【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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195.花嫁の打診① Side.他視点

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※今度こそ本当の最終章。全13話です。
この御令嬢、普通にいけばただのお邪魔虫なんですが、カリンに良い影響を与える人物をと思って書いたら、あれれ?なド根性キャラになりました。
なんでも良いから最後まで付き合うよと仰ってくださる奇特な方はどうぞ最後までお付き合いください。
宜しくお願いしますm(_ _)m

****************

【Side.宰相】

ロキ陛下とカリン陛下がアンシャンテで行われる結婚式に旅立ったその日、我々は重要な会議を開いていた。
それは跡継ぎ問題についてだ。
ロキ陛下は側室を迎える気は全くといっていいほどない。
後継者なんて誰だっていいじゃないかと言い、国民投票で決めればいいなどと公言して憚らない。
けれど尊い王族の血をここで途絶えさせるなんてという声は未だに根強かった。
とは言えここで無理を言えば逃げられるのは必至。
そもそも『その王族を虐げてきたくせに、今更何を言ってるんだ?』と言われればそれまでの話で、それを言われればこちらは強く出られないのだから。
この問題に頭を悩ませる重鎮一同で集まって、今日はどうすればいいかをじっくりと話し合っていた。

「誰かロキ陛下の心を変えられそうな案はないか?」
「今の年の釣り合う令嬢達は嫌悪の対象でしょうが、幼い子供達には好意的です。ここはやはり彼女達が育つのを待ってからお勧めするのが良いのではないでしょうか?」
「だがそれでは遅すぎる。陛下は十年在位したら引退したいとセドリック王子に申し出たようだし…」
「十年というとちょうど彼女達が育つ頃ですか…。退位するなら子を為してからと言えばなんとかなりそうですが…繋ぎの王が必要になってしまいますな」
「それだと困る」
「確かに」
「ではどうする?」
「いっそ他国から誰かを招くというのは?」
「それはフォルティエンヌの姫君の際に失敗しているだろう?ガヴァム式の結婚式に耐えられないなら無理だ」

ああでもないこうでもないと色々案を出し合うが、一向に解決策は見出せそうにない。
そんな中、一人の大臣がハッとしたように言い出した。

「再婚者を相手に選ぶというのはどうだ?」
「再婚者?」
「そうだ!どちらかが再婚ならガヴァムでは書類だけで結婚は成り立つ」
「…!!それは名案だ!他国の再婚者ならロキ陛下も喜んで迎えてくださるかもしれん」

この際子供さえ作ってくれる相手なら背に腹は代えられない。
再婚者でも全然大丈夫だ。
そうしてどこかホッとしたような空気が流れたところで恐る恐ると言った様子で財務大臣が声を上げた。

「その…水を差すようで申し訳ないが、その場合例の条件は満たさなくてもよいのだろうか?」
「例の条件?」
「そうだ。あの…父親を玩具で犯されるのを最後まで見ていられたらという例の…」
「アレか…!」

『それがあった!』と皆の顔が絶望に染まる。
流石にその条件をクリアできる猛者はそうそういないように思う。

「そ、そうだ!それこそ父親がいないという再婚者に絞り込んだらどうだ?」
「確かに一理あるが、それはあまりに条件が限られ過ぎではないか?」
「そうだな。その相手をロキ陛下が気に入ってくださればいいが、失敗したらまた違う条件を出されかねない」

そしてまた皆で名案はないかと頭を悩ませ始める。
そんな中、思い出したとばかりに一人の大臣が声を上げた。

「そうだ!確かロキ陛下のお気に入りのリヒターの妹が離縁されて家に帰されたという話が最近あったような…」

その話に皆が皆、飛びついた。
リヒターがロキ陛下のお気に入りという話は最早周知の事実。
そんな騎士の妹ならロキ陛下が気に入る可能性は高い。
いや、寧ろそこに賭けるしかないだろう。

「どんなご令嬢だ?」
「情報を集めろ!」
「いや、実際に城に呼んで話をしてみるのが一番だ!」
「いやいや、それだと陛下に感づかれてしまう可能性が高い。私が領地に直接行って来よう」

そうして今度こそ希望が見えたと皆で安堵しながら、そのリヒターの妹というご令嬢に宰相である自らが会いに行くことに。
勿論離縁したばかりの令嬢に無理強いする気はないし、取り敢えず話をしに行くだけのつもりだ。
どんなご令嬢かもわからないし、当然相性というものもある。
特にロキ陛下はガヴァムの令嬢に良い印象は一切ないから、万が一にでもロキ陛下に嫌悪感を示す令嬢だったらまず無理だろう。
一先ずそれだけでも確認できたらと、ヴァレトミュラに乗って彼女がいる領地へと足を運んだのだった。


***


【Side.アンヌ】

私の名はアンヌ=ミッドクルス。
いえもうミッドクルス家から離縁を申し入れられたから、アンヌ=ヒューガーに戻ったと言っていい。
夫との結婚生活は三年にも満たない内に幕を閉じてしまった。
それというのも、彼の閨が単調で全く楽しくなかったから段々断る頻度が増え、そのまま夜の生活がなくなってしまったことに起因する。
つまり、子を作る気のない嫁などいらないということだ。
それならそれで自分の下手くそな閨をどうにかしろと言い放ち、怒りながら実家に帰ってきた。
すぐに離縁の書類が送られてきたからそれにサインをして送り返し、夫とはそれきりだ。

