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175.ロロイア国へ⑫ Side.トーマス王子&ロキ
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【Side.トーマス王子】
ずっとずっとその地位を奪ってやりたいと思っていた。
どうしてあんなに素行の悪い兄が王太子でまかり通っているんだろう?
あんな王太子でも王になれるのなら、俺がその座を奪ってもよくないか?
第二王子だからとずっとスペア扱いで、何故か王太子である兄よりも厳しく育てられた。
お前は兄の補佐をしなければならないのだからと言われ、政治のあれこれをこれでもかと教え込まれたのだ。
母は特に兄を溺愛している。
だからこそその素行がいくら悪かろうと許しているし、そのしわ寄せは全部自分へとやってきた。
帝王学も全部学ばされ、兄のフォローをするのはお前だとばかりに何度も言い含められた。
それならそんな兄ではなく自分が王位に就く方がずっといいんじゃないか。
そう思うのにそれほど時間はかからなかった。
けれどいくら頑張っても両親は兄を王位につける気満々で、こちらには全く目を向けてはくれない。
ガヴァムでやらかしたと聞いた時は、これで兄もいよいよ廃太子になるだろうと思ったのに、それさえなかった。
挙句大国ブルーグレイから王子を呼んで顔合わせ?
ふざけるにもほどがある。
だからその座を奪うため計画を練った。
偶然ではあるけれどちょうどガヴァムからカリン陛下もやってくるらしい。
ロキ陛下の溺愛っぷりは話に聞いていたから、ここで兄がやらかしたらきっとロキ陛下が怒りと共にここまでやってくるだろうことは簡単に予想がついた。
兄を身内で裁けないなら他の相手に頼めばいいのだ。
ロキ陛下がダメならセドリック王子に頼もう。
そういえばロキ陛下も元々第二王子だった。
それを押し上げ王の座に就かせたのはセドリック王子だ。
俺もそれにあやかりたい。
大丈夫。きっと上手くいく。
そう思いながらその日を迎えた。
兄は思った通り不興を買い、小国である父はなすすべもない。
母は憤っていたが、あんな狂人に真っ向から向かうほどの馬鹿ではなかった。
案の定『毒』という手段をとる。
知り合いの医者から『ロキ陛下に毒を盛って殺してやってほしい』と言われてはいたが、あいつが自分でやる分には構わないが、この好機に俺がそんな馬鹿なことをするはずがない。
俺が王位に就くためには、確実に兄を失脚させる必要があったからだ。
ここで兄を助けるような行為をするわけがない。
だからそれとなく妹のシェイラを使ってロキ陛下の皿とセドリック王子の皿を取り替えさせた。
あの医者────ユーツヴァルトの話によるとロキ陛下は毒に対する耐性が皆無らしいから仕方がない。
流石にセドリック王子は毒に慣らしているだろうし、間違って食べても大丈夫だろうと判断した。
これで大丈夫。
兄は確実に失脚する。
毒を盛るよう指示を出したのは母。
セドリック王子に毒の皿を回したのはシェイラだからその罪を問われるのもシェイラだ。
そしてすべての責任を取るのは国王である父。
そうやって邪魔者をすべて片付ければ俺は何の憂いもなく王の座に就くことができる。
俺は双方に『身内が申し訳ない』と言って申し訳なさそうに頭を下げればいいだけ。
そうすれば俺には何の咎もやってはこず、そのまま王位は俺のものとなる。
(完璧だ)
そう思っていたのに────何故俺は今、セドリック王子から剣を突きつけられているのだろう?
