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188.毒への誘い⑫
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それから昼食の席でユーツヴァルトが牢に入れられたという話を聞いた。
なんでもアルフレッドが直々に話をしに行ったところ、犯行を自供したらしく、アルフレッド自ら取り押さえたのだとか。
なんだか申し訳ない。
後はそれに基づき自供を更に引き出し、調書を取ってから沙汰を言い渡すとシャイナーは言っていた。
「ロキ。カリンよりもリヒターよりも俺の方が頼りになるというところを見せてやる。だから…」
「はいはい。わかりました。お任せします」
どうやら後は全部任せて良さそうな口ぶりだったので、最後まで言わせず言葉を割り込ませた。
どうせシャイナーのことだから抱いてくれとかそういうことを言いたいに決まっているのだ。
適当に誤魔化そう。
そうしてその後アンシャンテを発ちガヴァムへと向かう中、ちょっと遠いけれど左方向にワイバーンが急いだ様子で飛んでいることに気が付いた。
「兄上」
「どうした?ロキ」
「あれ。ユーツヴァルトじゃありません?」
「何?!」
俺が声を掛けると兄が驚きそちらへと目を向けた。
それを受けて他の面々もそちらへと視線を向け、俄かに殺気立ち始める。
「……脱獄か」
「このままだと逃げられるぞ?!」
なんだか皆『逃げられるくらいならここで殺ってやる』みたいな空気を醸し出した。
やめてほしい。
「皆落ち着いて。俺は無事だったんだから、いいじゃないか」
「あいつが生きてたらまた狙われるだろう?!」
「そうですよ、ロキ陛下。安全のためにもここは今のうちに仕留めた方がいいと思います」
「う~ん。でもほら。一応闇医者の友人だし」
「確かに友人ですが…脱獄したのなら情状酌量の余地はありませんし、お気遣いなく」
「俺のせいで長年の友人をなくされるのは…」
「貴方のせいではないですよ。あいつの自業自得です」
処罰されるのもやむなしだと、闇医者ははっきりと言い切った。
とは言えやっぱり心苦しいものは心苦しい。
「そうだ。シャイナーに、いや、キャサリン妃に連絡をしてみよう」
多分これが一番平和的解決法だ。
脱獄したのなら今頃探しているだろうし、連絡を入れて捕縛してもらえばいい。
運が良ければ命だけは助かるかもしれない。
そう思ってコール音を鳴らしてみると、キャサリン妃がすぐに出てくれた。
『ロキ陛下!申し訳ございません!只今取り込み中でしてっ…』
「もしかしてユーツヴァルトが脱獄したとかですか?」
『…っ?!どうしてお分かりに?!』
「いえ。今本人がワイバーンで西方面に飛んで行っているのでどうしたものかと思いまして…」
『ワイバーンですって?!わかりました!情報感謝致します!すぐに追わせますのでどうか安全な場所に避難してくださいませ!』
そう言ってキャサリン妃は通話を切ってしまった。
「脱獄したのは確実ですね。向こうは大騒ぎでした」
「やはり始末すべきだな」
「やめてください。空から血の雨とか、ただのホラーじゃないですか」
兄とそんなやり取りをしていたら裏の者達が数名監視として追うと言い出して、ユーツヴァルトはそちらに任せて急ぎ帰国することになった。
その後彼らから連絡が入り、シャイナー達と合流して追ったものの捕獲には至らず、手負いの状態で森に逃がしたらしい。
確実に一撃で殺してもよかったけど、割と大きな街の上空だったから殺すのは断念して、痺れ薬を仕込んだナイフで攻撃したのだと言っていた。
確かに空から大きなワイバーンと血まみれの人が降ってきたら大騒ぎになって怪我人が多々出たことだろう。
英断だと思う。
足の腱と利き腕の肩を的確に狙ってナイフを投げたから、暫くは思うように動けないはずとのこと。
森には逃げ込まれたけど、捕まるのは時間の問題だろうとニコラスは笑っていた。
どうやらこちらも立腹していたらしい。
(皆短気だな)
そんなことを思いながら行程が過ぎ、無事にガヴァムへと辿り着いた。
***
その日の夜。カークが珍しく声を掛けてきた。
「あの…ロキ様。お伝えしておきたいことが…」
なんだかとても言い難そうだ。
何かあったんだろうか?
