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186.毒への誘い⑩ Side.カリン
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シャイナーからの返事が届いたタイミングでシャワーを浴びるためにリヒターが寝室からちょうど出てきた為、出たらこちらに合流するよう伝えておいた。
ロキの様子が気になるけれど、大丈夫だろうか?
ドアを開ける勇気が出なくて二の足を踏んでいる俺だったが、そんな俺を押しのけるようにして闇医者とカーライルがサッサと入室してしまう。
(なっ?!)
慌てて後を追うと、キチンと身を清められて綺麗なバスローブに身を包んだロキがスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
何と言うか、リヒターの処置は本当に完璧だ。
「目標レベルが分かりやすくていいですね。ここを目指して頑張ってください」
闇医者の言葉が地味にグサッと胸に刺さって居た堪れない。
それから軽く診察をして毒は抜けきったようだと闇医者は判断していた。
何か所か敏感な場所に触れても媚薬症状が返ってこなかったのがその証拠らしい。
取り敢えず助かったとみていいのだろう。
本当に良かった。
そんな俺達の耳へバタバタと走る音が聞こえてきて、バァンッ!と勢いよく部屋の扉が開く音が聞こえてきた。
これはきっとシャイナーだろう。
「ロキ!!」
しかも心配してくれたのかキャサリン嬢まで同行している様子。
流石にロキを起こすのは可哀想だからと寝室から全員で出てソファへと座った。
「カリン陛下。ロキ陛下は大丈夫なのですか?」
「ああ。処置が終わって今眠ったところだ」
「そうですか。ご無事でよかったですわ」
「誰が何の目的でロキに毒を…!」
許せんとシャイナーが怒りの声をあげる。
「実行犯はすぐに牢に入れるよう指示を出した」
「まさか披露宴でこのようなことをする輩がいるとは思わず、大変申し訳ございませんでした」
揃って頭を下げてくるが、流石にユーツヴァルトの件はシャイナー達からすれば想定外の出来事だっただろう。
何も知らなかったのだし、責めるわけにもいかない。
下手に騒ぎ立ててアルフレッドを巻き込みセドリック王子を敵に回すのも恐ろしいし、どこまで表沙汰にするかは悩みどころだ。
だから一先ず端的にロキが狙われている件についてのみ話しておくことに。
「実は先日のロロイア訪問以降、厄介な者にロキが目をつけられていてな」
「ロロイアの逆恨みか?」
「いや。全くの別件だ」
「特定できている相手なのか?」
けれどこう聞かれては流石に隠し立てはし難い。
仕方なく溜息を一つ吐いて重々しくそれを告げた。
「……アルフレッドの知り合いだ」
「アルフレッドというと、セドリックの側妃のか?」
「ああ」
シャイナーは話を聞いて驚きのあまり目を大きく見開いてしまう。
「…………この件にアルフレッドは絡んでいると思うか?」
「いや。全くノータッチだと思う」
「そうか…。では実行犯だけ取り敢えず処罰して、明日にでも俺が直接セドリックと話し合ってみよう」
「いいのか?」
「当然だ。それよりもロキだ。媚薬成分のある毒とのことだが、本当に大丈夫だったんだな?」
落ち着いた様子で心配そうにそう言ってくるシャイナー。
けれどそれは俺の言葉で一気に変わってしまった。
「ああ。リヒターが抜き切ってくれたから…」
「リヒター?!お前は大事な伴侶を他の男に託したのか?!」
それはシャイナー的には許せなかったらしく、怒り心頭と言わんばかりに俺を睨みつけ、そのまま殴りかかろうとしてきた。
けれどその拳が俺に当たる前に、素早く動いたキャサリン嬢が逆にシャイナーの横っ腹に拳を思い切り叩き込んだので未遂に終わる。
そんな二人を間近で見て、なんて女だと唖然としてしまった。
「キャ、キャシー…酷い……」
「あら。ごめんあそばせ。けれど王の愚行を止めるのは妃の役目ですわ。王妃の初仕事がこんなことになって残念です」
