【完結】元主人が決めた婚約者は、まさかの猫かぶり野郎でした。

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
68 / 81

65.再会と嫉妬

しおりを挟む
「……バルトブレイク」

そう。やってきた人物が手にしていたのはルシアンが前世で使っていた魔剣、バルトブレイクだった。
国宝なだけありその存在感は異彩を放っていて、魔剣としての力の大きさを嫌というほど感じさせられる。

「レンスニール。どうした?わざわざこんなところまで」
「叔父上。どうしたも何もありませんよ。勝負がついたようなので様子を見に来たところです」

その言葉に騎士団長の指示で連れて行かれそうになっていたジガールが目を大きく見開くのが見えた。

「お…じ……」

それを聞き、騎士団長が溜息と共に言葉を吐き出す。

「ルシアン=ジェレアクトは戦死されたルーシャン殿下が生まれ変わられた姿だ」
「……っ!そんなこと、あってたまるものか!!」

声を大にしてそう口にするジガールに、レンスニールと呼ばれた現王が答えを返す。

「その方も国宝バルトブレイクの願いを叶える力の話はおとぎ話ででも聞いたことはあろう?」
「願い…を叶える力……」
「そうだ。叔父上はその力でこうして新たに生まれ変わりここへ戻ってきた。それは嘘偽りのない事実だ」
「う…そだ…。嘘だ嘘だ嘘だ!!」

ジガールが血を吐くように叫ぶが、事実なのだからしょうがない。

「嘘だ────!!」

絶望に彩られた表情でそう叫びながらジガールは一礼した騎士達によってその場から連れて行かれる。
どうしてあんな風に絶望しているのかがわからなくて首を傾げてしまう。
でももしかしたら前世のルシアンに何かしらの憧れでも持っていたのかもしれない。
答えはわからないものの、なんとなくそうなのかもと感じられた。

「それで叔父上。采配は?」
「先程ライアンには言ったが、一年拷問の後ミスリル鉱山で三年働かせ、生き残ったら運命の天秤刑に処すというのでどうだ?」
「少々酷なのでは?報復するなら陵辱して奴隷落ちで如何でしょう?」
「……確かにそれはそれでアリではあるが、お前の方はいいのか?余罪もあるだろう?」
「そうですね。貴方の婚約者に対してやらかした件、父親であるヴァリトゥード侯爵への殺害未遂の件、あとは……他国の貴族を魔剣で襲い重傷を負わせた件も報告が上がっています。それら諸々を考えると…叔父上が提案された拷問部分を陵辱奴隷落ちに変えるくらいが丁度いいかもしれませんね」
「なかなか良い提案だ」

『ではそれで処理しておきます』という王の言葉を聞き、ルシアンが満足そうに笑った。
どうやらお気に召したようだ。

でもいくら何でも国王に対して不遜過ぎないだろうか?
これではどちらが国王かわかったものではない。

「ルシアン」

そんな態度で大丈夫なのか聞こうと思いそっと袖を引くと、何故か笑顔で俺を国王に紹介し始めた。

「レンスニール。紹介しよう。これが俺の可愛い魔剣、カイザーリードだ」
「カ、カイザーリード=ユグレシアです。よろしくお願いします」
「バルトロメオ国王レンスニール=バルトロメオだ。今世ではよろしく頼む」

意外にも俺にも好意的に笑顔で接してくれる。
気さくな王様だ。
前世では敵将の魔剣だったと知っているからこそきっとこんな風に言ってくれたんだろう。
優しい人だ。
そして今度は前世からよく知る魔剣、バルトブレイクの方が俺へと話しかけてきた。

【カイザーリード。久しいな】
「あ…」
【そう緊張するな。あの戦場で俺の攻撃を幾度となく防ぎ、主人を守り切ったのは称賛に値する。誇るといい】

その言葉に胸が震える。
国宝級の魔剣に褒められるなんて早々あることではない。

「あ、ありがとう…ございます」

悔しいけどカッコいい。
前世では敵だったけど、戦場でのバルトブレイクはそれはもう凄かったのだ。
劣勢にもかかわらず100%のシンクロ率でもないのに次々とこちらの味方を吹き飛ばし、自軍をほぼ対等というほどまで持ち直していたくらいだ。
あの時の堂々とした前世のルシアンの姿とその手にあるバルトブレイクの圧倒的な存在を目の当たりにして、こちら側の陣営で震えあがった者は数多い。

