24 / 81
21.別荘にて
しおりを挟む
屋敷へ一歩足を踏み入れると、使用人達がズラッと並んで出迎えてくれて歓迎してもらえた。
こんなこと初めてだから物凄くびっくりしてしまう。
やっぱり久しぶりに来た主家の者を出迎えるから、どうしても仰々しくなってしまうんだろうか?
ルシアンは気にした様子もなく俺の手を取りながらスタスタと歩いていくし、俺はただエスコートされるがままについて行くことしかできない。
「連絡した通り今回は俺と婚約者の二人だけなんだ。よろしく。部屋は同室にしてもらえたかな?」
ルシアンのその言葉に家令らしき壮年の男性が戸惑うように『本当によろしいのですか?』と尋ねたけど、ルシアンは『不慣れな場所に連れてきてしまった婚約者を一人にして不安にさせるほど甲斐性無しのつもりはない。面倒は全部俺が見るから大丈夫』なんて言い出したから不覚にもドキッとしてしまった。
猫を被っているルシアンに『男前だな』と思ったのは初めてかもしれない。
「では、ご案内いたします」
そして用意された部屋へと案内されたのだけど、兎に角広い。
ドアをくぐった先に何部屋あるんだと数えたくなるくらいだ。
これなら全然同じ部屋でも大丈夫だろう。
比べちゃダメだけど、これまでの宿とは大違いだ。
「カイ。この後の晩餐も楽しみにしているといい。名物料理が目白押しだからな」
荷物を整理しソファで一息ついているとルシアンが俺の腰を引き寄せ髪にキスを落としながらそう言ってきた。
名物料理…気になる。
前世では食事なんて関係なかったけど、今世では幼い頃から父が『カイ、これは父さんの好きな料理なんだ。口に合うか?』とか『この料理は昔母さんと付き合うきっかけになった料理で…』等々色んなエピソードを教えてくれながら食べてきたから、それなりに興味があった。
美味しかったらレシピを聞いて、帰ってから屋敷のシェフに作ってもらえるかもしれない。
美味しい料理を食べたらきっと両親も笑顔になるだろうし、旅行を楽しめて良かったなと言ってもらえる気がした。
それから間もなく晩餐の席へと移動し、美味しい料理に舌鼓を打ってからルシアンと一緒に庭へと向かう。
陽も落ちて薄暗くなってはいるものの、雪が月明かりを受けているせいか比較的明るく見える。そこに色とりどりの光り輝く魔石が各所に配置され、それはもう美しい幻想的な光景が広がっていて、思わず見惚れてしまった。
「すご…」
「気に入った?」
侍女達が一緒だからか猫を被った姿でそう言ってくるけど、今の俺はそれよりも目の前の光景に目を奪われていたからそれどころではない。
(こんなの初めて見た)
そうして立ち尽くしていたら、ルシアンが小声で物騒な言葉を呟いた気がした。
「チッ…。魔石を全部破壊してやりたくなるな」
聞き間違い?いや。きっと気のせいだろう。
もしそれが本当なら折角の美しい光景が台無しだ。
「カイ。折角だし、デートがてら歩こう?」
にこやかな笑みで俺へと手を差し伸べてくるルシアン。
うん。やっぱりさっきのは聞き間違いだったんだな。
そして仲良く手を繋ぎながら庭園を歩く。
ルシアンとこんな風にいい雰囲気になるなんて旅行前は思ってもみなかった。
得も言われぬ幻想的な庭を婚約者と歩くのはなんだか緊張して鼓動が早くなっている気がする。
トクトクと鳴る鼓動を抱えながらそっとルシアンの方を見つめると、背景と相俟って二割増しでカッコよく見えた。
(…………ヤバい。思った以上に重傷だ)
恋してるんだと自覚しただけなのに、どうしてこうも変わってしまったのか。
これまではイライラすることだって多かったのに、今はそれが鳴りを潜めて、全部好意に変わってしまっている気がする。
(俺ってこんなに単純だったっけ?)