キャサリン嬢は扇を広げて微笑み、暗に『国際問題になるようなことをやらかすな』とシャイナーへと牽制をかけた。
「シャイナー陛下の言い分もわかりますが、ロキ陛下の大切な方に手を上げる行為は見過ごせません。お分かりになって?」
『大好きなご主人様を一生失っても後悔しないというのなら別ですけれど』とキャサリン嬢は重ねて口にする。
確かに後からロキがそれを知ったら何かしら行動を起こすのは必至だろう。
そこにシャイナーも思い至ったらしい。
「うっ…」
「それと、リヒターがロキ陛下を抱いたというのなら当然許可を得てのことだと思いますわ。彼は私の目から見ても非常に生真面目な騎士ですから、無体なことは致しません。私情でカリン陛下に殴り掛かるのはお門違いです」
「キャサリン妃…」
「カリン陛下。うちの駄犬陛下が申し訳ございません。このお詫びはまた改めてさせていただきますので」
そんなやり取りをしているところでリヒターが身形を整えてこちらへとやってきた。
「リヒター。来たか」
「はい。シャイナー陛下、キャサリン王妃、この度はロキ陛下のために足をお運びいただきありがとうございます」
「いいえ。こちらの不手際のせいでロキ陛下がお倒れになられたのですもの。こちらこそ謝罪いたします」
キャサリン妃はそうやってリヒターにも丁寧に謝罪してくれたがシャイナーは憎々し気にリヒターを睨んでいるから、きっと許せない気持ちでいっぱいなのだろう。
「それで、ロキ陛下のご様子はどうでした?」
「眠る間際には毒は抜けきっていたようで、意識ははっきりしていました。ただかなり疲れたようなのでそのままお休みいただきました」
「そう。お可哀想に…。犯行を犯した者はカリン陛下の方で把握してくださったようなので後はこちらで処罰をしておきますが、皆様の方で何かご希望はありますか?」
「俺は極刑を望む」
俺は当然とばかりにそう口にした。
それに対し他の者達も首を縦に振ったから皆気持ちは同じだろう。
ユーツヴァルトに騙されてのことだとしても、国王暗殺未遂に変わりはない。
「わかりました。ではそのように」
「セドリックへも今日中に手紙で知らせて、明日朝一番で話ができるようにしておく」
そうして二人は対処は任せてほしいと言って部屋を後にした。
「……リヒター。ロキは俺について何か言っていたか?」
「そうですね。捨てられたらどうしようと泣いておられました」
「……そうか」
「取り敢えず『カリン陛下は急に手洗いに行きたくなっただけですよ』と誤魔化しておいたので、何か聞かれたら『急な体調不良ですまなかった』とだけフォローをお願いします」
こんなところまでリヒターは本当にしっかりフォローを入れてくるから敵わない。
それからロキの護衛をカーライル達に任せて部屋を出て、明日からのことについて話し合った。
なんでも既にリヒターがアルフレッド経由でユーツヴァルトには釘を刺してくれる予定になっていたらしく、その手際の良さに驚きを隠せない。
本当に一近衛騎士にしておくには惜しい男だ。
実力から言って側近になっても全くおかしくはないのに、本人曰くそれだとロキを傍で守れないから嫌なのだとか。
文句なしに愛情深いいい男だと思う。
正直ロキが目を覚ました時にリヒターを褒め称える言葉を聞かされそうで凄く怖い。
「じゃあ今後のユーツヴァルトへの対応は、セドリック王子やアルフレッドがどう出るか次第ということで、一先ず様子を見よう」
そう締めくくるように話をまとめると、皆が一つ頷きを落とした。
***
そっと眠るロキの隣へと身を滑り込ませる。
今の穏やかな表情にホッとするが、この顔を取り戻したのは自分ではない。
それが辛くて辛くて、ロキに伸ばした手を思わず引っこめてしまった。
けれどそのタイミングでロキの目がゆっくりと開いてふわりと微笑まれた。
「兄上…」
「ロキ…」
「捕まえた」
そう言いながら何故かそのまま抱き着かれた。
これは寝惚けているんだろうか?
「勝手にどこかに行かないでくださいね?そんなことをするなら鎖に繋いで媚薬漬けにして虐め倒しますよ?」
(怖いな?!)
「ちょ、ちょっと手洗いに行った後闇医者と話し込んでただけだ!他意はない!」
「ならいいんですけど…」
一応そうは答えたものの納得した様子はない。
完全に疑われている。
伊達に俺を普段から観察していない。
けれど弁明の言葉を口にするよりも先に、俺は切ない気持ちで別な言葉を口にしていた。
「……ロキ。傍にいるのはリヒターじゃなくていいのか?」
確認するのは怖い。
でも奪われるのは嫌だ。
だから聞いた。
そんな俺にロキは擦り寄るようにしながら「兄上がいいです」と言ってくれる。
いつものやりとり。
「俺が兄上を好きな気持ちはずっと変わりません」
そう言って『部屋から出ていかれて悲しかったです』と沢山甘えられた。
そんなロキにキュッと胸が締め付けられて、俺は素直に謝罪の言葉を口にする。
「ロキ…悪かった」
「兄上……捨てないでくださいね?」
「ああ。もちろんだ。俺だってお前がいないとダメなのはお前が一番よく知っているだろう?」
そう答えると本当に嬉しそうに笑って、ぎゅうぎゅう抱き締められた。
「兄上。好き。大好きです。こんなに好きになれるのは兄上だけです」
真っ直ぐに告げられるロキの言葉がじんわりと胸を満たしていく。
俺がロキを愛情で満たすだけじゃなく、ロキから返される沢山の愛が嬉しくて、幸せを噛みしめる。
この幸せは誰にも奪われたくはない。
本当に生きていてくれてよかった。
(やっぱりユーツヴァルトは処分してやりたいな)
もう二度とロキを害されたくはない。
あんなに気を配りずっと側にいたにもかかわらず毒を盛られたのなら、もう毒を防ぐ手段はひとつだけ。
諸悪の根源を始末するほかない。
セドリック王子がどう出るかはわからないが、俺の心は決まった。
「ロキ、疲れているだろう?早く寝ろ」
「……わかりました。おやすみなさい。兄上」
「おやすみ。ロキ」
穏やかな夜に思うのはただ一つ。
(お前の敵は俺がきっちり排除してやるから、安心して眠れ…)
ロキの様子が気になるけれど、大丈夫だろうか?
ドアを開ける勇気が出なくて二の足を踏んでいる俺だったが、そんな俺を押しのけるようにして闇医者とカーライルがサッサと入室してしまう。
(なっ?!)
慌てて後を追うと、キチンと身を清められて綺麗なバスローブに身を包んだロキがスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
何と言うか、リヒターの処置は本当に完璧だ。
「目標レベルが分かりやすくていいですね。ここを目指して頑張ってください」
闇医者の言葉が地味にグサッと胸に刺さって居た堪れない。
それから軽く診察をして毒は抜けきったようだと闇医者は判断していた。
何か所か敏感な場所に触れても媚薬症状が返ってこなかったのがその証拠らしい。
取り敢えず助かったとみていいのだろう。
本当に良かった。
そんな俺達の耳へバタバタと走る音が聞こえてきて、バァンッ!と勢いよく部屋の扉が開く音が聞こえてきた。
これはきっとシャイナーだろう。
「ロキ!!」
しかも心配してくれたのかキャサリン嬢まで同行している様子。
流石にロキを起こすのは可哀想だからと寝室から全員で出てソファへと座った。
「カリン陛下。ロキ陛下は大丈夫なのですか?」
「ああ。処置が終わって今眠ったところだ」
「そうですか。ご無事でよかったですわ」
「誰が何の目的でロキに毒を…!」
許せんとシャイナーが怒りの声をあげる。
「実行犯はすぐに牢に入れるよう指示を出した」
「まさか披露宴でこのようなことをする輩がいるとは思わず、大変申し訳ございませんでした」
揃って頭を下げてくるが、流石にユーツヴァルトの件はシャイナー達からすれば想定外の出来事だっただろう。
何も知らなかったのだし、責めるわけにもいかない。
下手に騒ぎ立ててアルフレッドを巻き込みセドリック王子を敵に回すのも恐ろしいし、どこまで表沙汰にするかは悩みどころだ。
だから一先ず端的にロキが狙われている件についてのみ話しておくことに。
「実は先日のロロイア訪問以降、厄介な者にロキが目をつけられていてな」
「ロロイアの逆恨みか?」
「いや。全くの別件だ」
「特定できている相手なのか?」
けれどこう聞かれては流石に隠し立てはし難い。
仕方なく溜息を一つ吐いて重々しくそれを告げた。
「……アルフレッドの知り合いだ」
「アルフレッドというと、セドリックの側妃のか?」
「ああ」
シャイナーは話を聞いて驚きのあまり目を大きく見開いてしまう。
「…………この件にアルフレッドは絡んでいると思うか?」
「いや。全くノータッチだと思う」
「そうか…。では実行犯だけ取り敢えず処罰して、明日にでも俺が直接セドリックと話し合ってみよう」
「いいのか?」
「当然だ。それよりもロキだ。媚薬成分のある毒とのことだが、本当に大丈夫だったんだな?」
落ち着いた様子で心配そうにそう言ってくるシャイナー。
けれどそれは俺の言葉で一気に変わってしまった。
「ああ。リヒターが抜き切ってくれたから…」
「リヒター?!お前は大事な伴侶を他の男に託したのか?!」
それはシャイナー的には許せなかったらしく、怒り心頭と言わんばかりに俺を睨みつけ、そのまま殴りかかろうとしてきた。
けれどその拳が俺に当たる前に、素早く動いたキャサリン嬢が逆にシャイナーの横っ腹に拳を思い切り叩き込んだので未遂に終わる。
そんな二人を間近で見て、なんて女だと唖然としてしまった。
「キャ、キャシー…酷い……」
「あら。ごめんあそばせ。けれど王の愚行を止めるのは妃の役目ですわ。王妃の初仕事がこんなことになって残念です」
キャサリン嬢は扇を広げて微笑み、暗に『国際問題になるようなことをやらかすな』とシャイナーへと牽制をかけた。
「シャイナー陛下の言い分もわかりますが、ロキ陛下の大切な方に手を上げる行為は見過ごせません。お分かりになって?」
『大好きなご主人様を一生失っても後悔しないというのなら別ですけれど』とキャサリン嬢は重ねて口にする。
確かに後からロキがそれを知ったら何かしら行動を起こすのは必至だろう。
そこにシャイナーも思い至ったらしい。
「うっ…」
「それと、リヒターがロキ陛下を抱いたというのなら当然許可を得てのことだと思いますわ。彼は私の目から見ても非常に生真面目な騎士ですから、無体なことは致しません。私情でカリン陛下に殴り掛かるのはお門違いです」
「キャサリン妃…」
「カリン陛下。うちの駄犬陛下が申し訳ございません。このお詫びはまた改めてさせていただきますので」
そんなやり取りをしているところでリヒターが身形を整えてこちらへとやってきた。
「リヒター。来たか」
「はい。シャイナー陛下、キャサリン王妃、この度はロキ陛下のために足をお運びいただきありがとうございます」
「いいえ。こちらの不手際のせいでロキ陛下がお倒れになられたのですもの。こちらこそ謝罪いたします」
キャサリン妃はそうやってリヒターにも丁寧に謝罪してくれたがシャイナーは憎々し気にリヒターを睨んでいるから、きっと許せない気持ちでいっぱいなのだろう。
「それで、ロキ陛下のご様子はどうでした?」
「眠る間際には毒は抜けきっていたようで、意識ははっきりしていました。ただかなり疲れたようなのでそのままお休みいただきました」
「そう。お可哀想に…。犯行を犯した者はカリン陛下の方で把握してくださったようなので後はこちらで処罰をしておきますが、皆様の方で何かご希望はありますか?」
「俺は極刑を望む」
俺は当然とばかりにそう口にした。
それに対し他の者達も首を縦に振ったから皆気持ちは同じだろう。
ユーツヴァルトに騙されてのことだとしても、国王暗殺未遂に変わりはない。
「わかりました。ではそのように」
「セドリックへも今日中に手紙で知らせて、明日朝一番で話ができるようにしておく」
そうして二人は対処は任せてほしいと言って部屋を後にした。
「……リヒター。ロキは俺について何か言っていたか?」
「そうですね。捨てられたらどうしようと泣いておられました」
「……そうか」
「取り敢えず『カリン陛下は急に手洗いに行きたくなっただけですよ』と誤魔化しておいたので、何か聞かれたら『急な体調不良ですまなかった』とだけフォローをお願いします」
こんなところまでリヒターは本当にしっかりフォローを入れてくるから敵わない。
それからロキの護衛をカーライル達に任せて部屋を出て、明日からのことについて話し合った。
なんでも既にリヒターがアルフレッド経由でユーツヴァルトには釘を刺してくれる予定になっていたらしく、その手際の良さに驚きを隠せない。
本当に一近衛騎士にしておくには惜しい男だ。
実力から言って側近になっても全くおかしくはないのに、本人曰くそれだとロキを傍で守れないから嫌なのだとか。
文句なしに愛情深いいい男だと思う。
正直ロキが目を覚ました時にリヒターを褒め称える言葉を聞かされそうで凄く怖い。
「じゃあ今後のユーツヴァルトへの対応は、セドリック王子やアルフレッドがどう出るか次第ということで、一先ず様子を見よう」
そう締めくくるように話をまとめると、皆が一つ頷きを落とした。
***
そっと眠るロキの隣へと身を滑り込ませる。
今の穏やかな表情にホッとするが、この顔を取り戻したのは自分ではない。
それが辛くて辛くて、ロキに伸ばした手を思わず引っこめてしまった。
けれどそのタイミングでロキの目がゆっくりと開いてふわりと微笑まれた。
「兄上…」
「ロキ…」
「捕まえた」
そう言いながら何故かそのまま抱き着かれた。
これは寝惚けているんだろうか?
「勝手にどこかに行かないでくださいね?そんなことをするなら鎖に繋いで媚薬漬けにして虐め倒しますよ?」
(怖いな?!)
「ちょ、ちょっと手洗いに行った後闇医者と話し込んでただけだ!他意はない!」
「ならいいんですけど…」
一応そうは答えたものの納得した様子はない。
完全に疑われている。
伊達に俺を普段から観察していない。
けれど弁明の言葉を口にするよりも先に、俺は切ない気持ちで別な言葉を口にしていた。
「……ロキ。傍にいるのはリヒターじゃなくていいのか?」
確認するのは怖い。
でも奪われるのは嫌だ。
だから聞いた。
そんな俺にロキは擦り寄るようにしながら「兄上がいいです」と言ってくれる。
いつものやりとり。
「俺が兄上を好きな気持ちはずっと変わりません」
そう言って『部屋から出ていかれて悲しかったです』と沢山甘えられた。
そんなロキにキュッと胸が締め付けられて、俺は素直に謝罪の言葉を口にする。
「ロキ…悪かった」
「兄上……捨てないでくださいね?」
「ああ。もちろんだ。俺だってお前がいないとダメなのはお前が一番よく知っているだろう?」
そう答えると本当に嬉しそうに笑って、ぎゅうぎゅう抱き締められた。
「兄上。好き。大好きです。こんなに好きになれるのは兄上だけです」
真っ直ぐに告げられるロキの言葉がじんわりと胸を満たしていく。
俺がロキを愛情で満たすだけじゃなく、ロキから返される沢山の愛が嬉しくて、幸せを噛みしめる。
この幸せは誰にも奪われたくはない。
本当に生きていてくれてよかった。
(やっぱりユーツヴァルトは処分してやりたいな)
もう二度とロキを害されたくはない。
あんなに気を配りずっと側にいたにもかかわらず毒を盛られたのなら、もう毒を防ぐ手段はひとつだけ。
諸悪の根源を始末するほかない。
セドリック王子がどう出るかはわからないが、俺の心は決まった。
「ロキ、疲れているだろう?早く寝ろ」
「……わかりました。おやすみなさい。兄上」
「おやすみ。ロキ」
穏やかな夜に思うのはただ一つ。
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