「な…ぜ…?」
「それを俺に問うのか?」
そう告げたセドリック王子の目はどこまでも冷ややかで…。
暫しの問答の末、俺はそのまま斬り捨てられた。
***
【Side.ロキ】
ロロイアの城から飛び立ち、隣国フォルティエンヌに入る。
ガヴァムとは逆方向だったけど、この大人数で一時的に態勢を整えなおして本格的に帰国準備をするのに最も適した場所があったからだ。
「まさかこんな形でここに来るとは思わなかったな」
マジックバッグに入れっぱなしにしていた屋敷の鍵を鍵穴へと差し込んで回すと、カチャリと音が鳴り、その扉が開いた。
ここはフォルティエンヌに用意された自分用の別荘だ。
内部はしっかりと綺麗に改装されて、状態保存の魔道具で清潔に保たれている。
シンプルだけど最新式の魔道具が贅沢に使われた屋敷と言えた。
「取り敢えず皆順次シャワーを浴びて、寝ましょうか。兄上。お腹は空いてないですか?食料庫に何かあれば作りますけど」
別に俺や他の者達だけならこの緊急時だし携帯食で十分だけど、兄に携帯食は可哀想かなと思い提案してみる。
そうすると一瞬パッと顔を輝かせたから、クスリと笑って「じゃあ作りますね」と返した。
「え?!いや、俺は皆と一緒で…」
「気になるなら皆で手分けして人数分作りますし、大丈夫ですよ」
言えばリヒターとカークも手伝ってくれるし、大丈夫だろう。
そうして食料庫を覗くと、小麦粉や芋など日持ちするものがちゃんと置かれてあり、長期保存冷凍ができる魔道具の中には肉や魚も一応入れられてあった。
状態保存の魔道具の改良版らしく、鮮度が一年保てるという最新式のものらしい。
どんな仕組みになっているのか興味津々だ。
まあそれは置いておいて、一先ず兄と自分の分をさっと手早く調理する事に。
他の面々は各自シャワーの合間に自分達で食べるらしい。
「取り敢えず簡単に作ってみました」
どうぞと皿を差し出すと嬉しそうに受け取って、美味しいと言いながら食べてくれた。
幸せ。
兄が嬉しそうにしていると自分も同じくらい嬉しい。
「兄上。本当に無事でよかったです」
心からそう口にしたら、兄は一旦手を止めて、何故か『それは自分のセリフだ』と言ってくる。
「正直俺はあのユーツヴァルトという医者に驚いた」
そう言って『二度とあいつに近づくな』と釘を刺されてしまう。
兄的にもあの人の行動はあり得ないものだったらしい。
まあ悪意なく毒を盛ってくる人がいるなんてちょっと普通では考えにくいことだし、仕方のない事だろう。
あれは医者独特の感性なのかもしれない。
(それにしても…自分の方が大変だったのに、兄上は優しいな)
昔なら絶対にこんな風に気遣ってくれなかっただろうに。
そう思う度に兄の愛情が確かに感じられて胸が苦しくなるほど愛しさが増していく。
重症だ。
これが後何十年も続くと考えると身悶えそうになる。
どこかでこんな日々に慣れる日も来るんだろうか?
それはとても贅沢な事だなと思いながら、俺はうっとりと兄を見つめた。
寝る時はもちろん兄と一緒にベッドに入る。
今日は久しぶりにぐっすり眠れそうだ。
甘えるようにすり寄ってきた兄を抱きしめて、俺は笑顔で気持ちのいい眠りについた。
翌日、準備を万端に整え昼からガヴァムへと移動する。
途中ブルーグレイのヴィンセント陛下やセドリック王子から連絡が入ったけど、無難に答えを返しておいた。
結果的に巻き込んでしまったことに変わりはないので、一応できる範囲でフォローだけは入れておくことに。
裏の者達に頼んで今回の件を上手い具合に各地へと噂として流してもらおう。
幸いオーリオが単独で城に残ってくれたから、正確な情報は即入ってくる。
毒の件をわざわざ教えに来てくれたセドリック王子が、間違っても悪く言われないよう広めてほしいと念押しして頼んでおこう。
結果的にキュリアス王子が悪者になるのは仕方がないし、別に構わないだろう。
その後ロロイア側も頑張って『悲劇のロロイア』という噂を流そうとしたらしいけど、こちらが裏の者達を使って商人を中心に各国に広く広めたのに対し、あちらはロロイア国内で一先ず周知させようとしただけだったらしく、失敗に終わったようだ。
