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73.叔父と仇敵 Side.レンスニール

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「陛下。ルーシャン殿下…いえ、ルシアン殿が謁見を申し出てこられましたが如何いたしましょう?」
「すぐに会おう。ちょうど頼まれていたものも用意できたところだ」

側近にそう告げると速やかに場を整えに向かった。

外部に漏れないよう緘口令を敷いているとは言え、叔父はすっかりこの城の中でその存在を確固たるものにしていて、周囲の者達も慣れた様子で受け入れている。
普通じゃない?だがそれを可能にするのが叔父なのだ。
それで円滑に政治が回るのならそれに越したことはない。

現にこれまで俺に対して若い王だからとどこか舐めてかかっていた者達が、叔父が後見にいるとわかった途端掌をあっさり返して態度を改めた。
影響力が強過ぎて恩恵が凄い。

今の身分は敵国の侯爵家の息子なのに不思議だが、皆恭しい態度になった。
そればかりか今の叔父の身分が気に入らない輩はこぞって俺へと進言してきた。
早々にこの国の爵位をと。

皆一様に叔父を取り返せと言わんばかりに変なところで一致団結してくるから、叔父の爵位はあっさりと用意することができた。
騎士団の連中もこれで成人後は将軍職に返り咲いてもらえるだろうとご満悦だ。
勿論そうなってくれれば自分としても嬉しいが、そう上手くいくだろうか?

そんなことを考えながら叔父の元へと向かうと、そこには不機嫌全開の叔父の姿があって、仇敵との邂逅で何かあったのだということが手に取るように分かった。

「叔父上。もしや交渉は上手くいかなかったのですか?」
「…………ジュリエンヌ国へ帰ることになった」
「ではこちらをお渡ししておきます。今ここで終わらせてください」

国に帰る事になるかもしれないというのは当然叔父の想定内の話だった。
だから留学を終わらせるため卒業試験を取り寄せておいたのだ。
怒る理由はそこにはない。
叔父ならサラリと終わらせるだろうと思っていたし、それはあっさりとその通りになった。
最後の戦略についての考察など学園長が涙を流しながら読むのではないだろうか?
秀逸だ。後で俺もじっくり読みたい。

「────これでいいか?」
「はい。十分です。学園長に渡して、後日ジェレアクト家に結果が届くよう手配しておきます」
「頼んだ」
「後はこちらが用意させていただいた爵位授与の証明書と屋敷の権利証です。ルシアン=ロシェ魔法公爵。屋敷は城からも近い場所に建設予定です」
「魔法公爵?」
「はい。魔法伯爵で議会を通そうとしたのですが、『ルーシャン殿下を伯爵位になどできない』という声が多く上がりまして、新たに魔法公爵という爵位が出来上がりました。一代限りだし全く構わないだろうと満場一致で決まりましたのでどうぞお受け取りください」
「そうか」
「それと成人後に将軍として返り咲いて欲しいとの声も多々上がっていますので、どうぞご検討を」
「考えておこう」

叔父はカイザーリードさえ側にいればこの国に留まってくれるだろうし、それに関しては心配していないが、問題は仇敵であるユージィン=ユグレシアだ。

「それで、ユージィン卿とお会いになって如何でしたか?」

確か今日会ったはずだと思いながら話を振ると、少し落ち着いていた怒りが再燃したようで、忌々し気な顔になる。

「あの男…この俺に結婚するまでカイザーリードを抱くなと言ってきた」
「なるほど。ちなみにご結婚はいつ?」
「卒業後だ」
「普通に考えれば二年後ということですか?」
「そうだ」

なんとも酷なことをと思う。
この叔父がそんなに長い間禁欲に耐えられるはずがないだろうに。
そう思ったところで閃いた。

「叔父上。思ったのですが、カイザーリードさえ懐柔できれば問題はありませんか?」
「……?どういう意味だ?」
「つまり、ルシアン=ジェレアクトの結婚は向こうの学園の卒業後でしょうが、こちらで早期卒業をするのですから婚姻届もこちらで出しておけばよいのですよ。ルシアン=ロシェとして」

