【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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161.デート Side.カリン

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ついこの間までロキはドMな奴ばかりにモテていた。
でも俺とリヒターが愛情をたっぷり注いで抱いてから幸せそうな笑顔が増え、普通の男までロキに懸想し始めた気がする。

父親に連れられて城へとやってきた幼女達に優しく手を振るロキを見て微笑まし気に見る奴が増えた。
そんな穏やかなロキを見て『もしかしたらうちの娘もこれを機に目を止めてもらえる可能性があるのでは?』と娘を城へ連れてこようとする不届き者も増えた。
ついでに幼女達も『ロキ陛下!素敵!』とか言い出した。
ふざけるな。
ロキは俺のだ。
誰にもやらん!

すれ違いを克服し、信頼を積み重ね、愛情をたっぷり注いで今のロキにしたのは俺だぞ?!
百歩譲ってリヒターは協力者として認めてるが、それ以外の奴らにロキに懸想する資格なんてない!
なのにそんな俺の気も知らずロキはすぐに色んな奴を誑かすのだ。

(ロキを幸せにしてるのは俺だし、ロキは俺のなのに!!)

そんな風に思っていたところで、今回三カ国事業のパーティーを行うことが決まり、俺は張り切っていた。
言ってみればロキと俺の仲が良いところを身内以外にも見せるチャンスだから。

(内がダメなら外へアピールだ!)

パーティー本番で仲睦まじい様子を見せよう。
そう思ったのに、蓋を開けてみれば側妃を勧められるし、あっちもこっちもロキに魅了されているしでイライラするばかり。
いっそパーティー当日までロキを隠しておけば良かった。

いい加減その迂闊さを反省させてやりたいと思っていたところで、今回リヒターと一緒にロキにしっかりと釘をさすことができたが、相手はロキだ。
いつまで持つことやらと不安は尽きない。

そんな風に警戒する俺の前で今日、『迫られた時の練習』なんて言いながらリヒターとカーライルがロキに壁ドンをしていた。許せん!
距離も近いし、どう見ても空気が和やか過ぎるだろう?!
もっと緊張感を持ってやれ!

だから手本を見せようと思って『練習なら俺でしろ』と平静を装って割り込むと、ロキが『どうぞ』と笑顔で言ってくれたから嬉々としてやったのに、そのまま引き寄せられてキスされたかと思うと気づけば俺が壁に追いやられて誘惑されていた。何故だ?!
練習から程遠い状況になってしまって焦る。
これじゃあ拒否する練習じゃなく、誘う方の練習になってるじゃないか!
足の間に膝を入れ局所を甘く嬲って誘惑しないでほしい。

「兄上。兄上ならこうして誘われたらどうします?」
「そ…それは…」
「…可愛いカリン。このまま襲っていいですか?」

俺を囲い込むように身を寄せて、そっと囁くように言葉を紡ぎ、戯れるように耳朶を食まれた。

「ん…ロキ…」
「ふふ…可愛い」

リヒターとカーライルはそんな俺達を見ながら、『ロキ陛下は逃げようと思えば簡単に逃げられるようですし、体術より受け答えとその後の行動の方を改善する方がいいですね』とかなんとか言っていた。
いいから助けろ!



まあそんなこともあり、俺は納得がいかなくて、思い切って二人きりになった夜に仕切り直すことに。

「ロキ!リヒター達とじゃなく、俺とちゃんと拒む練習をしよう!昼は油断したが、俺だってやればできる!」
「兄上は本当に可愛いですね。でも無理ですよ。兄上に誘われたら絶対に断れないので」

ロキがクスクスと嬉しそうに笑う。
ロキは抱かれる側も経験してより一層色っぽくなった気がする。
俺の方は抱かれる側でもそこまで色気は出ないのに、どうしてこいつだけ…。
妖艶な流し目で見られたら胸が弾むからやめてほしい。
好きが積もり積もって大変なことになってしまうじゃないか。

「~~~~っ!お前の隙をなくして、もっとお前が俺だけのものだと周りに見せつけたいのに!」
「ふふっ。そんなに主張しなくても俺が兄上にゾッコンだってことくらい、誰でも知ってますよ?」

そう言いながら俺を抱きしめて嬉しそうにキスしてくる。
そして誘われるままに一緒に風呂へと行ったものの、俺が『どう言えば伝わるんだ』と考え込んでいたせいかそのまま抱かれる流れにはならず、身体を綺麗に洗われタオルで拭かれ服を着せられた。

「髪、拭いてあげますね?」

嬉々として俺の世話を焼くロキ。
その流れで酒を準備してくれてつまみも用意してくれたから一緒に飲むことに。
しかもこのつまみは昼間にロキが作って魔道冷蔵庫に冷やして入れておいたものなんだとか。
酒場での定番のつまみらしいが、凄く美味しい。
やっぱりロキは良い嫁だと思いながら堪能してまったりしてたらハタと我に返った。

「違う!!」

ロキに甘えて寛いでどうする?!