そんな私を実家は可哀想にと受け入れてくれたけれど、この先貴族に嫁入りできる可能性はゼロに等しい。
良くて富裕層の商人くらいのものだろう。
そう思っていたのだけれど────。

「宰相様がロキ陛下の側室探しにこちらに来られるですって?!」

離縁成立から二週間後のこと。
それはまさに青天の霹靂と言ってもいいほどの思いがけない話だった。
なんでも今、義兄であるリヒターお兄様がロキ陛下の近衛騎士として働いていて、それはもう覚えが良いのだとか。
信頼するリヒターの妹ならロキ陛下も気に入ってくださるかもしれないとわざわざ会いに来てくれるらしい。

「これは大変なことだぞアンヌ」

これには父や義母、長兄である義兄も大興奮していた。

「まさかあんなことをやらかしたリヒターがそこまで出世していたとは…」
「心を入れ替えて努力したのかもしれないわね」
「きっとそうだ。アンヌが見事にロキ陛下の側室に収まることができたなら、あいつの勘当を取り消してやってもいいかもしれん」

にこやかにそう話す家族達。

(本当におめでたいわね)

リヒターお兄様は単純に私が誘ったのを断っただけで、別に何かをやらかしたわけではない。
なのに私がちょっと演技をしただけであっさり信じ、彼らは簡単にリヒターお兄様を切り捨てた。
薄情なものだ。
私はそれを見てこの家族の愛情は上っ面だけで信じるに値しないものなんだと思ったから、計画的にそこから結婚相手を探して嫁いだのだ。
思えばリヒターお兄様はこの家族の中で一番愛情深かった。
だから余計に好きになったのだと思う。
そんなお兄様を陥れてしまって申し訳なかったと今では反省している。
まあ私は振られた側だから謝る気はないけれど。

とは言えそういう経緯から、今回の件ではリヒターお兄様が邪魔をしてこないかどうか、それだけが心配だった。

でもまあ…最悪泣き落としでロキ陛下に縋って見せればいいとは思う。
きっとロキ陛下だってそうなればリヒターよりもか弱い私の言い分を信じてくださるはず。
一近衛であり、家族にさえ見捨てられたリヒターお兄様が、主君であるロキ陛下からそれほど重用されているとは思えないから。

(それよりもロキ陛下よね)

ロキ陛下は昔から周囲の令嬢達から散々蔑まれていた。
私よりも年下だから実際の面識はないけれど、噂によると『無能』『陰気』『狂ってる』などと言われていた。
とは言え私も大人になって結婚し、夫の商売関連から色々と世間というものを知った。
ロキ陛下が即位した時は大丈夫かしらと思ったけれど、周辺諸国の評判は頗るいいし、何よりも経済が活発化したのを見て、それほど無能ではないのではないかと実感として感じていた。
王配であるカリン陛下が支えているからというだけではなく、きっと能力はある方なんだろうと思う。
後は性格がどんな方なのか、それが気になるところ。
何しろ会ったこともない方なのだ。
噂を鵜呑みにする気はないけれど、生育環境からいけば明るい方という可能性は低いと思う。

(ああ、でもそうね…)

だからこそ優しくすれば懐いてくれるかもしれない。
私よりも年は三つほど下だし、案外御しやすいかも…。

後はカリン陛下か。
カリン陛下は立派な王太子として昔から有名だった。
博識で判断力に優れ、きびきびと采配を振るう手腕があると聞いたことがある。
そんな彼が気に入るとしたらやはり『博識である』これに尽きるだろう。
幸い私は馬鹿ではない。
夫の商売を通して社交性を磨き、豊富な話題を提供するため幅広く知識も得てきた。
上手く会話がはまれば好印象は間違いないだろう。
宰相にその辺りをアピールしてみるのは良いかもしれない。

そんなことを考えながら、宰相がやってくる日を今か今かと待ち望んだ。




「ようこそいらっしゃいました、宰相閣下。私がリヒターの父、エドワード=ヒューガーでございます」
「妻のミリアナでございます」
「長男のダミアンでございます」
「娘のアンヌと申します。どうぞお見知りおきくださいませ」

我が家へやってきた宰相を客間へと通し、笑顔で揃って挨拶をする。
宰相はにこやかにそんな私達を見遣って、『いつもリヒターにはロキ陛下を支えてもらい感謝している』と仰った。
どうやら重用されているのは間違いないらしい。

