【完結】元主人が決めた婚約者は、まさかの猫かぶり野郎でした。

オレンジペコ

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14.本屋にて

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気づけば馬車で寝入っていて、俺はルシアンに揺り起こされて初めて次の街に到着したと知った。
なんだか物凄く申し訳ない。

「ルシアン。その…肩痛くないか?」
「平気だよ?」

ニコッと猫かぶり全開で笑う姿にまたドキッとして何も言えなくなる。

(どうして俺ばっかり翻弄されないといけないんだ…!)

なんだか振り回されてばかりで嫌になる。
こんな思い、前世では一度も経験したことがない。

(前世が恋しい…)

魔剣だった頃はこんな感情に振り回されることなんてなかった。
主人の為に力を奮い、主人にのみ尽くせばそれでよかった。
それなのに……。

「カイ?」

俺の顔を覗き込んでくるルシアンに複雑な感情を抱いてしまって、モヤモヤしたものが俺の中でずっと燻っている。
好きとか嫌いとかそう言った単純な感情とは違う気がするし、憎いとか忌々しいとかそういう強い負の感情でもない言葉にできないこの感情にイライラする。

そんな俺を見て、何を思ったのかルシアンが俺の手をそっと握った。

「カイ。本屋にでも行かないか?」
「本屋?」
「ここニノの街は学者が集まる街として有名で、結構大きな本屋があるんだ」
「へぇ…」

本屋か。
屋敷にも書庫はあったものの、そこには当然領主に必要な本ばかり取り揃えられていた。
そう言ったものとは違う本も見られるだろうか?
それこそ人特有の感情について書かれた本があるなら是非手に取ってみたいと思う。

そして俺は興味が引かれるままにルシアンに連れられて本屋へと向かったのだけど────。

見渡す限りの本、本、本。
これだけ本があるとどこをどう探せばいいのかさっぱりわからない。
ここはもう頼りたくはないけどルシアンに頼らざるを得ないだろう。

「ル、ルシアン」
「ん?」
「人の感情について詳しく書かれた本はあるか?」
「人の感情?」

前世の俺を知るルシアンならきっと察してくれるはずと思って思い切って尋ねると、護衛の方をチラッと見た後に『心理学の本はこっちだよ』と案内してくれた。

「はい」

そう言って手渡された本がちゃんと求めているものか確認すべく、パラリとページをめくってみる。
正直言って俺はルシアンを信用しきれていない。
騙して見当はずれの本を渡されることも覚悟していた。
でもそれは確かに人の心理について書かれていたからホッとする。
そして読み進めた結果はというと────。

(なんか違う…!)

そこには確かに人の心理についてが書かれてはあった。
でも難しい言葉であーだこーだ書かれていて、内容もなんとなく俺が求めている答えとは違うもののような気がしてソッと本を閉じて棚に戻す。
そしてその隣にあった本もその更に隣にあった本も手に取って見てみたけど、全部答えをもらえるような中身じゃなかった。
こんなのは予想外だ。

(うぅ…困った)

そんな俺を見て、ルシアンが明るい声で誘ってくれる。

「カイ、俺が読みたい本でも一緒に見ない?ここにある本よりずっと気楽に読めるからお勧めだよ?」

求めていた物がここにないならしょうがない。
俺は気分転換も兼ねてそのルシアンお勧めの本が置かれてある場所へと足を向けた。

「ほら、ここ。最近同性婚の本が人気らしくて沢山出てるんだ」

どうやら実用本という感じではなく創作本といった感じの読み物になってるらしい。
そう言えばこういった本は初めて見たなと興味を引かれて、そっと一冊手に取ってみる。

パラリ。

「…………」

パラリ。

「…………」
「カイ。気に入ったのは見つかった?」
「……ルシアン」
「どうかした?」
「この辺り一帯の本を大量買いしてもいいか?」

馬車が狭くなるかも知れないけど、これはさっきの本以上に今の俺に必要な物だと思い、思わずそう口にしていた。

(今まさにここに俺が知りたかった答えがありそうなんだ!)

切実な思いを込めてジッとルシアンを見つめると、どうやらちゃんとわかってもらえたようで、あっさり『いいよ』と言ってもらうことができた。
嬉しい!

「ルシアン、ありがとう」

俺はその時初めて心からの笑顔をルシアンに向けたのだけど、それを見たルシアンがその笑顔の下でもんどり打って興奮してたなんて知る由もなかった。


****************

※次回は朝アップですが、ちょっぴりRなのでお気をつけください。
苦手な方はパスしてください。
よろしくお願いしますm(_ _)m

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