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57.頭が痛い Side.レンスニール&ユージィン
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【Side.レンスニール】
叔父と城で晩餐を楽しみ、見送ってゆっくりと寛いでいると、突然騎士団長から火急の知らせがあったと報告を受けた。
とは言え特に城内が騒がしくなっているという感じではない。
となると騎士団内部で何かがあったと言う可能性は低いだろう。
ならなんだと言う話になるのだが────。
(叔父上関連か?)
その可能性は非常に高い。
騎士団長は前世の叔父を崇拝していた。
だからこそ生まれ変わったと聞いていの一番に自分の目で確かめたいと申し出てきたほどだ。
もし偽物だったらその場で殺すと言わんばかりの迫力で嘆願されたから打ち合いの許可も出した。
結果は言わずもがな。
生まれ変わってもルーシャン殿下は変わらず素晴らしいと称賛の声を上げていた。
だからこそ今日は軍の指導を頼んだのだろう。
事情を知らない者達からすれば『なんだこの小僧は?』状態だったことだろう。
まあそれでも実力を認めさせてしまうのが叔父だ。
天才的なまでの腕前には本当に憧憬の念を抱かざるを得ない。
本気で俺なんかよりもずっと国王になれる器を持っているから性質が悪いのだ。
自国へと生まれ変わっていたなら、それこそ一番に警戒すべき人物になっていたことだろう。
(まあ本人は面倒臭いとか言いそうだが…)
宰相の地位などに就いてフォローしてもらえれば、あっという間に国が潤いそうだなと思わなくもない。
敵にすれば恐ろしいが味方につければこれ以上ないほど心強い。それが叔父だ。
そんな叔父と何とか上手くやっていきたい気持ちは当然のことながら大きい。
けれど────騎士団長からの火急の知らせという手紙へと目を通し、俺は一気に頭が痛くなった。
そこにはこの国の貴族の子息が、叔父の現婚約者をレイプさせた挙句に奴隷商に売った疑惑があると書かれてあったからだ。
その婚約者自身は騎士団長がたまたま運よく保護することができたそうだが、相当ショックを受けているらしい。
叔父が知れば恐らくその貴族の子息は即殺されることだろう。
(裏を取らねば…)
少しでも火の粉が飛んでこないように早めに手を打つしかない。
そうして頭を抱える俺にバルトブレイクが声を掛けてきた。
『レンスニール。何があった?』
「……叔父上の婚約者が犯されて奴隷商に売られたらしい」
『……犯されたと言うのは恐らく未遂に終わってるだろうが、それでもあいつは怒り狂うだろうな』
バルトブレイク曰く、カイザーリードは魔剣の本質を失ってはいないため、叔父と契約済みなら他者に使われることはできないはずとのこと。
(え?そっち?)
使うの意味がそっち方面なのかとちょっと慄いてしまったが、『別におかしくないだろう?』とバルトブレイクは首を傾げていた。
『魔剣は主人のために身を捧げて尽くすんだ。そう言った奉仕という意味では一緒だ』
そう言うものなんだろうか?
よくわからない。
とは言えバルトブレイクがそう言うのならきっとそうなんだろう。
「よかった」
一先ず犯されていないのなら一安心だ。
そう思ったのも束の間、バルトブレイクの言葉に慌てて動く羽目に。
『可哀想に。余程怖かったんだろうな。主人のステータスを上げまくって助けてと必死に訴えていたようだ』
「え……?」
『今のルーシャン、いやルシアンか。あいつのステータスは今一人で国を取りにいけるほどの恐ろしい状態になっている。下手を打つと魔法一発で城は吹き飛ぶし、この王都は一夜で火の海にされるぞ?』
「ええっ?!」
そんなまさかと一気に血の気が引く。
そんなことが果たして可能なのだろうか?
『カイザーリードは俺よりもまだまだ若い魔剣だが、その能力はある意味ずば抜けている。ステータス上昇という魔剣スキルにおいて、あいつの右に出るものはまず存在しないだろう』
「そ…それはちなみに今、どのくらい上昇させてるんだ?」
『追い詰められすぎて限界突破している節がある。ざっくり見積もってステータス上昇率は5倍だ』
通常魔剣とのシンクロ率というものはどれほど高くとも100%で、ステータスの上昇率も100%。つまり元のステータスの二倍となる。
それだけでも脅威なのに、まさかの五倍。
叔父の元々持っているスペック自体がずば抜けているのに、更にその五倍だなんて────。
「お、終わった…」
最早どこにも逃げようがない。
殺される。
早く手を打たなければ。
「誰ぞ!騎士団長を呼べ!」
「今からでしょうか?!」
「国の存亡に関わる一大事だ!即呼び出せ!」
「畏まりました!」
取り敢えず騎士団を動かし、早急に事の収拾を図らなければならない。
実行犯であるゴロツキと奴隷商は勝手に処刑して大丈夫だろうか?
