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7.旅行へ
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エスコートされて乗り込んだ馬車の中、また押し倒されるんじゃないかと物凄く警戒していたものの、終始ルシアンはご機嫌で、特に問題が起こることもなく学園へと到着した。
下りてからも教室でもルシアンの様子は至って普通そのもの。
でも却ってそれが俺には罠のように感じられて、つい警戒心が増してしまった。
けれどそれから警戒すること三か月。
常に警戒し続けているというのに、ルシアンは何のアクションも起こしてこなかった。
もしかして俺は遊ばれたんだろうか?
(いや、でも…)
きっと何か考えがあるはずだ。
前世でもあの将軍はこちらを翻弄するように動き、主人も何度も苦労させられていた。
だからわかる。これは作戦なのだ。
思い出せ。
あいつはどんな風に動き、どんな風に策を練っていた?
陽動作戦が多かった気はするが、こと今回の件では使えない…よな?
じゃあ何が狙いだ?
俺の油断を誘っているのだけは確かだと思うが…。
気づけば俺はそんな風にルシアンの事ばかり考えていて、それこそがコイツの狙いだったなんて全く気づいてもいなかった。
***
「カイ。帰ろう」
入学から半年経っても全く変わらぬ柔らかな笑み。
変わったのは背の高さくらいだろうか?
出会った当初は同じか俺の方が少し高かったはずが、いつの間にか追い抜かれてしまっていた。
そんなルシアンだが、一緒に過ごす時間に慣れてきたこともあって俺も最近ちょっとは歩み寄ってもいいかもなんて思い始めていて、実は気を引き締め直している最中だった。
────猫かぶりもずっとその猫をかぶってくれていればそれが本当の姿になるんじゃないか?
そんな考えが頭を過って、常に警戒してなくてもいいかもしれないとさえ感じ始めていた。
でもそれが狙いかもしれないからとなんとか気を引き締め続ける日々。
俺の中にある『大丈夫だ』という感情と、『気を抜くな』という感情がせめぎ合って思考が鈍る。
だからかもしれない。
ルシアンの誘いを安易に受けてしまったのは。
「カイ。少し先の話になるけど、年末に一緒に旅行へ行かないか?」
「旅行?」
「そう。毎年うちは家族でジェレアクト家の別荘で過ごすんだけど、聞いた話によるとその別荘近くの街でホワイトフェスティバルっていうお祭りが開かれてるらしいんだ。カイと一緒に楽しめたらと思ったんだけど、どうかな?」
「お祭り…」
生まれてこの方祭りというものには行ったことがない。
ホワイトフェスティバルと言うからには雪祭りのようなものなんだろうか?
(雪なんて殆ど見たことないな)
チラチラと舞う雪を見たことがあるくらいで、積もったところなんて見たことすらない。
だから凄くそれが魅力的な誘いに思えて、気づけば俺は二つ返事で了承していた。
「行きたい!」
「じゃあ両親にも伝えておくよ。俺達の仲を心配していたからきっと喜んでくれると思う」
それからというもの、俺の警戒心はあっさりと下火になり、馬車の中で旅行の話や祭りの話などをするようになった。
でもせめて言い訳くらいはさせてもらいたい。
『毎年家族で別荘で過ごしている』とか、『両親にも伝えておく』と言われた時点で家族旅行に混ぜてもらうんだと思い込んでいたんだ。
だってそうだろう?
普通婚約者と二人だけで旅行になんて行かないと思う。
それが間違った認識だと気付いたのは旅行に出る当日のこと。
勿論護衛やお付きの世話係はいたけど、ルシアンの両親の姿はどこにもない。
不思議に思って尋ねて初めて嵌められたのだと気が付いた。
「たまには別のところに旅行に行きたいって他の兄妹が言い出してさ。両親も心配だからってそっちについて行くことになったんだ」
「……え?」
「俺はしっかりしてるから二人きりでも大丈夫だろうって笑顔で言ってもらえたよ」
「…………」
「カイ。折角の二人きりの旅行だし、いっぱい楽しもうね?」
満面の笑みでしてやったりと笑う堕天使の笑みに俺は身を震わせながら叫びを上げる。
「だ、だ、だ、騙したな~~~~?!」
「騙してないよ?俺は一言も両親と一緒だなんて言ってないし。勘違いしたのはカイだから俺は悪くないよね?」
そして俺を馬車へと押し込み、見送りの者達へと笑顔で手を振って、ある程度距離が開いたところでニヤリと笑った。
「あんなに警戒していたのに残念だったな?」
「こ、この二重人格の猫かぶり野郎!!油断した俺が馬鹿だった!」
久方ぶりの豹変に動揺して鼓動が弾む。
いつもと違う姿に一瞬見惚れたなんて気のせいだ!
「そう悲観するな。ちゃんと楽しい旅行にしてやるぞ?」
「なっなんで今まで何もしなかったんだよ?!」
「してほしかったのか?それは悪かった。警戒するお前が可愛くて俺ももっと早く襲いたかったんだが…背が思うように伸びなくてな」
「……は?」
「お前より大きくなってから襲いたかったんだ」
ニコッとそんなことを言ってくるけど、どう考えてもおかしいだろ?!
