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【本編】
5.臨時雇用
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領主様の側で働こうとしたものの、結局人の波に押されて全くアピールできないまま視察は終了してしまった。
あれはもしまた同じチャンスがあったとしても辿り着ける気がしない。
前世で培った内政知識を生かすにせよ兵の統率力を生かすにせよ、披露する場がなければどうしようもないし、平民の立場でそれを生かすのは割と難しい。
誰も平民に高度な技能を求めてはいないから、そもそもやらせてみようという発想さえない。
できることは極限られたことだけ。つまり単純な計算能力と剣の腕くらいのものなのだ。
当然学校を出た者なら皆どちらも使えるレベルでアピールできる。
後は押して押して押しまくれる能力があればいい。
但し、自分にはそれがなかった。
前世では部下に指示を出したら皆がきびきび動いてくれたから、自分からグイグイアピールする必要なんてなかった。
精々他国との交渉で笑顔で圧をかけるくらいのものだっただろうか?
それだって交渉材料をしっかり揃えた上でのこと。
なりふり構わずあんな風に向かっていける者達は素直に凄いと思う。
自分にあれは無理だ。
そう思って身を引いたのだけど……。
「屋敷の仕事を手伝ってくれる者を急募?」
ある日冒険者ギルドの掲示板にそんな紙が張り出された。
どうやら本当に急いでいるらしく、ギルドの職員が直接呼び掛けをしていたから驚いてしまった。
なんでも領主様の住む屋敷で流行病が蔓延していて、猫の手も借りたいほどの人手不足に陥っているのだとか。
洗濯を担う下女から厨房の料理人、領主様の仕事の補助をする側仕え等々、募集された仕事内容は非常に多岐に渡っていた。
勿論短期雇用扱いだけど、場合によってはそのまま本採用されるかもしれないとのこと。
これはまた人が殺到しそうだと思ったのに、意外にも手を上げた者は少なかった。
曰く、そこで病気をもらって家族や知人に移しても困ると。
なるほど。一理ある。
でも雇用期間中は屋敷に部屋をもらえるらしいし、お仕着せの仕事着も支給される。
食事も3食付いているとのことだし、破格の条件だと思うのだけど…。
「…行ってみるか」
俺は結婚していないし、この先結婚する予定もない。
実家も特に生活に困ってないから頻繁に顔を出す必要もない。
ならいいんじゃないか?
そう考えて俺はギルドで紹介状を受け取り、その足で領主様の屋敷へと向かった。
そうして俺に与えられた仕事はなんと書類整理の仕事だった。
一先ずと言った感じではあったが、どうやら見た目で警備業務や厨房担当より書類整理に回す方がいいだろうと判断されたらしい。
ある意味得意分野だ。
俺は早速積み上がっている書類に目を通し分類していく。
流石に重要な物は直接寝込んでいる領主様のところへ持って行かれているようでここにはないみたいだけど、寝込んでる期間が長くなればなるほど書類はどんどん溜まっていくからやり易いように分類しておこう。
重要度に応じて分けるのは当然として、資料が必要な物にはそれも添えて、陳情書には解決案もそれぞれいくつか添えておこう。
病気で寝込んでいる人の頭を悩ませても何もいいことはない。
最終判断は当然してもらわないといけないけど、解決に向けて提案くらいはあった方が望ましいだろう。
ついでに数字の方もチェック。
計算ミスがないか、不正が紛れていないかも見ておこう。
(前世でも結構あったからな)
そんな風に俺はサクサクと書類の山を片付けていく。
(なんだか懐かしいな…)
久しぶりの書類仕事は懐かしくも楽しく感じられるから不思議だ。
そうこうしているうちに昼食時になった。
でもどうやら厨房にも人が足りていないらしく、皆自分で作って自分で食べる方式らしい。
効率が悪いなと思うものの、倒れた人数が多くて指揮系統が麻痺しているんだろう。
仕方がない。
ここは家で家事の腕を振るっている俺が頑張るとしようか。
「これから作って食べる方はいますか?分担を決めてまとめて作った方が効率がいいので協力してもらえると嬉しいです」
その言葉に料理が苦手そうな人含め、ちょうどこれから作ろうと思っていたらしい者達が手を上げてくれたから、各々のできることを確認してそれぞれに役割を振っていく。
例えば料理はできなくても食器は洗えるし、野菜の皮は向けなくてもフライパンは振れる。
そんな人たちにできることを取り敢えずやってもらいつつ、俺は食材を確認してサクサクと料理を進めた。
皆で協力してやったら10人前の料理だってあっという間だ。
洗い物を担当してくれる人がいるから後片付けも早い。
大満足で皆で食事を摂っていたら、次は自分達も混ぜてくれと何人かが言ってきたから、次からはこんな感じでスムーズに協力して作るようになるだろう。
ちなみに数少ない厨房担当の者達は寝込んでいる領主様達の食事を作るのに手いっぱいだった様子。
手が回らなくて申し訳ないと謝られた上で、こうして取りまとめてもらえたのは有り難かったと感謝の言葉を貰えた。
大変な時こそ皆で協力し合うのが普通だし、そんなに気にしなくていいのに。
午後からはまた仕事だ。
纏めて分けておいた『資料が必要なもの』に添付する資料を探す予定だ。
そのためにも書斎にある本の内容を把握することから始める。
まさか今世で速読技能を発揮することになるとは思いもしなかった。
「なるほど。大体把握した」
本はまだまだあるけど、予め内容に目星をつけて読み込んでいったから資料作りに問題はない。
そしてサラサラと記載されている本の名とページ数、参考にした内容を箇条書きにして資料に添えていく。
「はぁ…先は長いな」
溜まりに溜まった書類の整理はとても一日では終わりそうにない。
恐らく三日はかかるだろう。
もう少し早く求人依頼を受けられていればよかったなと思いつつ、俺はキビキビと手を動かした。
あれはもしまた同じチャンスがあったとしても辿り着ける気がしない。
前世で培った内政知識を生かすにせよ兵の統率力を生かすにせよ、披露する場がなければどうしようもないし、平民の立場でそれを生かすのは割と難しい。
誰も平民に高度な技能を求めてはいないから、そもそもやらせてみようという発想さえない。
できることは極限られたことだけ。つまり単純な計算能力と剣の腕くらいのものなのだ。
当然学校を出た者なら皆どちらも使えるレベルでアピールできる。
後は押して押して押しまくれる能力があればいい。
但し、自分にはそれがなかった。
前世では部下に指示を出したら皆がきびきび動いてくれたから、自分からグイグイアピールする必要なんてなかった。
精々他国との交渉で笑顔で圧をかけるくらいのものだっただろうか?
それだって交渉材料をしっかり揃えた上でのこと。
なりふり構わずあんな風に向かっていける者達は素直に凄いと思う。
自分にあれは無理だ。
そう思って身を引いたのだけど……。
「屋敷の仕事を手伝ってくれる者を急募?」
ある日冒険者ギルドの掲示板にそんな紙が張り出された。
どうやら本当に急いでいるらしく、ギルドの職員が直接呼び掛けをしていたから驚いてしまった。
なんでも領主様の住む屋敷で流行病が蔓延していて、猫の手も借りたいほどの人手不足に陥っているのだとか。
洗濯を担う下女から厨房の料理人、領主様の仕事の補助をする側仕え等々、募集された仕事内容は非常に多岐に渡っていた。
勿論短期雇用扱いだけど、場合によってはそのまま本採用されるかもしれないとのこと。
これはまた人が殺到しそうだと思ったのに、意外にも手を上げた者は少なかった。
曰く、そこで病気をもらって家族や知人に移しても困ると。
なるほど。一理ある。
でも雇用期間中は屋敷に部屋をもらえるらしいし、お仕着せの仕事着も支給される。
食事も3食付いているとのことだし、破格の条件だと思うのだけど…。
「…行ってみるか」
俺は結婚していないし、この先結婚する予定もない。
実家も特に生活に困ってないから頻繁に顔を出す必要もない。
ならいいんじゃないか?
そう考えて俺はギルドで紹介状を受け取り、その足で領主様の屋敷へと向かった。
そうして俺に与えられた仕事はなんと書類整理の仕事だった。
一先ずと言った感じではあったが、どうやら見た目で警備業務や厨房担当より書類整理に回す方がいいだろうと判断されたらしい。
ある意味得意分野だ。
俺は早速積み上がっている書類に目を通し分類していく。
流石に重要な物は直接寝込んでいる領主様のところへ持って行かれているようでここにはないみたいだけど、寝込んでる期間が長くなればなるほど書類はどんどん溜まっていくからやり易いように分類しておこう。
重要度に応じて分けるのは当然として、資料が必要な物にはそれも添えて、陳情書には解決案もそれぞれいくつか添えておこう。
病気で寝込んでいる人の頭を悩ませても何もいいことはない。
最終判断は当然してもらわないといけないけど、解決に向けて提案くらいはあった方が望ましいだろう。
ついでに数字の方もチェック。
計算ミスがないか、不正が紛れていないかも見ておこう。
(前世でも結構あったからな)
そんな風に俺はサクサクと書類の山を片付けていく。
(なんだか懐かしいな…)
久しぶりの書類仕事は懐かしくも楽しく感じられるから不思議だ。
そうこうしているうちに昼食時になった。
でもどうやら厨房にも人が足りていないらしく、皆自分で作って自分で食べる方式らしい。
効率が悪いなと思うものの、倒れた人数が多くて指揮系統が麻痺しているんだろう。
仕方がない。
ここは家で家事の腕を振るっている俺が頑張るとしようか。
「これから作って食べる方はいますか?分担を決めてまとめて作った方が効率がいいので協力してもらえると嬉しいです」
その言葉に料理が苦手そうな人含め、ちょうどこれから作ろうと思っていたらしい者達が手を上げてくれたから、各々のできることを確認してそれぞれに役割を振っていく。
例えば料理はできなくても食器は洗えるし、野菜の皮は向けなくてもフライパンは振れる。
そんな人たちにできることを取り敢えずやってもらいつつ、俺は食材を確認してサクサクと料理を進めた。
皆で協力してやったら10人前の料理だってあっという間だ。
洗い物を担当してくれる人がいるから後片付けも早い。
大満足で皆で食事を摂っていたら、次は自分達も混ぜてくれと何人かが言ってきたから、次からはこんな感じでスムーズに協力して作るようになるだろう。
ちなみに数少ない厨房担当の者達は寝込んでいる領主様達の食事を作るのに手いっぱいだった様子。
手が回らなくて申し訳ないと謝られた上で、こうして取りまとめてもらえたのは有り難かったと感謝の言葉を貰えた。
大変な時こそ皆で協力し合うのが普通だし、そんなに気にしなくていいのに。
午後からはまた仕事だ。
纏めて分けておいた『資料が必要なもの』に添付する資料を探す予定だ。
そのためにも書斎にある本の内容を把握することから始める。
まさか今世で速読技能を発揮することになるとは思いもしなかった。
「なるほど。大体把握した」
本はまだまだあるけど、予め内容に目星をつけて読み込んでいったから資料作りに問題はない。
そしてサラサラと記載されている本の名とページ数、参考にした内容を箇条書きにして資料に添えていく。
「はぁ…先は長いな」
溜まりに溜まった書類の整理はとても一日では終わりそうにない。
恐らく三日はかかるだろう。
もう少し早く求人依頼を受けられていればよかったなと思いつつ、俺はキビキビと手を動かした。
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