普通に考えて周辺の十か国以上にツンナガールを使って広めたこちらと、ロロイア国内のみで広めた噂、どちらが圧倒的に有利かは言わずもがな。
特にガヴァムの三か国事業成功パーティーのことにも触れた噂にしたから、こっちは知る人ぞ知る内容で信憑性も非常に高いのだ。
情報戦でロロイアに勝ち目はない。
その後伝わってきた情報によると、ロロイア国は王と王妃、第二王子がセドリック王子によって粛清され、シェイラ王女は自らの罪を悔やんで自害。
キュリアス王子は俺が快楽堕ちをさせてしまった上、大事なところをなくしたショックでほぼ廃人状態。
対外的には『病気療養中』ということになっているらしい。
実質残されたニーナ王太子妃が仮に王位について、繋ぎの女王として政治を行い、まだ赤子である息子のルイージ王子が成長した暁にはその子を王位につける予定なのだとか。
ロロイア国自体はブルーグレイの属国となり、ニーナ妃がきちんと政治を行えるよう人材はそちらから派遣もされるらしい。
なんでもニーナ妃をその地位に指名したのがセドリック王子だったらしく、その件に関してはロロイアの大臣や貴族達など、誰も文句など言えない状況なのだと聞いた。
うちとちょっと状況が似ているけれど、ニーナ妃は俺みたいに壊れてはいないだろうから、きっと立派に繋ぎの職務を全うするだろう。
「そうだ。闇医者に会いに行くのをすっかり忘れていた」
そう言えば『死神ヴァルト』に会ってしまったのを報告するのをすっかり忘れていたと思いながら、俺は今日も裏の酒場へと足を運ぶ。
そこにいるのはちょっとお節介な腕のいい医者と、何故かやたらと構ってくれる馴染みの裏の者達。
「おぅ!ぶっ壊れ野郎!」
そう言って笑顔で迎えてくれる者の顔にはユーツヴァルトとは違う笑みが浮かんでいる。
こうして改めて比べてみると一目瞭然だ。
もしもユーツヴァルトに今度会うことがあるならこう言ってやりたい。
『誰が見ても壊れている自分だけれど、これが俺にとっての『普通』なので、世間一般の『普通』を押しつけて勝手に憐れみ殺そうとするのはやめてくださいね』────と。
だって今ここにいる自分は、闇医者はじめ裏の者達や、兄やリヒター、カークなど、皆が生かし常識を教え育ててくれたからこそ存在しているのだから。
彼らはこんな自分をただ憐れむのではなく、生き抜いていくための強さを与えてくれた。
壊れている自分が今幸せを感じることができるのはそんな皆のお陰だ。
だから俺は彼らと生きていく。
────心に希望の光が灯り続ける限り。
****************
※これにてロロイア編は終了です。
ロキがちょっとだけ未来を見つめ、また少し生きることに前向きになったお話でした。
お付き合い頂きありがとうございました(^^)
後は本編にリンクさせて、ロキから報告を受けた闇医者の話を閑話として明後日アップ予定です。
そちらもお付き合いいただける方はよろしくお願いしますm(_ _)m
ずっとずっとその地位を奪ってやりたいと思っていた。
どうしてあんなに素行の悪い兄が王太子でまかり通っているんだろう?
あんな王太子でも王になれるのなら、俺がその座を奪ってもよくないか?
第二王子だからとずっとスペア扱いで、何故か王太子である兄よりも厳しく育てられた。
お前は兄の補佐をしなければならないのだからと言われ、政治のあれこれをこれでもかと教え込まれたのだ。
母は特に兄を溺愛している。
だからこそその素行がいくら悪かろうと許しているし、そのしわ寄せは全部自分へとやってきた。
帝王学も全部学ばされ、兄のフォローをするのはお前だとばかりに何度も言い含められた。
それならそんな兄ではなく自分が王位に就く方がずっといいんじゃないか。
そう思うのにそれほど時間はかからなかった。
けれどいくら頑張っても両親は兄を王位につける気満々で、こちらには全く目を向けてはくれない。
ガヴァムでやらかしたと聞いた時は、これで兄もいよいよ廃太子になるだろうと思ったのに、それさえなかった。
挙句大国ブルーグレイから王子を呼んで顔合わせ?
