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164.ロロイア国へ①
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毒耐性をつけてから、兄が凄く過保護になって四六時中俺の側から離れなくなった。
俺は嬉しいけど、いいんだろうか?
それだけではなく、やたらと将来の話をされるようになって、しかもそれがまたやけに具体的だったりする。
「今年はシャイナーの結婚式とレオナルド皇子の結婚式に一緒に参列するからな、楽しみにしていろ。衣装もお前が選んでいいぞ。どういったものがいい?」
そんなところから始まり、山を貫通させている現場を一緒に視察しようと提案されたり、ヴァレトミュラに乗って俺が行きたい場所までレールが敷けるよう各国と交渉を進めようとか、内容は様々だ。
春にフォルティエンヌに旅行に行く計画も一緒に立ててくれていてかなり本気の様子。
しかも来夏の避暑も行きたいところを一緒に検討しようとまで言ってもらえて幸せすぎてどうにかなりそうだった。
正直『何のご褒美だろう?』と頬が緩みまくっている気がする。
「幸せ過ぎて溶けそう…」
執務机に突っ伏しながらも目は兄に釘付けだ。
そんな俺を補佐官達が呆れたように見遣る。
「よく飽きませんね」
そう言われても兄が大好きだからしょうがない。
もちろんずっと見続けるわけにもいかないから、仕事も頑張るけど。
だって仕事が終わらないと兄を愛でる時間が減ってしまう。
兄を前にしてお預けなんて絶対に嫌だ。
だから今の自分の目下の課題は如何に効率よく仕事を片付けて兄とイチャつくかという、それに変わった。
これまでは『さっさと仕事を片付けて兄に会いに行きたい』だったのが、少し変わったのだ。
ちなみに兄も俺の側にいるために仕事の方法を少し変えたようで、執務机を俺の執務机からよく見える位置に配置して、そこに大臣達を呼ぶようになった。
きびきび指示出しをして書類を捌いて各所に振り分けていく様は本当に見事で、凄く勉強になる。
俺もあんな風にできるようになったらもっと兄の役に立てるだろうか?
国王だといくら言われても、俺は兄のように国の為に動こうとは思えないから、政策は割と丸投げだったりする。
もちろん民のためになることは率先して動くのは吝かではないけど、例えばどこそこの地の不正に関してだとか、関税が云々とか、採掘した鉱石を他国にどれだけ卸すか等々興味のないことはほぼ兄任せ。
少しずつ覚えてちゃんと裁決はするけど、自分から国の為にああしたいこうしたいとは一切思わない。
好きにしてほしい。
俺は民が望んでそうな事をちょいちょい叶えてあげたいなくらいの感覚なのだ。
愚王だなと自分でも思うけど、そもそも王に向いてないと自覚はしているし、兄がいなかったらとっくに国を潰してる自信はあるからそこはいいんだ。
文句があるならいつでも退位してかまわないし、その方が清々する。
でも兄はそんな俺に無理強いはしてこないし、色々考えて配置換え等で適材適所各部署の効率化を図ってくれたりもしている。
それのお陰で国の為に一番いいように人員が動き、父の代よりずっと政治が円滑に回るようになって大臣達ものびのび働けている。
兄の優秀さは本当に素晴らしい。
こういう所に昔からの積み重ねが出るんだと思えて仕方がなかった。
もしもの時のスペアでしかなかった自分と、次期王として育てられた兄。
父からすれば俺が下手に謀反を考えないよう、無能なら無能でおとなしくしていろと思っていただろうし、兄に何かあった場合も自身が王として君臨し続け、俺のことは暫定王太子にして子作りだけさせる予定だったんじゃないかと思う。
思い返すと王太子にされた後も特に期待されていなかったし、血統さえ引き継げればそれでいいとか普通に考えていそうだった。
その証拠に兄が正気に返った後どちらでもいいから嫁をと言ってきたし、そう間違ってはいないだろう。
毒耐性薬で寝込んだ時、夢で見た自分は本当に壊れていたと思うから、改めて俺をここまで真面にした闇医者はじめ、兄とリヒターは凄いなと思った。
「兄上…好き」
一緒にいればいるほど好きになる。
こんなに好きになれるなんて思ってもみなかった。
積もり積もった憎しみが反転すると重い愛に変わるんだと実感する。
兄も同じだといいのに。
「はぁ…このまま死んでもいいくらい幸せ」
うっとりしながらポツリと呟いたら、何故か顔色を変えた兄がすっ飛んできた。
「ロキ!ダメだぞ?!」
「え?」
「溶けてもいいが死んだらダメだ!」
どうしよう?
