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169.ロロイア国へ⑥ Side.ロキ&ロロイア王

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夕刻、予定通りロロイア国へと到着する。
たった一頭のワイバーンで来たことに酷く驚かれたが、そんなことは問題ではない。

「ロキ陛下!初めまして。ロロイア国国王…」

ひゅんっ…バシッ!

こちらに挨拶をしようと声をかけてきたロロイア国の王らしき人物のそのかつらを、俺は鞭で一瞬にして弾き飛ばした。

「そんなもの、どうでもいいんですよ。兄上を今すぐ返していただけますか?」

その言葉に場がシンと静まり返る。

「ロ、ロキ陛下。会ってすぐにこれは流石に…」
「兄に危害を加えておいて俺に常識を説かれるとでも?」
「ひっ?!」

礼儀知らず?
そんなものこの俺が気にするとでも思っているんだろうか?

笑顔で怒りを露わにした俺に危機感を覚えたのかロロイアの近衛達が王族の傍に集まりその身を守ろうと剣を手にする。

「もう一度言います。兄上を今すぐ返していただきたいのですが?」

そう言って威嚇するようにパァンと鞭で床を打った。
そのタイミングでリヒター達が兄を連れてこちらへやってくるのが目に入る。

「ロキ!」
「兄上!」

パッと顔を輝かせてそちらを見た俺に安心したのか、少しだけその場の空気が緩んだ。

「兄上。大丈夫ですか?夜中に襲われて犯されたと聞いて心配して飛んできてしまいました」

そう言いながら兄の無事を確かめるようにギュッとその身を抱き締める。
どうやら震えてはいなさそうだ。

「そ、そうか。その…悪かった」

兄が謝ることなんて何もないのに。

「いいんですよ。悪いのは全部キュリアス王子でしょう?すぐにグチャグチャに嬲り尽くして、生きてるのが辛いと泣き叫ぶほど酷い目に合わせてあげますからね」

どうせ俺の時と同様に、無理矢理事に及んだに決まっている。

「ロ、ロキ?!そ、そこまでしなくてもっ!」

俺の怒りを察して兄が慌てて止めに入るけど、こればかりは聞く気はない。
反省しない相手に慈悲なんてかける価値すらないのだから。

「嫌ですね、兄上。俺が愛してやまない兄上を俺の許可なく凌辱しておいて、すぐに楽にしてやるほど俺は優しくないですよ?折角だから全員で輪姦してから鞭打ちしてやりましょうか?泣き叫んで百回くらい謝ったら気紛れにほんの少しくらい休憩を挟んであげてもいいですが、気絶しても一切許す気はありませんから。兄上はそれ以外にやってみたいことがあったりします?道具も色々持ってきたのである程度要望には応えられますよ?ああ、そうそう。もちろん二度と兄上を襲おうなんて考えられないよう、キュリアス王子のあそこは最後に切り落としてあげますからね」
「ひょっ?!」

俺の言葉にその場にいた男達が揃って蒼白になりながら局部を隠した。
別に全員のものを切る気なんてないのに。

そんな凍り付いたような空気の中、セドリック王子だけがいつも通りに声をかけてくる。

「ククッ。ロキ。相変わらず口にする事が酷いな」
「セドリック王子」
「カリンは無事だったんだ。少しは考慮してやったらどうだ?」
「そうは言っても気が済みません。これでも考慮してるんですよ?万が一にでも兄上に何かあったらもっと酷い目に合わせる気でしたから」
「先程口にした以上か?怖いな」
「嫌ですね。そんな悪魔みたいに。ちょっと色々追加するくらいで、相応の罰だと思いますけど?」
「そうだな。狂王の配偶者に手を出す愚か者には相応の罰が下されても別におかしくはないか」
「ふふふ。ご理解いただけて嬉しい限りです」

そう言って二人でキュリアス王子の方を見やると蒼白になった姿が目に入った。
そしてキュリアス王子は一歩二歩と後ろへ下がり、できるはずがないと叫ぶように言葉を紡いだ。

「お、俺はこの国の王になる王太子だ!戦争になるぞ?!」
「俺の兄上に手を出してケンカを売った分際で何を今更。嬲り殺されたいんですか?」

ヒュッ。ピッ!