「嘘つけ」
「ククッ。でもそのお陰で毎日俺のことで頭がいっぱいだっただろう?」
「……っ!」
「楽しい旅行にしような?カイ」
そう言ってルシアンは俺の顎を掬い上げ、そっと唇を重ねた。
下りてからも教室でもルシアンの様子は至って普通そのもの。
でも却ってそれが俺には罠のように感じられて、つい警戒心が増してしまった。
けれどそれから警戒すること三か月。
常に警戒し続けているというのに、ルシアンは何のアクションも起こしてこなかった。
もしかして俺は遊ばれたんだろうか?
(いや、でも…)
きっと何か考えがあるはずだ。
前世でもあの将軍はこちらを翻弄するように動き、主人も何度も苦労させられていた。
だからわかる。これは作戦なのだ。
思い出せ。
あいつはどんな風に動き、どんな風に策を練っていた?
陽動作戦が多かった気はするが、こと今回の件では使えない…よな?
じゃあ何が狙いだ?
俺の油断を誘っているのだけは確かだと思うが…。
気づけば俺はそんな風にルシアンの事ばかり考えていて、それこそがコイツの狙いだったなんて全く気づいてもいなかった。
***
「カイ。帰ろう」
入学から半年経っても全く変わらぬ柔らかな笑み。
変わったのは背の高さくらいだろうか?
出会った当初は同じか俺の方が少し高かったはずが、いつの間にか追い抜かれてしまっていた。
そんなルシアンだが、一緒に過ごす時間に慣れてきたこともあって俺も最近ちょっとは歩み寄ってもいいかもなんて思い始めていて、実は気を引き締め直している最中だった。
────猫かぶりもずっとその猫をかぶってくれていればそれが本当の姿になるんじゃないか?
そんな考えが頭を過って、常に警戒してなくてもいいかもしれないとさえ感じ始めていた。
でもそれが狙いかもしれないからとなんとか気を引き締め続ける日々。
俺の中にある『大丈夫だ』という感情と、『気を抜くな』という感情がせめぎ合って思考が鈍る。
だからかもしれない。
ルシアンの誘いを安易に受けてしまったのは。
「カイ。少し先の話になるけど、年末に一緒に旅行へ行かないか?」
「旅行?」
「そう。毎年うちは家族でジェレアクト家の別荘で過ごすんだけど、聞いた話によるとその別荘近くの街でホワイトフェスティバルっていうお祭りが開かれてるらしいんだ。カイと一緒に楽しめたらと思ったんだけど、どうかな?」
「お祭り…」
生まれてこの方祭りというものには行ったことがない。
ホワイトフェスティバルと言うからには雪祭りのようなものなんだろうか?
(雪なんて殆ど見たことないな)
チラチラと舞う雪を見たことがあるくらいで、積もったところなんて見たことすらない。
だから凄くそれが魅力的な誘いに思えて、気づけば俺は二つ返事で了承していた。
「行きたい!」
「じゃあ両親にも伝えておくよ。俺達の仲を心配していたからきっと喜んでくれると思う」
それからというもの、俺の警戒心はあっさりと下火になり、馬車の中で旅行の話や祭りの話などをするようになった。
でもせめて言い訳くらいはさせてもらいたい。
『毎年家族で別荘で過ごしている』とか、『両親にも伝えておく』と言われた時点で家族旅行に混ぜてもらうんだと思い込んでいたんだ。
だってそうだろう?
普通婚約者と二人だけで旅行になんて行かないと思う。
それが間違った認識だと気付いたのは旅行に出る当日のこと。
勿論護衛やお付きの世話係はいたけど、ルシアンの両親の姿はどこにもない。
不思議に思って尋ねて初めて嵌められたのだと気が付いた。
「たまには別のところに旅行に行きたいって他の兄妹が言い出してさ。両親も心配だからってそっちについて行くことになったんだ」
「……え?」
「俺はしっかりしてるから二人きりでも大丈夫だろうって笑顔で言ってもらえたよ」
「…………」
「カイ。折角の二人きりの旅行だし、いっぱい楽しもうね?」
満面の笑みでしてやったりと笑う堕天使の笑みに俺は身を震わせながら叫びを上げる。
「だ、だ、だ、騙したな~~~~?!」
「騙してないよ?俺は一言も両親と一緒だなんて言ってないし。勘違いしたのはカイだから俺は悪くないよね?」
そして俺を馬車へと押し込み、見送りの者達へと笑顔で手を振って、ある程度距離が開いたところでニヤリと笑った。
「あんなに警戒していたのに残念だったな?」
「こ、この二重人格の猫かぶり野郎!!油断した俺が馬鹿だった!」
久方ぶりの豹変に動揺して鼓動が弾む。
いつもと違う姿に一瞬見惚れたなんて気のせいだ!
「そう悲観するな。ちゃんと楽しい旅行にしてやるぞ?」
「なっなんで今まで何もしなかったんだよ?!」
「してほしかったのか?それは悪かった。警戒するお前が可愛くて俺ももっと早く襲いたかったんだが…背が思うように伸びなくてな」
「……は?」
「お前より大きくなってから襲いたかったんだ」
ニコッとそんなことを言ってくるけど、どう考えてもおかしいだろ?!
「嘘つけ」
「ククッ。でもそのお陰で毎日俺のことで頭がいっぱいだっただろう?」
「……っ!」
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そう言ってルシアンは俺の顎を掬い上げ、そっと唇を重ねた。
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