幸せな気持ちをちょっとこぼしただけなのに、凄く不安そうな顔で思い切り抱きしめられた。
別におかしなことを言ったつもりはなかったのだけど…。
「兄上、大袈裟ですよ?物の例えで口にしただけで、そんな簡単には死にませんけど」
そもそもそんな簡単に死ぬ気なら毒耐性をつけようなんて考えなかったと思う。
過保護になった切っ掛けは俺が寝惚けて死のうとしたかららしいけど、だからと言ってそこまで過剰反応しなくてもという気もしないでもない。
あの時は毒耐性薬のせいで偶々夢見が悪かっただけだし、もう短剣を枕元にも置いていないのに。
「ロキ…」
「兄上と約束もしましたし、そんなに心配しないでください」
頼むから本当に落ち着いてほしい。
そんな幸せな日々を送る中、ある日ロロイア国から手紙が届いた。
内容はキュリアス王子の無礼に対する謝罪とお詫びに国に招待させてほしいというものだった。
今更感が非常に強いし、別にもういいのに。
そう思ったから『謝罪だけ受け取ります』とサラッと返しておいた。
なのにそれでは収まりがつかないとばかりに何度も手紙が送られてくる。
いい加減うんざりして補佐官に丸投げしていたところで、兄が俺の代理で行ってくるとため息混じりに言ってきた。
「ダメですよ。兄上じゃなく外務大臣に行かせてください」
「それだと詫びにならないからダメだと既に返事が来ている」
「兄上を行かせるほうが全く詫びになっていませんよね?それどころか俺を怒らせる気満々です。俺から兄上を取り上げるなんて万死に値するんですが?」
「ロキ…」
「どうしてもと言うなら俺も行きます」
『絶対に離れない』と言ったら困った顔で『信用して行かせてほしい』と言われた。
しかも『ブルーグレイには二度も快く送り出してやっただろう?』とまで言われてしまう。
ここでそれを持ち出すなんて酷い。
安全な国ならまだしも、あんなゲスな王子のところへなんて兄を行かせたくはない。
「ライオネル。調整を」
「…今の時期は少々難しいかと」
兄だけなら行っても問題はないけれど、夫婦揃ってはダメらしい。
メルケ国への牽制にはどちらかは国にいてくれないと困ると言われた。
じゃあ自分が行くと言ったら、キュリアス王子は俺を狙っていたし、今回は兄が行くほうが安全だとライオネルは言ってきた。
納得がいかない。
それから押し問答が長々と続いたけれど、いくつかの条件のもと、兄を送り出すことが決まった。
一つ、リヒター始め近衛騎士を10人以上連れて行くこと。
一つ、兄の暗部だけではなく俺の暗部、つまり裏の者も同行させること。
一つ、ワイバーンで行って出来るだけ早く帰ってくること。
一つ、毎日ツンナガールで定期連絡を入れること。
『万が一連絡がつかなくなった場合は即ロロイアまで飛んでいくので』とも伝えておいた。
これなら少しは安全だろう。
ついでに同行してくれる者達には、『兄に危害を加える者がいれば容赦はしなくてもいい』としっかり言いつけておいた。
これまで兄が幾度となく『逃げる練習』なんて言いながら可愛く誘ってきていた姿を思い出して、心配になったからだ。
あれだとキュリアス王子に捕まったら一発でアウトだと思う。
どこからどう見ても誘い受けだ。
何事もなく帰ってきてくれればいいのだけれど…。
こうして俺は不安な気持ちを抱えたまま、渋々兄をロロイアへと送り出したのだった。
俺は嬉しいけど、いいんだろうか?
