下と喧嘩なんてしていない。どうしてそんな勘違いを?」
「それは…」

と言いつつ何やら思考し始めたのを見るに、多分素直に言う気はないんだろう。

「えっと…ほら!さっき俺を練習台にしてましたし」

ほらやっぱり。
でもこれではっきりした。
ラスターは俺を好きでも何でもないのだ。
寧ろ皇太子との仲を応援しているんじゃないだろうか?
ツガイに他の男を勧められるほど辛いものはない。
何とかしなければ。

(そうだ!このままラスターのセリフに便乗してしまおう)

そうだ。それがいい。そうしてしまおう。

「…じゃあこの後馬車で引き続き練習に付き合ってほしい」
「あ、はい。構いません」
ラスターの口説き方・・・・・・・・・を練習するから、そのつもりで色々教えてほしい、な」
「俺のやり方は本からの受け売りばかりですよ?いいんですか?」
「それは関係ないから。ラスターがこうやって口説かれたら嬉しいとか、こう言うのが好きというのを全部教えてほしい。それをちゃんと覚えて実践していくから」

どうも全く通じていなさそうだけど、それはじっくりわからせればいいし、問題はない。
ラスターの口説き方をラスターで実践すると明言して、それにOKを貰ったんだから後から文句は受け付けない。
いっぱいいっぱい愛でてこの思いを伝えていこう。

「ラスター。手を」

にこやかにそう伝え、俺は愛しいツガイと共に馬車へと乗り込んだのだった。



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