【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

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177.毒への誘い① Side.ユーツヴァルト&他視点

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【Side.ユーツヴァルト】

友人のアルフレッドから手紙が届いた。
『毒耐性をつけるために耐毒薬をひと月も頑張って飲み続けたのに、ロキ陛下は別の耐毒薬で一日で終わったらしい。羨ましい』そんな内容だった。

「……ロンギスめ。余計なことを」

これまでそんなことをしてこなかったくせに、簡単に死ねないようにここにきて対策を取るだなんて、俺への当てつけにしか思えない。

「まあいい」

毒の種別など千差万別。
吟味さえすればちゃんと効くものはあるのだ。
その証拠にガヴァムの前王はセドリック王子に毒殺されたらしいと密やかに噂で聞いた。
毒に慣らしてきた王族でさえこれなのだ。
大丈夫。
ちゃんと死出の旅に連れて行ってやれる。
問題はどの毒がいいか。ただそれだけ。

眠るように死ねる毒は恐らくロンギスは対処済みだろう。
一般的に即死系の毒はこの手の耐毒薬で防がれることが多い。
だから余程の苦しんで死ぬような毒でもなければ難しくなってしまう。
けれど自分はロキ陛下を苦しませて殺したくはない。
優しく優しく殺してあげたい。
そうでなければ意味がない。
自分が与えてやりたいのは幸せな死なのだから。
苦しかったら台無しだ。

「そう言えばロキ陛下は可哀想な生い立ちだから娯楽も殆どなく育ったんだったか…」

それなら新婚生活で夜に励むのも楽しいことだろう。

「そうか。あれがあったな」

【ハーピーの口づけ】

この毒はハーピーの魅了成分を血から摘出し、別の魔物二体の毒と混ぜ合わせたものだ。
遅効性の毒性を持ち、死ぬまで快楽に浸れるという強烈な媚薬成分が含まれた珍しいタイプの毒。
これならロキ陛下も幸せな気持ちで死ねるのではないだろうか?
後はどうやって盛るかという問題のみ。

「……そう言えばそろそろアンシャンテ王の結婚式があると聞いたな」

それなら王宮の侍女でも誘惑しておくとしようか。
そちら経由で給仕をする者に根回しを頼めばワインに毒を入れることも可能になる。
もしくは医師として顔を売っておけばいくらでも恩を売りつつ手を打つことも可能だ。
二重三重に手を打って、上手くやってみよう。

本人は今現在幸せだと言っていたし、その締めにこの毒で更に幸せになってもらえれば努力も実を結ぶというものだ。

(最高の至福を貴方に与えてあげますよ。ロキ陛下。楽しみにしていてくださいね)

そうして俺はアンシャンテへと旅立った。


***


【Side.エメラルダ】

私はエメラルダ=カーヴァイン。
6年前にアンシャンテにあるカーヴァイン侯爵家にガヴァムから嫁ぎました。
子供は現在二人。けれど夫は昨年病気で亡くなりました。

何が言いたいのかというと、その後安定収入がなかったのです!
王宮勤めの夫に先立たれれば私が何とかせねばならないのに、非常に困りました。
そんな折、たまたま投資した商会が母国であるガヴァムの三か国事業の煽りで急成長!
お陰で我が家は随分助かりましたわ。
正直ロキ陛下様様です。
それを元手にちょっとした事業も始めて、そちらも上手く軌道に乗せることができました。
これで夫の親戚に頭を下げずに子供達をなんとか育てる目途が立ったと言っても過言ではありません。

ロキ陛下は私がまだガヴァムにいた頃は冷遇された王子として扱われており、それはもう令嬢達だけではなく貴族全体から蔑まれていたものです。
私?私は正直どうでもよかったので好きも嫌いもありませんでしたわ。
だってあの方、全く表に出てこなかったんですもの。
私より確か4つか5つほど年下ですし、当時はまだ子供と言ってもよい年齢でしたしね。

私は社交界にデビューしてから華やかに過ごしていましたから、完全に別世界の話としか思っておらず、特に接点もありませんでした。
と言うよりも、どうして皆あれほど嫌えるのか、そちらの方が私にはよくわかりませんでしたわ。
だって会ったこともない方をどう嫌えと?
噂だけで判断って本気ですの?
意味が分かりませんわ。
皆さま頭におが屑でも詰まっているのかしら?