ふざけるにもほどがある。
だからその座を奪うため計画を練った。
偶然ではあるけれどちょうどガヴァムからカリン陛下もやってくるらしい。
ロキ陛下の溺愛っぷりは話に聞いていたから、ここで兄がやらかしたらきっとロキ陛下が怒りと共にここまでやってくるだろうことは簡単に予想がついた。
兄を身内で裁けないなら他の相手に頼めばいいのだ。
ロキ陛下がダメならセドリック王子に頼もう。
そういえばロキ陛下も元々第二王子だった。
それを押し上げ王の座に就かせたのはセドリック王子だ。
俺もそれにあやかりたい。
大丈夫。きっと上手くいく。
そう思いながらその日を迎えた。
兄は思った通り不興を買い、小国である父はなすすべもない。
母は憤っていたが、あんな狂人に真っ向から向かうほどの馬鹿ではなかった。
案の定『毒』という手段をとる。
知り合いの医者から『ロキ陛下に毒を盛って殺してやってほしい』と言われてはいたが、あいつが自分でやる分には構わないが、この好機に俺がそんな馬鹿なことをするはずがない。
俺が王位に就くためには、確実に兄を失脚させる必要があったからだ。
ここで兄を助けるような行為をするわけがない。
だからそれとなく妹のシェイラを使ってロキ陛下の皿とセドリック王子の皿を取り替えさせた。
あの医者────ユーツヴァルトの話によるとロキ陛下は毒に対する耐性が皆無らしいから仕方がない。
流石にセドリック王子は毒に慣らしているだろうし、間違って食べても大丈夫だろうと判断した。
これで大丈夫。
兄は確実に失脚する。
毒を盛るよう指示を出したのは母。
セドリック王子に毒の皿を回したのはシェイラだからその罪を問われるのもシェイラだ。
そしてすべての責任を取るのは国王である父。
そうやって邪魔者をすべて片付ければ俺は何の憂いもなく王の座に就くことができる。
俺は双方に『身内が申し訳ない』と言って申し訳なさそうに頭を下げればいいだけ。
そうすれば俺には何の咎もやってはこず、そのまま王位は俺のものとなる。
(完璧だ)
そう思っていたのに────何故俺は今、セドリック王子から剣を突きつけられているのだろう?
「な…ぜ…?」
「それを俺に問うのか?」
そう告げたセドリック王子の目はどこまでも冷ややかで…。
暫しの問答の末、俺はそのまま斬り捨てられた。
***
【Side.ロキ】
ロロイアの城から飛び立ち、隣国フォルティエンヌに入る。
ガヴァムとは逆方向だったけど、この大人数で一時的に態勢を整えなおして本格的に帰国準備をするのに最も適した場所があったからだ。
「まさかこんな形でここに来るとは思わなかったな」
マジックバッグに入れっぱなしにしていた屋敷の鍵を鍵穴へと差し込んで回すと、カチャリと音が鳴り、その扉が開いた。
ここはフォルティエンヌに用意された自分用の別荘だ。
内部はしっかりと綺麗に改装されて、状態保存の魔道具で清潔に保たれている。
シンプルだけど最新式の魔道具が贅沢に使われた屋敷と言えた。
「取り敢えず皆順次シャワーを浴びて、寝ましょうか。兄上。お腹は空いてないですか?食料庫に何かあれば作りますけど」
別に俺や他の者達だけならこの緊急時だし携帯食で十分だけど、兄に携帯食は可哀想かなと思い提案してみる。
そうすると一瞬パッと顔を輝かせたから、クスリと笑って「じゃあ作りますね」と返した。
「え?!いや、俺は皆と一緒で…」
「気になるなら皆で手分けして人数分作りますし、大丈夫ですよ」
言えばリヒターとカークも手伝ってくれるし、大丈夫だろう。
そうして食料庫を覗くと、小麦粉や芋など日持ちするものがちゃんと置かれてあり、長期保存冷凍ができる魔道具の中には肉や魚も一応入れられてあった。
状態保存の魔道具の改良版らしく、鮮度が一年保てるという最新式のものらしい。
どんな仕組みになっているのか興味津々だ。
まあそれは置いておいて、一先ず兄と自分の分をさっと手早く調理する事に。
他の面々は各自シャワーの合間に自分達で食べるらしい。
「取り敢えず簡単に作ってみました」
どうぞと皿を差し出すと嬉しそうに受け取って、美味しいと言いながら食べてくれた。
幸せ。
兄が嬉しそうにしていると自分も同じくらい嬉しい。
「兄上。本当に無事でよかったです」
心からそう口にしたら、兄は一旦手を止めて、何故か『それは自分のセリフだ』と言ってくる。
「正直俺はあのユーツヴァルトという医者に驚いた」
そう言って『二度とあいつに近づくな』と釘を刺されてしまう。
兄的にもあの人の行動はあり得ないものだったらしい。
まあ悪意なく毒を盛ってくる人がいるなんてちょっと普通では考えにくいことだし、仕方のない事だろう。
あれは医者独特の感性なのかもしれない。
(それにしても…自分の方が大変だったのに、兄上は優しいな)
昔なら絶対にこんな風に気遣ってくれなかっただろうに。
そう思う度に兄の愛情が確かに感じられて胸が苦しくなるほど愛しさが増していく。
重症だ。
これが後何十年も続くと考えると身悶えそうになる。
どこかでこんな日々に慣れる日も来るんだろうか?
