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197.花嫁の打診③ Side.カリン

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今日は昼時にブルーグレイからロキ宛に荷物が届いたと聞き驚いて足を運んだ。
どうやらアルフレッドの知り合いがすまなかったという趣旨の詫びの品らしい。
それはいい。それはいいんだが────。

(どうして拷問具が入っている?!)

百歩譲って玩具はまだいい。
いや、よくはないか。
ロキは大喜びしているが、その内容には悪意さえ感じる。
普通より一回り大きめの卑猥な玩具を受け入れるのは俺なんだぞ?!
大体貞操帯なんてものまで入れてくるなんて酷すぎる。
悶絶して泣く羽目になるのはどう考えても俺だ!

(悪魔か?!)

わかってはいたが、セドリック王子は悪意の塊だと思う。
本当に酷い。

「兄上、どれもワクワクしますね!早く兄上の可愛い顔が見たいです」

頼むからキラキラした顔でそんな風に言うな!

(断れなくなるだろう?!)

結局押し切られるのは目に見えている。
でもなんとかできるだけ回避しよう。

そうしてその後昼食を理由にその場から引きはがし、何とか食事を終え午後からの仕事にとりかかったものの、途中でロキは宰相に呼ばれたとかで席を外した。
その間、思い出したようにフィリップが口を開いた。

「そう言えばカリン陛下。リヒターの立場は今のままで大丈夫なんですか?」
「…?何か問題があったか?」
「問題というか…心配ですね。誰が見てもリヒターはロキ陛下の特別な相手でしょう?またシャイナー陛下がリヒターを睨んでいたと小耳に挟みました。シャイナー陛下が結婚したからと言ってこの先も大丈夫とは言えませんよ?」

確かにシャイナーはこの間ロキを抱いたリヒターにも怒り狂っていた。
それこそいつ暗殺者を送り込んできてもおかしくはないほどに。

「リヒターはただの近衛騎士の一人ですし、その分護衛をつけるわけにはいかないでしょう?」

それなら側室にでも召し上げて誰かしら暗部に護衛を任せるのもアリではないかとフィリップは言ってきた。
確かに一理はある。
ただの近衛騎士に暗部をつけるというのはおかしな話だが、側室という名目があればできなくはない。
でも────。

(見たくない…)

側室とは言え王の伴侶として迎えるのなら結婚式はしないといけない。
そしてリヒターが相手ならロキは抱かれる側だ。
俺としては見たくない。

「却下だ」

すげなくそう言ったら、ミュゼが目を輝かせて『じゃあ私がスカーレットと離縁してリヒターと結婚します!』とふざけたことを言い出した。

「再婚の場合は書類だけでいいので、挙式は省かれますし、構わないでしょう?」
「ミュゼ。お前がリヒターと結婚して何の得がある?護衛をつける理由付けにもならないし、却下だ!スカーレットと離縁したいからと言ってこれ幸いと便乗してくるな!」
「そんなっ!助けると思って協力してください!あの女はすぐに襲ってくる痴女なんです!自室の鍵を変えても夜中中ずっとノックし続けるし、もうホラーですよ!お陰で屋敷に帰るのが怖くて仕方がないんですから!」

どうやらそのせいで結婚したにもかかわらず、ここ暫くは王宮に泊まって屋敷に帰っていないようだ。
あの女は以前の俺への夜這いの件以降こちらの居住スペースには入れないようになっているから、ミュゼとしたらここの方が安全と言ったところなのだろう。
何かしら理由をつけて別れたいと泣きごとのオンパレード。
正直言って鬱陶しい。

「知らん。ライオネル。ちょっと別室に連れて行ってそいつを調教し直してこい!」
「御意」
「あっ!ちょっ、やめっ…!」

あんな奴は無視だ無視。

(でもそうか……)

離縁後なら式を上げずにサインで済むというのを忘れていた。
それならば…。

「リヒターと誰かを先に結婚させて、離縁させた上でロキの側室に迎えたら俺は嫌なものは見なくて済むな」

ポツリとそう呟いたらフィリップから『いきなり鬼畜発言をしないでください。ロキ陛下に染まり過ぎですよ?』と言われたが、これ以上ないほど名案だと思ったのに何故だ?!
形だけの略式で式を上げさせてひと月くらいで離縁してもらって、書類にサインして側室に据え置けばリヒターに護衛をつけることは可能になる。
そうすればシャイナーに狙われても守れるだろうし、ロキも反対はしないだろう。
四方八方丸く収まるじゃないか。

