【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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157.他国からの客人㉓ Side.カリン

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ロキと二人で部屋へと移動し、ついでに一緒に昼食を摂った。
その最中、先程シャイナーから言われたことを思い出し、つい手を止めてしまう。

「兄上?どうかしましたか?」

嫌いなものでもあったのかとロキも手を止めて尋ねてくる。

「…いや。お前の護衛をどう増やしたものかと思ってな」

だからちゃんと話してみようとそう口にしたのだが、ここで後出しよろしく思わぬことを言ってこられた。

「あれ?気づいていませんでしたか?さっきからブランドンとディグが護衛についてくれてますけど」
「え?」

ブランドンとディグと言うとあのブルーグレイで護衛をしてくれていたスパイの?と思い扉の方へ目を向けると、確かにそこには二人の姿があった。

「闇医者が心配して連れてきてくれたんです。リヒターとカークにはいつも苦労を掛けてますし、これで俺の方は少しは安心してもらえると思うので、マーシャルはじめ他の近衛は兄上が使ってくださいね?」
「いや、そこは現状プラス、ブランドン達でいいだろう?」
「え?兄上の安全確保の方が大事ですし」
「お前は!俺には暗部が複数人居てるから大丈夫だ!お前の方こそ気をつけろ!」
「でも息が詰まるので四人で十分ですよ」

またこいつはとガックリ肩を落としてしまう。
これがあるから厄介なのだ。
だからこそシャイナーが暗部をつけろとあんな風に言ってきたのだが…。

「お前の知り合いに暗部の仕事ができる奴はいないか?」
「え?暗部の仕事ですか?皆諜報とか暗殺とか得意ですけど」
「そっちじゃない。護衛だ!」
「え?あ~……どうでしょう?」

何故『知りません』みたいな顔をするんだ!
正直言ってどんな付き合いをしてるんだと心配になった。
もっと興味を持てと言ってやりたい。
そんな俺の目にブランドン達が笑って楽しんでいる姿が飛び込んできた。

「わかった。あいつらに聞く」

ロキに期待しても無駄だ。
ここは直接裏の奴らに聞こう。

「すまんが裏の奴で暗部のように裏から護衛できるような人材は転がっていないか?」
「転がってはいねぇなぁ」
「っつーか転がってたらヤバいだろ。ぷっ」

(くそっ!)

やっぱりどうも彼等との間にある溝は埋まる気がしない。
けれどそんな俺にリヒターが助け舟を出してくれる。

「ブランドン。身軽で暗器の扱いに慣れた者の知り合いはいないか?カークと一緒にロキ陛下の護衛をしてもらいたいんだが…。報酬は勿論都度払うし、短期でも構わない」
「う~ん…そうだな。何人かいるにはいるが…今ガヴァムにいねぇんだよな」
「遠方か?」
「いや。一番近くだとアンシャンテだ。潜入中だからすぐに来れるかどうかは期待できねぇ」
「他は?」
「ネブリスとメルケに潜入してた奴らはいるが、そっちは今回の件で引き続き潜入してるからなぁ」
「そうか」
「あ、ブルーグレイに潜入してる奴ならいけるかも。確かこの間そろそろ仕事が終わりそうだって言ってたような…」
「おお、バンビか!あいつなら確かに」

そうして何やら心当たりに連絡を取り始めた。
けれど正直言って何語を話しているのかさっぱりわからない。
どこかの古語か?
独特のイントネーションだ。

『よっすバンビ。仕事は落ち着いたか?』
『お、ブランドン。相変わらず元気そうだな。どうした?何か用か?』
『仕事だ。ガヴァムに戻ってロキの護衛やってくんねぇか?』
『ロキ?ロキってあの不思議王子?ぷぷっ。面白そう!』
『虐めてやるなよ?トーシャスに殺されるぞ?』
『わかってるって。トーシャスも怖いが闇医者の方がずっと怖い。生きたまま解剖されたらたまらん!』
『確かに!じゃ、よろしく頼んだ』
『りょーかい!ワイバーンですぐ向かう』

楽し気に話していたが話はまとまったんだろうか?

「バンビがすぐ来てくれるってよ」

どうやら来てもらえるらしい。
そのことにホッとしてしまう。
そうは言ってもブルーグレイからここまでは遠いからその間はブランドン達に頑張ってもらいたいとは思った。

「ロキ、バンビって奴覚えてるか?昔一回しか会ってないから覚えてないかもしれないが」
「う~ん…」
「覚えてねぇか。そりゃそうだ!ハハハッ!」

そうして楽しそうにした後、もう一人呼んでやると言ってまたどこかに連絡を取る。
今度は普通だ。
もしかしてさっきのバンビと言う奴は言語が違う遠い国出身だっただけなのかもしれない。
そして交渉してすぐに返事がもらえたようで、こちらは早い段階で来てもらえることになった。

「ニコラスも来れるってよ」
「ニコラス?ニコラスって暗殺稼業じゃなかったっけ?」
「それがそろそろ足を洗いたいって言ってたのを思い出してな。だから護衛は初。つまりお試しだな」
「へぇ…職業訓練みたいで面白い」

ロキが楽しそうに話してるが、それでいいんだろうか?
少し不安だ。
でもシャイナーに頼るよりはずっといいだろう。
何はともあれロキの安全を第一に考えよう。




その後改めてロキから話を聞いて今後の対策を話し合う。
「よくわからなくて」と困ったようにロキは言うが、そんなもの俺だって初めてに決まってる。
でもやるべきことは何となくわかるから、あの件は宰相で、そっちは騎士団長に任せて等対策はとることができた。
正直言って尻拭い感が半端ないが、ロキの為なら全部片づけてやろう。

「やっぱり兄上は頼りになりますね」

そうやって尊敬の眼差しで見られるのも悪くはない。
さっきシャイナーに向けていた眼差しとは全然違う、本気で感心したような目は結構嬉しいものだ。
ついでに大好きだと目で語ってくるから、俺も大好きだと言いたくなってしまう。
リヒターよりもロキは俺の方が好きだとこうして確信できるから、シャイナーに『寝取られた』なんて言われたくはない。
そもそもまだ諦めていなかったことにびっくりした。
リヒターにも身の回りに気を付けておくよう忠告しておこうか?