そう思って話を聞いたら、俺が媚薬で身悶えていた際、部屋から出て行った兄を追ったら兄が俺を助けてやれなくて悔しいとかなり凹んでいたらしく、それを聞いた闇医者が練習あるのみだと言ってカークを相手に玩具で実技講習をしたのだとか。
「ロキ様が大変な時にそんなことになって申し訳なくて…」
なるほど。確かに言い難かったかもしれない。
でも闇医者が言ったのなら仕方がないし、ここでカークを責めるのは間違っているだろう。
兄からも確かに闇医者と話し込んだとは聞いていたし、問題はない。
「そうか。言ってくれて良かった。ありがとう」
「いえ。でも本人は実技不足だって言っていたので、できればロキ様が直に教えてあげるのもありじゃないかと」
「う~ん…兄上のプライドが傷つかないかな?」
「今更だと思いますけど?」
身も蓋もなくカークが言い切ってくる。
「わかった。ちょうどリヒターから優しいイコール物足りないわけじゃないって教わったことだし、一度話してみる」
「え?!リヒターが閨でそんな事を言ったんですか?」
「ああ。兄上が部屋から出て行った後かな。俺に色々教えてくれた」
「余裕ですね。流石リヒター。ロキ様に閨指導なんて俺には絶対無理ですよ」
「普通の閨はよく知らなかったし勉強になった。媚薬も抜けたし、一石二鳥だったな」
そんな話をしていたら兄がシャワーから戻ってきた。
「あ、兄上。今カークから聞いたんですけど、実技がしたいなら俺でしませんか?」
「……え?」
「ちょうどリヒターがこの間の閨で優しく抱きつつ物足りなくもない閨を教えてくれたので、良かったらと思って」
でもそう言ったら物凄く不機嫌そうな顔になって、『いい!』と言って先にベッドに行ってしまった。
「……やっぱり嫌か」
「いやいやいや?!今のは言い方が悪いですよ!ライバルのリヒターの閨を教えてやるって言われたら機嫌も悪くなりますって!」
「そうかな?上手くなるなら別にいいと思うけど」
「はぁ…。えっと、例えばロキ様が、そうですね…ブルーグレイの拷問官のテクニックをカリン陛下から教えてやるって言われたらどうです?嫌な気持ちになりませんか?」
「う~ん?兄上が好きなプレイなら覚えたいから、是非教えてくださいって普通に聞くかな?」
嫉妬は多少しても兄が喜ぶならそれを把握して更に腕を磨きたい。
そう思うけど、これっておかしいんだろうか?
普通の感覚がよくわからない。
「あぅ。ロキ様らしくて何も突っ込めません」
カークが撃沈した。
やっぱりダメだったらしい。
「よくはわからないけど、取り敢えず兄上を怒らせたと考えていいんだな?」
「そうですね。今頃枕抱えて不貞腐れてるかもしれません」
「…不貞腐れた兄上か。可愛いかも」
「ロキ様、目が相変わらず節穴になってますよ?」
「兄上の良さは俺がわかってたらそれでいいし」
「はいはい。じゃあ謝って仲直りしてきてください」
そんな言葉に背を押され、寝室のドアをノックして入ったら思い切り枕を投げつけられた。
「ロキの馬鹿!今日は一人で寝るから!」
どうやら怒りは相当らしい。
「兄上、すみません。そんなに気にするなんて思ってなかったんです」
「今後一切リヒターの話なんて持ってくるな!」
「わかりました」
なるほど。これは反省だ。
まさかこんなに怒らせてしまうなんて…。
(仕方ないな。リヒターの話はするなって言われたし、俺が覚えて自分なりにアレンジしてから兄上に教えてあげよう)
そうと決まったらリヒターに相談だ。
普通の閨はどんな感じかもっと詳しく聞いてこよう。
兄も今日は一人で寝るって言ってるしちょうどいいかもしれない。
「じゃあ今日は別の部屋で寝ますね。おやすみなさい」
一応謝ったし、後のフォローは明日にしよう。
そう思って枕を抱いて部屋を出ようとしたらカークに呼び止められた。
「ロキ様。どこで寝る気ですか?」
「え?リヒターのところ」
「えぇ?!ま、マズイですよ!」
「どうして?」
「だって、浮気になりません?!」
「添い寝してもらうだけなのに?カークだって知ってるだろう?」