そう思って早速リヒターを呼んできてもらって話をしたら、敢え無く却下されてしまった。

「ご心配は有り難いですが、特に自分に護衛は必要ないので立場は今のままで構いません」

とは言えこのままというのもやっぱり問題だと思う。
だから俺はリヒターに続けて言った。

「そう言うのなら俺や周囲が納得できる代案を出せ」
「…………相談してからにはなりますが、どうしてもと言うならカーライルと籍でも入れましょうか?」

それなら立場を変えることもないし、お互いに護衛もできる上に少しはシャイナーの目をそらせるのではないかとリヒターは考えながら口にする。

それは俺としては百点満点の答えだった。
リヒターが身を固めるのならシャイナーだけではなく俺も変に嫉妬せずに済むし、一石二鳥だ。
おまけにリヒターが言うようにカーライルはいざとなったらリヒターを守ることもできるし、その辺の令嬢と結婚するよりもずっと安全だから文句なしの人選だと思う。
それにもしロキが閨にリヒターを呼びたいと言っても、相手がカーライルなら理解を得やすい。

(完璧だ)

「是非そうしろ!ロキは俺が説得してやる!」

この二人の結婚ならロキも反対はしないだろうし、ミラルカに行った時にでも鉱山ホテルの教会部屋で式を挙げさせればいい。
確か前にレオナルド皇子があそこで式はできると言っていたから、何も問題なく執り行えるはず。
立会人は俺とロキでいいし、法令もとっくに一般の同性婚を認めるよう改正済みだからすんなり婚姻は成り立つだろう。

そう考えウキウキしていたところでロキが執務室へと戻ってきた。
だからすぐその話を口にしてみたのだけど────。

「ロキ。ちょうどよかった。今度ミラルカに行った時に鉱山ホテルに泊まってそこでリヒターとカーライルの結婚式をしないか?」
「…………え?」

あまりにも浮かれすぎて経緯を省略し過ぎてしまった。
そして流石に話が唐突過ぎたからか、ロキは驚きすぎてその場で固まってしまっていた。
それから暫くして我に返ったところで、驚きも露わに確認を取ってくる。

「……え?!リヒターとカークの結婚式ですか?!」
「そうだ。ミラルカに行くタイミングでの結婚なら新婚旅行も兼ねられるし、丁度いいと思わないか?」
「随分急過ぎませんか?俺は二人から何も聞いてないんですが…」

それはそうだ。
さっき決まったんだから。
でもこれは失敗だったかもしれない。

信頼していた二人から相談されないほど自分はちっぽけな存在だったのかと言わんばかりに、ショックを受けたような顔になってしまっている。
これはまずい。
久しぶりに地雷を踏んだ気がする。
心持ちリヒターとカーライルの眼差しが鋭くて痛い。
いや。思い切りグサグサ刺すように睨んできている。
ロキを傷つけるなと言わんばかりだ。

(な、なんとかフォローを入れないと…!)

「んんっ。実はさっき、リヒターがシャイナーに狙われた時に守れた方がいいんじゃないかとフィリップが言い出してな」
「……ああなるほど。シャイナーはレオの結婚式にも参列する予定ですし、その際に兄上はカークにリヒターを守らせたかったんですね。それなら兄上が急いで俺に話そうとしたのもわかる気がします」

どこかホッとしたようにロキが表情を緩ませたのを見て、俺もかなりホッとした。
これで後で叱られずに済む。

「そう言うことなら俺も別に反対する理由はないですけど、二人はいいんでしょうか?」
「ああ。リヒターは構わないそうだ」
「カーク」
「はい?」
「お前は?」
「ああ、はい。ロキ様とリヒターさえよければ別に構いませんよ」

どうやらカーライルもOKのようだ。
これで何も問題はない。

(やった!)

思い掛けない良い方向に話が転がったと喜ぶ俺。
でもそんな俺に今度はロキが爆弾を落としてきた。

「はぁ…驚きすぎてこっちの話を忘れるところでしたよ」
「そう言えば宰相から呼び出されたんだったな。何だったんだ?」
「はい。兄上。突然ですが、俺の代わりに子作りをしてほしいので、俺と一緒に今度お見合いをしてくれませんか?」
「…………」

お見合い?
……誰と?

(そもそもロキの代わりに子作りってなんだ?!)

「待て待て待て待て?!」

また突飛なことを言い出した弟に俺は勢いよく席を立つ。

「いきなり突飛な話題で俺の心臓を止めにかかるな!」
「え?兄上も俺にドッキリを仕掛けたので、一緒でしょう?」
「お前と一緒にするな!」

そんな俺達の会話を横で聞いていた者達は皆そっと目をそらし、『どっちもどっちですよ』と思っていたとかいなかったとか…。


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