【本編完結】敵国の王子は俺に惚れたらしい

オレンジペコ

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お城生活編

49.焦る者と罠にかかる者達

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【Side.ジークフリート】

(クロヴィス!)

街へと向かうため急いで馬小屋のある場所へと走る。
部屋から練兵所近くにある馬小屋まで少し距離があるから気ばかりが急いた。
けれどそこへと向かう途中で邪魔が入ってしまう。
どこぞの大臣だ。

「ジークフリート殿下。ご機嫌麗しゅう」

麗しくない!今は嫁の救出が第一だ!

「煩いぞ。後にしろ」

思い切り引き止めてきた相手を殺気混じりに睨みつけると気圧されたように後退ったので、そのまま放置して横を駆け抜ける。
その後も二人、三人と声を掛けられ、あまりにも鬱陶しいので剣を抜き放ち、そのまま『殺されたくなければ退け』と言って問答無用で素通りしてやった。
『ジークフリート殿下が乱心した』とか『王太子様を呼べ!』とか背後から聞こえてきたが、知ったことか。
俺のクロヴィスが拐われたのだ。
平静でなどいられるものか。
大体部屋から馬小屋までが遠過ぎるのだ。
転移魔法はまだまだ成功率が低く、落ち着いている時に三回に一回の成功率だから今は難しい。
確実性を取るならやはり馬で行くのが一番だ。
走って街に出るよりもずっと速い。

(絶対に助ける!)

そんな思いで救出へと向かう。

だから当然他に目なんて向くはずもなく、その間義姉に危機が迫っているなんて全く思ってもいなかったのだった。


***


【Side.クロヴィス】

ヤバい。ヤバい。ヤバい!
よく見ると、俺をここまで連れてきた侍女がラナキスを先導するかのように前方を歩いている。
どこまで連れて行く気だと思っていたら、然程離れていない場所に停められていた馬車の前へと連れてこられた。

「お待ちしておりましたわ!」

そこにはいつかどこかで見たことのある、とある貴族令嬢の姿が。
侍女は彼女の関係者だったのだろうか?

「クロヴィス様。以前は誤解と嫉妬から暴言を吐いてしまい申し訳ありませんでした。運命の愛を貫くために逃避行をなさると聞いたので、是非お詫びとしてお力にならせてくださいませ」
「え?!」
「ジークフリート様はできる限り私が引き止めておきますので、どうぞお幸せに」

侍女もそうだけど、彼女も心から祝福していますと言わんばかりの満面の笑みを浮かべているんだけど、どういうことだ?!
なんで俺がラナキスと逃避行することになってんだ?!

「俺はジークの嫁だから、どこにも行かない!」

精一杯主張する俺。
でも誰も本気にとってくれない。

「無理に心を押し殺さず、素直になってください」
「そうですわ!ラナキスさんがクロヴィス様をしっかりと守ってくれますから!」
「クロード。王子が追ってこれない場所まで連れて行ってやるからな。俺と幸せになろう」

(何言ってんだ、こいつら?!)

もう言葉が通じなさ過ぎて泣きたい!
俺はジークの嫁だって言ってるのに!
もう嫌だ。逃げる!絶対逃げてやる!
そう決心して逃げようとしたんだけど、三人がかりで馬車に押し込むように乗せられたせいで体勢を崩し、隙ができてラナキスにトスッと手刀を落とされてしまう。

「クロード。話は起きてからゆっくりしような」

気を失う前、どこか上機嫌な声でそんなことを言われたような気がした。


***


【Side.王太子妃】

「随分騒がしいわね…」

なんだか外が随分と騒がしい気がする。
暗殺を企んでいる者達が一網打尽にされて、厄介なストーカーであるラナキスも褒章にかこつけて城から出すことに成功した。
何も問題はないはず。
これで平和が戻ってくるとばかり思っていたというのに、一体何があったのだろう?
気にはなったけれど、何かに巻き込まれてもいけないし、後で夫にでも聞いた方がいいかもしれないと思いながらテラスに座り、そっと茶の入ったカップを手に取った。

「本日のお茶は王太子妃様の母国、スピカから取り寄せましたブルーローズティーに致しました。どうぞお楽しみください」

侍女が笑顔で勧めてくれるけれど、どうやら淹れ方を失敗しているようで、香りが少し違う気がする。
だから香りだけ確認し、口をつけるふりをしてそっとソーサーへと戻した。
あのお茶は淹れるのに失敗したら少し酸味が出るから嫌なのだ。

「お口に合いましたか?」
「ごめんなさい。折角だけど今日はブルーローズの気分ではなくて…。申し訳ないけれど、先日頂いた東方のお茶を淹れてもらえないかしら」
「…かしこまりました」

そしてすぐさまカップは侍女の手で下げられた。
そこでホッと息を吐いたのも束の間。
テーブルクロスで隠れていた足に何かが絡みつくのを感じ、何事かと驚いた瞬間、何かが足に突き刺さるのを感じた。

「あ……」

急激に込み上げてくる寒気に『これはマズい』と思ったものの、既に身体は麻痺して声を出すことさえできそうにない。
椅子から床へと崩れ落ち意識が遠のいていく中、耳に付けたピアスが砕け散る音と、私の名を呼ぶ夫の声がどこか遠くに聞こえた気がした。

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