「で、でも!この間二人で寝たでしょう?ハードルが下がって、やっぱりこれまでとは違うんじゃないかと…」
「心配ならついてくればいいじゃないか」
そう言って連れ立ってリヒターの部屋に移動すると、困った顔で迎えられた。
「ロキ陛下。もう少し危機感を持ってください」
そう言ってよく眠れるようにとホットミルクを差し出してくれるリヒター。
兄が側にいなくて眠れそうにない日はリヒターはこうして気遣ってくれる。
カークが言うような浮気的展開になんてなるはずがない。
「それで今日はどんな喧嘩をしてしまったんです?」
「それが……」
そうしてカークから指摘があった件と兄の機嫌を損ねて寝室から追い出された話をしたら、溜息をつきながらも泊まってもいいと言ってくれた。
「良かった。ついでにリヒターに色々教えて欲しかったんだ」
「そうですか。じゃあシャワーを浴びた後でゆっくり聞きますね」
「わかった」
そう答えたらリヒターはシャワーに行ったので、カークはどうするか聞いたら『あの分ならロキ陛下が言うように添い寝で終わりそうなので、護衛に徹します』と返ってきた。
「陛下。お待たせしました」
ちょうどホットミルクを飲み終わった頃にリヒターが戻ってきたから、そのまま歯磨きだけしてベッドに移動する。
「それで、何を教えて欲しかったんです?」
「普通の閨」
素直にそう言ったら一瞬面食らった顔して、その後物凄く可笑しそうに笑われてしまった。
「ハハッ!今更ですか?」
「仕方がないだろう?この間まで興味がなかったんだから」
「それはこの間俺が優しく抱いたからですか?」
「ああ。凄く良かったから、兄上に教えてあげようって思ったのに拒否されたから、俺がリヒターから教わってアレンジした上で兄上に教えてあげようって思って」
「ロキ陛下らしいですね」
そう言ってリヒターが優しく微笑んでくれる。
「カークは呆れてたけど、ダメか?」
「ダメじゃないですよ?良い傾向だと思います」
「本当に?」
「ええ。ロキ陛下の成長が見られてとても嬉しいです」
それから色々リヒターは相談に乗ってくれた。
なんでも兄のモノはリヒターより太いけど長さはちょっとだけ短いのだとか。
そういうのはあまり気にしたことはなかったけど、それによって当たる箇所が変わってくるはずだから、自分に合った攻め方を追求すべきなんだと教わった。
確かにそう聞くと兄のとリヒターのものは違った気がする。
奥に挿れた時、兄のものの方がちょっと苦しくて痛いのは太かったからかと初めて思った。
別に兄が気持ちよくなってくれればそれでいいからあまり気にしていなかった。
「そうですね。ロキ陛下が感じる場所をカリン陛下ので攻めるなら…」
『こんな体位とか』と言いながらリヒターが実際にその態勢を取ろうとしたから、ついつい笑ってしまった。
いつも攻める側しか見たことがないからおかしくて仕方がない。
「ふはっ!リヒター。いいから。俺がするっ…。ふっふふっ!」
「陛下。笑い過ぎですよ?」
「ダメだ。止まらない!」
そうして暫くクスクス笑った後、俺が下になって実際にリヒターに兄向けの体位をレクチャーしてもらった。
もちろん寝衣を着た状態でだから、浮気ではない。
その説明によると、どうやらかなり大胆且つ卑猥な格好で挿れられた方が良いところに当たるらしいことが判明。
「これは兄上にはハードルが高いな。まずやってこなさそうな体位ばかりだ」
「でもこれなら多分カリン陛下が攻める場合、ロキ陛下が凄く気持ちよくなれるはずですよ?」
「……でもこの体位だと立場が逆転できない気がする」
「そうですね。でも普通に抱かれれば良いのでは?」
「それだと楽しみが半減だ。立場を逆転した時に見せる兄上の顔がすごく可愛いのに」
「それは確かに見られなくなるのはロキ陛下的に由々しき事態ですね」
そう言われて素直にコクリと頷いた。
「しょうがない。兄上には悪いけど、自分で気づくまでこれはなるべく黙っていよう」
「なるべく?」
「ああ。もし万が一また同じような状況になったら、その時は教えてもいいかなって」
「なるほど」
兄は基本的に抱く側より抱かれる側の方が好きだし、虐めるより虐められる方が好きだ。
だから教えなくても然程問題はないはず。
その代わり愛撫の仕方を中心に教えてあげよう。
それなら立場逆転に支障はないし。
そうしてサクッと話を切り上げて、リヒターに閨での可愛い兄について、沢山話を聞いてもらった。
「兄上はいきなり奥に挿れるより焦らして挿れられる方が表情が蕩けると思わないか?」
「そうですね。虐めて虐めてもう限界というところで奥まで嵌められると弱いですよね」
「そう!あの顔がすごく好きなんだ」
「ロキ陛下はカリン陛下が蕩けきって口が半開きになっている顔がお好きですよね」
「ああ。可愛くてしょうがないから、シャメルでいっぱい撮ってアルバムにまとめたい」
「では今度良さそうな物を探しておきます」
「ありがとう」
他にも兄の大好きな体位とか、声が抑えきれなくなる体位とか涙目で打ち震える体位等々、リヒターと一緒に盛り上がってかなり楽しかったように思う。
「はぁ…兄上の話がいっぱいできて幸せ…」
「良かったです。きっと良い夢が見られますね」
そう言いながら頭を撫でられ優しく抱き寄せられたから、満足感に満たされつつそのまま素直に甘えながら眠りについた。
****************
※相変わらず仲良しな二人。
ロキがかなり無神経に見えるとは思いますが、リヒターはロキが『カリン大好き』というのを大前提として丸ごと愛しているので、惚気られても『可愛いな』と微笑ましく思うだけで特に問題はなし。
この辺りもロキの認識がズレる一端だったりします。
カークだけ側でやきもきしています。
なんでもアルフレッドが直々に話をしに行ったところ、犯行を自供したらしく、アルフレッド自ら取り押さえたのだとか。
なんだか申し訳ない。
後はそれに基づき自供を更に引き出し、調書を取ってから沙汰を言い渡すとシャイナーは言っていた。
「ロキ。カリンよりもリヒターよりも俺の方が頼りになるというところを見せてやる。だから…」
「はいはい。わかりました。お任せします」
どうやら後は全部任せて良さそうな口ぶりだったので、最後まで言わせず言葉を割り込ませた。
どうせシャイナーのことだから抱いてくれとかそういうことを言いたいに決まっているのだ。
適当に誤魔化そう。
そうしてその後アンシャンテを発ちガヴァムへと向かう中、ちょっと遠いけれど左方向にワイバーンが急いだ様子で飛んでいることに気が付いた。
「兄上」
「どうした?ロキ」
「あれ。ユーツヴァルトじゃありません?」
「何?!」
俺が声を掛けると兄が驚きそちらへと目を向けた。
それを受けて他の面々もそちらへと視線を向け、俄かに殺気立ち始める。
「……脱獄か」
「このままだと逃げられるぞ?!」
なんだか皆『逃げられるくらいならここで殺ってやる』みたいな空気を醸し出した。
やめてほしい。
「皆落ち着いて。俺は無事だったんだから、いいじゃないか」
「あいつが生きてたらまた狙われるだろう?!」
「そうですよ、ロキ陛下。安全のためにもここは今のうちに仕留めた方がいいと思います」
「う~ん。でもほら。一応闇医者の友人だし」
「確かに友人ですが…脱獄したのなら情状酌量の余地はありませんし、お気遣いなく」
「俺のせいで長年の友人をなくされるのは…」
「貴方のせいではないですよ。あいつの自業自得です」
処罰されるのもやむなしだと、闇医者ははっきりと言い切った。
とは言えやっぱり心苦しいものは心苦しい。
「そうだ。シャイナーに、いや、キャサリン妃に連絡をしてみよう」
多分これが一番平和的解決法だ。
脱獄したのなら今頃探しているだろうし、連絡を入れて捕縛してもらえばいい。
運が良ければ命だけは助かるかもしれない。
そう思ってコール音を鳴らしてみると、キャサリン妃がすぐに出てくれた。
『ロキ陛下!申し訳ございません!只今取り込み中でしてっ…』
「もしかしてユーツヴァルトが脱獄したとかですか?」
『…っ?!どうしてお分かりに?!』
「いえ。今本人がワイバーンで西方面に飛んで行っているのでどうしたものかと思いまして…」
『ワイバーンですって?!わかりました!情報感謝致します!すぐに追わせますのでどうか安全な場所に避難してくださいませ!』
そう言ってキャサリン妃は通話を切ってしまった。
「脱獄したのは確実ですね。向こうは大騒ぎでした」
「やはり始末すべきだな」
「やめてください。空から血の雨とか、ただのホラーじゃないですか」
兄とそんなやり取りをしていたら裏の者達が数名監視として追うと言い出して、ユーツヴァルトはそちらに任せて急ぎ帰国することになった。
その後彼らから連絡が入り、シャイナー達と合流して追ったものの捕獲には至らず、手負いの状態で森に逃がしたらしい。
確実に一撃で殺してもよかったけど、割と大きな街の上空だったから殺すのは断念して、痺れ薬を仕込んだナイフで攻撃したのだと言っていた。
確かに空から大きなワイバーンと血まみれの人が降ってきたら大騒ぎになって怪我人が多々出たことだろう。
英断だと思う。
足の腱と利き腕の肩を的確に狙ってナイフを投げたから、暫くは思うように動けないはずとのこと。
森には逃げ込まれたけど、捕まるのは時間の問題だろうとニコラスは笑っていた。
どうやらこちらも立腹していたらしい。
(皆短気だな)
そんなことを思いながら行程が過ぎ、無事にガヴァムへと辿り着いた。
***
その日の夜。カークが珍しく声を掛けてきた。
「あの…ロキ様。お伝えしておきたいことが…」
なんだかとても言い難そうだ。
何かあったんだろうか?
そう思って話を聞いたら、俺が媚薬で身悶えていた際、部屋から出て行った兄を追ったら兄が俺を助けてやれなくて悔しいとかなり凹んでいたらしく、それを聞いた闇医者が練習あるのみだと言ってカークを相手に玩具で実技講習をしたのだとか。
「ロキ様が大変な時にそんなことになって申し訳なくて…」
なるほど。確かに言い難かったかもしれない。
でも闇医者が言ったのなら仕方がないし、ここでカークを責めるのは間違っているだろう。
兄からも確かに闇医者と話し込んだとは聞いていたし、問題はない。
「そうか。言ってくれて良かった。ありがとう」
「いえ。でも本人は実技不足だって言っていたので、できればロキ様が直に教えてあげるのもありじゃないかと」
「う~ん…兄上のプライドが傷つかないかな?」
「今更だと思いますけど?」
身も蓋もなくカークが言い切ってくる。
「わかった。ちょうどリヒターから優しいイコール物足りないわけじゃないって教わったことだし、一度話してみる」
「え?!リヒターが閨でそんな事を言ったんですか?」
「ああ。兄上が部屋から出て行った後かな。俺に色々教えてくれた」
「余裕ですね。流石リヒター。ロキ様に閨指導なんて俺には絶対無理ですよ」
「普通の閨はよく知らなかったし勉強になった。媚薬も抜けたし、一石二鳥だったな」
そんな話をしていたら兄がシャワーから戻ってきた。
「あ、兄上。今カークから聞いたんですけど、実技がしたいなら俺でしませんか?」
「……え?」
「ちょうどリヒターがこの間の閨で優しく抱きつつ物足りなくもない閨を教えてくれたので、良かったらと思って」
でもそう言ったら物凄く不機嫌そうな顔になって、『いい!』と言って先にベッドに行ってしまった。
「……やっぱり嫌か」
「いやいやいや?!今のは言い方が悪いですよ!ライバルのリヒターの閨を教えてやるって言われたら機嫌も悪くなりますって!」
「そうかな?上手くなるなら別にいいと思うけど」
「はぁ…。えっと、例えばロキ様が、そうですね…ブルーグレイの拷問官のテクニックをカリン陛下から教えてやるって言われたらどうです?嫌な気持ちになりませんか?」
「う~ん?兄上が好きなプレイなら覚えたいから、是非教えてくださいって普通に聞くかな?」
嫉妬は多少しても兄が喜ぶならそれを把握して更に腕を磨きたい。
そう思うけど、これっておかしいんだろうか?
普通の感覚がよくわからない。
「あぅ。ロキ様らしくて何も突っ込めません」
カークが撃沈した。
やっぱりダメだったらしい。
「よくはわからないけど、取り敢えず兄上を怒らせたと考えていいんだな?」
「そうですね。今頃枕抱えて不貞腐れてるかもしれません」
「…不貞腐れた兄上か。可愛いかも」
「ロキ様、目が相変わらず節穴になってますよ?」
「兄上の良さは俺がわかってたらそれでいいし」
「はいはい。じゃあ謝って仲直りしてきてください」
そんな言葉に背を押され、寝室のドアをノックして入ったら思い切り枕を投げつけられた。
「ロキの馬鹿!今日は一人で寝るから!」
どうやら怒りは相当らしい。
「兄上、すみません。そんなに気にするなんて思ってなかったんです」
「今後一切リヒターの話なんて持ってくるな!」
「わかりました」
なるほど。これは反省だ。
まさかこんなに怒らせてしまうなんて…。
(仕方ないな。リヒターの話はするなって言われたし、俺が覚えて自分なりにアレンジしてから兄上に教えてあげよう)
そうと決まったらリヒターに相談だ。
普通の閨はどんな感じかもっと詳しく聞いてこよう。
兄も今日は一人で寝るって言ってるしちょうどいいかもしれない。
「じゃあ今日は別の部屋で寝ますね。おやすみなさい」
一応謝ったし、後のフォローは明日にしよう。
そう思って枕を抱いて部屋を出ようとしたらカークに呼び止められた。
「ロキ様。どこで寝る気ですか?」
「え?リヒターのところ」
「えぇ?!ま、マズイですよ!」
「どうして?」
「だって、浮気になりません?!」
「添い寝してもらうだけなのに?カークだって知ってるだろう?」
「で、でも!この間二人で寝たでしょう?ハードルが下がって、やっぱりこれまでとは違うんじゃないかと…」
「心配ならついてくればいいじゃないか」
そう言って連れ立ってリヒターの部屋に移動すると、困った顔で迎えられた。
「ロキ陛下。もう少し危機感を持ってください」
そう言ってよく眠れるようにとホットミルクを差し出してくれるリヒター。
兄が側にいなくて眠れそうにない日はリヒターはこうして気遣ってくれる。
カークが言うような浮気的展開になんてなるはずがない。
「それで今日はどんな喧嘩をしてしまったんです?」
「それが……」
そうしてカークから指摘があった件と兄の機嫌を損ねて寝室から追い出された話をしたら、溜息をつきながらも泊まってもいいと言ってくれた。
「良かった。ついでにリヒターに色々教えて欲しかったんだ」
「そうですか。じゃあシャワーを浴びた後でゆっくり聞きますね」
「わかった」
そう答えたらリヒターはシャワーに行ったので、カークはどうするか聞いたら『あの分ならロキ陛下が言うように添い寝で終わりそうなので、護衛に徹します』と返ってきた。
「陛下。お待たせしました」
ちょうどホットミルクを飲み終わった頃にリヒターが戻ってきたから、そのまま歯磨きだけしてベッドに移動する。
「それで、何を教えて欲しかったんです?」
「普通の閨」
素直にそう言ったら一瞬面食らった顔して、その後物凄く可笑しそうに笑われてしまった。
「ハハッ!今更ですか?」
「仕方がないだろう?この間まで興味がなかったんだから」
「それはこの間俺が優しく抱いたからですか?」
「ああ。凄く良かったから、兄上に教えてあげようって思ったのに拒否されたから、俺がリヒターから教わってアレンジした上で兄上に教えてあげようって思って」
「ロキ陛下らしいですね」
そう言ってリヒターが優しく微笑んでくれる。
「カークは呆れてたけど、ダメか?」
「ダメじゃないですよ?良い傾向だと思います」
「本当に?」
「ええ。ロキ陛下の成長が見られてとても嬉しいです」
それから色々リヒターは相談に乗ってくれた。
なんでも兄のモノはリヒターより太いけど長さはちょっとだけ短いのだとか。
そういうのはあまり気にしたことはなかったけど、それによって当たる箇所が変わってくるはずだから、自分に合った攻め方を追求すべきなんだと教わった。
確かにそう聞くと兄のとリヒターのものは違った気がする。
奥に挿れた時、兄のものの方がちょっと苦しくて痛いのは太かったからかと初めて思った。
別に兄が気持ちよくなってくれればそれでいいからあまり気にしていなかった。
「そうですね。ロキ陛下が感じる場所をカリン陛下ので攻めるなら…」
『こんな体位とか』と言いながらリヒターが実際にその態勢を取ろうとしたから、ついつい笑ってしまった。
いつも攻める側しか見たことがないからおかしくて仕方がない。
「ふはっ!リヒター。いいから。俺がするっ…。ふっふふっ!」
「陛下。笑い過ぎですよ?」
「ダメだ。止まらない!」
そうして暫くクスクス笑った後、俺が下になって実際にリヒターに兄向けの体位をレクチャーしてもらった。
もちろん寝衣を着た状態でだから、浮気ではない。
その説明によると、どうやらかなり大胆且つ卑猥な格好で挿れられた方が良いところに当たるらしいことが判明。
「これは兄上にはハードルが高いな。まずやってこなさそうな体位ばかりだ」
「でもこれなら多分カリン陛下が攻める場合、ロキ陛下が凄く気持ちよくなれるはずですよ?」
「……でもこの体位だと立場が逆転できない気がする」
「そうですね。でも普通に抱かれれば良いのでは?」
「それだと楽しみが半減だ。立場を逆転した時に見せる兄上の顔がすごく可愛いのに」
「それは確かに見られなくなるのはロキ陛下的に由々しき事態ですね」
そう言われて素直にコクリと頷いた。
「しょうがない。兄上には悪いけど、自分で気づくまでこれはなるべく黙っていよう」
「なるべく?」
「ああ。もし万が一また同じような状況になったら、その時は教えてもいいかなって」
「なるほど」
兄は基本的に抱く側より抱かれる側の方が好きだし、虐めるより虐められる方が好きだ。
だから教えなくても然程問題はないはず。
その代わり愛撫の仕方を中心に教えてあげよう。
それなら立場逆転に支障はないし。
そうしてサクッと話を切り上げて、リヒターに閨での可愛い兄について、沢山話を聞いてもらった。
「兄上はいきなり奥に挿れるより焦らして挿れられる方が表情が蕩けると思わないか?」
「そうですね。虐めて虐めてもう限界というところで奥まで嵌められると弱いですよね」
「そう!あの顔がすごく好きなんだ」
「ロキ陛下はカリン陛下が蕩けきって口が半開きになっている顔がお好きですよね」
「ああ。可愛くてしょうがないから、シャメルでいっぱい撮ってアルバムにまとめたい」
「では今度良さそうな物を探しておきます」
「ありがとう」
他にも兄の大好きな体位とか、声が抑えきれなくなる体位とか涙目で打ち震える体位等々、リヒターと一緒に盛り上がってかなり楽しかったように思う。
「はぁ…兄上の話がいっぱいできて幸せ…」
「良かったです。きっと良い夢が見られますね」
そう言いながら頭を撫でられ優しく抱き寄せられたから、満足感に満たされつつそのまま素直に甘えながら眠りについた。
****************
※相変わらず仲良しな二人。
ロキがかなり無神経に見えるとは思いますが、リヒターはロキが『カリン大好き』というのを大前提として丸ごと愛しているので、惚気られても『可愛いな』と微笑ましく思うだけで特に問題はなし。
この辺りもロキの認識がズレる一端だったりします。
カークだけ側でやきもきしています。
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婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
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