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183.毒への誘い⑦

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手洗いを済ませて、そう言えば闇医者をセドリック王子に引き合わせるのを忘れていたと思い出す。

「あ、そうだ。そろそろ闇医者をセドリック王子に引き合わせておかないと」

それを口にしたらカークがすぐさま動いてくれて、闇医者を連れてきてくれた。
セキュリティの関係でパーティー会場に入るのは難しいけど、取り敢えず入り口で待機してもらって、セドリック王子を呼びに行くことに。
人が多くて探すのが大変かもと思ったけど、案外あっさり見つかったから助かった。
側にいたアルフレッドがこちらに気づいてくれたから、話し中のセドリック王子にも気づいてもらえたし合流はスムーズに済んだと言っても過言ではない。

それから会場を出て闇医者を改めて紹介して、場所を移動する。
道すがら軽く耐毒薬について話して、闇医者から改めてリスクの話もあるので無理だと思ったらやめてもいいですよと伝えておいた。
あくまでも自己責任なので、無理はして欲しくない。
そうやってセドリック王子達の部屋へと移動し、きっちりと闇医者の方からもリスク説明をしてもらった。
そしていざ毒耐性の薬を試す段になったところで、急に視界が揺れるのを感じた。

(あ…れ?)

軽い貧血かなと思いながら、それとなく壁際へと移動する。
邪魔になったら大変だと思ったからだ。
このまま無事に処置が終わって暫く様子を見たらお暇することができるし、暫くこうしていようと思った。

「兄上。肩を借りてもいいですか?」
「ロキ。具合が悪いのか?」
「なんだか頭がフラフラするだけです」
「風邪でも引いたか?酒はそんなに酔うほど飲んでいないよな?」
「ええ」
「熱は?なさそうだな。頭が痛かったりはしないか?」
「大丈夫ですよ。貧血かもしれませんし、この後は部屋に戻って早めに休みますね」
「ああ。そうしておけ」

心配そうな兄を安心させるようにそう言って、笑顔で大丈夫だとアピールする。
けれど症状は治まることがなくて、段々気分まで悪くなってきてしまった。
身の内に熱がこもっている気もするし、本格的に風邪でも引いたんだろうか?
そしてセドリック王子に退室許可を取った闇医者が踵を返した時には、結構限界になっていた。

「ロキ陛下?顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
「ああ…なんだかさっきから眩暈がするんだ。まあ寝てたら治ると思うし、大丈夫だと思う」
「そうですか?念のため部屋に戻ってから診察しますね」

その場でそう言ってくれた闇医者の言葉に甘えて、診察をお願いすることに。
その後挨拶をしてセドリック王子の部屋を辞したけれど、部屋を出たところでまた症状が悪化した。
息が荒くなってその場にしゃがみ込んでしまったのだ。

「ロキ!大丈夫か?!」

あまり大丈夫ではない。
早く横になりたい。

そう思いつつなんとか兄に支えてもらいながら立ち上がったところで、サッとリヒターに抱き上げられてしまう。

「リヒター!ロキは俺が連れて行く!貸せ!」
「カリン陛下はお部屋に戻ってからロキ陛下の手を握ってあげてください。その方がロキ陛下は喜ぶと思います」
「う……」
「今は早急に安静に横たわらせる必要があるので、このまま運ばせてください」
「…わかった」

そんなやり取りに安堵して、そのまま運んでもらうことに。

「ロキ陛下。吐き気はありませんか?」
「う…ちょっとだけ…気持ち悪い」

吐くほどではないけど、胸焼けしているような気持ち悪さと息苦しさに襲われて気分は最悪だった。

「ゆっくりでいいので、パーティーの席で口にしたものを教えてください」
「え…なんだったかな…」
「ロキは基本的に俺と同じものしか口にしていないぞ?サラダとローストビーフ、カルパッチョに後はなんだったか…いずれにせよあの会場はビュッフェ形式だから毒は盛りようがないものばかりだ」
「では飲み物は?」
「それも給仕が配っているものだけだったし、問題はないはずだ」

時間も経ってるし毒ではないのではないかと兄はリヒターに話している。

「陛下。今現在の症状をできる限り言ってください」

闇医者が俺の顔色がどんどん悪くなっているのを受けてそう聞いてきたから、なんとか懸命に口にしてみる。

「眩暈と胸焼け?かな?やけに気持ち悪い。後、息も苦しくて段々身体に熱が溜まってきている気がする」
「熱が?」

そうして闇医者がそっと額に手を伸ばした後、脈をとった。

「だいぶ速いですね」

そうして部屋へとたどり着いてからそっとベッドへと降ろされたのだけど、その後兄に手を握られたところで口から吐息交じりに甘い声が出てしまった。

「はぁ…ん……」
「ロキ?」
「……媚薬か?」

闇医者が訝し気にそう口にして、鞄から取り出した何かの魔道具を操作して、綿棒を一本俺の口へと差し入れ唾液を採取する。
それから魔道具の中にその綿棒を入れて分析したところ、やはり媚薬成分が検出されたのだけど、それと同時に毒成分も検出されてしまった。

「…?!いつの間に?!」

そこからは念のためと俺と同じものを食べたり飲んだりしたはずの兄も検査を受けていたけど、そちらからは何も検出されなかったらしい。

「なんでロキだけ?!」

これには兄も驚いた様子。

「うぅ…っ」
「ロキ!」
「数値的には毒耐性薬が効いているため死ぬことはないですが、媚薬成分の作用で暫く辛いと思います」
「ぬ、抜いてやったらいいのか?!」
「そうですね。その方がいいと思います」

それでも本来ならもっと酷い症状が出ていてもおかしくはない類のものだったらしい。
これくらいで済んでよかったともいわれた。

「この結果から類推するに、恐らく使われたのは【ハーピーの口づけ】かと。似た症状が出る毒もいくつかありますが、最も有名な【カーミラの愛】は即効性があるので違います。遅効性の毒で言うと【メデューサの蜜】なら硬直がみられますし、【セイレーンの誘惑】なら意識が朦朧とします。いずれもなさそうですし、今回はまず【ハーピーの口づけ】で間違いないでしょう」
「それはどういう毒なんだ?!」
「遅効性の毒で、快楽に溺れ続けているうちに毒が全身に回って死ぬというやつですね。今回は死なないので、毒が抜けるまでひたすら快楽を追い求めることになるかと」
「え…凄く嫌だ」
「一応媚薬耐性が少しはついているので、理性は失わずに済むと思いますよ?」
「それって蛇の生殺しなんじゃ…。うっ…」
「ロキ!しっかりしろ!」

兄が涙目で手を握ってくれるけど、そろそろ辛過ぎるからもう意識を解離させたい。
そうしたら何も感じずにいられるから悪くはない選択だろう。
こういう時役立つスキルだなと思いながら、そっと実行に移そうとしたら闇医者に頬を摘まれた。

「ストップ!そこで逃げないでください」
「…酷い」
「貴方がここで意識を切り離したらイけなくなってしまいます。万が一後遺症が出ても困りますし、毒は出来るだけ排出してから普通に寝てください」

つまり兎に角抜きまくれと言うことか。
でも辛いものは辛い。
だから素直にそう言った。

「辛い…から無理…」
「カリン陛下がいるんですから手でしてもらったらいいじゃありませんか」
「だって兄上は手でするのは苦手だし…」
「グッ…!」
「可愛い口で奉仕してもらったら毒成分を兄上が飲んでしまうし…」
「まあそれはそうですね」
「同じ理屈で、突っ込めないだろう?」
「まあカリン陛下が挿れられる側だと困りますね」
「でも俺が動けないから、兄上に挿れて貰っても無理だと思う」
「下手なんですか?」
「兄上は優しいんだ。その分沢山イかせるなんて無理だと思う」
「つまり下手くそなんですね。わかりました。誰か他の上手な者に抱いてもらうのがベストです」

淡々とそんな話をしていたら兄がショックで涙目になっていた。

「酷い…っ!」
「えっと…俺は下手とは言ってませんよ?」
「でも絶対思ってる!」
「いえ、俺から見ると虐めてアピールに思えて可愛くて仕方がないので、美味しいです」

その不器用さがたまらなくゾクゾクするんですと言ったら、皆からしょうがない人だなという目を向けられたけど、本当のことだから仕方がない。

「はぁ…兄上。凄く虐めたいのに動けないのが悔しいです。ふ…うぅ…辛い……」

毒の成分のせいなのか身体から力が抜けて、媚薬の症状ばかりが強調されてしまう。
なんの地獄だ。
単なる媚薬ならシャイナーの仕業だと思えたけれど、毒性があったなら絶対に犯人はユーツヴァルトだろう。

「ロキ!!闇医者、俺にできることは?!」
「先程も言ったように抜いてあげるのが一番ですね。幸い媚薬の症状がそれなりに出ているので、ロキ陛下が意識を解離さえしなければ多少下手でもイかせてあげられるのでは?」

そんなに下手下手とここぞとばかりに虐めてやらないで欲しい。

「闇医者…兄上を虐めるのは…はぁっ、俺の特権だぞ?」
「わかってますよ。当然わざとです。この状況の方が貴方が勝手に意識を解離させないでしょうから」

確かにそれはその通りだ。
流石に付き合いが長いだけのことはある。

「ロキ、いいからおとなしくしていろ!皆、下がれ!後は俺がやる!」

その言葉に皆が皆心配そうにしながらも寝室を後にする。

「兄上…」
「待っていろ。ちゃんと抱いてやるから」

その言葉にコクリと頷き、俺は兄へと身を任せた。

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