7 / 84
【本編】
5.臨時雇用
しおりを挟む
領主様の側で働こうとしたものの、結局人の波に押されて全くアピールできないまま視察は終了してしまった。
あれはもしまた同じチャンスがあったとしても辿り着ける気がしない。
前世で培った内政知識を生かすにせよ兵の統率力を生かすにせよ、披露する場がなければどうしようもないし、平民の立場でそれを生かすのは割と難しい。
誰も平民に高度な技能を求めてはいないから、そもそもやらせてみようという発想さえない。
できることは極限られたことだけ。つまり単純な計算能力と剣の腕くらいのものなのだ。
当然学校を出た者なら皆どちらも使えるレベルでアピールできる。
後は押して押して押しまくれる能力があればいい。
但し、自分にはそれがなかった。
前世では部下に指示を出したら皆がきびきび動いてくれたから、自分からグイグイアピールする必要なんてなかった。
精々他国との交渉で笑顔で圧をかけるくらいのものだっただろうか?
それだって交渉材料をしっかり揃えた上でのこと。
なりふり構わずあんな風に向かっていける者達は素直に凄いと思う。
自分にあれは無理だ。
そう思って身を引いたのだけど……。
「屋敷の仕事を手伝ってくれる者を急募?」
ある日冒険者ギルドの掲示板にそんな紙が張り出された。
どうやら本当に急いでいるらしく、ギルドの職員が直接呼び掛けをしていたから驚いてしまった。
なんでも領主様の住む屋敷で流行病が蔓延していて、猫の手も借りたいほどの人手不足に陥っているのだとか。
洗濯を担う下女から厨房の料理人、領主様の仕事の補助をする側仕え等々、募集された仕事内容は非常に多岐に渡っていた。
勿論短期雇用扱いだけど、場合によってはそのまま本採用されるかもしれないとのこと。
これはまた人が殺到しそうだと思ったのに、意外にも手を上げた者は少なかった。
曰く、そこで病気をもらって家族や知人に移しても困ると。
なるほど。一理ある。
でも雇用期間中は屋敷に部屋をもらえるらしいし、お仕着せの仕事着も支給される。
食事も3食付いているとのことだし、破格の条件だと思うのだけど…。
「…行ってみるか」
俺は結婚していないし、この先結婚する予定もない。
実家も特に生活に困ってないから頻繁に顔を出す必要もない。
ならいいんじゃないか?
そう考えて俺はギルドで紹介状を受け取り、その足で領主様の屋敷へと向かった。
そうして俺に与えられた仕事はなんと書類整理の仕事だった。
一先ずと言った感じではあったが、どうやら見た目で警備業務や厨房担当より書類整理に回す方がいいだろうと判断されたらしい。
ある意味得意分野だ。
俺は早速積み上がっている書類に目を通し分類していく。
流石に重要な物は直接寝込んでいる領主様のところへ持って行かれているようでここにはないみたいだけど、寝込んでる期間が長くなればなるほど書類はどんどん溜まっていくからやり易いように分類しておこう。
重要度に応じて分けるのは当然として、資料が必要な物にはそれも添えて、陳情書には解決案もそれぞれいくつか添えておこう。
病気で寝込んでいる人の頭を悩ませても何もいいことはない。
最終判断は当然してもらわないといけないけど、解決に向けて提案くらいはあった方が望ましいだろう。
ついでに数字の方もチェック。
計算ミスがないか、不正が紛れていないかも見ておこう。
(前世でも結構あったからな)
そんな風に俺はサクサクと書類の山を片付けていく。
(なんだか懐かしいな…)
久しぶりの書類仕事は懐かしくも楽しく感じられるから不思議だ。
そうこうしているうちに昼食時になった。
でもどうやら厨房にも人が足りていないらしく、皆自分で作って自分で食べる方式らしい。
効率が悪いなと思うものの、倒れた人数が多くて指揮系統が麻痺しているんだろう。
仕方がない。
ここは家で家事の腕を振るっている俺が頑張るとしようか。
「これから作って食べる方はいますか?分担を決めてまとめて作った方が効率がいいので協力してもらえると嬉しいです」