一応叔父の意見も聞いた方がいいかもしれない。
一先ず身柄を確保したら牢に放り込んでおこう。
関わったとされる貴族も身柄を押さえて軟禁だ。
早急に聴取せねばならない。
そしてやってきた騎士団長としっかり話し合い、既に遅い時間ではあるが王命を出し貴族の身柄を押さえに行ってもらった。
騎士団長の話では今叔父は愛しの魔剣を慰め中らしいから、そちらに目が行っている隙にできる限り片付けてしまおう。
そして睡眠時間を削りあれこれとやっていたら隣国から不穏な手紙が届けられた。
魔剣の父親だ。
『息子が行方不明になったと聞いたが本当か』
『元敵国の者だからと不当な扱いをするなら然るべき抗議を行う』
『早急に捜索を求む』
平たく言うと上から目線でそんなことが書かれてあった。
こちらが敗戦国だからと言っていくらなんでももっと言いようがあるだろうに。
こっちは国の存亡をかけて今必死に対処中なのにとイラッとさせられる。
腹が立ったから、既に身柄を婚約者に引き渡したのでご安心をと送ってやった。
叔父と息子を引き離したい向こうからすればきっとイラッとすることだろう。
(ざまあみろ)
因縁のある相手だからこそ一矢報いたくもなるというもの。
これくらいは許容範囲だろう。
「はっきり言って叔父上の怒りの方が絶対に怖い」
しみじみそう思いながら、俺は深々と息を吐いた。
***
【Side.ユージィン】
隣国バルトロメオから手紙が届き、驚愕した。
カイザーリードが従兄妹達と一緒にルシアンに会いに行ったというのだから驚くなと言う方が難しい。
従兄妹のダニエルとダイアンはカイザーリードが可哀想だと同情的で、『強引に引き離すから余計に燃え上がるのだ』などと書かれてあった。
それは確かにそういった面はあったかもしれないと反省しきりだ。
でもせめて向こうに行く前に相談の一つでもしてくれれば護衛を用意するなりなんなりしてやれたのにと思わなくもない。
もしかしてそれほど反対されると思われてしまったのだろうか?
(もっと何度も伯爵家に顔を出して、もう少し歩み寄りの姿勢を見せておけばよかった…)
しつこく訪問して嫌われたら嫌だなと思ってしまったのがそもそもの間違いだった。
まさかこんな強硬手段に出るほどルシアンに夢中だとは……。
そしてその手紙を妻へと見せると、ほらやっぱりと言わんばかりの顔で言われてしまう。
「恋は障害が大きければ大きいほど燃え上がるものですわ。最悪このまま二人が駆け落ちしても許してやってくださいまし」
「駆け落ち?!誘拐の間違いだろう?!」
カイザーリードはあんなに無垢で可愛いんだから、唆す方が悪い。
「もしそうなったらルシアンをひっ捕まえて吊し上げてやる!」
「貴方…」
俺の可愛い息子がどんどん親離れしていくと嘆いていたその日の夜、まさかまさかで本当に攫われたかもしれないと言う手紙が送られてきて死ぬかと思った。
しかも攫ったのはルシアンではなく裏ルートの者の可能性が高いと────。
「カイ!」
状況的に迷子になったところを攫われたのではないかと書かれてあり、それを聞くだけで居ても立ってもいられなくなった。
カイザーリードは見目が良い上に箱入りだから、ふらふら一人で歩いていたら攫われても全くおかしくはない。
こんなことになるのならもっと幼い内に外へと連れ出し、世の中の怖さを少しでも教えてやっておけばよかった。
そんな後悔と共に飛び出そうとしたところで妻に止められてしまう。
「貴方!冷静に。これから馬を飛ばしても隣国に着くのには数日かかります。その前に外務大臣に頼んであちらのお国に連絡を入れておくべきでは?」
「そ、そうだな」
どうやらすっかり冷静さを欠いてしまっていたようだと反省し、サラサラと手紙を書いてその足で外務大臣の元へと馬を飛ばした。
外務大臣はこんな時間に何事だと驚いた様子だったが、有難いことにすぐさまあちらへと直通の魔法陣を使って手紙を発送してくれる。
「ご子息が無事であることを祈っております」
そう言ってくれたが果たして無事に見つかってくれるだろうか?
