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36.叔父からの手紙 Side.バルトロメオ国国王

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「陛下。お忙しい中失礼致します。少々お時間をいただけないでしょうか?」

文官がおずおずとそう尋ねてきたから、簡潔に言えと促すと、不審な手紙が届いたから判断を仰ぎたいとの事だった。

「不審な手紙?」

そんなもの、文官の手で適当に処理すべき案件だろうに。
余程気になる差出人だったのだろうか?

「誰からだ?」
「それが…死者からとしか思えないものなのです」

文官からの答えに俺は目を丸くする。

「死者?」
「はい。幾人にも確認を取ったのですが、差出人としてあるサインは、陛下の叔父君、ルーシャン殿下の筆跡でございました」

けれどそんなことはあり得ないということくらいこの城の誰もが知っている。
彼は17年前の戦争で死んだのだ。
実は死んだのは影武者で、本人は生きていたという可能性もない。
叔父を手厚く葬る際、立ち会ったのは自分だったし、仄かに残留する魔力は叔父のもので、どうあっても見間違うなどあり得なかった。
だから当然その手紙は赤の他人からに決まっているのだが…。

「…貸してみろ」

叔父を騙って何がしたいのかが気になった。
そしてその手紙へと目を通すと────。

「……はぁ」

そこには見たことのある筆跡で、確かに叔父が書いたのだと納得のいく言葉の数々が見受けられた。
曰く、我が国の国宝バルトブレイクの魔法で隣国に生まれ変わったらしい。
このままこちらへは関わらず過ごそうと思っていたそうだが、自分を殺したユージィンに嵌められて留学することになったから、ついでにバルトブレイクに礼を伝えに行きたいと書かれてあった。
しかもこちらの足元を見るかのように前世での隠し財産をチラつかせ、小遣いとしてくれてやっても良いと書いてある。
念のためバルトブレイクに確認は取るつもりだが、この性格の悪さは確実に叔父本人に違いない。

「……この件はこちらで対処する。ご苦労だった。持ち場へ戻れ」

そして文官を見送り、俺は最近になってやっと契約してくれた魔剣バルトブレイクの元へと向かった。


***


「バルトブレイク。叔父を名乗る者から手紙が来た」

宝物庫ではなく叔父の遺品として返還されてからずっと自室に置いている宝剣バルトブレイクの黒々とした刀身を見つめながら告げると、その刀身が応えるように仄かに光を纏う。

『そうか』

素気なく返された声に身の内に喜びが広がった。
バルトブレイクは幼い頃からずっと憧れていた魔剣だ。
その魔剣とこうして意思疎通できるのが何よりも嬉しい。

「君が転生させたんだって?」

驚くべき事ではあったが、バルトブレイクにならできるという確信はあった。
持ち主の願いを叶えるという夢のような力は書物にだって多々書き残されているし、幼い頃から何度も聞かされている。
父はバルトブレイクから認めてもらえず弾かれてしまったらしいが、叔父はいとも容易く認められたとか。
それを聞き当時は羨ましく思ったものだ。

そんなバルトブレイクが極最近自分を持ち主として認めてくれた。
この17年、毎日話しかけていたからかと思ったが、どうやら違ったようだ。

『あいつは死に際に敵の魔剣に在ろう事か欲情してな。欲しい欲しいと煩かったんだ。普通そんな時は死にたくないと願うものだろう?なのにどうしてもあの魔剣が欲しいと願っていたから、叩き折らせて一緒に転生させてやったんだ』

どこか呆れたようなバルトブレイク。
でも気持ちはわかる。
普通そんな時に魔剣に欲情したりはしない。

『先日無事に契約がなされたのか、俺との繋がりがプツリと切れた。だから安心してお前と契約した次第だ』

なるほど。
つまり、二人がくっついたとわかったから俺と契約してくれたのか。

「手紙によると、叔父上はバルトブレイクに礼が言いたいらしい」
『そうか』
「後は…隠し財産の一部を俺に小遣いとしてくれるそうだ」
『ハハッ。アレか』
「知っているのか?」
『勿論だ。アイツは敵将とのやり取りが余程楽しかったらしくてな、金のかかる戦争を少しでも長引かせようと金策しまくっていたんだ』
「まさか…」
『本当だ。裏切り者が出なければ、もっと戦争は続いただろうな』
「……叔父上」

一体どこまで溜め込んだんだろう?
戦争する気満々だ。
流石にこれ以上の損害があったかも知れないなんて想像もしたくない。
父と言い叔父と言い、どうしてそう好戦的なのか。

『勘違いするな。あいつは戦争が好きなわけではなかった。ただ初めて楽しいと思ったのが敵との凌ぎ合いだったというだけの話だ』
「……傍迷惑な話だな」

そんな叔父も今は愛しの敵の魔剣と相思相愛か。
なんだか感慨深い。

『レンスニール。あの変態の手紙の内容を読んで聞かせてくれないか?』
「プッ…、変態って。でも……ハハハッ!フォローのしようがないな」

そして俺はバルトブレイクに手紙を読んであげながら、どこか感傷的な気持ちに浸ったのだった。


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