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156.他国からの客人㉒ Side.カリン
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シャイナーのところに行くと一人かと訊かれたのでそうだと答えたらあからさまにがっかりした顔をされてしまった。
どうやらロキに会えると思って楽しみにしていたようだ。
キャサリン嬢と上手くやっているんだし、いい加減諦めろと言ってやりたい。
そんなシャイナーだが、徐に真剣な顔をして俺に問いをぶつけてきた。
「ちょうどいい。カリン、昨日の件で気になったことがある」
「なんだ?」
呼び捨てでいきなりなんだと思いながら尋ねると、どうやらシャイナーは昨日のロキとリヒターの様子が気になっていたらしい。
「ロキは俺にとって最高のご主人様だ。なのに何故リヒターの腕の中であんなに可愛く頬を染めていた?寝取られたのか?」
「誰がだ?!ロキは変わらず俺一筋だ!」
「だったらどうしてあんな顔をする?!」
「それはロキがリヒターに弱いからだ!ほ、保護者には別に弱くなっても仕方がないだろう?!」
他の相手にならいくらでもドS全開なロキだが、ことリヒターの前ではああなるのだから仕方がないではないか。
俺はどちらのロキも好きだから構わないし、取られないように牽制は掛けるが、ロキは俺だけだと自信を持って言えるから寝取られたなんて言って欲しくはない。
リヒターは保護者。それでシャイナーも納得してほしい。
そんな俺にシャイナーが不穏なことを言ってくる。
「……俺もロキを抱けばいいのか?」
「そんな訳があるか!ふざけるな!リヒターは特例中の特例だ!」
「つまりあいつはロキを抱いたということだな。保護者が聞いて呆れる。まんまと寝取られて、ざまあないな」
「ぐっ…」
誘導されたと思った時には遅かった。
いらないことがシャイナーにバレてしまい言葉に詰まる。
「あの男…やはり殺すか。目障りだ」
シャイナーがポツリと更に不穏なことを言ってくるが、リヒターを殺したらロキは絶対に許してくれないと思うぞと言ってやりたい。
「言っておくが俺だってロキを抱くことはあるし、ロキの中で俺が一番なのに変わりはない。お前が入り込む隙なんて一切ないぞ?」
「ちっ…。これを機にお前への執着がなくなったなら、ロキをアンシャンテに連れ去って俺だけのロキにできたのに!」
「まだ攫うことを諦めてなかったのか?!キャサリン嬢が泣くぞ?!」
「ロキがお前を諦めたらお前が王になればいいだろう?キャシーならロキと仲が良いから大丈夫だ!」
わかってくれると熱く語っているが、言ってることは最低だ。
後でロキに言いつけよう。
お前なんてロキに蔑まれて見捨てられてしまえ。
「ロキは俺のものだ。誰にもやる気はない」
そう言って睨んでやると、シャイナーはジッとこちらを見た後、さっさと話を変えてしまった。
「まあいい。それで?共闘作戦についての確認に来たのだろう?」
「ああ。そうだ」
それから色々と打ち合わせを行った。
シャイナーはこういう所はとても優秀で、やるべき事を把握しているからあっという間に話がまとまってしまう。
アンシャンテで賢王と呼ばれるのも当然かと納得がいった。
ロキが絡まなければ本当に非の打ち所がない王だと思う。
まあ…キャサリン嬢からすると、ドMなシャイナーの方が面白くていいらしいが…。
「そう言えばキャサリン嬢は?」
「キャシーなら帰る前にユーフェミア王女とエリザ王女に挨拶がしたいと言っていたから、どちらかにいると思うが?」
多分こちらが大事な話をしに来るとわかっていて席を外してくれたんだろう。
本当に、変わり者ではあるが王妃として申し分のない令嬢だと思う。
「シャイナー。キャサリン嬢を大事にしろよ?」
「言われなくとも大事にしている。お前の方こそロキを何度危険な目に合わせるつもりだ?次にロキに何かあったら俺はもう遠慮なくアンシャンテへ連れ去ってやるから覚えていろ」
流石にこの言葉はグサッと胸に刺さってしまう。
母の件は兎も角、今回はロキが迂闊な行動をしたからなのにと理不尽さを感じずにはいられない。
そもそもロキはどうしてすぐに狙われるんだろう?
あんなにドSなご主人様なのに。
普段の柔和な感じがダメなのか?
いっそ見た目から変えさせようか?
