上 下
10 / 81

7.旅行へ

しおりを挟む
エスコートされて乗り込んだ馬車の中、また押し倒されるんじゃないかと物凄く警戒していたものの、終始ルシアンはご機嫌で、特に問題が起こることもなく学園へと到着した。

下りてからも教室でもルシアンの様子は至って普通そのもの。
でも却ってそれが俺には罠のように感じられて、つい警戒心が増してしまった。

けれどそれから警戒すること三か月。
常に警戒し続けているというのに、ルシアンは何のアクションも起こしてこなかった。
もしかして俺は遊ばれたんだろうか?

(いや、でも…)

きっと何か考えがあるはずだ。
前世でもあの将軍はこちらを翻弄するように動き、主人も何度も苦労させられていた。
だからわかる。これは作戦なのだ。
思い出せ。
あいつはどんな風に動き、どんな風に策を練っていた?
陽動作戦が多かった気はするが、こと今回の件では使えない…よな?
じゃあ何が狙いだ?
俺の油断を誘っているのだけは確かだと思うが…。

気づけば俺はそんな風にルシアンの事ばかり考えていて、それこそがコイツの狙いだったなんて全く気づいてもいなかった。


***


「カイ。帰ろう」

入学から半年経っても全く変わらぬ柔らかな笑み。
変わったのは背の高さくらいだろうか?
出会った当初は同じか俺の方が少し高かったはずが、いつの間にか追い抜かれてしまっていた。

そんなルシアンだが、一緒に過ごす時間に慣れてきたこともあって俺も最近ちょっとは歩み寄ってもいいかもなんて思い始めていて、実は気を引き締め直している最中だった。

────猫かぶりもずっとその猫をかぶってくれていればそれが本当の姿になるんじゃないか?

そんな考えが頭を過って、常に警戒してなくてもいいかもしれないとさえ感じ始めていた。
でもそれが狙いかもしれないからとなんとか気を引き締め続ける日々。

俺の中にある『大丈夫だ』という感情と、『気を抜くな』という感情がせめぎ合って思考が鈍る。
だからかもしれない。
ルシアンの誘いを安易に受けてしまったのは。

「カイ。少し先の話になるけど、年末に一緒に旅行へ行かないか?」
「旅行?」
「そう。毎年うちは家族でジェレアクト家の別荘で過ごすんだけど、聞いた話によるとその別荘近くの街でホワイトフェスティバルっていうお祭りが開かれてるらしいんだ。カイと一緒に楽しめたらと思ったんだけど、どうかな?」
「お祭り…」

生まれてこの方祭りというものには行ったことがない。
ホワイトフェスティバルと言うからには雪祭りのようなものなんだろうか?

(雪なんて殆ど見たことないな)

チラチラと舞う雪を見たことがあるくらいで、積もったところなんて見たことすらない。
だから凄くそれが魅力的な誘いに思えて、気づけば俺は二つ返事で了承していた。

「行きたい!」
「じゃあ両親にも伝えておくよ。俺達の仲を心配していたからきっと喜んでくれると思う」

それからというもの、俺の警戒心はあっさりと下火になり、馬車の中で旅行の話や祭りの話などをするようになった。

でもせめて言い訳くらいはさせてもらいたい。
『毎年家族で別荘で過ごしている』とか、『両親にも伝えておく』と言われた時点で家族旅行に混ぜてもらうんだと思い込んでいたんだ。

だってそうだろう?
普通婚約者と二人だけで旅行になんて行かないと思う。
それが間違った認識だと気付いたのは旅行に出る当日のこと。
勿論護衛やお付きの世話係はいたけど、ルシアンの両親の姿はどこにもない。
不思議に思って尋ねて初めて嵌められたのだと気が付いた。

「たまには別のところに旅行に行きたいって他の兄妹が言い出してさ。両親も心配だからってそっちについて行くことになったんだ」
「……え?」
「俺はしっかりしてるから二人きりでも大丈夫だろうって笑顔で言ってもらえたよ」
「…………」
「カイ。折角の二人きりの旅行だし、いっぱい楽しもうね?」

満面の笑みでしてやったりと笑う堕天使の笑みに俺は身を震わせながら叫びを上げる。

「だ、だ、だ、騙したな~~~~?!」
「騙してないよ?俺は一言も両親と一緒だなんて言ってないし。勘違いしたのはカイだから俺は悪くないよね?」

そして俺を馬車へと押し込み、見送りの者達へと笑顔で手を振って、ある程度距離が開いたところでニヤリと笑った。

「あんなに警戒していたのに残念だったな?」
「こ、この二重人格の猫かぶり野郎!!油断した俺が馬鹿だった!」

久方ぶりの豹変に動揺して鼓動が弾む。
いつもと違う姿に一瞬見惚れたなんて気のせいだ!

「そう悲観するな。ちゃんと楽しい旅行にしてやるぞ?」
「なっなんで今まで何もしなかったんだよ?!」
「してほしかったのか?それは悪かった。警戒するお前が可愛くて俺ももっと早く襲いたかったんだが…背が思うように伸びなくてな」
「……は?」
「お前より大きくなってから襲いたかったんだ」

ニコッとそんなことを言ってくるけど、どう考えてもおかしいだろ?!

「嘘つけ」
「ククッ。でもそのお陰で毎日俺のことで頭がいっぱいだっただろう?」
「……っ!」
「楽しい旅行にしような?カイ」

そう言ってルシアンは俺の顎を掬い上げ、そっと唇を重ねた。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

魔物好感度MAX勇者は魔王のストーカー!?

ミクリ21
BL
異世界で勇者召喚された七海 凛太郎は、チート能力を活かして魔王ラージュのストーカーをする!

処理中です...