そうして屋敷へと戻り、ジリジリと眠れぬまま時間だけが経過していく中、外務大臣のところから早馬で手紙が届けられた。
あまりにも早い返信に『探しておく』とでも書かれてあるのだろうかと思いつつ封を切ると、そこには既に身柄を発見し婚約者へと引き渡したと書かれてあって目が丸くなってしまった。
非常に早くて有難い対応ではあったが、まさかこんな形で二人を会わせる羽目になるなんてと頭が痛くなってしまう。
これでは更に二人の仲が燃え上がることは間違いない。
(落ち着け)
向こうからすればある意味一番文句なしに安全な引き渡し先であると判断してのことなんだろう。
それ自体は間違ってはいない。
事情を知らなければ尤もな判断だ。
でも問題はそこではなく、今こうしている間にも息子が襲われているんじゃないかと気が気じゃなくて、やっぱり迎えに行こうという気持ちになった。
「……エリアンヌ。ちょっとバルトロメオまで行ってくる」
「貴方!危険ですわ」
妻がそう言うのも無理はない。
今現在魔剣を持ってはいないとは言え、俺は向こうの元王弟の命を奪い敗戦に追い込んだ敵の中の敵とも言うべき存在だ。
正体がバレれば袋叩きにあって殺されてしまうかもしれない。
でもどうしても自分でカイザーリードを迎えに行ってやりたかった。
「ちゃんと身分は伏せるし、護衛も一緒に連れて行く。武器も持っていくし十分気を付けるつもりだ」
だから行かせてほしい。
真摯にそう訴えると妻は少ししてからフゥと息を吐き、仕方なさげに送り出してくれた。
「わかりました。でも本当に気を付けて」
「ああ。ありがとう」
そして俺は翌朝準備をしっかり整え、護衛と共にバルトロメオへと旅立った。
(取り敢えず二人に会ったら今度はちゃんと話し合おう)
成人までsexを我慢するなら会ってもいいとちゃんと言えばいいだけの話だ。
そう心に誓いながら────。
叔父と城で晩餐を楽しみ、見送ってゆっくりと寛いでいると、突然騎士団長から火急の知らせがあったと報告を受けた。
とは言え特に城内が騒がしくなっているという感じではない。
となると騎士団内部で何かがあったと言う可能性は低いだろう。
ならなんだと言う話になるのだが────。
(叔父上関連か?)
その可能性は非常に高い。
騎士団長は前世の叔父を崇拝していた。
だからこそ生まれ変わったと聞いていの一番に自分の目で確かめたいと申し出てきたほどだ。
もし偽物だったらその場で殺すと言わんばかりの迫力で嘆願されたから打ち合いの許可も出した。
結果は言わずもがな。
生まれ変わってもルーシャン殿下は変わらず素晴らしいと称賛の声を上げていた。
だからこそ今日は軍の指導を頼んだのだろう。
事情を知らない者達からすれば『なんだこの小僧は?』状態だったことだろう。
まあそれでも実力を認めさせてしまうのが叔父だ。
天才的なまでの腕前には本当に憧憬の念を抱かざるを得ない。
本気で俺なんかよりもずっと国王になれる器を持っているから性質が悪いのだ。
自国へと生まれ変わっていたなら、それこそ一番に警戒すべき人物になっていたことだろう。
(まあ本人は面倒臭いとか言いそうだが…)
宰相の地位などに就いてフォローしてもらえれば、あっという間に国が潤いそうだなと思わなくもない。
敵にすれば恐ろしいが味方につければこれ以上ないほど心強い。それが叔父だ。
そんな叔父と何とか上手くやっていきたい気持ちは当然のことながら大きい。
けれど────騎士団長からの火急の知らせという手紙へと目を通し、俺は一気に頭が痛くなった。
そこにはこの国の貴族の子息が、叔父の現婚約者をレイプさせた挙句に奴隷商に売った疑惑があると書かれてあったからだ。
その婚約者自身は騎士団長がたまたま運よく保護することができたそうだが、相当ショックを受けているらしい。
叔父が知れば恐らくその貴族の子息は即殺されることだろう。
(裏を取らねば…)
少しでも火の粉が飛んでこないように早めに手を打つしかない。
そうして頭を抱える俺にバルトブレイクが声を掛けてきた。
『レンスニール。何があった?』
「……叔父上の婚約者が犯されて奴隷商に売られたらしい」
『……犯されたと言うのは恐らく未遂に終わってるだろうが、それでもあいつは怒り狂うだろうな』
バルトブレイク曰く、カイザーリードは魔剣の本質を失ってはいないため、叔父と契約済みなら他者に使われることはできないはずとのこと。
(え?そっち?)
