【完結】元主人が決めた婚約者は、まさかの猫かぶり野郎でした。

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
45 / 81

42.制裁 Side.ルシアン

しおりを挟む
学園に入ってからひと月が経った。
嫌がらせ自体は鳴りを潜め、そこかしこでヒソヒソと陰口を叩かれるくらいの可愛いものだ。
特に害はない。
問題があるとすれば教師達の方だろう。
いくら授業で成果を出そうと、全てマイナス評価とはどう言う了見だ?
腹が立つから、今度の演習授業で魔物を強化して嗾けてやろうかと思わず考えてしまったくらいだ。
まあいい。
今はそれよりもクラスの掌握が肝心だ。
ジワリジワリと良識ある者達の罪悪感を煽った甲斐もあり、猫を被りながら笑顔で挨拶を繰り返していたら気まずそうにしながらも微かに頭を下げてくる者も出てきた。
ひと月でこれなら半年後には全員俺の配下に置けるだろう。

そうほくそ笑んでいたのも束の間、帰りに寮へと向かう道すがら、何者かの襲撃にあった。
油断したタイミングでプロに襲わせる。
なかなかどうして、常套手段に出たものだ。
俺が予想していないとでも思ったんだろうか?
浅はかにも程がある。

全員剣を手に持っているが、魔力も高い。
どうやらそれなりの腕を持つ相手のようだ。
これは身を入れて戦わないとうっかり怪我をしてしまうかもしれない。
そう思い、空間魔法【収納】に入れていた剣を取り出した。
これは魔剣ではないがそこそこ腕の良い鍛冶師が作ったもので俺も気に入っている。

最初『魔法を纏わせられるように作ってほしい』と注文を出した時は『魔剣のご注文ですね。わかりました』と言われ、『違う。普通の剣でそれができる剣を作ってほしい』と言ったら『絶対に無理ですよ?!』と慄かれたものだ。
魔剣だと契約が必要になるし、カイザーリードがいるのに浮気になるだろうと思ったからかなり無理を言ったのだが、最終的にその鍛冶師は知恵を絞ってこの剣を作り出してくれた。
『やればできるじゃないか』と言ったらげっそりした顔で『勘弁してください。こんな依頼二度と御免です』と泣かれたが、『客のニーズに応えてこその職人だろう?』と言って金貨百枚を渡してやったら『毎度あり!また何時でもどうぞ!メンテナンスも受け付けておりますので!』と言われた。現金なものだ。

まあそれはこの際どうでもいい。
今この瞬間こそ、この剣の本領を発揮できるというものだ。

「かかってこい」

そう言って青い炎を剣へと纏わせて賊へと対峙してやると、『魔剣か?!』と慄きながらも戦闘態勢を取り、連携を取りながら襲い掛かってきた。

剣戟は全ていなし、魔法は同威力の魔法でできる限り相殺していく。
それらを潜り抜けて襲い掛かってくる魔法はシールドの魔法で防ぎ、一人また一人と敵を減らしてやった。
大体学生一人の闇討ちにプロをけしかけ、10人規模で襲わせるなんてどこのどいつだ?

(俺じゃなかったらあっさり殺されていたぞ?)

そう思いながら地面に沈んだ最後の一人、恐らくリーダー格であろう相手を思い切り踏みつけてやる。

「誰に頼まれた?」

殺意を乗せ、低く問いかけると震えながら『こ、答えられねぇ』と言ってきた。

「さっさと吐いた方が身のためだぞ?」
「ほ、本当に答えられねぇんだ!魔法契約で、依頼主に関しては何も話せねぇことになってるっ…!」
「ほぉ?」

それならそれで方法はなくはない。

「この中に見覚えのある顔はあるか?」
「え…?」
「話す必要はない。目を止めるだけで十分だ。それに今俺は『依頼主を言え』と言ったわけじゃない。『見覚えのある顔はあるか?』と訊いたんだ。どうだ?」

その言葉に男が恐る恐る目の前に広げられた映像へと目を向ける。
これは【メモリー】という、記憶から人物を空間投影する魔法だ。
俺に恨みを抱いていそうな相手を厳選して映し出してみた。

「まずは生徒達」

それに対し男はフルリと横に首を振る。
どうやらこの中にはいなかった様子。

「次は教師達」

それらを見遣り、男は一人の男へと目を止めた。

「なるほど。こいつか」

男は答えなかったが、目はそうだと暗に語っていた。

「十分だ。これに免じて今回は見逃してやろう」

そう言って俺は男達を置き去りにその場を離れる。

(それにしてもまさか教師が暗殺者を嗾けてくるとはな)

先程の暗殺者が示した相手は初日に俺に突っかかってきた教師だった。
バケツを持った生徒ではなく俺に怒鳴ってきたあいつだ。
あの男はどうやらずっと根に持っていたらしい。
恥をかかされたとでも思ったのかもしれない。

「全く。プライドだけは一人前だな」

傍迷惑にもほどがある。
そんな男にはきっちり躾を施さねば。

そう思い俺は早速その日の夜にその教師の部屋へと向かった。

「なっ?!お前っ!どうしてここに?!」

慄きながら俺に怒鳴りつけてくる教師。
煩いな。
外に声が漏れないように結界を張っておこう。

何故部屋を知っていたのか?
そんなもの魔力を辿ればいくらでも辿り着けるだろうに。

「先生。ダメですよ?純真な生徒に暗殺者を差し向けるだなんて。危うく死んでしまうところだったじゃありませんか」
「お前のどこが純真だ?!そ、そもそも私が暗殺者を仕向けたなど、どこに証拠があるというんだ?!言い掛かりにも程があるぞ?!」
「そうですね。それは確かにそうかもしれませんね」
「ハハッ!ほら見ろ。わかったならさっさと出ていけ!不法侵入で訴えてやる!」

こちらに証拠がないとわかり、忽ち勢いづく教師ににこりと笑う。

「じゃあ疑わしきは罰せよということで、お仕置きさせていただきます」
「は?!疑わしきは罰せずの間違いだろう?!ちょっ、な、何をする気だ?!ぎゃああああっ?!」
「心配しなくてもちょっと動きを封じた上で大事なところに電撃をお見舞いして、後ろに物を突っ込んで写真を撮るだけですよ」
「ひぃっ?!や、やめろぉおおおっ!」
「大人しくしていたらここまでしなかったのに…。それとも、馬鹿は死なないとわからないか?」

前半は猫を被って、後半は素で殺気を放ってやったら失禁して自ら醜態を晒してきたからそのまま写真に収めてやった。
そして少々の仕置きをしてからきっちりと釘を刺す。

「これに懲りたら二度とふざけた真似はしないでくださいね?先生」

けれどそれに対する返事はない。
まあ半ば放心状態のようだし、さもありなん。
きっとこれに懲りて二度と闇討ちなんかしようとは思わないことだろう。

そう満足げに笑みを浮かべ、俺は悠々と自室へと帰ったのだった。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

耳が聞こえない公爵令息と子爵令息の幸せな結婚

竜鳴躍
BL
マナ=クレイソンは公爵家の末っ子だが、耳が聞こえない。幼い頃、自分に文字を教え、絵の道を開いてくれた、母の友達の子爵令息のことを、ずっと大好きだ。 だが、自分は母親が乱暴されたときに出来た子どもで……。 耳が聞こえない、体も弱い。 そんな僕。 爵位が低いから、結婚を断れないだけなの? 結婚式を前に、マナは疑心暗鬼になっていた。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

処理中です...