それだけではなく、やたらと将来の話をされるようになって、しかもそれがまたやけに具体的だったりする。
「今年はシャイナーの結婚式とレオナルド皇子の結婚式に一緒に参列するからな、楽しみにしていろ。衣装もお前が選んでいいぞ。どういったものがいい?」
そんなところから始まり、山を貫通させている現場を一緒に視察しようと提案されたり、ヴァレトミュラに乗って俺が行きたい場所までレールが敷けるよう各国と交渉を進めようとか、内容は様々だ。
春にフォルティエンヌに旅行に行く計画も一緒に立ててくれていてかなり本気の様子。
しかも来夏の避暑も行きたいところを一緒に検討しようとまで言ってもらえて幸せすぎてどうにかなりそうだった。
正直『何のご褒美だろう?』と頬が緩みまくっている気がする。
「幸せ過ぎて溶けそう…」
執務机に突っ伏しながらも目は兄に釘付けだ。
そんな俺を補佐官達が呆れたように見遣る。
「よく飽きませんね」
そう言われても兄が大好きだからしょうがない。
もちろんずっと見続けるわけにもいかないから、仕事も頑張るけど。
だって仕事が終わらないと兄を愛でる時間が減ってしまう。
兄を前にしてお預けなんて絶対に嫌だ。
だから今の自分の目下の課題は如何に効率よく仕事を片付けて兄とイチャつくかという、それに変わった。
これまでは『さっさと仕事を片付けて兄に会いに行きたい』だったのが、少し変わったのだ。
ちなみに兄も俺の側にいるために仕事の方法を少し変えたようで、執務机を俺の執務机からよく見える位置に配置して、そこに大臣達を呼ぶようになった。
きびきび指示出しをして書類を捌いて各所に振り分けていく様は本当に見事で、凄く勉強になる。
俺もあんな風にできるようになったらもっと兄の役に立てるだろうか?
国王だといくら言われても、俺は兄のように国の為に動こうとは思えないから、政策は割と丸投げだったりする。
もちろん民のためになることは率先して動くのは吝かではないけど、例えばどこそこの地の不正に関してだとか、関税が云々とか、採掘した鉱石を他国にどれだけ卸すか等々興味のないことはほぼ兄任せ。
少しずつ覚えてちゃんと裁決はするけど、自分から国の為にああしたいこうしたいとは一切思わない。
好きにしてほしい。
俺は民が望んでそうな事をちょいちょい叶えてあげたいなくらいの感覚なのだ。
愚王だなと自分でも思うけど、そもそも王に向いてないと自覚はしているし、兄がいなかったらとっくに国を潰してる自信はあるからそこはいいんだ。
文句があるならいつでも退位してかまわないし、その方が清々する。
でも兄はそんな俺に無理強いはしてこないし、色々考えて配置換え等で適材適所各部署の効率化を図ってくれたりもしている。
それのお陰で国の為に一番いいように人員が動き、父の代よりずっと政治が円滑に回るようになって大臣達ものびのび働けている。
兄の優秀さは本当に素晴らしい。
こういう所に昔からの積み重ねが出るんだと思えて仕方がなかった。
もしもの時のスペアでしかなかった自分と、次期王として育てられた兄。
父からすれば俺が下手に謀反を考えないよう、無能なら無能でおとなしくしていろと思っていただろうし、兄に何かあった場合も自身が王として君臨し続け、俺のことは暫定王太子にして子作りだけさせる予定だったんじゃないかと思う。
思い返すと王太子にされた後も特に期待されていなかったし、血統さえ引き継げればそれでいいとか普通に考えていそうだった。
その証拠に兄が正気に返った後どちらでもいいから嫁をと言ってきたし、そう間違ってはいないだろう。
毒耐性薬で寝込んだ時、夢で見た自分は本当に壊れていたと思うから、改めて俺をここまで真面にした闇医者はじめ、兄とリヒターは凄いなと思った。
「兄上…好き」
一緒にいればいるほど好きになる。
こんなに好きになれるなんて思ってもみなかった。
積もり積もった憎しみが反転すると重い愛に変わるんだと実感する。
兄も同じだといいのに。
「はぁ…このまま死んでもいいくらい幸せ」
うっとりしながらポツリと呟いたら、何故か顔色を変えた兄がすっ飛んできた。
「ロキ!ダメだぞ?!」
「え?」
「溶けてもいいが死んだらダメだ!」
どうしよう?
幸せな気持ちをちょっとこぼしただけなのに、凄く不安そうな顔で思い切り抱きしめられた。
別におかしなことを言ったつもりはなかったのだけど…。
「兄上、大袈裟ですよ?物の例えで口にしただけで、そんな簡単には死にませんけど」
そもそもそんな簡単に死ぬ気なら毒耐性をつけようなんて考えなかったと思う。
過保護になった切っ掛けは俺が寝惚けて死のうとしたかららしいけど、だからと言ってそこまで過剰反応しなくてもという気もしないでもない。
あの時は毒耐性薬のせいで偶々夢見が悪かっただけだし、もう短剣を枕元にも置いていないのに。
「ロキ…」
「兄上と約束もしましたし、そんなに心配しないでください」
頼むから本当に落ち着いてほしい。
そんな幸せな日々を送る中、ある日ロロイア国から手紙が届いた。
内容はキュリアス王子の無礼に対する謝罪とお詫びに国に招待させてほしいというものだった。
今更感が非常に強いし、別にもういいのに。
そう思ったから『謝罪だけ受け取ります』とサラッと返しておいた。
なのにそれでは収まりがつかないとばかりに何度も手紙が送られてくる。
いい加減うんざりして補佐官に丸投げしていたところで、兄が俺の代理で行ってくるとため息混じりに言ってきた。
「ダメですよ。兄上じゃなく外務大臣に行かせてください」
「それだと詫びにならないからダメだと既に返事が来ている」
「兄上を行かせるほうが全く詫びになっていませんよね?それどころか俺を怒らせる気満々です。俺から兄上を取り上げるなんて万死に値するんですが?」
「ロキ…」
「どうしてもと言うなら俺も行きます」
『絶対に離れない』と言ったら困った顔で『信用して行かせてほしい』と言われた。
しかも『ブルーグレイには二度も快く送り出してやっただろう?』とまで言われてしまう。
ここでそれを持ち出すなんて酷い。
安全な国ならまだしも、あんなゲスな王子のところへなんて兄を行かせたくはない。
「ライオネル。調整を」
「…今の時期は少々難しいかと」
兄だけなら行っても問題はないけれど、夫婦揃ってはダメらしい。
メルケ国への牽制にはどちらかは国にいてくれないと困ると言われた。
じゃあ自分が行くと言ったら、キュリアス王子は俺を狙っていたし、今回は兄が行くほうが安全だとライオネルは言ってきた。
納得がいかない。
それから押し問答が長々と続いたけれど、いくつかの条件のもと、兄を送り出すことが決まった。
一つ、リヒター始め近衛騎士を10人以上連れて行くこと。
一つ、兄の暗部だけではなく俺の暗部、つまり裏の者も同行させること。
一つ、ワイバーンで行って出来るだけ早く帰ってくること。
一つ、毎日ツンナガールで定期連絡を入れること。
『万が一連絡がつかなくなった場合は即ロロイアまで飛んでいくので』とも伝えておいた。
これなら少しは安全だろう。
ついでに同行してくれる者達には、『兄に危害を加える者がいれば容赦はしなくてもいい』としっかり言いつけておいた。
これまで兄が幾度となく『逃げる練習』なんて言いながら可愛く誘ってきていた姿を思い出して、心配になったからだ。
あれだとキュリアス王子に捕まったら一発でアウトだと思う。
どこからどう見ても誘い受けだ。
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