そう口にすると叔父は俺が言わんとすることを即理解したようで、ニヤリと笑った。

「レンスニール。名案だ。それなら問題ない」

この国では結婚の年齢は一応決まっているが、例外は認められている。
例えば戦時下において人質として幼い姫を嫁として迎え入れる時などがそれにあたる。
後は優秀な人材を国に取り込む時など。
叔父と元魔剣を国に取り込むため婚姻を認めるというのは十分ありだと思う。
どうせ貴族達は反対しないだろう。

「学園の早期卒業証明書を添えて提出すれば議会も通るでしょうし、婚姻届をすぐに用意させましょう。そこにサインをしてこちらに送り返してください。それで婚姻は成立するよう手配しておきます」
「助かる」
「はい。後はユージィン卿にバレないようお楽しみください」
「そうだな。肌を重ねるなと言っていたから着衣で楽しむか」
「……大丈夫ですか?」
「何がだ?」
「カイザーリードに嫌がられるのでは?」
「そんなことはない。旅行中馬車でも抱いたしな。何とでもなる」
「流石です。心配は無用でしたね」

きっと好きに掌の上で転がしているんだろう。
あの純粋なカイザーリードを自分好みに育てるのはさぞかし楽しいんだろうなと、叔父の性格を知っているだけに思わず遠い目になった。

そうして話している間に上機嫌になった叔父を見送り、俺は魔剣バルトブレイクの元へ向かい話を聞いてもらう。

「カイザーリードも大変だ」
【大丈夫だろう】
「そうだろうか?」
【ああ。あいつはその辺りは抜かりはないだろうしな】

丸め込むのは得意だからとバルトブレイクが笑う。

【ユージィンとの駆け引きも楽しんでいるようだし、予想通りにいって良かった】
「どういう意味だ?」
【あいつをこの国ではなくジュリエンヌ国に生まれ変わらせたのは狙ってのことだったんだ】
「???」
【あいつは戦場でユージィンとの駆け引きを楽しんでいた。だからカイザーリードを挟んでやり合えば楽しめるだろうと思っていたんだ】
「……え?」
【こちらの国に生まれ変わらせればカイザーリードを奪ってきておしまいになるところだっただろう?それだとつまらないじゃないか】

どうやらバルトブレイク的に、同じ国の同じ侯爵家という立場だからこそ火花を散らして取り合えると考えたらしい。
魔剣歴が長いだけあって考えることが人間臭いなと思ってしまう。
でも確かに言われてみればなるほどと合点がいった。
叔父だってすぐに手に入るより苦労して手に入れた方が満足度が高くなることだろう。
愛に障害は付き物とはよく言ったもので、きっとこの環境であれば愛も深まるに違いない。

「さて。暫くは叔父上とは手紙のやり取りだけになりそうだな」
【そうだな。ガス抜きにもなるだろうし、付き合ってやってくれ】
「ハハッ!国王が息抜き相手の侯爵家令息なんて考えるだけで面白いな」
【お前の楽しみにもなるだろう?】
「そうだな」

若いうちに国を任され、四苦八苦して潰れそうになったことなんて一度や二度ではない。
だからこそ自分の結婚を先延ばしにしてきたが、叔父の存在は思ったよりも救いになって俺に余裕を取り戻させてくれた。

「バルトブレイク。俺もそろそろ結婚しようかな」
【いいんじゃないか?】
「もう若くないし、お嫁に来てくれる女性はいるかな?」
【まだまだ引く手あまただろう。大臣達に相談してみろ。きっと喜び勇んで縁談を用意してくれるはずだ】
「そうかな」

クスクス笑いながらバルトブレイクと話す穏やかな時間。
肩の力を抜きこんな日が来るなんて思ってもみなかった。
叔父を生まれ変わらせてくれたバルトブレイクに最大限の感謝を。

この国の未来はきっと明るい。
そう思いながら俺は穏やかに微笑んだ。

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