でもそれも仕方がないことかもしれない。
前世では複雑な人の感情の機微なんて俺には関係なかったし、興味もなかった。
ただ主人と相思相愛であればそれで良かったのだから。
今世で人として生き、それを少しずつ学んでいっている状態なんだし、前向きに考えよう。
そう考えながらキュッとルシアンと繋いだ手に力を込める。
「カイ?」
どうかしたかと振り向いてくるルシアンに、俺ははにかむように笑いながら素直に気持ちを吐露した。
「こんなに綺麗な庭をルシアンと一緒に歩けて、嬉しいなって思って」
ヘヘッと笑うとまるで不意打ちを食らったような虚を突かれた顔になった後、急に抱き寄せられてギュッと抱きしめられた。
「カイ。今夜、放してやれなくなったらすまない」
「???」
どこか切なげな声で小さく耳元で囁かれて、言われている意味が分からず困惑する。
また抱き枕にしたいってことか?
多分そういう意味だよな?
(昨日だって一晩中抱きしめて寝てただろうに。変なルシアン)
でもまあここは婚約者として大らかに受け止めるべきだろう。
(よしっ!)
「ルシアンが好きなだけ俺を独占していいからな」
「…………っ!カイ!」
何故かその後メチャクチャ激しくキスされたんだけど、そんなに感動したのか?!
流石に侍女達の前ではやめてくれ。
恥ずかしさが半端ない。
でもどう足掻いても逃がしてはもらえなくて、俺は腰砕けになるほど唇を貪られてしまった。
こんなこと初めてだから物凄くびっくりしてしまう。
やっぱり久しぶりに来た主家の者を出迎えるから、どうしても仰々しくなってしまうんだろうか?
ルシアンは気にした様子もなく俺の手を取りながらスタスタと歩いていくし、俺はただエスコートされるがままについて行くことしかできない。
「連絡した通り今回は俺と婚約者の二人だけなんだ。よろしく。部屋は同室にしてもらえたかな?」
ルシアンのその言葉に家令らしき壮年の男性が戸惑うように『本当によろしいのですか?』と尋ねたけど、ルシアンは『不慣れな場所に連れてきてしまった婚約者を一人にして不安にさせるほど甲斐性無しのつもりはない。面倒は全部俺が見るから大丈夫』なんて言い出したから不覚にもドキッとしてしまった。
猫を被っているルシアンに『男前だな』と思ったのは初めてかもしれない。
「では、ご案内いたします」
そして用意された部屋へと案内されたのだけど、兎に角広い。
ドアをくぐった先に何部屋あるんだと数えたくなるくらいだ。
これなら全然同じ部屋でも大丈夫だろう。
比べちゃダメだけど、これまでの宿とは大違いだ。
「カイ。この後の晩餐も楽しみにしているといい。名物料理が目白押しだからな」
荷物を整理しソファで一息ついているとルシアンが俺の腰を引き寄せ髪にキスを落としながらそう言ってきた。
名物料理…気になる。
前世では食事なんて関係なかったけど、今世では幼い頃から父が『カイ、これは父さんの好きな料理なんだ。口に合うか?』とか『この料理は昔母さんと付き合うきっかけになった料理で…』等々色んなエピソードを教えてくれながら食べてきたから、それなりに興味があった。
美味しかったらレシピを聞いて、帰ってから屋敷のシェフに作ってもらえるかもしれない。
美味しい料理を食べたらきっと両親も笑顔になるだろうし、旅行を楽しめて良かったなと言ってもらえる気がした。
それから間もなく晩餐の席へと移動し、美味しい料理に舌鼓を打ってからルシアンと一緒に庭へと向かう。
陽も落ちて薄暗くなってはいるものの、雪が月明かりを受けているせいか比較的明るく見える。そこに色とりどりの光り輝く魔石が各所に配置され、それはもう美しい幻想的な光景が広がっていて、思わず見惚れてしまった。
「すご…」
「気に入った?」
侍女達が一緒だからか猫を被った姿でそう言ってくるけど、今の俺はそれよりも目の前の光景に目を奪われていたからそれどころではない。
(こんなの初めて見た)
