【完結】元主人が決めた婚約者は、まさかの猫かぶり野郎でした。

オレンジペコ

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43.確認 Side.レンスニール

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叔父からの手紙を受け取った後、出来るだけ早く動いた方がいいのかと思いはしたものの、仕事に忙殺されてなかなか会いに行けなかった。
やっとひと段落ついた頃には既に一か月が経過しており、一先ず様子を知るために留学先である学園へと問い合わせてみることに。
すると流石に敵国から来たということで数々の軋轢があるとの情報が入ってきた。
あの叔父の事だからさぞかし苛烈にやらかしているのだろうと思いつつ話を聞いたのだが────。

「……物腰が穏やか?」
「はい。絡んでいる相手は皆手酷い目に合っているのですが、彼自身は普段から笑顔の絶えない穏やかな雰囲気の青年なのです。あれだけされても笑顔で日々を過ごせている姿が逆に怖いという教師まで出る始末。いやはや並みの胆力の持ち主ではありませんよ」

その言葉に俺は首を傾げた。
胆力があるのは認めるが、聞かされたその性格は叔父とはかけ離れているようにしか思えなかったからだ。
だからこそ『やっぱりあの手紙は叔父を騙った詐欺師の可能性もあるのでは?』という考えが頭を過ったのかもしれない。

(だってあの叔父上だぞ?)

昔から頭脳明晰で剣も魔法も一級品の麒麟児。
『20才過ぎれば只の人』という言葉を高笑いで蹴り飛ばす、何をやらせてもこなせてしまう天才肌。
ここだけ切り取れば王位に就いてももおかしくはない完璧な人だが、いかんせん性格に少々問題があった。
兄王には従うし、カリスマ性もあり懐に入れた者には慕われる傾向はあったが、冷酷無慈悲な面があり、怒らせたら殺されると何度も幼心に思ったものだ。

一言で言えば逆らう者には容赦はしない人。

それが叔父だ。
そんな叔父が穏やかな態度を崩さず学園生活を送っている?
敵国からの留学生としてやって来て、不遇な待遇を受ける中、一貫してそんな態度を取り続けるだなんて有り得ないだろう。
もし叔父が本当に転生しているのなら既に死人が出ていても全くおかしくはないはず。

「…探らせるか」

そうして暗部に素性を伏せた上で素行調査を依頼したが、どうにも掴みどころがない人物で今一つ判断がつかなかった。

「仕方がない。直接会ってみるか」

それがやはり一番確実だ。
もし違っていたなら王族を騙った罪で牢に放り込めばいい。
当然その場合は死者への冒涜の罪も加わって極刑待ったなしとなるがそれはそれで仕方のないことだ。
本物なら粛々と話を聞けば済むし、何も問題はない。

「行くか」

そうして俺は仕事を調整し、学園へと足を運んだ。


***


視察名目で一般教師の格好で眼鏡をかけ、学園長に案内されながら校内を回る。

「あそこにいるのがジュリエンヌ国からの留学生、ルシアン=ジェレアクトです」

遠目に見えるその者は見た目こそ勇ましい叔父とは大きく違っていたが、その魔力自体は叔父と全く同じものを有していた。

(本当に叔父上だ)

見た目だけで言うなら穏やかで柔和な雰囲気なのに、内包している魔力が叔父の猛々しさを表しているため非常におかしなことになっている。
あれではいくら猫を被っていようと無駄だろう。
元々敵意を持っている者達からすれば、無自覚に挑発されている気分になるのもわからなくはない。

そして今まさに敵意剥き出しで叔父へと攻撃する者が…。
今は魔法の授業中ではあるのだが、5人ほどで叔父へと一斉に攻撃を仕掛けたのだ。
しかも下級魔法ではなく上級魔法。
恐らく各個人の隠し玉とでもいうような攻撃力の最も高いもののはず。
授業でこれはあり得ないだろう。

「くらえぇえっ!」
「そんなに熱くなって。ちょっと頭を冷やした方がいいですよ?」

にこやかに余裕の表情でそう口にし、片手で上級の水魔法、片手で風魔法を繰り出し生徒達を圧倒的な力量差で吹き飛ばす叔父。
生徒達の放った魔法は全て相殺されているし、相殺しきれなかった分で死なない程度に調整された威力でやられている。
あれを狙ってやったのなら相当な熟練度だろう。
流石の天才だとしか言えない。

「ちょっと来週の演習でチームに入れてほしいと言っただけなのに、酷いです。嫌なら嫌と言ってもらえればこちらもすんなり引き下がったのに」

しかもあからさまにしょんぼり肩を落とす演技をしている姿にこちらはドン引きだ。
あれに騙される奴なんて……って、結構いるのか?!
まさかと思ったがクラスの半分くらいは何故か叔父に同情的な眼差しを向けている気がする。
あれはいつの間にか懐柔されてしまっているんだろうか?

(な、なんて恐ろしい)

前世とは違う手で周囲を篭絡している姿にちょっと慄いてしまった。

「ジェ、ジェレアクト!」

そうこうしているうちに、同情していた者の中から意を決したような声が一つ上がる。

「お、俺と組まないか?」

彼は確か子爵家の嫡男だっただろうか?
確かパーティーで見かけたことがある。

「その…俺はそんなに凄い魔法は使えないけど、い、嫌じゃなければ…」

段々尻すぼみになって視線が下がっていく彼に叔父の目がキラリと光り、満面の笑みが向けられる。

「本当ですか?嬉しいです!」

その声に子爵家の息子の顔がパッと上に上がる。

「魔法なんて鍛えればすぐに上達するので、演習までに底上げしましょう。連携もできた方がいいですし、仲良くしてくださいね」

そう言って叔父は何事もなかったかのように彼へと歩みより、笑顔で握手を交わしたが、納得がいかなかったのがやられた相手(こちらは確か伯爵家の者)だった。

「てめぇ!ふざけるな!」

恐らく先程まで反撃のチャンスを窺い魔力を練っていたんだろう。
良く練られた魔力で放たれた氷魔法が叔父へと襲い掛かる。
けれど叔父は子爵家の者に向けていた笑顔から一転、ゾッとするほどの冷淡な表情でその魔法を即相殺。
しかもそのまま何の前置きもなく雷魔法を放った。

それは低級魔法ではあったが、水浸しになっていた者にとっては最悪の攻撃へと変わる。

「ぎゃああああっ?!」
「大丈夫ですか?」

そっと労わるように感電してビクビクと身を震わせる伯爵家令息へと近づく叔父。

「ああ、これは保健室に行った方が良さそうですね」

その言葉と共にクラスメイトが飛んでくる。
どうやらこんなことは日常茶飯事の様子。
手慣れた感じで介抱し始めた。
それを感謝の眼差しで見つめながら叔父は言うのだ。

「お大事に」

言葉は優しい。
態度や表情も労りに彩られてはいる。
でも目だけは違っていた。
自分の目にはまるで『自業自得だ。馬鹿め』と言っているようにしか見えなかった。
なのに学園長は俺の隣で感心したように言葉を紡いでくる。

「いきなり不意打ちで攻撃してきた相手にも慈悲を見せるとは、なかなか素晴らしい為人ですな」
「え?」
「力量も文句なしに素晴らしいですし、いやあ実に惜しい。留学生でなく、我が国の貴族であったなら、皆の素晴らしい手本となったでしょうに」

(いや。あれを手本にしたらマズいと思うぞ?)

そんなことを考えながら俺はヒクつく頬を隠し、なんとか国王の威厳を保ちながら『そうだな』と首肯したのだった。


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