その言葉に料理が苦手そうな人含め、ちょうどこれから作ろうと思っていたらしい者達が手を上げてくれたから、各々のできることを確認してそれぞれに役割を振っていく。
例えば料理はできなくても食器は洗えるし、野菜の皮は向けなくてもフライパンは振れる。
そんな人たちにできることを取り敢えずやってもらいつつ、俺は食材を確認してサクサクと料理を進めた。
皆で協力してやったら10人前の料理だってあっという間だ。
洗い物を担当してくれる人がいるから後片付けも早い。
大満足で皆で食事を摂っていたら、次は自分達も混ぜてくれと何人かが言ってきたから、次からはこんな感じでスムーズに協力して作るようになるだろう。
ちなみに数少ない厨房担当の者達は寝込んでいる領主様達の食事を作るのに手いっぱいだった様子。
手が回らなくて申し訳ないと謝られた上で、こうして取りまとめてもらえたのは有り難かったと感謝の言葉を貰えた。
大変な時こそ皆で協力し合うのが普通だし、そんなに気にしなくていいのに。
午後からはまた仕事だ。
纏めて分けておいた『資料が必要なもの』に添付する資料を探す予定だ。
そのためにも書斎にある本の内容を把握することから始める。
まさか今世で速読技能を発揮することになるとは思いもしなかった。
「なるほど。大体把握した」
本はまだまだあるけど、予め内容に目星をつけて読み込んでいったから資料作りに問題はない。
そしてサラサラと記載されている本の名とページ数、参考にした内容を箇条書きにして資料に添えていく。
「はぁ…先は長いな」
溜まりに溜まった書類の整理はとても一日では終わりそうにない。
恐らく三日はかかるだろう。
もう少し早く求人依頼を受けられていればよかったなと思いつつ、俺はキビキビと手を動かした。
あれはもしまた同じチャンスがあったとしても辿り着ける気がしない。
前世で培った内政知識を生かすにせよ兵の統率力を生かすにせよ、披露する場がなければどうしようもないし、平民の立場でそれを生かすのは割と難しい。
誰も平民に高度な技能を求めてはいないから、そもそもやらせてみようという発想さえない。
できることは極限られたことだけ。つまり単純な計算能力と剣の腕くらいのものなのだ。
当然学校を出た者なら皆どちらも使えるレベルでアピールできる。
後は押して押して押しまくれる能力があればいい。
但し、自分にはそれがなかった。
前世では部下に指示を出したら皆がきびきび動いてくれたから、自分からグイグイアピールする必要なんてなかった。
精々他国との交渉で笑顔で圧をかけるくらいのものだっただろうか?
それだって交渉材料をしっかり揃えた上でのこと。
なりふり構わずあんな風に向かっていける者達は素直に凄いと思う。
自分にあれは無理だ。
そう思って身を引いたのだけど……。
「屋敷の仕事を手伝ってくれる者を急募?」
ある日冒険者ギルドの掲示板にそんな紙が張り出された。
どうやら本当に急いでいるらしく、ギルドの職員が直接呼び掛けをしていたから驚いてしまった。
なんでも領主様の住む屋敷で流行病が蔓延していて、猫の手も借りたいほどの人手不足に陥っているのだとか。
洗濯を担う下女から厨房の料理人、領主様の仕事の補助をする側仕え等々、募集された仕事内容は非常に多岐に渡っていた。
勿論短期雇用扱いだけど、場合によってはそのまま本採用されるかもしれないとのこと。
これはまた人が殺到しそうだと思ったのに、意外にも手を上げた者は少なかった。
曰く、そこで病気をもらって家族や知人に移しても困ると。
なるほど。一理ある。
でも雇用期間中は屋敷に部屋をもらえるらしいし、お仕着せの仕事着も支給される。
食事も3食付いているとのことだし、破格の条件だと思うのだけど…。
「…行ってみるか」
俺は結婚していないし、この先結婚する予定もない。
実家も特に生活に困ってないから頻繁に顔を出す必要もない。
ならいいんじゃないか?