そんなことよりも当時はドレスや宝石の流行りや他国の話を聞く方がずっと有意義に感じましたし、私はそのまま古臭い慣習に愛想を尽かして、たまたま知り合ったアンシャンテの貴族に勢いで嫁ぎましたの。
なかなか苦労しましたのよ?
ガヴァムの貴族は外に身内を出したがりませんから、手紙だけ残して行方不明になって差し上げましたわ。
身一つで嫁入りした私を受け入れてくださった旦那様は本当に懐の深い方でした。
後妻としてだったので彼の両親も煩くありませんでしたし、私にとってもまさにベストな嫁入り先といえました。

まあそんな話はどうでもいいですね。
私が言いたいのは、今度ガヴァムからそのロキ陛下がシャイナー陛下の結婚式に参列するためやってくるので、できればお礼を直接言いたいなということです。
ちょうど私の従兄弟がロキ陛下の護衛騎士になっていると聞いたので、できれば久しぶりに顔を見たい気持ちもあります。

「リヒターはちゃんとロキ陛下をお支えできているかしら?」

リヒターは15の時から身内に冷遇されているし、ちょっと心配していたのです。
リヒターの父親の愛人が亡くなったとかで、その娘が引き取られたのですが、いつの間にやらその娘は家族全員に取り入っていた様子。
そんな折、その義妹はリヒターに粉をかけて振られたらしく、リヒターの家族皆に『リヒターに襲われそうになって怖かった』などと泣きながら嘘八百を吹き込んだのですわ。
あの真面目なリヒターがそんなことするはずがないとちょっと考えたらわかるはずなのに、誰もそれを疑わなかったということは元々リヒターは皆から然程目を向けられていなかったのでしょう。
まあ皆、長男にばかり目が行っていたようですし、そのせいだと思います。

リヒターはあっという間に家族だけでなく使用人達にまで冷たい目を向けられるようになって、悲惨な状況に陥れられてしまいました。
従姉妹の私にできることと言えば事情を聴き、手紙で励ますことくらい。
ああ、後は隣の領地がちょうど公爵家で、昔からリヒターと仲の良いミュゼ様がいらっしゃったから、面倒をかけますが宜しくお願いしますと頼んでおきました。
私ができることは限られていますし、従姉妹とは言え学園で傍にずっとついていたら慎みがないなどと言われておかしな噂が立てられてしまいますから苦肉の策でした。
これで少しは救いになればいいけれどと思ったものです。

その後リヒターは学園も無事に卒業し、ミュゼ様の誘いで騎士になったと聞きました。
ミュゼ様は取り敢えずリヒターを冷遇する家族から引き離してくださった様子。
ありがたいですわ。
持つべきものは権力者の友人ですわね。
王宮でのびのび過ごせたらいいと思って私はそのまま実家を飛び出し、勢いで嫁いでしまったのでその後の詳細はよく知りません。
でもリヒターは努力家だし、頭もいいからきっと王宮でも然程苦労はないはず。
それにそんな境遇だったあの子だからこそ、きっとロキ陛下を支えてくれていると信じているのですが…。

「やっぱりパーティーで顔を見るのが一番ね」

未亡人になったとはいえカーヴァイン侯爵家は上級貴族。
当然結婚式には参列するし、その後のパーティーにも招待されています。
エスコートをお願いする相手がちょうどいないことだし、リヒターにお願いの手紙でも書いてみようと思います。
入場の時だけ傍にいてくれたら後はロキ陛下のところに行ってくれていいわよとでも書けばきっと来てくれると思うし、ダメ元で送ってみましょう。
ついでにロキ陛下にご挨拶もできたら嬉しいというのも添えておきましょうか。

「リヒターがロキ陛下のお傍で幸せそうに笑ってくれていたらいいのだけれど…」

そんなことを考えながら私はそっと筆をとりました。


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