「リヒター。さっきシャイナーがお前に敵意をむき出しにして『殺してやりたい』と言っていたから、命を狙われないよう気を付けておけ」
「…は?」
「ロキと仲が良過ぎて妬いたらしい。念のため用心して、気を抜かないようにな」

だからそう言ったんだが、そう言った途端ロキと裏の連中が『へぇ?』と低い声を出した。
ロキはわかるが何故裏の連中まで?

「兄上。シャイナーは他にも何か言っていましたか?」
「え?ああ。俺への執着がなくなったならロキをアンシャンテに攫ってやるとかなんとか…」
「そうですか。ではそちらは手を打っておきますね?」
「…国際問題にするなよ?」
「大丈夫ですよ。他にはないですか?」
「あ、ああ。お前の暗部がカーライルだけなのを気にして、カーライルの実家から暗部を派遣しようかと言っていた。即断ったからそっちは問題ない」
「なるほど。それで…。わかりました。そちらも手は打っておきますからご心配なく」

そして何やらこそこそとディグの方に耳打ちして、そこからブランドンとリヒター、ついでにカーライルまで呼んでやり取りした後、カーライルがサッと姿を消した。
もしかしたら裏の連中のところへ使いにでも行かされたのかもしれない。
俺には内緒かと思ったが、聞いても無駄だろうと思って黙って食後の茶を飲んだ。

さて、この後は順次見送りだ。
レオナルド皇子にも手伝いを任せてしまって申し訳なかったが、無事に帰国させていかないと。
とは言えほとんどがミラルカへ移動してホテルに泊まって帰るようだし、そこまで心配しなくても構わないだろう。
そう思いながらロキと共に部屋を出た。


***


「ロキ陛下。今回は残念だったが、次回は是非遊んでくれ」

あんなに釘を刺したのに性懲りもなくロキの手を取りそんなことを言ってくるキュリアス王子をロキから引き剥がし、庇うように前に出る。

「キュリアス王子。ロキに近づかないでもらおうか」
「カリン陛下。次回は是非ご一緒に楽しみましょう。それならいいんですよね?ロキ陛下?」

どこまでふてぶてしい王子なのか。
ここで了承を得て示談金を踏み倒す気じゃないだろうな?
示談金の請求だけではなくもっと痛い目に合わせてやればよかった。
しかもこの流れで行くと、ロキは笑顔で了承するんじゃないだろうか?
もしそうなったら全力で止めに入らないと…。
そう思ったのに────。

「すみません、キュリアス王子。昨日叱られたばかりなのでお受けできません」

(ロ、ロキがちゃんと断ってる…!)

あり得ない光景に驚き過ぎて思わず目を見開いてロキの方を見つめてしまう。
感動して言葉もないとはこのことだ。
ちゃんと改心できたんだなと思わずその成長に歓喜が湧きおこってしまった。
ちゃんと反省させてくれたリヒターには特別報酬を支払いたいくらいだ。

「昨日は了承してくださったのに?」
「ええ。すみません」
「ロキ陛下」

そしてグイッと俺を押しのけキュリアス王子が前に出る。
油断した。
やめろ。触るな。勝手に俺のロキをやんわり抱き締めにかかるな!

「絶対に後悔させませんよ?」

(そう言いながらロキの尻を撫でるな!!)

そう思いながらすぐさまロキを奪い返す。
幸いロキは全く感じた様子もなく普通に対処していたが、昨日あんなにリヒターに感じさせられていたのに、感度が上がったりはしてないんだろうか?

「後悔なら昨日嫌という程させられましたので、絶対に頷く気はないですよ?」

溜息を吐きながら飄々とそう言い放ったロキは全く靡く気配すらないし、これなら大丈夫と凄く安心できた。

「……それは誰に?」
「兄上と…教育係に?」

その言葉に俺は思い切り噴き出しそうになってしまう。

「…………兄上。笑い過ぎです」
「す、すまない。ぶふっ…」

まあリヒターのことはキュリアス王子は特に知っているわけではないだろうし、シャイナーのように余計なトラブルを持ち込む可能性を考えるとそこは名を伏せた方が無難だとロキは考えたんだろう。
確かに勉強も鍛錬も貴族的な考え方も全部リヒターがロキに教えているし、昨日のお仕置きでもそうだが悪いことは悪いと基本的なことを教えているのもリヒターと言える。
だから教育係と言うのはあながち間違ってはいない。
ただの一騎士とは一線を画した良い表現だと思う。

「さて、キュリアス王子。わかったらさっさと帰国してもらいたいんだが?後が閊えているんでな」
「…………わかりました。今回は引きましょう。ロキ陛下。ではまた」
「ええ。お元気で」

ロキに向ける目を見る限りどうも諦めているようには見えないが、今回はおとなしく帰らざるを得ないだろう。
すれ違いざま此方を睨んできたが、傍迷惑な客人がやっと帰ってくれて清々した。
本当にロキはすぐに変なのに捕まるから、今後も油断せず目は光らせておくとしよう。


****************

※キュリアス王子は今回の話ではここで退場ですが、国に帰ってから色々やらかす予定です。
セドが絡んでくる予定なのでここはサラッと帰国。

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