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4.婚約③
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これまで気を利かせて二人きりにしてくれていたのだが、俺の叫び声を聞きつけ、侍女や護衛が飛んできた。
「カイザーリード様?!どうなさいましたか?!」
何か緊急事態かと慌てた様子で尋ねられたものの、どう言ったらいいのか皆目見当がつかない。
こんな時、一体どうしたらいいんだろう?
そんな俺を横目に、先にルシアンが口を開いた。
「すみません。カイザーリード様が親睦を深めたいと仰ってくださったので、嬉しくて『仲良くしてください』と飛びついたら驚かせてしまったようです。お騒がせしました」
「なっ?!」
確かに言った。
言ったけど……!
(問題はそこじゃない…!)
「……カイザーリード様。照れ隠しかもしれませんが、そこはこちらこそよろしくと言わないと」
「そうですよ。『誰が仲良くするか』なんて叫ばれたら、喧嘩でもなさったのかと思ったではないですか」
案の定呆れたような目で責められる俺。
俺が悪いのか?!
悪いのは押し倒して勝手に襲い掛かってきたこいつだろ?!
「だ、だってコイツっ!さっきいきなり、キ、キスしてきて…っ」
「まあ!バランスを崩したところで唇が?!」
「ふふふ。可愛らしい事故ですね。微笑ましいですわ」
「なるほど。それで動揺なさったんですね」
なのに勝手に事故チュー認定されて、その場にいた皆から微笑まし気な目で見られてしまった。
なんでだ?!
どこからどう見てもあれは確信犯だったのに!
そう思いながら睨みつけていたら、騒ぎを聞きつけ両親達までこちらへとやってきてしまった。
「カイ。何があったんだ?」
「父様!こいつがっ!」
怒りのままに真実を告げようとしたところでまたしてもルシアンが口を挟んでくる。
「すみません。カイザーリード様から親睦を深めたいと言っていただけたのが嬉しくて飛びついたら、勢い余ってバランスを崩してしまって…唇がぶつかってしまったんです」
「なっ?!あれはどう見ても確信犯的なキスだっただろ?!」
「え…っ」
まるで何事もなかったかのようにそれらしい言い訳をして煙に巻こうとする態度に腹を立て、俺は即否定の言葉を紡ぐ。
なのにその俺の言葉に驚いたような声を上げ、ルシアンは照れたように頬を染めまつ毛を伏せた。
そんなルシアンを見て皆が皆微笑まし気な眼差しを向けるから、更にイラッとして思い切り睨みつけてしまう。
けれどここで父が見兼ねたように間に入り、場を収めにかかった。
「カイ。ちょっと勢いつき過ぎてたまたま唇が当たっただけだろう?もう婚約者同士なんだし、そう照れ隠しに怒らなくてもいいじゃないか」
「照れ隠しなんかじゃありません!あれは…っ」
「ユグレシア卿。申し訳ありません。全部カイザーリード様に不快な思いをさせてしまった私が悪いんです」
そうだ。こいつが全部悪い!
そう思うのにその場の空気は何故かコイツに同情的になっていく。
なんでだよ?!
「折角同じ学園に入るんです。誤解があったとしても、カイザーリード様とはこれから少しずつ仲良くなっていけたらと思います」
はにかむように控えめに笑うルシアンの姿は傍目には可憐そのもの。
でも俺はもう絶対に騙さない。騙されるものか。
コイツが特大の猫を被っているのはまず間違いはないんだと、嫌と言うほどわかったんだから。
「俺は絶対に仲良くしないからな!」
「カイ!謝りなさい!」
なのにここでこれまで黙っていた母にまで叱責されてしまう。
「こんなに健気で愛らしい婚約者になんてことを言うの!」
「でも母様!」
「いい?カイ。よく聞きなさい。貴方達は将来夫婦になるんだから、最初から否定せず、ちゃんとしっかり話して向き合わないと」
「でも……っ」
「私はね、お互いの良いところをわかり合って初めて幸せな家庭が築けると思うの。だから…」
母の言うことはわかる。
わかるんだけど……。
チラッ。
さりげなくルシアンの方を見る。
するとさっきの豹変具合が嘘のように俺へと不安げな眼差しを向けてくる。
もしかしてアレは何かの間違いだったんだろうかという気になってしまうその雰囲気に、俺は思わずグッと言葉に詰まってしまった。
(いや、でもな…)
あんなに濃厚なキスが間違いなんてそんな馬鹿な話はない。
「…………わかりました。その代わりどうしてもダメだったら婚約は解消させてください」
「わかったわ。その時はまた話し合いましょう」
こうして俺はとんでもない猫かぶり野郎と婚約する羽目になったのだが、この時はまさかあんな事実を告げられることになるなんて、思ってもみなかったのだった。
「カイザーリード様?!どうなさいましたか?!」
何か緊急事態かと慌てた様子で尋ねられたものの、どう言ったらいいのか皆目見当がつかない。
こんな時、一体どうしたらいいんだろう?
そんな俺を横目に、先にルシアンが口を開いた。
「すみません。カイザーリード様が親睦を深めたいと仰ってくださったので、嬉しくて『仲良くしてください』と飛びついたら驚かせてしまったようです。お騒がせしました」
「なっ?!」
確かに言った。
言ったけど……!
(問題はそこじゃない…!)
「……カイザーリード様。照れ隠しかもしれませんが、そこはこちらこそよろしくと言わないと」
「そうですよ。『誰が仲良くするか』なんて叫ばれたら、喧嘩でもなさったのかと思ったではないですか」
案の定呆れたような目で責められる俺。
俺が悪いのか?!
悪いのは押し倒して勝手に襲い掛かってきたこいつだろ?!
「だ、だってコイツっ!さっきいきなり、キ、キスしてきて…っ」
「まあ!バランスを崩したところで唇が?!」
「ふふふ。可愛らしい事故ですね。微笑ましいですわ」
「なるほど。それで動揺なさったんですね」
なのに勝手に事故チュー認定されて、その場にいた皆から微笑まし気な目で見られてしまった。
なんでだ?!
どこからどう見てもあれは確信犯だったのに!
そう思いながら睨みつけていたら、騒ぎを聞きつけ両親達までこちらへとやってきてしまった。
「カイ。何があったんだ?」
「父様!こいつがっ!」
怒りのままに真実を告げようとしたところでまたしてもルシアンが口を挟んでくる。
「すみません。カイザーリード様から親睦を深めたいと言っていただけたのが嬉しくて飛びついたら、勢い余ってバランスを崩してしまって…唇がぶつかってしまったんです」
「なっ?!あれはどう見ても確信犯的なキスだっただろ?!」
「え…っ」
まるで何事もなかったかのようにそれらしい言い訳をして煙に巻こうとする態度に腹を立て、俺は即否定の言葉を紡ぐ。
なのにその俺の言葉に驚いたような声を上げ、ルシアンは照れたように頬を染めまつ毛を伏せた。
そんなルシアンを見て皆が皆微笑まし気な眼差しを向けるから、更にイラッとして思い切り睨みつけてしまう。
けれどここで父が見兼ねたように間に入り、場を収めにかかった。
「カイ。ちょっと勢いつき過ぎてたまたま唇が当たっただけだろう?もう婚約者同士なんだし、そう照れ隠しに怒らなくてもいいじゃないか」
「照れ隠しなんかじゃありません!あれは…っ」
「ユグレシア卿。申し訳ありません。全部カイザーリード様に不快な思いをさせてしまった私が悪いんです」
そうだ。こいつが全部悪い!
そう思うのにその場の空気は何故かコイツに同情的になっていく。
なんでだよ?!
「折角同じ学園に入るんです。誤解があったとしても、カイザーリード様とはこれから少しずつ仲良くなっていけたらと思います」
はにかむように控えめに笑うルシアンの姿は傍目には可憐そのもの。
でも俺はもう絶対に騙さない。騙されるものか。
コイツが特大の猫を被っているのはまず間違いはないんだと、嫌と言うほどわかったんだから。
「俺は絶対に仲良くしないからな!」
「カイ!謝りなさい!」
なのにここでこれまで黙っていた母にまで叱責されてしまう。
「こんなに健気で愛らしい婚約者になんてことを言うの!」
「でも母様!」
「いい?カイ。よく聞きなさい。貴方達は将来夫婦になるんだから、最初から否定せず、ちゃんとしっかり話して向き合わないと」
「でも……っ」
「私はね、お互いの良いところをわかり合って初めて幸せな家庭が築けると思うの。だから…」
母の言うことはわかる。
わかるんだけど……。
チラッ。
さりげなくルシアンの方を見る。
するとさっきの豹変具合が嘘のように俺へと不安げな眼差しを向けてくる。
もしかしてアレは何かの間違いだったんだろうかという気になってしまうその雰囲気に、俺は思わずグッと言葉に詰まってしまった。
(いや、でもな…)
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