そう考えて俺はギルドで紹介状を受け取り、その足で領主様の屋敷へと向かった。
そうして俺に与えられた仕事はなんと書類整理の仕事だった。
一先ずと言った感じではあったが、どうやら見た目で警備業務や厨房担当より書類整理に回す方がいいだろうと判断されたらしい。
ある意味得意分野だ。
俺は早速積み上がっている書類に目を通し分類していく。
流石に重要な物は直接寝込んでいる領主様のところへ持って行かれているようでここにはないみたいだけど、寝込んでる期間が長くなればなるほど書類はどんどん溜まっていくからやり易いように分類しておこう。
重要度に応じて分けるのは当然として、資料が必要な物にはそれも添えて、陳情書には解決案もそれぞれいくつか添えておこう。
病気で寝込んでいる人の頭を悩ませても何もいいことはない。
最終判断は当然してもらわないといけないけど、解決に向けて提案くらいはあった方が望ましいだろう。
ついでに数字の方もチェック。
計算ミスがないか、不正が紛れていないかも見ておこう。
(前世でも結構あったからな)
そんな風に俺はサクサクと書類の山を片付けていく。
(なんだか懐かしいな…)
久しぶりの書類仕事は懐かしくも楽しく感じられるから不思議だ。
そうこうしているうちに昼食時になった。
でもどうやら厨房にも人が足りていないらしく、皆自分で作って自分で食べる方式らしい。
効率が悪いなと思うものの、倒れた人数が多くて指揮系統が麻痺しているんだろう。
仕方がない。
ここは家で家事の腕を振るっている俺が頑張るとしようか。
「これから作って食べる方はいますか?分担を決めてまとめて作った方が効率がいいので協力してもらえると嬉しいです」
その言葉に料理が苦手そうな人含め、ちょうどこれから作ろうと思っていたらしい者達が手を上げてくれたから、各々のできることを確認してそれぞれに役割を振っていく。
例えば料理はできなくても食器は洗えるし、野菜の皮は向けなくてもフライパンは振れる。
そんな人たちにできることを取り敢えずやってもらいつつ、俺は食材を確認してサクサクと料理を進めた。
皆で協力してやったら10人前の料理だってあっという間だ。
洗い物を担当してくれる人がいるから後片付けも早い。
大満足で皆で食事を摂っていたら、次は自分達も混ぜてくれと何人かが言ってきたから、次からはこんな感じでスムーズに協力して作るようになるだろう。
ちなみに数少ない厨房担当の者達は寝込んでいる領主様達の食事を作るのに手いっぱいだった様子。
手が回らなくて申し訳ないと謝られた上で、こうして取りまとめてもらえたのは有り難かったと感謝の言葉を貰えた。
大変な時こそ皆で協力し合うのが普通だし、そんなに気にしなくていいのに。
午後からはまた仕事だ。
纏めて分けておいた『資料が必要なもの』に添付する資料を探す予定だ。
そのためにも書斎にある本の内容を把握することから始める。
まさか今世で速読技能を発揮することになるとは思いもしなかった。
「なるほど。大体把握した」
本はまだまだあるけど、予め内容に目星をつけて読み込んでいったから資料作りに問題はない。
そしてサラサラと記載されている本の名とページ数、参考にした内容を箇条書きにして資料に添えていく。
「はぁ…先は長いな」
溜まりに溜まった書類の整理はとても一日では終わりそうにない。
恐らく三日はかかるだろう。
もう少し早く求人依頼を受けられていればよかったなと思いつつ、俺はキビキビと手を動かした。
19
お気に入りに追加
644
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
冷静沈着敵国総督様、魔術最強溺愛王様、私の子を育ててください~片思い相手との一夜のあやまちから、友愛女王が爆誕するまで~
KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
フィア・リウゼンシュタインは、奔放な噂の多い麗しき女騎士団長だ。真実を煙に巻きながら、その振る舞いで噂をはねのけてきていた。「王都の人間とは絶対に深い仲にならない」と公言していたにもかかわらず……。出立前夜に、片思い相手の第一師団長であり総督の息子、ゼクス・シュレーベンと一夜を共にしてしまう。
宰相娘と婚約関係にあるゼクスとの、たしかな記憶のない一夜に不安を覚えつつも、自国で反乱が起きたとの報告を受け、フィアは帰国を余儀なくされた。リュオクス国と敵対関係にある自国では、テオドールとの束縛婚が始まる。
フィアを溺愛し閉じこめるテオドールは、フィアとの子を求め、ひたすらに愛を注ぐが……。
フィアは抑制剤や抑制魔法により、懐妊を断固拒否!
その後、フィアの懐妊が分かるが、テオドールの子ではないのは明らかで……。フィアは子ども逃がすための作戦を開始する。
作戦には大きな見落としがあり、フィアは子どもを護るためにテオドールと取り引きをする。
テオドールが求めたのは、フィアが国を出てから今までの記憶だった――――。
フィアは記憶も王位継承権も奪われてしまうが、ワケアリの子どもは着実に成長していき……。半ば強制的に、「父親」達は育児開始となる。
記憶も継承権も失ったフィアは母国を奪取出来るのか?
そして、初恋は実る気配はあるのか?
すれ違うゼクスとの思いと、不器用すぎるテオドールとの夫婦関係、そして、怪物たちとの奇妙な親子関係。
母国奪還を目指すフィアの三角育児恋愛関係×あべこべ怪物育児ストーリー♡
~友愛女王爆誕編~
第一部:母国帰還編
第二部:王都探索編
第三部:地下国冒険編
第四部:王位奪還編
第四部で友愛女王爆誕編は完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる