【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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179.毒への誘い③

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今日は兄と一緒にアンシャンテへと向かう日だ。

日程としては婚礼前日に到着し、ゆっくりしてから翌日朝から参列。
その後披露宴が大々的に執り行われてそれが夜まで続く。
しかも夕刻以降はダンスパーティー形式に変わるんだとか。
その日はアンシャンテに泊まり翌日ガヴァムに帰る。
向こうで二泊三日の行程だ。

アンシャンテの貴族はほぼ全員参加。
各国からの招待客も多々訪れるというから、かなり大規模なパーティーになる予定だ。

ブルーグレイからはセドリック王子とアルフレッドも来るらしい。
後は意外なところで前アンシャンテ王も参列すると聞いた。
退位してようと息子の晴れ舞台は特別らしい。
親子仲が良いところはどこもそんな感じなんだろうか?
うちとは大違いだなと思った。

「ロキ。大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。兄上は?」
「お、俺も大丈夫だ」

虚勢を張ってはいるけれど、何度乗ってもワイバーンは苦手らしく、今日も兄は可愛く震えている。
兄らしくありたいと強がってるところが逆に可愛いと言ったら兄は怒るだろうか?
ベッド以外でも沢山甘えてくれていいのに。

今回は国王らしく大所帯で移動するので城から一斉にワイバーンで飛び立つため、準備ができたら合図を送らないといけない。

(ワイバーンも数が随分増えたな)

最初は一匹もいなかったのに、なんだかんだと出掛ける機会が多かったせいで財務大臣が頑張って予算を割いて数を増やしたらしい。
そこまでしなくてもいいのに。

「ロキ陛下は色々巻き込まれる質ですし、各所に相談して決めさせていただきました」

そこまで言われたら何とも言えなかった。

「出発!!」

そして一斉に飛び立つワイバーン。
でもそれを見たであろう街の者達から歓声が上がり、「ロキ陛下!万歳!」とか「行ってらっしゃい!お気をつけて!」などの声が聞こえてきてなんだかちょっとだけ恥ずかしかった。
こういうのは恥ずかしいから、今度出掛ける時はやっぱり一匹のワイバーンで出掛けたいなと強く思った。



無事にアンシャンテへと到着した際、たまたまセドリック王子達と到着時刻が重なったようで、ワイバーンから降りる姿が目に留まった。

「あ、セドリック王子!」

そう口にすると兄がビクッと怯えてしまったが、向こうもこちらに気づいてすぐに歩を進めてきたから今更気づいていない振りなどできるはずもない。
そもそも今回は他の用事もあるのだ。
なんでも毒耐性薬をセドリック王子自ら試したいらしい。
アルフレッドに使う前の安全確認にとのことだったから、愛が深いなと思った。

「ロキ陛下。ロロイアでは助けていただきありがとうございました」

アルフレッドから以前の件で礼を言われたけれど、特に気にしていなかったので「お気になさらず」とだけ返しておく。
その後セドリック王子から本題を切り出されたからきちんと答えておいた。

「ロキ。今回闇医者は連れてきてくれたか?」
「ええ。本人は渋々でしたけどちゃんと来てくれましたよ?」
「そうか」
「最終日でいいんですよね?」
「いや。正確には明日の夜だな。その方が寝込んでも日程を伸ばしやすい」
「ああ、確かに。それなら伝えておきます」
「頼んだ」

場所が場所だけにあまり長々と話しても邪魔になってしまうし、まだシャイナーへの挨拶すらできてはいない。
兄も緊張しっぱなしだし、ここは手短かに話を終わらせてしまおうと要件だけを口にした。
セドリック王子も特に長話をする気はないようで、話はあっという間に終わったし、俺は兄を連れて笑顔でその場を後に。

不安そうな兄に『大丈夫ですから』と声を掛けたら、ホッとしたように甘えてくれたから嬉しい気持ちに満たされてしまう。
兄に素直に甘えてもらえるのは本当に幸せだ。

(後でいっぱい可愛がってあげよう)

そんな風に思った俺だった。


***


【Side.カリン】

とうとうあの鬱陶しいシャイナーの結婚式がやってきた。

(やっと。やっとだ!)

これでロキがシャイナーに纏わりつかれる頻度も下がるはず!
そう思って喜び勇んで祝いに駆けつけたというのに…。

「あ、セドリック王子!」

(何故着いて早々遭遇する?!)

ロキは嬉しそうだが、俺は会いたくなかった!
今回は招待客も多いし、アンシャンテ中の貴族が参列するから会わずに済むかもと思っていたのに…。

「ロキ。今回闇医者は連れてきてくれたか?」
「ええ。本人は渋々でしたけどちゃんと来てくれましたよ?」
「そうか」

そんなやり取りをする二人を見て、そう言えば何故か闇医者がワイバーンに乗っていたなと思い出す。
てっきりユーツヴァルト対策だとばかり思っていたのだが、違ったんだろうか?

「最終日でいいんですよね?」
「いや。正確には明日の夜だな。その方が寝込んでも日程を伸ばしやすい」
「ああ、確かに。それなら伝えておきます」
「頼んだ」

そのやり取りでなんとなくだがやることが分かった気がする。
多分毒耐性の薬だ。
だがセドリック王子は大国の王子だ。
わざわざあれをする意味があるんだろうか?
正直何故?という気がしてならない。

「セド?もしかしてそれって…」

ここで初めてアルフレッドが口を挟む。

「ああ。俺が先に試してからお前にと思ってな」
「ふふっ。セドリック王子は本当にアルフレッド妃殿下を愛してらっしゃいますね」
「当然だ」

そうやって目の前で繰り広げられたその会話で納得がいった。
どうやらアルフレッドに毒耐性をつけたいから自分で先に試そうと思ったらしい。

そうこうしているうちに双方の会話が終了し、俺はロキに連れられてその場を離れることができた。

(助かった…)

ホッと安堵の息を吐いていたらロキがキュッと手を握ってくれて、『大丈夫ですから』と優しい声で言ってくれる。
それだけで心がスッと落ち着いていくのを感じた。

(そうだ。いつだってロキが一緒なら大丈夫だった)

そう思ったらすごく甘えたくなって、気づけばねだるようにその言葉を紡いでしまっていた。

「ロキ…。シャイナーへの挨拶が終わったら、いっぱい甘えたい」
「いいですよ?沢山甘やかしてあげますね」

(幸せ…)

ロキの笑顔が俺に向けられて凄く幸せを感じ、なんだか凄く照れ臭くなってしまう。
ロキとは色々あったが、それが全部今の幸せに繋がっていたと考えるとじんわりと感動が込み上げてくる。
この幸せを壊したくはない。

どこかに出掛けるといつもトラブルが起こっている気がする為、今回はロキの護衛達との打ち合わせを万全にしておいたし、万が一ユーツヴァルトを見かけたらすぐにでも情報を共有して警戒にあたるよう周知しておいた。
だからきっと大丈夫なはず。
今回は闇医者も同行してくれているし、いざという時は頼ることもできる。

(そうは言ってもこれまでのこともあるからな…)

油断は禁物だ。
いつも狙われるのはロキが俺から離れたタイミングだ。
警戒を怠らないよう、常にロキと一緒に行動しようと心に誓った俺だった。


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