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【本編】

18.好みのタイプは?

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皇太子殿下からまさかの招待を受けた。
城で開かれる国際親善パーティーなんて高位貴族ばかりが呼ばれる場だろうに、どうして平民の俺まで呼ばれたんだろう?
ディオン様だけでも良かったんじゃないかなと思ったけど、領主様は困った顔で『お目付け役として行ってくれないか?』と言ってきた。
なるほど。ここでディオン様だけ行かせたらまた何年も戻って来ない可能性があると思ったんだろう。
その心配はわかる。
特に皇太子殿下とディオン様は久しぶりに会うし、恋が燃え上がる可能性もなくはない。

「かしこまりました」

とは言え恋仲の二人を引き離すのも可哀想だ。
取り敢えず今回折角の機会だし皇太子殿下と顔見知りになって、場合によっては二人の橋渡し役になろう。
ヴィクターさん達もいるし俺の手なんて必要ないかもしれないけど、手伝えるのなら何でもしようと思った。

「服まで買ってもらったし、その恩義には報いないと」

かなり上等な服を買ってもらったから、少しでもお返しがしたい。
そんな俺の元にヴィクターさんがやってきて、移動中の護衛を任せたいと言ってきた。

「ラスターの剣の腕は前回見せてもらったし、護衛に最適だと思ってこうしてお願いしにきました。お願いできますか?」

どうやら俺の腕を買ってくれたらしい。
これは正直嬉しかった。

「もちろんです。しっかりお護りさせていただきますね」
「はい。では宜しく」

そうしてサッサと去っていくヴィクターさん。
彼はどうやら俺のことを嫌っているらしいのだけど、話す時はちゃんと丁寧に話してくれるし、こうして評価すべきところは評価してくれる人でもある。
仕事に対するプライドがきっと高いんだろう。
だからこそ領主様の仕事の補佐という職務を離れてディオン様とお茶してばかりの俺に嫌悪感を抱くのかもしれない。
一応言語の練習なんだけど、傍から見てると単にわからない言葉で仲良くお茶しているようにしか見えないんだろう。
『もう十分話せているのでは?』と言われたこともあるし、なかなか難しいところだ。
ちなみにその時は『俺には俺が求めるレベルというものがあるんだ。お前は黙っていろ』とディオン様に叱られて引き下がっていた。
なんだか申し訳ない。
でも確かにディオン様が言うように求めるレベルというのは人それぞれだし、とても大事だと思う。
単純に日常会話が何とかできればOKな人もいれば、難しい交渉事もできないと役に立たないと思う人だっている。
だから俺もディオン様が満足するまで付き合うつもりではあった。
とは言え俺もヴィクターさんも将来的にディオン様を支える仲間でもあるから、なんとか付かず離れず上手くやっていきたいとは思っている。

「さてと…じゃあ出発の日まで基礎鍛錬を増やしておこうかな」

そう決めて、俺はスケジュールを調整した。




王都出発の前日。
今日も恒例のディオン様とのお茶会を兼ねた勉強会。
そんな中、思いがけないことを聞かれた。

「【ラスター。好みのタイプは?】」
「【好みのタイプ?】」

ニコニコと微笑みながら尋ねてくるディオン様に俺はどう答えようか悩んだ。
答えようがないからだ。
好みのタイプなんてあってないようなものだろう。

「【特には】」
「【ない?】」
「【ええ】」

とは言えここで言葉を切ったら言語の練習にならない。
何かしら話を膨らませた方がいいかもしれない。

「【そうですね。敢えて言うなら…】」

だからそう前振りをしただけだったのだけど、ディオン様は興味があるのか目をキラキラさせながら俺の言葉を待っていた。
そんな姿が可愛くて、ついポロッと建前ではない本音が零れてしまった。

「【可愛い人、ですね】」
「【可愛い人?】」
「【はい。可愛くて、つい力になってあげたくなるような、そんな人は好きですよ】」

貴方のような────と思いながらフフッと微笑む。
でもその言葉は何故かディオン様的には気に入らなかったようで、何やらブツブツ小さく呟いて落ち込んでいた。
どうしたんだろう?
揶揄われたと思って気分を害してしまったんだろうか?
そんなつもりはなかったけど、不快にさせてしまったなら申し訳なかった。

「ディオン様。すみませんでした。明日は朝も早いですし、今日はこのくらいにしておきましょうか」
「え?!」
「明日に備えて今日はゆっくりしてくださいね」

俺はそれだけを言い置くと席を立って領主様の元へと戻る。
旅立つ前に片付けないといけない仕事はまだある。
できる限り終わらせておかないと。


***


【Side.ディオン】

今日は思い切ってラスターに好みのタイプを聞いてみた。
もしそれで俺が好みのタイプに当てはまっていたらもう一歩距離を近づけてみようと思ったからだ。
なのに帰ってきた答えはまさかの『可愛くてつい力になってあげたくなるような人』だった。
つまり庇護欲がそそられる可愛らしいタイプが好きってことだろう。
これは正直かなりショックだ。
だって全く竜王陛下の好みではないと言われたも同然で、俺からツガイという立場がなくなったら振り向いてももらえないのだと悲しくなった。

これじゃあとてもじゃないが告白する勇気なんて出るはずもない。

「……髪でも伸ばそうかな」

前世では伸ばしていたが、今世では短く切っていた。
でもそのせいで『可愛い』から遠ざかるなら伸ばしてみよう。
後は庇護欲をそそられる態度か。
でも頼ってほしい気持ちが強いからこれは難しい。

「……甘えてみるか」

そうだ。そうしよう。
実はツガイとしてみたかった事は沢山ある。
叶うはずがないから前世では諦めていたけど、周囲のツガイとのラブラブ話を聞くたびに、自分もやってみたいと羨ましく思った。

「取り敢えず、今度こそ馬車で一緒に移動してもらおう」

隣に座ってもらって、眠気を装って肩を借りたりするんだ。
勿論逆でもいい。
自分の方にもたれさせてさりげなく髪に触れたい。
その吐息をすぐそばで感じたい。

(いい…)

うっとりそんな状況を夢見た俺は悪くないはずだ。
それなのに────。

「どうしてまた騎馬なんだ?!」

楽しみにしていた馬車移動は全く思っていたものとは違っていて、ラスターは護衛に回ってしまった。
あんまりだ。
そんなに俺と一緒の馬車は嫌だったんだろうか?

(俺が可愛くないから?!)

泣きたい。

「ディオン様、行きますよ」

ズルズルと引きずられるようにヴィクターに馬車へと押し込まれ、俺は泣く泣くラスターとの移動を断念する。

「ヴィクター…次の街からラスターも馬車に乗せたい」

それでも諦めきれずにそう口にしたら思い切り溜息を吐かれて、『彼は護衛ですよ?諦めてください』とバッサリ言われてしまう。

「でも…今回は国際親善パーティーだし、言語の復習をしたいんだ」
「それならお食事の時にされればいいでしょう?」
「それじゃあ短すぎる!」
「そんなことはありません。一週間朝昼晩とあるんですから寧ろ多いくらいです」
「全然足りない!」
「そんなことはありません!子供みたいに我儘を言わないでください」
「ぐっ…」
「お願いですから大人しく座っていてください」

ヴィクターに窘められて仕方なく窓の外へと目を向ける。
なのに今日はそこからラスターの姿は見えない。
運悪く俺から見えない位置に配置されてしまったんだろう。
切ない。
せめて配置を変えてもらえるように後で交渉してみよう。
そう思いながら俺は深々と溜息を吐いた。


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