上 下
8 / 81

閑話2.転生 Side.ルシアン

しおりを挟む
死んだと思ったら赤子に転生していた。
どうやらバルトブレイクの言っていたことは本当だったらしい。
だが赤子にできることなどたかが知れていて、俺は随分長い時間を無駄に過ごした。

ある程度成長してからも、簡単すぎるあれこれをサラリとこなし無駄な時間を省こうとしたら、天才と称され持て囃されてうんざりするほど構われ倒し、肝心のカイザーリードを探す時間を奪われてしまうし、何度舌打ちしたことか。
こっちは早く見つけ出して親しくなりたいというのに…。
そもそも女に転生したのか男に転生したのかすらわからないのだ。
早く探さないと誰かに奪われてしまうかもしれない。
あれは絶対に転生後も人目を惹く見た目をしているに決まっているのだ。
のんびりしている暇はない。

そう思って5才になった時点で茶会に参加し始めたのだが、全くそれらしい相手に出会うことができない。
転生しているのは確かなのに、どうして出会えないのか。
仕方がないから両親に勧められるままに勉学に励み剣を嗜み、魔法を鍛えた。
どれもこれも前世で嫌というほどやったことばかりだから効率的な鍛え方を知っていたし、何だったら教師すら不要だと思った。
こんなことをしている時間があれば早くカイザーリードを見つけ出したい。

そんなことを考えながら月日ばかりが無駄に過ぎ去り、やっと手がかりを掴んだのが9歳の頃。
とあるパーティーに参加して帰宅した両親が仇敵であるユージィン=ユグレシアの話をし始め、いつものように聞きたくないと踵を返したところでその言葉が耳へと飛び込んできたのだ。

「ユージィンはカイザーリードを可愛がるのはいいが、相変わらずの親バカだったな」
「ホホホ。でもとっても子供らしくて可愛らしいではないですか。父君のように完璧な相手と結婚したいだなんて、とても微笑ましいですわ」

(カイザーリード、だと?!)

「…………っ!!」

前世で俺を殺した相手をとことん避けていたのが間違いだったと知り、衝撃を受けた。
考えてみれば当然なのに、どうして俺はそこに思い至らなかったのか。
そもそも魔剣が愛すべき主人の側に転生しないなんてあり得ないではないか。

(まさかユージィンの息子に転生していたなんて…!)

完全に盲点だったと悔しく思い、それと同時に大量の猫を被って両親へと近づいた。

「父上。そのカイザーリード様とはどういった方ですか?」
「お?ルシアン。珍しいな。興味があるのか?」
「はい、とても」
「そうかそうか。カイザーリードは話によると綺麗な青髪に澄んだ水色の瞳の可愛らしい子だそうだ」

間違いない。絶対に魔剣カイザーリードの生まれ変わりだ。
あの美しい刀身を思い出し、俺の身に歓喜が満ちる。

「是非会ってみたいです!」
「そうか。それなら茶会で一度会ってみるといい」

そして10才になってすぐの茶会でやっとその姿を見ることができた。
美しく輝く姿を目にして感動を覚える。
それと共に胸にジワジワと込み上げてくる感情があった。

(ああ、早く手に入れたい)

どう口説けばカイザーリードを手に入れられるだろうか?
そうやってボーッと眺めていたらあっという間に茶会が終わってしまった。

(しまった!)

あまりにも好みの容姿過ぎて、見つめるだけで終わってしまったではないか。
これではダメだ。
早く捕まえに行かないと。
そう思い両親にカイザーリードと婚約したいと即刻言いに行くと、物凄く困ったような顔で言われてしまう。
なんでもカイザーリードは、父ユージィンと同じくらい頭がよく、剣技に優れ、魔法の腕も良く、人当たりもいい相手でなければ結婚したくないと言っているのだとか。
それを受けてユージィンが相手に対し吟味に吟味を重ねているため、これまで数多の婚約話が消えていっているらしい。

(クッ…クククッ。素晴らしい。素晴らしいぞカイザーリード!)

何と言ってもそのお陰で俺が手を下すまでもなく、邪魔な奴らが近寄っていけなかったのだから。

「大丈夫です。僕ならきっと条件を満たせますから、是非ユグレシア侯爵家へ婚約の打診をお願いいたします」

そして俺はその日から今まで以上に剣技を磨き、魔法を鍛え、人当たりの良さをアピールするために猫を被り、あらゆるプラス材料になりそうな技能の習得に励みながら勉学へと身を投じた。

(ふん。ユージィンを超えることくらい朝飯前だ。見ていろカイザーリード。お前の婚約者の座は俺が頂く)

それから数年後、憎いユージィンにまで愛想を振りまき、俺は念願だったカイザーリードの婚約者の座を射止めることに成功する。

(ああ、やっと。やっとだ。カイザーリード)

「初めまして。カイザーリード=ユグレシアだ。よろしく」
「初めまして。ルシアン=ジェレアクトです。会えるのを楽しみにしていました」

にこやかに笑いながら俺は待ち望んでいた獲物を前に内心で舌舐めずりをする。

捕まえたからにはもう絶対に逃がさない。
美しく成長したお前を一刻も早く食べてしまいたい。
きっとその唇はどこまでも甘美に俺を酔わせてくれることだろう。
そんなことを考えながら、俺は愛しのカイザーリードを熱く見つめたのだった。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...