そうして立ち尽くしていたら、ルシアンが小声で物騒な言葉を呟いた気がした。
「チッ…。魔石を全部破壊してやりたくなるな」
聞き間違い?いや。きっと気のせいだろう。
もしそれが本当なら折角の美しい光景が台無しだ。
「カイ。折角だし、デートがてら歩こう?」
にこやかな笑みで俺へと手を差し伸べてくるルシアン。
うん。やっぱりさっきのは聞き間違いだったんだな。
そして仲良く手を繋ぎながら庭園を歩く。
ルシアンとこんな風にいい雰囲気になるなんて旅行前は思ってもみなかった。
得も言われぬ幻想的な庭を婚約者と歩くのはなんだか緊張して鼓動が早くなっている気がする。
トクトクと鳴る鼓動を抱えながらそっとルシアンの方を見つめると、背景と相俟って二割増しでカッコよく見えた。
(…………ヤバい。思った以上に重傷だ)
恋してるんだと自覚しただけなのに、どうしてこうも変わってしまったのか。
これまではイライラすることだって多かったのに、今はそれが鳴りを潜めて、全部好意に変わってしまっている気がする。
(俺ってこんなに単純だったっけ?)
でもそれも仕方がないことかもしれない。
前世では複雑な人の感情の機微なんて俺には関係なかったし、興味もなかった。
ただ主人と相思相愛であればそれで良かったのだから。
今世で人として生き、それを少しずつ学んでいっている状態なんだし、前向きに考えよう。
そう考えながらキュッとルシアンと繋いだ手に力を込める。
「カイ?」
どうかしたかと振り向いてくるルシアンに、俺ははにかむように笑いながら素直に気持ちを吐露した。
「こんなに綺麗な庭をルシアンと一緒に歩けて、嬉しいなって思って」
ヘヘッと笑うとまるで不意打ちを食らったような虚を突かれた顔になった後、急に抱き寄せられてギュッと抱きしめられた。
「カイ。今夜、放してやれなくなったらすまない」
「???」
どこか切なげな声で小さく耳元で囁かれて、言われている意味が分からず困惑する。
また抱き枕にしたいってことか?
多分そういう意味だよな?
(昨日だって一晩中抱きしめて寝てただろうに。変なルシアン)
でもまあここは婚約者として大らかに受け止めるべきだろう。
(よしっ!)
「ルシアンが好きなだけ俺を独占していいからな」
「…………っ!カイ!」
何故かその後メチャクチャ激しくキスされたんだけど、そんなに感動したのか?!
流石に侍女達の前ではやめてくれ。
恥ずかしさが半端ない。
でもどう足掻いても逃がしてはもらえなくて、俺は腰砕けになるほど唇を貪られてしまった。
28
お気に入りに追加
766
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

耳が聞こえない公爵令息と子爵令息の幸せな結婚
竜鳴躍
BL
マナ=クレイソンは公爵家の末っ子だが、耳が聞こえない。幼い頃、自分に文字を教え、絵の道を開いてくれた、母の友達の子爵令息のことを、ずっと大好きだ。
だが、自分は母親が乱暴されたときに出来た子どもで……。
耳が聞こえない、体も弱い。
そんな僕。
爵位が低いから、結婚を断れないだけなの?
結婚式を前に、マナは疑心暗鬼になっていた。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
婚約破棄された俺の農業異世界生活
深山恐竜
BL
「もう一度婚約してくれ」
冤罪で婚約破棄された俺の中身は、異世界転生した農学専攻の大学生!
庶民になって好きなだけ農業に勤しんでいたら、いつの間にか「畑の賢者」と呼ばれていた。
そこに皇子からの迎えが来て復縁を求められる。
皇子の魔の手から逃げ回ってると、幼馴染みの神官が‥。
(ムーンライトノベルズ様、fujossy様にも掲載中)
(第四回fujossy小説大賞エントリー中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる