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55.その頃宿では…
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「ん…」
朝起きると隣から『おはよう』の言葉と共にキスが降ってきた。
「カイ。身体は大丈夫か?」
「ル、ルシィ?!」
昨日のことを思い出して慌てて起き上がると、そのまま抱き寄せられてもう一度キスされた。
でもだからこそこれが夢じゃないと実感できて、胸がジワリジワリと喜びに満ち溢れていく。
「服は適当に用意させたから着替えようか」
そう言いながら俺の手を取って笑顔を浮かべるルシアンに、ついつい見惚れてしまう。
ルシアンと一緒にいられるのはやっぱり嬉しい。
「今日は家を買いに行く約束だからな。朝食を食べたらすぐ出掛けよう」
そう言われたところで、大事なことを思い出した。
「ルシィ!忘れてたけど、従兄妹達に連絡したい!」
「ああ、一緒にここまで来たという…」
「そう!」
「わかった。じゃあ先にそっちに顔を出そうか」
「ありがとう」
きっと昨日帰ってこなかった自分を心配しているはず。
そう思って、お世話になった騎士団長にお礼を言ってから宿へと向かった。
***
【Side.ダニエル】
従弟のカイザーリードと旅をしてやっとの思いで元敵国であるバルトロメオ国へとやってきたものの、ここでのジュリエンヌ国への敵意はあちらこちらで散見された。
だから極力ジュリエンヌ国から来たとバレないよう気を配り、どこから来たかと聞かれれば逆側に隣接する他国の国境の街を口にするようにしていた。
そうすれば遠くから来たんだなと言われて終わりだったし、敵意を向けられることもなかったからだ。
そうしてやっとカイザーリードの婚約者に会えると思った矢先、会えないという返事が届けられた。
カイザーリードのショックは相当のものだっただろう。
でも婚約者の気持ちもわからなくはない。
義叔父であるユージィン卿は兎角カイザーリードを溺愛していて、今回の件もそう簡単には許してくれそうもない雰囲気を漂わせていた。
子を守りたい親からすればある程度はそうなるだろうけど、ユージィン卿のあれは少々度を超えている。
カイザーリードが女性だったらわからなくはないが、男同士なんだし、もうちょっと大らかに見てやればいいのにと思ってしまう自分がいた。
これではカイザーリードも可哀想だ。
そんな義叔父相手に隙を見せれば二度と会わせてもらえないかも知れない。
婚約者は多分そう思い込んでしまったんだろう。
本当にカイザーリードと言い婚約者と言い、どちらも生真面目過ぎる。
こっそり会えばいいだけの話だろうに。
(なんとかしてやりたいな)
秘密裏にでいい。なんとか二人を会わせてやりたい。
そう思って、落ち込むカイザーリードをクラスメイトと共に街へと送り出し、その間に妹であるダイアンにも相談しながら婚約者へと手紙を書いた。
まあ平たく言うと、二人が内密に会えるよう手伝うからカイザーリードに会ってやってほしいという内容だ。
ついでに義叔父へも手紙を書く。
二人はこんなに我慢しあってお互いに心を痛めているのだと、少しでも伝わるように。
あまり追い詰めたら駆け落ちしてしまうかも…と匂わせたらちょっとは考えを改めてくれるだろうか?
(いや。それはダメだな)
でもカイザーリードを見ているとそのうち『家を捨てる』とか言い出しそうだし、少しくらいは焦るように書いてみるか。
そうしてつらつらと字を書き綴り、インクが乾いたところで手紙に封をし、出しに行った。
忌避されている国に手紙が届くのかって?
実は最速で届く。
郵便局員は宛先がジュリエンヌ国だと見るや否や、嫌悪に歪んだ顔で魔法陣の描かれた箱へと放り込むからだ。
その姿は1秒でも手紙を視界にとどめたくはないと言わんばかり。
まあそれ以上に当然のように料金は多く取られるが、そこは仕方がない。
届けてもらえるだけ有り難く思うべきだろう。
「助かるよ。また頼む」
チップをスッと差し出し笑顔でその場から去れば特にどうということもない。
こういうちょっとの手間がここで絡まれないコツというやつなのだ。
必要経費とも言えるだろう。
そうして自らの安全を確保しつつ宿へと戻ると、俺の顔を見るなりダイアンが焦ったように縋り付いてきた。
「ダニエル!大変なの!」
そして先程例の街案内をかって出てくれたクラスメイトがやってきて、カイザーリードと人混みではぐれてしまったが帰ってきていないかと尋ねてきたのだと聞かされた。
帰っていないと答えたらもう少し探してみると言って急いで去って行ったとのこと。
「全くあいつは…」
ここに来るまでにもフラフラと危なっかしい様子が見られたから、あれほど注意してきたのにとついつい溜息が出てしまう。
「しょうがない。探しに行くか」
そして俺はダイアンに宿で待機しておくよう言い置いて、カイザーリードを探しに出掛けた。
けれど探しても探しても見つからず、段々焦りが込み上げてくる。
カイザーリードは見目がすこぶる良い。
しかも素直な性格で警戒心も薄く、隙も多い。
(マズイな。もしかして本当に攫われたんじゃ…)
そう思って一度宿にも戻っていないか確認しに戻ってみたものの、やはり戻っていないと言われたため、ダイアンと一緒に警吏に捜索願いを出しに行くことにした。
身分証の提示が求められるからできれば避けたかったが、背に腹は変えられないし、カイザーリードの身の安全が第一だと思ったからだ。
けれどやはりと言うべきか、俺達がジュリエンヌ国の者達だと知るや否やのらりくらりと話を引き延ばされて、挙句に『攫われていたら行き先はオークションでしょう。なぁにすぐには殺されませんよ。ちゃんとそちら方面で探しておくので連絡を待っててください。どうぞお引き取りを』と薄ら笑いで追い出された。
最悪だ。
「やっぱり俺達で探そう」
「そうね。それしかないわ」
とは言え外はもう真っ暗だ。
「今日は義叔父上に手紙だけ書いて、明日朝一番に探しに行こう」
「そうね。さっき言っていたオークションというのも気になるわ。情報屋に依頼を出して聞いてみましょう」
どうか無事でいてくれ。
そう願いながら俺達は眠れぬ夜を過ごした。
朝起きると隣から『おはよう』の言葉と共にキスが降ってきた。
「カイ。身体は大丈夫か?」
「ル、ルシィ?!」
昨日のことを思い出して慌てて起き上がると、そのまま抱き寄せられてもう一度キスされた。
でもだからこそこれが夢じゃないと実感できて、胸がジワリジワリと喜びに満ち溢れていく。
「服は適当に用意させたから着替えようか」
そう言いながら俺の手を取って笑顔を浮かべるルシアンに、ついつい見惚れてしまう。
ルシアンと一緒にいられるのはやっぱり嬉しい。
「今日は家を買いに行く約束だからな。朝食を食べたらすぐ出掛けよう」
そう言われたところで、大事なことを思い出した。
「ルシィ!忘れてたけど、従兄妹達に連絡したい!」
「ああ、一緒にここまで来たという…」
「そう!」
「わかった。じゃあ先にそっちに顔を出そうか」
「ありがとう」
きっと昨日帰ってこなかった自分を心配しているはず。
そう思って、お世話になった騎士団長にお礼を言ってから宿へと向かった。
***
【Side.ダニエル】
従弟のカイザーリードと旅をしてやっとの思いで元敵国であるバルトロメオ国へとやってきたものの、ここでのジュリエンヌ国への敵意はあちらこちらで散見された。
だから極力ジュリエンヌ国から来たとバレないよう気を配り、どこから来たかと聞かれれば逆側に隣接する他国の国境の街を口にするようにしていた。
そうすれば遠くから来たんだなと言われて終わりだったし、敵意を向けられることもなかったからだ。
そうしてやっとカイザーリードの婚約者に会えると思った矢先、会えないという返事が届けられた。
カイザーリードのショックは相当のものだっただろう。
でも婚約者の気持ちもわからなくはない。
義叔父であるユージィン卿は兎角カイザーリードを溺愛していて、今回の件もそう簡単には許してくれそうもない雰囲気を漂わせていた。
子を守りたい親からすればある程度はそうなるだろうけど、ユージィン卿のあれは少々度を超えている。
カイザーリードが女性だったらわからなくはないが、男同士なんだし、もうちょっと大らかに見てやればいいのにと思ってしまう自分がいた。
これではカイザーリードも可哀想だ。
そんな義叔父相手に隙を見せれば二度と会わせてもらえないかも知れない。
婚約者は多分そう思い込んでしまったんだろう。
本当にカイザーリードと言い婚約者と言い、どちらも生真面目過ぎる。
こっそり会えばいいだけの話だろうに。
(なんとかしてやりたいな)
秘密裏にでいい。なんとか二人を会わせてやりたい。
そう思って、落ち込むカイザーリードをクラスメイトと共に街へと送り出し、その間に妹であるダイアンにも相談しながら婚約者へと手紙を書いた。
まあ平たく言うと、二人が内密に会えるよう手伝うからカイザーリードに会ってやってほしいという内容だ。
ついでに義叔父へも手紙を書く。
二人はこんなに我慢しあってお互いに心を痛めているのだと、少しでも伝わるように。
あまり追い詰めたら駆け落ちしてしまうかも…と匂わせたらちょっとは考えを改めてくれるだろうか?