使うの意味がそっち方面なのかとちょっと慄いてしまったが、『別におかしくないだろう?』とバルトブレイクは首を傾げていた。
『魔剣は主人のために身を捧げて尽くすんだ。そう言った奉仕という意味では一緒だ』
そう言うものなんだろうか?
よくわからない。
とは言えバルトブレイクがそう言うのならきっとそうなんだろう。
「よかった」
一先ず犯されていないのなら一安心だ。
そう思ったのも束の間、バルトブレイクの言葉に慌てて動く羽目に。
『可哀想に。余程怖かったんだろうな。主人のステータスを上げまくって助けてと必死に訴えていたようだ』
「え……?」
『今のルーシャン、いやルシアンか。あいつのステータスは今一人で国を取りにいけるほどの恐ろしい状態になっている。下手を打つと魔法一発で城は吹き飛ぶし、この王都は一夜で火の海にされるぞ?』
「ええっ?!」
そんなまさかと一気に血の気が引く。
そんなことが果たして可能なのだろうか?
『カイザーリードは俺よりもまだまだ若い魔剣だが、その能力はある意味ずば抜けている。ステータス上昇という魔剣スキルにおいて、あいつの右に出るものはまず存在しないだろう』
「そ…それはちなみに今、どのくらい上昇させてるんだ?」
『追い詰められすぎて限界突破している節がある。ざっくり見積もってステータス上昇率は5倍だ』
通常魔剣とのシンクロ率というものはどれほど高くとも100%で、ステータスの上昇率も100%。つまり元のステータスの二倍となる。
それだけでも脅威なのに、まさかの五倍。
叔父の元々持っているスペック自体がずば抜けているのに、更にその五倍だなんて────。
「お、終わった…」
最早どこにも逃げようがない。
殺される。
早く手を打たなければ。
「誰ぞ!騎士団長を呼べ!」
「今からでしょうか?!」
「国の存亡に関わる一大事だ!即呼び出せ!」
「畏まりました!」
取り敢えず騎士団を動かし、早急に事の収拾を図らなければならない。
実行犯であるゴロツキと奴隷商は勝手に処刑して大丈夫だろうか?
一応叔父の意見も聞いた方がいいかもしれない。
一先ず身柄を確保したら牢に放り込んでおこう。
関わったとされる貴族も身柄を押さえて軟禁だ。
早急に聴取せねばならない。
そしてやってきた騎士団長としっかり話し合い、既に遅い時間ではあるが王命を出し貴族の身柄を押さえに行ってもらった。
騎士団長の話では今叔父は愛しの魔剣を慰め中らしいから、そちらに目が行っている隙にできる限り片付けてしまおう。
そして睡眠時間を削りあれこれとやっていたら隣国から不穏な手紙が届けられた。
魔剣の父親だ。
『息子が行方不明になったと聞いたが本当か』
『元敵国の者だからと不当な扱いをするなら然るべき抗議を行う』
『早急に捜索を求む』
平たく言うと上から目線でそんなことが書かれてあった。
こちらが敗戦国だからと言っていくらなんでももっと言いようがあるだろうに。
こっちは国の存亡をかけて今必死に対処中なのにとイラッとさせられる。
腹が立ったから、既に身柄を婚約者に引き渡したのでご安心をと送ってやった。
叔父と息子を引き離したい向こうからすればきっとイラッとすることだろう。
(ざまあみろ)
因縁のある相手だからこそ一矢報いたくもなるというもの。
これくらいは許容範囲だろう。
「はっきり言って叔父上の怒りの方が絶対に怖い」
しみじみそう思いながら、俺は深々と息を吐いた。
***
【Side.ユージィン】
隣国バルトロメオから手紙が届き、驚愕した。
カイザーリードが従兄妹達と一緒にルシアンに会いに行ったというのだから驚くなと言う方が難しい。
従兄妹のダニエルとダイアンはカイザーリードが可哀想だと同情的で、『強引に引き離すから余計に燃え上がるのだ』などと書かれてあった。
それは確かにそういった面はあったかもしれないと反省しきりだ。
でもせめて向こうに行く前に相談の一つでもしてくれれば護衛を用意するなりなんなりしてやれたのにと思わなくもない。
もしかしてそれほど反対されると思われてしまったのだろうか?
(もっと何度も伯爵家に顔を出して、もう少し歩み寄りの姿勢を見せておけばよかった…)
しつこく訪問して嫌われたら嫌だなと思ってしまったのがそもそもの間違いだった。
まさかこんな強硬手段に出るほどルシアンに夢中だとは……。
そしてその手紙を妻へと見せると、ほらやっぱりと言わんばかりの顔で言われてしまう。
「恋は障害が大きければ大きいほど燃え上がるものですわ。最悪このまま二人が駆け落ちしても許してやってくださいまし」
「駆け落ち?!誘拐の間違いだろう?!」
カイザーリードはあんなに無垢で可愛いんだから、唆す方が悪い。
「もしそうなったらルシアンをひっ捕まえて吊し上げてやる!」
「貴方…」
俺の可愛い息子がどんどん親離れしていくと嘆いていたその日の夜、まさかまさかで本当に攫われたかもしれないと言う手紙が送られてきて死ぬかと思った。
しかも攫ったのはルシアンではなく裏ルートの者の可能性が高いと────。
「カイ!」
状況的に迷子になったところを攫われたのではないかと書かれてあり、それを聞くだけで居ても立ってもいられなくなった。
カイザーリードは見目が良い上に箱入りだから、ふらふら一人で歩いていたら攫われても全くおかしくはない。
こんなことになるのならもっと幼い内に外へと連れ出し、世の中の怖さを少しでも教えてやっておけばよかった。
そんな後悔と共に飛び出そうとしたところで妻に止められてしまう。
「貴方!冷静に。これから馬を飛ばしても隣国に着くのには数日かかります。その前に外務大臣に頼んであちらのお国に連絡を入れておくべきでは?」
「そ、そうだな」
どうやらすっかり冷静さを欠いてしまっていたようだと反省し、サラサラと手紙を書いてその足で外務大臣の元へと馬を飛ばした。
外務大臣はこんな時間に何事だと驚いた様子だったが、有難いことにすぐさまあちらへと直通の魔法陣を使って手紙を発送してくれる。
「ご子息が無事であることを祈っております」
そう言ってくれたが果たして無事に見つかってくれるだろうか?
そうして屋敷へと戻り、ジリジリと眠れぬまま時間だけが経過していく中、外務大臣のところから早馬で手紙が届けられた。
あまりにも早い返信に『探しておく』とでも書かれてあるのだろうかと思いつつ封を切ると、そこには既に身柄を発見し婚約者へと引き渡したと書かれてあって目が丸くなってしまった。
非常に早くて有難い対応ではあったが、まさかこんな形で二人を会わせる羽目になるなんてと頭が痛くなってしまう。
これでは更に二人の仲が燃え上がることは間違いない。
(落ち着け)
向こうからすればある意味一番文句なしに安全な引き渡し先であると判断してのことなんだろう。
それ自体は間違ってはいない。
事情を知らなければ尤もな判断だ。
でも問題はそこではなく、今こうしている間にも息子が襲われているんじゃないかと気が気じゃなくて、やっぱり迎えに行こうという気持ちになった。
「……エリアンヌ。ちょっとバルトロメオまで行ってくる」
「貴方!危険ですわ」
妻がそう言うのも無理はない。
今現在魔剣を持ってはいないとは言え、俺は向こうの元王弟の命を奪い敗戦に追い込んだ敵の中の敵とも言うべき存在だ。
正体がバレれば袋叩きにあって殺されてしまうかもしれない。
でもどうしても自分でカイザーリードを迎えに行ってやりたかった。
「ちゃんと身分は伏せるし、護衛も一緒に連れて行く。武器も持っていくし十分気を付けるつもりだ」
だから行かせてほしい。
真摯にそう訴えると妻は少ししてからフゥと息を吐き、仕方なさげに送り出してくれた。
「わかりました。でも本当に気を付けて」
「ああ。ありがとう」
そして俺は翌朝準備をしっかり整え、護衛と共にバルトロメオへと旅立った。
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