「リヒターがロキ陛下の教育係を引き受けてくれて本当に感謝しているのだ」

どうやらリヒターお兄様はただの一近衛騎士というわけではないらしく、教育不足だったロキ陛下の教育係としても傍に置かれているのだとか。

「そうですか。騎士として不出来でも教育係として使っていただけるのなら誉の極みでございます」

父は笑顔でそう言ったが、宰相は首を傾げながら騎士としても優秀ですよとお世辞を言ってくれる。

「リヒターは忠義溢れる騎士でしてな、常にロキ陛下のお傍に居て守ってくれているのですよ」
「はあ。左様ですか」

どうもピンと来ていない様子の家族達。
それはもちろん私もそうだ。
この家にいた時はそれほど際立って剣が得意という話は聞いたことはなかったのだから。

「それで宰相閣下。今回のご来訪はアンヌをロキ陛下のお傍にというお話でしたでしょうか?」

父が待ちきれないとばかりにそう口火を切ると、宰相は大きく頷き事情を話し始める。
なんでもロキ陛下は現在ガヴァムのご令嬢達に全く良い印象を持っておらず、子作りにも消極的で、出している条件が物凄く厳しいのだそうだ。

「兎に角カリン陛下さえ居てくれればいいの一点張りで…」

ほとほと困ったと宰相は言うけれど、確かに言っている意味は分からなくはない。
あれだけ陰で散々ロキ陛下を無能無能と言い続けてきた令嬢達に、今更期待なんてできないのだろう。
だからこそチャンスだと思った。
幸い自分は彼女達のようにロキ陛下を悪く言ったりはしていなかった。
『まあ、そうなのね』と話に合わせて笑顔で受け流していただけだ。
『私は違うわ』と言って、ロキ陛下に寄り添う姿勢を見せれば簡単に懐柔できる気はする。
とは言え気になるのはその条件だ。
きっとおかしな縁談を持ってこられないようにロキ陛下はかなりハードルが高い条件を提示しているはず。
余程の美姫を望んでいるのか、はたまた高額な持参金か、それとも荒唐無稽な貢物か。
せめて何とかなりそうなものなら良いのだけれど…。

「宰相閣下。そのロキ陛下が出されたという条件とは一体どのようなものなのでしょう?」

気になって自分から思い切って尋ねてみると、宰相は言い難そうにしながらも『隠しても仕方がないので』と口を開いた。

「他言無用に願うが、その条件というのは『3Pの閨でもいいと言ってくれる胆力のある女性』なのだ」
「3P?」
「つまりロキ陛下だけではなくカリン陛下も一緒の閨ということだ」

それを聞いて私は首を傾げてしまった。
何故ならそれくらい予想できる範囲だし、それくらい大丈夫という女性は大勢いそうだと思ったからだ。

「あの…本当にそれだけですか?他に何か持参金を多く差し出す必要があったり、別の条件があったりなどは…?」

だからそう訊いたのだけど、宰相はその『胆力がある』というのを見せるところに問題があるんだと言った。

「いや。正直私も娘を勧めるため挑戦はしてみたのだが…」

そして宰相が語るには、ロキ陛下は嘘を吐かれたくはないという理由から、『父親が玩具で犯されるところを最初から最後まで気絶せずに見届けられること』という条件を付けたのだとか。
これは確かにハードルが高い。
娘もそうだが、父親まで尻込みをする条件を付けているところが賢いと思う。
けれど宰相はそれを実行に移したと言う。
なかなかの猛者だ。素直に尊敬する。
けれど娘の方が繊細だったらしく、気絶して条件をクリアできなかったらしい。
処女ならまず難しいだろう。
けれどそれさえクリアできればロキ陛下のお相手として認められるのだ。

(私ならできるわ!)

そもそも普通の下手くそな閨に嫌気がさして離縁になったのだ。
そちら方面には興味津々だし、父が玩具で犯されているところを見ればその腕前が分かるというもの。
これはビッグチャンスだ。

「お父様!!」

(やってくださいますよね?)

そう思いキラキラした目で期待の眼差しを送ったら、物凄く複雑そうな顔をされてしまった。
どうやらかなり嫌そうだ。

「そ、その…宰相閣下。私にはハードルが高すぎると言いますか…。そ、そうだ!妻に申し訳がないので…」

何と断る気でいるらしい。

「お父様!折角宰相様がわざわざ遠方であるここまで足をお運びになって素敵なお話を持ってきてくださったのに、それを挑戦する前からお断りになるの?それでは宰相様にも申し訳ないですし、折角この縁を繋いでくださったリヒターお兄様にも失礼ですわ!」
「な…ア、アンヌ…。私はそんなつもりでは…」
「宰相様。実際に経験なさったのですわよね?その時のお話をお父様にお話しくださいませんか?大丈夫だったと思えればお父様も頷いてくださると思うのです」

うるうると目を潤ませながら懇願すると、宰相はそういうことならと父に経験談を話してくれた。
それによるとロキ陛下はかなりのテクニシャンらしいことが分かり、俄然やる気が出る。
父は相変わらず乗り気ではなさそうだけれど、母と兄から私の再婚先としてこれ以上ない話だから頑張ってもらえないかと説得されて最後には渋々承諾させられていた。
他に味方がいなかったのだからさもありなん。

(やったわ!)

これで夢のハッピーセックスライフが送れ、運が良ければ国母にもなれる。

(なんて幸せなのかしら!)

そうして私はウキウキしながら荷造りをし、父と共に王都へと旅立ったのだった。



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