「……え?」
「俺の鞭の前で騎士の壁なんて何の役にも立ちませんよ?」

頬に走った痛みにキュリアス王子が恐る恐る指を滑らせ、その指についた血を見て顔色を変える。

「大人しく投降された方がよいかと」

にこやかにそう口にすると国王の方が慌てたように声を上げた。

「ロキ陛下!どうか、どうかお心をお静め下さい!キュリアスにはよくよく言い聞かせておきますので!どうぞ、どうぞ平にご容赦を!!」
「はぁ…困りましたね。ただでさえ俺から愛する兄上を数日引き離した上にこの仕打ち。そうですね。では代わりに貴方が半分請け負うと言うので如何です?」

名案とばかりにそう口にしてみるとロロイア王は驚いたように目を見開いた。

「…え?」
「息子の罪を減じてほしいと仰るのでしょう?それなら仲良く半分こにしたらいいじゃありませんか。そうですね。二十人ほどから輪姦されるのが半分になって、鞭打ち回数もざっくり半分の五十回ほどに減って、ちょん切るのも根元からじゃなく半分のところで切って差し上げますよ?玩具責めも少しは手心を加えましょう。如何です?」

ニコッと具体的に言ってやるとその言葉を何度も反芻し、一気に顔色を悪くしてしまった。
きっと年も年だから、そんな事を言われるなんて思ってもみなかったのだろう。
国交間の取引で話でもつける算段だったんだろうか?
常識にとらわれ過ぎだと思う。

「…………息子一人で償わせます」
「父上?!」

父王から意外なほどあっさり見捨てられたキュリアス王子はと言うと、任意だったと焦ったようにその場で告げてくる。
その辺りは前回と一緒で、実にワンパターンだ。

「ふざけるな!あれは任意だ!カリンも悦んで俺を受け入れていた!俺のモノを美味そうに咥え込んで嬉しそうによがっていたぞ?!」
「……兄上。そうなんですか?」

本当だったら腹立たしいし、ちょっとお仕置きを上乗せしようと思いながら一応事実確認をしてみる。

「え?いや。俺はお前の鬼畜責めじゃないと全く満足できないし、イくにイけなくて全然ダメだった」

その言葉にセドリック王子はちょっと笑ってるけど、笑い事ではない。
楽しませるのが無理でも、せめてイかせるくらいはしてあげてほしい。
これでは生殺しもいいところだ。

(可哀想な兄上…)

「そうですか。可哀想に。兄上を満足にイかせることさえできないくせにあんなに自慢げに言うなんて…はぁ…最低ですね」

思わず先程よりも蔑む目で見てしまったではないか。

「なっ?!俺はちゃんと満足させてやっていたぞ?!」
「兄上は正直者なので嘘なんてつきません。下手くそだから兄上を満足にイかせてあげられなかったんでしょう?もしかして大きければそれでいいとか勘違いしていませんよね?前にもいたんですよ。そういう勘違いした下手くそな男が。ここで兄上が『ここが良かった』とか言ってくれれば少しくらいは躾内容を考え直す気にもなれたかも知れませんが、この分じゃ全然ダメそうですね」
「え?!」
「兄上。すみません。俺の見る目がなかったですね。ちゃんと後で満足させてあげますからね」
「いやいやいや?!つ、罪が軽くなるなら、えっと、その…何か、何か………な、何もフォローできるところがない…だと?!」
「いいんですよ?無理に思い出してフォローなんてしなくても。嫌なことはさっさと忘れましょう?」

そう言って安心できるようにチュッとキスを落とすとサッと頬に朱が上った。可愛い。

「リヒター」
「はっ!」
「キュリアス王子を丁重に部屋に案内して全員で犯せ。それで今回の失態は許す」
「ありがとうございます」

そして一礼し、ガヴァム側の全員がキュリアス王子確保へと動きを見せた。
勿論ロロイア側は抵抗するが、こちらは裏の者もいるから敵うはずがない。
目立つ暗器の合間に目立たない細い針を放って次々昏倒させていっていた。
敢えて囮としてナイフを使って死角を作り本命の針で仕留めるところは流石の腕前だ。

途中とち狂った輩がこちらに向かってきたが、それ即ちすぐ近くにいるセドリック王子に向かってくるのと同じだったからか、殺気を向けられ戦意を喪失させられていた。
俺にはできない芸当に心底羨ましくなってしまう。

「セドリック王子の殺気って便利ですよね。俺も真似してみたいです」
「俺はお前の柔らかな空気で相手を油断させて心を叩き折るところが羨ましいぞ?実に平和的だ」
「そうでしょうか?」

見ようによっては酷いと思うのだが。

「ではロロイア王。キュリアス王子は躾が終わったら一応お返しいたしますので。その後は煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」

そうして俺はにこりと微笑んだ。


***


【Side.ロロイア王】

(何故こんなことに?!)