(いや。それはダメだな)
でもカイザーリードを見ているとそのうち『家を捨てる』とか言い出しそうだし、少しくらいは焦るように書いてみるか。
そうしてつらつらと字を書き綴り、インクが乾いたところで手紙に封をし、出しに行った。
忌避されている国に手紙が届くのかって?
実は最速で届く。
郵便局員は宛先がジュリエンヌ国だと見るや否や、嫌悪に歪んだ顔で魔法陣の描かれた箱へと放り込むからだ。
その姿は1秒でも手紙を視界にとどめたくはないと言わんばかり。
まあそれ以上に当然のように料金は多く取られるが、そこは仕方がない。
届けてもらえるだけ有り難く思うべきだろう。
「助かるよ。また頼む」
チップをスッと差し出し笑顔でその場から去れば特にどうということもない。
こういうちょっとの手間がここで絡まれないコツというやつなのだ。
必要経費とも言えるだろう。
そうして自らの安全を確保しつつ宿へと戻ると、俺の顔を見るなりダイアンが焦ったように縋り付いてきた。
「ダニエル!大変なの!」
そして先程例の街案内をかって出てくれたクラスメイトがやってきて、カイザーリードと人混みではぐれてしまったが帰ってきていないかと尋ねてきたのだと聞かされた。
帰っていないと答えたらもう少し探してみると言って急いで去って行ったとのこと。
「全くあいつは…」
ここに来るまでにもフラフラと危なっかしい様子が見られたから、あれほど注意してきたのにとついつい溜息が出てしまう。
「しょうがない。探しに行くか」
そして俺はダイアンに宿で待機しておくよう言い置いて、カイザーリードを探しに出掛けた。
けれど探しても探しても見つからず、段々焦りが込み上げてくる。
カイザーリードは見目がすこぶる良い。
しかも素直な性格で警戒心も薄く、隙も多い。
(マズイな。もしかして本当に攫われたんじゃ…)
そう思って一度宿にも戻っていないか確認しに戻ってみたものの、やはり戻っていないと言われたため、ダイアンと一緒に警吏に捜索願いを出しに行くことにした。
身分証の提示が求められるからできれば避けたかったが、背に腹は変えられないし、カイザーリードの身の安全が第一だと思ったからだ。
けれどやはりと言うべきか、俺達がジュリエンヌ国の者達だと知るや否やのらりくらりと話を引き延ばされて、挙句に『攫われていたら行き先はオークションでしょう。なぁにすぐには殺されませんよ。ちゃんとそちら方面で探しておくので連絡を待っててください。どうぞお引き取りを』と薄ら笑いで追い出された。
最悪だ。
「やっぱり俺達で探そう」
「そうね。それしかないわ」
とは言え外はもう真っ暗だ。
「今日は義叔父上に手紙だけ書いて、明日朝一番に探しに行こう」
「そうね。さっき言っていたオークションというのも気になるわ。情報屋に依頼を出して聞いてみましょう」
どうか無事でいてくれ。
そう願いながら俺達は眠れぬ夜を過ごした。
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