もっと短髪にしてやったらイメチェンにはなると思うが…。
「いや、でも、見た目を変えるとギャップ萌えが…」
あのギャップがまたいいのに…と思っていたら何故かシャイナーに同意された。
「ロキのギャップが良いのは勿論だ。そこは変えるな」
「……シャイナーならどうする?」
「影をこれでもかとつけるな。ロキの自由さを考慮しつつ身を守るならそれしかないのにそれをしないお前が悪い」
「ぐっ…」
そうは言っても俺の暗部は諜報活動に回すと護衛に回す人数が減るから、ロキが「兄上を守る人数は絶対に減らしたくないです」と言って傍に置くことを認めてくれないのだ。
新たに連れてくるにしてもロキの信用を得られるかどうかの問題があってなかなか難しい。
いっそ裏の者に頼んだ方が早いのではないかと思わないでもないが、彼らが俺の言うことを聞いてくれるとも思えない。
正直言って八方塞がりだ。
けれど昨日のロキの様子から、いつまでもそうは言っていられないだろう。
何か手を打たなくてはいけない。
そんな風に苦々しく思っていたところでシャイナーが思いがけないことを言ってきた。
「今ロキに付いている暗部はアンシャンテ出身だったろう?」
「ああ。そうだが?」
「あまりこちらの内情を口にするのもどうかと思うが、カーライル=ジルバートの実家であるジルバート伯爵家は代々アンシャンテ王家の影を担う人材を生み出してきた家系でな」
「…………何が言いたい?」
「なに。少し信頼のおける暗部を派遣してやろうと思っただけの話だ」
困っているんだろうとシャイナーが恩着せがましく笑って言ってくるが、誰がお前の息のかかったものをロキの傍に置くかと怒りに身を震わせてしまう。
「断る!」
「ロキを無防備な状況に置き危険な目に合わせるリスクと安全安心な暗部を傍に置き俺にだけ警戒するリスク。どちらの方がロキの身の安全を図るのに適しているのか…わからん程馬鹿ではないだろう?」
こう言うところを見るとあのセドリック王子と従兄弟だというのをヒシヒシと肌で感じてしまう。
こちらの弱いところを突いてくるところが憎らしくて仕方がない。
けれどそんなやり取りをしているところでドアをノックされる音が響いた。
「兄上?こちらと聞いて来てみたんですが…」
しかもタイミングがいいのか悪いのか、やってきたのはロキだった。
「ロキ!」
あからさまにシャイナーが喜びの声を上げ、先程の不遜な姿を綺麗に隠して爽やかさを偽装する。
「俺に会いに来てくれたのか?」
「そんなわけがないでしょう?兄上が虐められていないか心配して来ただけです」
「俺がそんな事をするはずがないだろう?」
「どうだか。それで?メルケ国が攻めてきた時に手伝ってくれるんでしたっけ?」
「もちろんだ!ロキの為ならメルケ国などすぐにでも潰して、山側からだけでなく本当の意味で隣国になろう。その方がずっとこれまで以上に親しく付き合えるようになる」
「はいはい。シャイナーはもう黙っていてください。わざわざシャイナーが潰さなくても近日中に潰れるかもしれないですし、難民受け入れ等で手伝っていただけたら有難いです」
サラッと言われたその言葉に俺はシャイナーと共に首を傾げてしまう。
近日中に潰れるとはどういうことだろう?
戦争が始まるかどうかの瀬戸際だと思っていたのだが…。
「すみません兄上。難民の受け入れ対策ってどうしたらいいのか後で教えて頂けませんか?」
こちら側もネブリス国の難民がやってくる可能性が高いと思うんですとロキが困った顔で相談してきた。
何だその可愛い顔は。
頼られて嬉しすぎるんだが?
滅多にないロキのお願いに俺は笑顔で『任せろ』と胸を叩く。
貴族として云々ならリヒターの出番もあるが、国としての対処法は俺に聞くのが一番だとロキは思ってくれているようだし、ここはしっかりといいところを見せよう。
そしてそれに便乗するかのようにシャイナーもロキにキラキラした笑顔で難民受け入れを承諾する返事をした。
「ロキ!もちろんアンシャンテとしても協力するぞ。沢山頼ってくれ」
「ありがとうございます。期待しています」
そんな言葉をもらって物凄く嬉しそうだ。
腹立たしいな。
いっそその本性をロキの前で引きずり出してやれたらいいのに。
「それで?何故戦争の話ではなく難民受け入れの話になった?」
闇医者との話で何か国内での潰し合いが起こってる等情報でもあったのだろうか?
そう思って尋ねたのだが、ロキは笑顔で「さあ?」としか言ってくれない。
怪しすぎる。
「ロキ?」
けれど話せとばかりにプレッシャーをかけると渋々ではあったがちゃんと教えてくれた。
やっぱり以前より態度が軟化している。
嬉しい限りだ。
「ただの裏の潰し合いですよ。あそこはキナ臭い輩が多くて昔からこちらとは犬猿の仲でしたから。攻め込む口実がなくて放置せざるを得なかった部分があったんですけど、今回ガヴァムにクスリを持ち込むという愚かな行為が発覚したので、これ幸いとあちらの裏の連中を潰させてもらった次第です。このあたりは兄上もテリーから聞いた話でわかってますよね?」
「あ、ああ」
それは確かに聞いてはいた。
「まあそれで軍事資金が得られなくなったネブリス国としては焦りますよね?そこをメルケ国が攻めて潰そうとしてた。ここまではいいですか?」
「ああ」
「で、まあ調子に乗った彼らはこちらにまで手を伸ばす気だったんですよ。彼らの国に比べればこっちは大分豊かに映るでしょうしね」
「そうだな」
「でもそれって、先導者がいないと動けないと思うんですよね?」
「…………つまり?」
「ふふっ。兄上。ただ聞いた話を口にしただけですよ?俺は何もしていませんから安心してください」
「そ…そうか」
物凄く疑わしいが、本当に大丈夫だろうか?