それはとても贅沢な事だなと思いながら、俺はうっとりと兄を見つめた。
寝る時はもちろん兄と一緒にベッドに入る。
今日は久しぶりにぐっすり眠れそうだ。
甘えるようにすり寄ってきた兄を抱きしめて、俺は笑顔で気持ちのいい眠りについた。
翌日、準備を万端に整え昼からガヴァムへと移動する。
途中ブルーグレイのヴィンセント陛下やセドリック王子から連絡が入ったけど、無難に答えを返しておいた。
結果的に巻き込んでしまったことに変わりはないので、一応できる範囲でフォローだけは入れておくことに。
裏の者達に頼んで今回の件を上手い具合に各地へと噂として流してもらおう。
幸いオーリオが単独で城に残ってくれたから、正確な情報は即入ってくる。
毒の件をわざわざ教えに来てくれたセドリック王子が、間違っても悪く言われないよう広めてほしいと念押しして頼んでおこう。
結果的にキュリアス王子が悪者になるのは仕方がないし、別に構わないだろう。
その後ロロイア側も頑張って『悲劇のロロイア』という噂を流そうとしたらしいけど、こちらが裏の者達を使って商人を中心に各国に広く広めたのに対し、あちらはロロイア国内で一先ず周知させようとしただけだったらしく、失敗に終わったようだ。
普通に考えて周辺の十か国以上にツンナガールを使って広めたこちらと、ロロイア国内のみで広めた噂、どちらが圧倒的に有利かは言わずもがな。
特にガヴァムの三か国事業成功パーティーのことにも触れた噂にしたから、こっちは知る人ぞ知る内容で信憑性も非常に高いのだ。
情報戦でロロイアに勝ち目はない。
その後伝わってきた情報によると、ロロイア国は王と王妃、第二王子がセドリック王子によって粛清され、シェイラ王女は自らの罪を悔やんで自害。
キュリアス王子は俺が快楽堕ちをさせてしまった上、大事なところをなくしたショックでほぼ廃人状態。
対外的には『病気療養中』ということになっているらしい。
実質残されたニーナ王太子妃が仮に王位について、繋ぎの女王として政治を行い、まだ赤子である息子のルイージ王子が成長した暁にはその子を王位につける予定なのだとか。
ロロイア国自体はブルーグレイの属国となり、ニーナ妃がきちんと政治を行えるよう人材はそちらから派遣もされるらしい。
なんでもニーナ妃をその地位に指名したのがセドリック王子だったらしく、その件に関してはロロイアの大臣や貴族達など、誰も文句など言えない状況なのだと聞いた。
うちとちょっと状況が似ているけれど、ニーナ妃は俺みたいに壊れてはいないだろうから、きっと立派に繋ぎの職務を全うするだろう。
「そうだ。闇医者に会いに行くのをすっかり忘れていた」
そう言えば『死神ヴァルト』に会ってしまったのを報告するのをすっかり忘れていたと思いながら、俺は今日も裏の酒場へと足を運ぶ。
そこにいるのはちょっとお節介な腕のいい医者と、何故かやたらと構ってくれる馴染みの裏の者達。
「おぅ!ぶっ壊れ野郎!」
そう言って笑顔で迎えてくれる者の顔にはユーツヴァルトとは違う笑みが浮かんでいる。
こうして改めて比べてみると一目瞭然だ。
もしもユーツヴァルトに今度会うことがあるならこう言ってやりたい。
『誰が見ても壊れている自分だけれど、これが俺にとっての『普通』なので、世間一般の『普通』を押しつけて勝手に憐れみ殺そうとするのはやめてくださいね』────と。
だって今ここにいる自分は、闇医者はじめ裏の者達や、兄やリヒター、カークなど、皆が生かし常識を教え育ててくれたからこそ存在しているのだから。
彼らはこんな自分をただ憐れむのではなく、生き抜いていくための強さを与えてくれた。
壊れている自分が今幸せを感じることができるのはそんな皆のお陰だ。
だから俺は彼らと生きていく。
────心に希望の光が灯り続ける限り。
****************
※これにてロロイア編は終了です。
ロキがちょっとだけ未来を見つめ、また少し生きることに前向きになったお話でした。
お付き合い頂きありがとうございました(^^)
後は本編にリンクさせて、ロキから報告を受けた闇医者の話を閑話として明後日アップ予定です。
そちらもお付き合いいただける方はよろしくお願いしますm(_ _)m
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