だからこそ余計に嫉妬してしまうのかもしれない。
俺はこんな風にカッコいい魔剣にはなれそうにないから。

「カイ?何故バルトブレイクの言葉に頬を染めてるんだ?」
「え?」
「お前が惚れているのは俺だろう?」

それはもちろんだ。
でもここは別に嫉妬するような場面ではないと思うのだけど…。

「どちらかと言うと、ここは俺が嫉妬する場面だと思うんだけど?」
「どういう意味だ?」
「バルトブレイクは国宝級なだけあってカッコいいし、前世での戦場でも凄かったし…ルシアンが俺よりそっちの方がやっぱりいいと言い出しそうだなって…」

ちょっとだけ本音を溢すと、何故か国王には困った顔をされ、バルトブレイクには大笑いされ、ルシアンには溜息を吐かれた。

「バルトブレイクがカッコイイ?こいつは年季の入ったただの口の悪い魔剣だ。性格は最悪だぞ?」
【お前には言われたくないが?】
「事実だろう?」
【まあ否定はしない。年を食っているだけあってお前の愛しの魔剣に比べたら純粋さの欠片もありはしないからな。ハハハッ!】

そんな仲良さげな様子にもまた嫉妬を煽られる。

「ルシィ…」

上目づかいで嫉妬を露わに見つめると、どこか嬉しそうに抱き寄せられて髪へのキスが降ってきた。

「拗ねたのか?カイ。お前は本当に可愛いな」
「…………」
「レンスニール。後は任せた。バルトブレイク。また会おう」
【ああ。気軽に来るといい。もちろん、そこの可愛いカイザーリードと一緒にな】

どうやら揃って子供扱いの様子。
酷く楽し気にあしらわれてしまった。
こういった面を見るに、きっと似た者同士なんだろう。

そして後はここから去るだけというタイミングで、思い出したように国王が声を掛けてくる。

「叔父上。そう言えばジュリエンヌ国にいる間者からユージィン=ユグレシアがこちらに向かったと連絡が来ました」
「ユージィンが?」

ルシアンは訝し気に聞き返しただけだけど、俺はその言葉を聞き思わずフルリと身を震わせてしまう。

(父様が来る……)

きっと俺がいなくなったことでダニエルが連絡を入れたんだろう。

「もし爵位が必要ならすぐに用意するので言ってください。一代限りの魔法騎士伯ならすぐにでも用意できますよ?」
「爵位か。悪くはないな」
「ええ。ちょうど国庫への多大な貢献もしてもらえた褒章をどうしようか考えていたところでしたし」
「本音は?」
「相談役として城に顔を出していただきたいだけですよ。それにこちらの爵位があれば叔父上も色々便利でしょう?損はないはずです」

国の立て直しを手伝って欲しい、人手不足だから協力してほしい、そんな話を国王はルシアンとしているけれど、俺はそれどころではなかった。
俺の頭を占めているのは父の事。

(どこまで知られているんだろう?)

それを考えると怖くて怖くてしょうがなくて、話を聞きたくてもダニエルは昏睡状態で、ダイアンは憔悴しきっているし、どうしていいのかわからなくなった。

「ルシアン…」

不安げに袖を握ると、安心させるように優しく大丈夫だと言ってもらえる。

「カイ。そう心配するな。大丈夫。俺がいる」
「そうしていると叔父上も思いやりの心を持っていたんだと思えますね」
「どういう意味だ?レンスニール。前世の俺が人でなしだったとでも言いたいのか?」
「いえ!で、では爵位の方はそれで用意しておきますので」

そうして国王は威厳をかなぐり捨ててその場からそそくさと去って行った。
どうやら余程ルシアンを恐れているらしい。
前世のルシアンはそんなに怖かったんだろうか?

俺は首を傾げながら差し出された手をとり、従兄妹達がいる宿へとルシアンと共に向かったのだった。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

左遷先は、後宮でした。

猫宮乾
BL
 外面は真面目な文官だが、週末は――打つ・飲む・買うが好きだった俺は、ある日、ついうっかり裏金騒動に関わってしまい、表向きは移動……いいや、左遷……される事になった。死刑は回避されたから、まぁ良いか! お妃候補生活を頑張ります。※異世界後宮ものコメディです。(表紙イラストは朝陽天満様に描いて頂きました。本当に有難うございます!)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...