長男であるキュリアスは確かに昔から遊ぶのが大好きで問題をよく起こす王子ではあった。
けれどこれまでなんとか大問題になることなく火消しをしてきたつもりだ。
妻も娶って子もできたし、そろそろ王位を譲って隠居したいと思い、大国ブルーグレイの王に手紙を出した。
代替わりをするなら近隣国で一番大きなブルーグレイに息子をこれからよろしくと言うのは当然だからだ。

ヴィンセント陛下から挨拶に来るなら歓迎すると言われたが生憎こちらも年だ。
ワイバーン移動も馬車移動も身体が辛い。
キュリアスだけ送り出してもよかったのだが、目の届かないところで大国相手に粗相でもしてしまったら困ると思い、何かのついでにセドリック王子がこちらに来ることがあれば是非挨拶をさせていただきたいと書いて送った。
恐ろしい噂がある王子ではあったが、最近その噂は誇張されたもので、結婚後はかなり丸くなったという噂を聞いた。
それなら仲良くしてもらうに越したことはないだろうと思い、来てくれると聞いた時は素直に喜んだ。

そんな中、息子のキュリアスが外交で行ったガヴァム王国でやらかして帰ってきた。
なんでもロキ陛下にしつこく迫って困らせたらしい。
手が早いところが玉に瑕な息子だ。
どうせパーティーで飲み過ぎて、酔っぱらって絡んだのだろう。
ロキ陛下はかなり若い王だし、きっと潔癖すぎて気に障ったのだと思う。
もう少しおおらかに構えて見逃してくれればよかったのに。

そう軽く考えていたところでガヴァムの隣国、ネブリス国が潰れ、メルケ国に取り込まれたという話が耳に飛び込んできた。
しかも単なるメルケの勝利に終わっただけの話と思いきや、内情は全く違っていて、ロキ陛下がネブリスを潰し、メルケを弱体化させたらしいという情報が入ってきて戦慄してしまう。
これは…キュリアスがやらかしたことをなあなあで終わらせたらマズいのではないかと蒼白になってしまった。
だから必死に何度も謝罪の文を送り、詫びをさせてほしいと言い続け、やっと色よい返事を受け取ることができた。
これで一安心とカリン陛下をもてなそうと思っていたのに────。

「陛下!陛下!大変です!キュリアス王子がカリン陛下を攫って犯したと…!」
「はっ?!」

(晩餐の席で失礼を働いたからあの後厳しく叱責したのに何故そんなことに?!)

まさに寝耳に水の話で、慌ててキュリアスを呼び出し事情を聴いてみる。
けれど詳しく話を聞いてホッと息を吐いた。
カリン陛下は元々ロキ陛下と多人数で閨を楽しむ趣味があるから、完全に同意の上だったとのこと。
それなら大丈夫だ。

朝になって向こうからこちらを非難する内容を言われたが、私はキュリアスが言っていた話を信じ切っていたからそれをそのまま伝えておいた。
睨まれたが知ったことか。
恨むなら淫乱な主人を持った自分の立場を恨んでほしい。
ロキ陛下が夕刻にこちらに到着する?
ちょうどいい。合意の上だったと伝えて穏便に収めてもらおう。
そう思っていたのに────。

ひゅんっ…バシッ!

ワイバーンから降り立った若き王ににこやかに近づき挨拶をしていたら、その真っ最中にその手にあった鞭が唸りを上げて私のかつらを吹き飛ばしていった。
一瞬何が起こったのか、本当にわからなかった。
それ程の速い鞭さばきに思わず固まってしまう。

「そんなもの、どうでもいいんですよ。兄上を今すぐ返していただけますか?」

彼からは確かに柔らかな声で言葉が紡がれているはずなのに、背筋が震えるような恐怖に襲われるのはどうしてだろう?
そう感じたのは自分だけではなく他の者も同様だったようで、その場がシンと静まり返った。

(これは…もしかしてもしかしなくても物凄く怒っているのでは?!)

今更ながらキュリアスの言葉を信じた自分が馬鹿だったのではと思い至る。
これでは話し合いどころではない。

「ロ、ロキ陛下。会ってすぐにこれは流石に…」

一先ず事情を話すためにもここは年長者として少しでも諫めなければと声をかけてみたが、それはあっさりと無駄に終わった。

「兄に危害を加えておいて俺に常識を説かれるとでも?」
「ひっ?!」

一体誰がこの王を穏やかな優しい王と言ったのだろう?
この王は破滅の王だ。
こんなに狂気を纏った王が穏やかであるはずがないではないか。

(キュリアスは何という王を怒らせたのだ?!)

初めて目の当たりにする常識の通じない相手に恐怖ばかりが込み上げてくる。

「もう一度言います。兄上を今すぐ返していただきたいのですが?」

そう言って威嚇するように鞭で床を打たれて飛び上がるかと思った。
そのタイミングでロキ陛下御所望のカリン陛下が来てくれてホッと胸を撫で下ろす。
このまま何とか穏便に事を運んで丁重に送り出そう。
絶対にこれ以上ロキ陛下を刺激すべきではない。
その証拠にカリン陛下と普通に話していたと思ったら恐ろしいことを口にし始めた。
その内容は聞けば聞くほど恐ろしいの一言だ。

今ならこの王がセドリック王子と友人関係だと言うのもすんなりと納得できる。
昨日の晩餐後にセドリック王子へと謝罪に向かった時に、恐ろしい殺気を向けられて死ぬかと思ったのだ。
あんな王子の相手ができるなんてロキ陛下は随分できた人物なんだなとその時は思ったが、全く違う。
ほぼ同類だっただけだ。

(マズいマズい!どうにか怒りを静めなければ!)

そう思っていたらセドリック王子がまさかの仲裁に入ってくれた。

(ありがたい!)

これで助かった。
そう思ったのは一瞬で、同類同士の話は一瞬で終わってしまった。
『狂王』────あの王子にそう呼ばれるとはどれだけ恐ろしい王なのだろう?
けれどそう呼びたくなるのもわかるほどの壊れっぷりだった。
絶対に逆らったらマズいというのを肌で感じたし、とても逆らう気になどなれなかった。
けれどどうやら息子の方は違ったようだ。

「お、俺はこの国の王になる王太子だ!戦争になるぞ?!」
「俺の兄上に手を出してケンカを売った分際で何を今更。嬲り殺されたいんですか?」

どうやったらあんな恐ろしい王に喧嘩を売れるのだろう?
益々怒らせてどうする。

親としてこれまで散々甘やかしてきてしまったが、ここまで来たら弟王子に期待してキュリアスは見捨てた方がいいのだろうか?
いや。親として最後まで見捨ててはいけない。
たとえどうしようもない息子でも親として守ってやらねば。
せめて減刑だけでも…。
そう思って声を上げるが────。

「ロキ陛下!どうか、どうかお心をお静め下さい!キュリアスにはよくよく言い聞かせておきますので!どうぞ、どうぞ平にご容赦を!!」

そんな自分に、ロキ陛下は見ようによっては柔和な笑みを浮かべながら名案と言わんばかりに提案をしてきた。

「はぁ…困りましたね。ただでさえ俺から愛する兄上を数日引き離した上にこの仕打ち。そうですね。では代わりに貴方が半分請け負うと言うので如何です?」
「…え?」

(わ、私が半分…請け負う…?)

言われた意味がわからなくて、思わず聞き返してしまった。

「息子の罪を減じてほしいと仰るのでしょう?それなら仲良く半分こにしたらいいじゃありませんか。そうですね。二十人ほどから輪姦されるのが半分になって、鞭打ち回数もざっくり半分の五十回ほどに減って、ちょん切るのも根元からじゃなく半分のところで切って差し上げますよ?玩具責めも少しは手心を加えましょう。如何です?」

軽やかに返されたその言葉の内容を何度も反芻し、結果的に心が折れた。
国交間の無理難題ならまだ交渉の余地があった。
けれどこれはそういうものではない。
これまでの自分の経験則が一切通用しないのだ。
やれることがあるとしたら、ただただロキ陛下の怒りが収まるよう努めることくらい。
一応本当に息子を見捨てていいのかと自問自答してみたが、何度やってみても自分の中の答えは変わらなかった。

「…………息子一人で償わせます」
「父上?!」

すまん。息子よ。
あまりにも内容が内容だから私には肩代わりは無理だ。
年が年だけにショック死してしまいそうだし、諦めてほしい。
全ては狂王を怒らせたお前が悪い。

そこからは更に酷かった。
キュリアスは閨が下手くそと罵られ、ガヴァムの者達に身柄を確保されてそのまま部屋へと連行されていったのだ。
私にできることはせめてこれでロキ陛下の気が済んで、我が国が助かりますようにと祈ることくらい。
間違ってもネブリス国のように潰されるわけにはいかない。

「許せ、キュリアス」

全ては自業自得だ。

そう思って深く深く息を吐いたのだが、これを受けて妃が暴走するとは夢にも思わなかったのだった。

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