「俺だってリヒターみたいにもっと頼りにされたいし、ロキと自然にイチャイチャしたい!」

そうだ、それが言いたかった。
言ってみれば嫉妬だ。

「十分してると思いますけど?」
「してない!」

足りない。
そう思いながらロキを熱く見つめたらそっと抱き寄せられた。

「兄上は兄上ですよ?リヒターと比べる必要はありません」
「…………」

本当に?
油断していていつか取られたりしないか?
そんな不安が胸に込み上げてきたから、ついでにちょっと聞いてみることに。

「……ロキ。リヒターのどういうところが好きだ?」
「え?色々優しく教えてくれるところでしょうか?」
「色々か。例えば?」
「色々は色々ですよ?体術から教育までリヒターが教えてくれることは幅が広いので」
「う…まあ教育係も兼ねているしな」
「ええ。リヒターは教えるのも上手なので教えてもらっている時間はとっても楽しいです。気配りも抜群ですよね」

(ぐぅ…っ!ま、負けている…!)

悔しいが確かにリヒターの気配りは群を抜いている。
俺には真似できない。

「……ロキ」
「なんですか?兄上」
「俺といる時はリヒターといる時よりも楽しいか?」
「兄上といる時ですか?そうですね。楽しいというより、凄く幸せです」

楽しいではなく幸せだと凄く嬉しそうな顔で言われた。
それはそれで嬉しいけど、楽しいとも言われたいと願うのは欲張りだろうか?

「ロキ。俺はお前と楽しい時間も共有したい」

だからそう言ったのに、返ってきたのは実にロキらしい返事だった。

「俺は十分兄上と楽しい時間も共有しているつもりですけど?だって夜は二人の楽しい時間でしょう?」

どうやらロキ的に閨は楽しい時間に含まれているらしい。

(俺が言いたいのはそうじゃないのに!!)

「趣味の時間は楽しいものですしね。今日も兄上を沢山悦ばせてあげますよ?」

このままじゃダメだ。
いつもの流れになってしまう。

(俺はロキをもっと独り占めしたいだけなのに…!)

だから俺は『言いたかったのはそうじゃない』と主張して、思い切ってロキをデートに誘ってみた。
我ながら頑張ったんじゃないかと思う。
街歩きは何度か行こうという話はしたものの、デートらしいデートはまだできていなかった。
だから誘うなら今だと思ったのだ。

答えは勿論OKで、その後は当然のようにいっぱい愛された。


***


翌日の午後、俺は護衛騎士を数名付けつつロキと街デートへとやってきた。
ちなみにリヒターには休暇を取らせた。
今日は邪魔されたくなかったからだ。
ロキと思う存分今日はデートを楽しみたい。
ロキも嬉しそうにしているし、別に構わないだろう。
ロキを独り占めできて俺もつい笑みがこぼれてしまう。

そして一緒に食べ歩きをして屋台を冷かしてみたり、店先でロキが興味を示したものを一緒に見たり、思い切ってロキの服を見立てたりもしてみた。

「兄上。服を見立ててもらえるのは良いんですが…これはそういう意味にとってもいいんですか?」

そんな言葉を言われた時はかなりドキッとしたものの、ちょっと悪乗りしていつもは言わないことでも言ってみようかと、思い切って言ってみることに。

「よく似合ってる。お前が俺に襲われたくなったら着てくれ」

そう言ったらロキは珍しく頬を染めながら照れていた。
可愛い。
こういう顔はいつもリヒターが引き出していたから自分で引き出すことができて満足だ。

「……また熱が出そうです」

どうやらかなり嬉しかったのか、そんなことまで言ってくるし、俺ももっと恋人らしいセリフを言ってやるべきだったなとふと思った。
毎日幸せにしてやるという目標はちゃんと達成しているつもりだったが、こういうのもありなんだとちょっと目から鱗の気分だ。
ロキは男で弟で夫だけど、もっと恋人っぽいこともやってやろう。
そうすればもっともっとロキの新しい表情が見れるかもしれない。

「ロキ。また一緒に何度でも出掛けよう。視察ついでに他の街に行ってみてもいいし、お前と一緒に色々見て回るのも悪くはない」

そう言った俺を眩しそうに見ながらロキが笑う。
そんなロキを見て、俺も幸せな気持ちに包まれた。

そうして幸せいっぱいにデートをしていたら小サーカスのテントを見つけた。
大きなサーカスには行ったことはあるが、小さなものでも楽しめるだろうか?
そう思って『行ってみるか?』とロキに尋ねたら目を輝かせて頷いてきたから行ってみることに。
もしかしたらサーカス自体がロキは初めてだったのかもしれない。

単なる思い付きで入ったんだが、これがなかなか面白かった。
どうも客と一緒に楽しむのをコンセプトにしているようで、参加型が多いようだ。
観客に呼び掛けて参加者を募るというのは初めて見た。
ロキも楽しそうにしているし、来て良かったとも思った。

そしてどうも今日が最終日だったらしく、最後の最後にイベントコールが行われた。
天井からぶら下がった空中ブランコに乗ったラッピングされた小箱を落とした者にプレゼントというもので、我こそはという人は挙手をと言われた。
『危なくないのか?』と思ったが、大丈夫らしい。
きっと中身は軽い物なんだろう。

このイベントに我こそはという者達が何人か手を上げていたが、サーカスの者が指名したのはなんとロキだった。
いつの間に手を上げてたんだと思ったものの、ロキは首を傾げていたからもしかしたら手は上げていなかったのかもしれない。

「どうやって落としてもいいんでしょうか?」
「はい!ナイフでロープを切ってくださっても大丈夫ですよ?」
「それは流石に危ないので、鞭で落とします。いいですか?」

そんなやり取りの後ロキは腰につけていた鞭を手にしてヒュッという軽い音と共にそれを振るい、見事に箱を下へと落とした。
最初は『届くのか?』と思ったが、案外届く高さだったようだ。

箱が落ちると共にワァッと言う歓声が上がり、サーカスの者がその箱を手にロキの元へとやってくる。

「お見事です!流石はロキ陛下。どうぞこちらをお持ちください」

歓声のせいでその言葉は俺達にしか聞こえなかっただろうが、俺はそれを聞いて警戒してしまい思わずロキの前に出る。
けれどロキは『大丈夫ですよ』と笑って普通に受け取ってしまった。

「中身は?」
「フォルティエンヌの邸の鍵だそうです」
「なんだ。ありがとう」
「場所は酒場にてご確認ください」

短いやり取りの後サーカスの者が大きな声で観客達に『華麗なる鞭捌きを見せてくださったこちらの青年に盛大な拍手を!』と告げ、何事もなかったかのようにお開きになった。
一体何だったんだと狐につままれたような気分になってしまったが、裏稼業関連とみていいんだろうか?

「ロキ。なんだったんだ?」
「え?ああ。フォルティエンヌに用意してもらった別荘の鍵だそうです。爵位と一緒にプレゼントするってことだったんで、それだと思います」
「オスカー王子からか?!」
「いえ。闇医者の手配なのでオスカー王子は全く関係ないですよ?」

驚いて思わず声を上げてしまったが、どうやら裏の誰かがこちらの姿を確認し、そのままサーカスの者に預けたんだろうとロキは言う。

「いや、それより爵位ってなんだ、爵位って」
「爵位は爵位ですよ。別荘って言ってもそれなりに大きな屋敷のようですし、余計な勘繰りをされないようある方が便利でしょう?」

どうやら裏市場では各国の爵位が多々取引されているらしい。
そのほとんどが没落した貴族が持っていたものや、高位貴族が子世代に譲る余ってる爵位を借金の形に売り飛ばしたりしたもののようだ。
ロキがもらったのもそのうちの一つのようだと聞き、俺は頭が痛くなった。

「だ、だが契約書とかそういうのは誤魔化しがきかないだろう?」

一応そう口にしたものの、サイン自体はセカンドネームでしたから問題はないらしい。

「何でもありだな」
「ふふ。そうそう。ガヴァムの爵位もこの間いくつか裏に回ってきたと言ってましたよ?母上の件で潰された貴族も多かったでしょう?」

それは確かにその通りではあるが、国が回収したはずではなかっただろうか?

「まあ単純に没落で細々生き繋いでいた貴族が最終的に困って売り飛ばしたんでしょうね。既に裏の誰かが全部買ったらしいですけど。屋敷と爵位を丸々買いとってそこを新人教育の場を兼ねたアジトにしたみたいです」

貴族の邸って広いし客間とかも多いから本当に使い勝手がいいみたいでとか何とか言ってるが、俺はそれを聞いて愕然としてしまった。
そんな使われ方、想定外だ!

「…ちなみにフォルティエンヌでの爵位は?」
「俺がもらったやつですか?サインした書類では伯爵位になってたはずですけど?元々ファスト伯爵という方のものだったので、向こうでの俺の名はアーク=ファストになるはずです」

お金もあるし王位を退いたらフォルティエンヌで伯爵として暮らすことも可能だとロキは言ってるが、どこの国に王がよその国の伯爵として余生を過ごすというのか。

「小さな家をそっちの名前で各国に買うのもありですよね。街中に買えば宿代もかかりませんし。兄上も別荘が欲しい国があれば言ってくださいね」
「…………俺はブルーグレイ以外ならどこでもいい」
「ブルーグレイですね!じゃあ早速────」
「そこ以外だって言ってるだろ?!」

(嫌がらせか?!)

そうやって噛みついた俺にロキが『ちょっと虐めたくなっただけです』と言ってきた。
それからどこか複雑な表情を浮かべてポツリと言葉をこぼす。

「兄上と……ゆっくり旅行ができたらいいのに」

その言葉に思わずハッとした。
そう言えば前回の避暑で行った別荘は散々だったのだ。
鉱山ホテルは楽しかったが、あれは少し趣旨が違った。
あえて言えばブルーグレイに行ったのは旅行と言えば旅行だったけど、あれも慌ただしかったから楽しかったかと言われたら微妙だ。
それならなんとか時間を作ってフォルティエンヌまで行くのはありではないだろうか?
裏の者が用意した屋敷(別荘)ならロキにとって悪い場所ではないだろうし。

「…そうだな。フォルティエンヌは春先に祭が多いと聞いたことがある。また一緒に行こう」

俺がそう言ったらロキは嬉しそうに笑って、楽しみですと言ってくれた。
でも…この顔は期待半分諦め半分と言ったところか?
もしかして俺が仕事をしろと普段から言い過ぎていたからか?
でも俺は『王なんだから国のために犠牲になれ』なんてロキに言うつもりはない。
その分俺が頑張れば済む話だと思ってるし、精力的に動いているつもりだ。

(ああでも……)

だからこそ無理だと思ったのかもしれない。
ロキは俺のことを誰よりも見てくれていて、国のために動く俺の行動をいつだって見守ってくれているんだから。

でもここでロキを悲しませたら本末転倒だ。
俺はロキをこれでもかと幸せにしてやりたくて頑張っているんだから。

(これは期待に応えないとと言う気にさせられるな)

ここで腕を振るわなければ男が廃るだろう。

(さてそうと決まったら今から計画に組み込んでおくか)

シャイナーの結婚式の次はレオナルド皇子の結婚式があるだろうし、そこを避けて上手く予定を調整しなければ。

「ロキ。絶対…コホン。いや、予定を調整するからしっかり計画を立てて春に一緒に行こうな」
「……っ。いいんですか?」
「もちろんだ」

そう答えたらロキの顔が物凄く幸せそうに綻んだ。

「兄上と旅行に行けたら嬉しくてはしゃいでしまいそうです」

(……っ!滅茶苦茶可愛いっ!)

いつもと違い、どこか無邪気にはにかむ弟の顔に胸がきゅんとしてたまらない。
リヒターがロキを喜ばせたくなる気持ちが凄くわかってしまった。

「ロキ。今日はもう帰ろうか」
「え?」
「お前が可愛すぎて今すぐ帰って抱きしめたくなった」

きょとんとするロキの手に自分の手をそっと重ね、自分から指を絡めて恋人繋ぎにしてしまう。

「ロキ。早く帰ろう」
「え?…え?」

戸惑いながらも頬を染めるロキの手を引き、俺は弾む足取りで城へと帰った。
思わぬこともあったけど、今日は最高のデートを楽しめたように思う。
ついでだから思い切って閨にも誘ってみようか?

『今日はお前を抱かせてほしい』

そう言ったらロキは驚くだろうか?
どんな顔を見せてくれるのか、今からとても楽しみだ。


****************

※珍しく自主的に頑張って動いたカリンの話でした。
カリンが愛情を注いでロキを幸せにすればするほど周囲から愛されて、独り占め感が薄れていくのでジレンマに襲われ中。
なかなかリヒターのようには割り切れないカリンです。

爵位については『爵位をお金で買うことができるんだ。この世界ではそうなんだな』くらいの軽い感じで読み流して頂ければと思います。

※ちなみに次話はレトロンのその後の話で、その次は前後編のロキの毒耐性の話となっています。
ある意味ロロイアに行く前の前振りのような話なので、お付き合い頂けると有り難いです。

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