「それでですね、兄上にはこれから色々ご迷惑をかけることになるので、後でゆっくり相談させてもらいたくて」
「もちろんいいぞ?寧ろシャイナーとの話が終わったらすぐ聞こう」
「ありがとうございます」
そう言って笑ったロキにシャイナーがここぞとばかりに自分をアピールし始める。
「ロキ!万が一戦争になってもこちらから兵を出すし、難民もしっかり受け入れよう。もし双方がガヴァムに何か言ってきても俺が間に入って仲裁してもいい。だから、だから…っ」
期待に染まったその表情に嫌な予感を感じてしまう。
「何がお望みでしょう?」
「もう一度抱いてほしい!」
ここぞとばかりにシャイナーはそう言い放った。
けれど対するロキの返事は無情の一言。
「却下で」
シャイナーはここまで言っても抱いてもらえないのかとショックを受けたような顔で固まったが、ロキは尤もらしく笑顔でシャイナーへと言い放つ。
「シャイナー?国王として立派な行いをしようとしているのにそんな安易な望みを口にしたらダメですよ?」
「ロ、ロキ…」
「シャイナーがアンシャンテの国王として立派な姿を俺に見せてくれたら、見直してしまうかもしれないのに」
「立派な姿を見直して…」
「大臣達もシャイナーは賢王だと褒め称えてましたよね?俺もそんなシャイナーの実力を目の当りにしたら目から鱗が落ちるかもしれません。是非惚れ惚れするような王の姿を見せて頂けませんか?」
そこからのシャイナーは早かった。
「ロキ。任せろ。情報収集も完璧にこなして情勢はすぐさま把握させよう。お前に見直してもらって惚れ惚れする姿をたっぷり見せつけてやる」
「ありがとうございます」
「ツンナガールでいつでも連絡が取れる状況にしておいてくれ」
「はい。ではお気をつけて」
以前にも思ったがシャイナーはこうと決めたら行動が滅茶苦茶早い。
今日に限っては全く名残惜しさの欠片も見せずに動き始めたほどだ。
こう言うところは俺も見習った方がいいんだろうか?
「では兄上、戻りましょうか」
他国の国王を手玉に取ったガヴァムの王は、とても昨日リヒターに泣かされながら反省を促されていたとは思えないほど余裕たっぷりに微笑んだ。
どうやらロキに会えると思って楽しみにしていたようだ。
キャサリン嬢と上手くやっているんだし、いい加減諦めろと言ってやりたい。
そんなシャイナーだが、徐に真剣な顔をして俺に問いをぶつけてきた。
「ちょうどいい。カリン、昨日の件で気になったことがある」
「なんだ?」
呼び捨てでいきなりなんだと思いながら尋ねると、どうやらシャイナーは昨日のロキとリヒターの様子が気になっていたらしい。
「ロキは俺にとって最高のご主人様だ。なのに何故リヒターの腕の中であんなに可愛く頬を染めていた?寝取られたのか?」
「誰がだ?!ロキは変わらず俺一筋だ!」
「だったらどうしてあんな顔をする?!」
「それはロキがリヒターに弱いからだ!ほ、保護者には別に弱くなっても仕方がないだろう?!」
他の相手にならいくらでもドS全開なロキだが、ことリヒターの前ではああなるのだから仕方がないではないか。
俺はどちらのロキも好きだから構わないし、取られないように牽制は掛けるが、ロキは俺だけだと自信を持って言えるから寝取られたなんて言って欲しくはない。
リヒターは保護者。それでシャイナーも納得してほしい。
そんな俺にシャイナーが不穏なことを言ってくる。
「……俺もロキを抱けばいいのか?」
「そんな訳があるか!ふざけるな!リヒターは特例中の特例だ!」
「つまりあいつはロキを抱いたということだな。保護者が聞いて呆れる。まんまと寝取られて、ざまあないな」
「ぐっ…」
誘導されたと思った時には遅かった。
いらないことがシャイナーにバレてしまい言葉に詰まる。
「あの男…やはり殺すか。目障りだ」
シャイナーがポツリと更に不穏なことを言ってくるが、リヒターを殺したらロキは絶対に許してくれないと思うぞと言ってやりたい。
「言っておくが俺だってロキを抱くことはあるし、ロキの中で俺が一番なのに変わりはない。お前が入り込む隙なんて一切ないぞ?」
「ちっ…。これを機にお前への執着がなくなったなら、ロキをアンシャンテに連れ去って俺だけのロキにできたのに!」
「まだ攫うことを諦めてなかったのか?!キャサリン嬢が泣くぞ?!」
「ロキがお前を諦めたらお前が王になればいいだろう?キャシーならロキと仲が良いから大丈夫だ!」
わかってくれると熱く語っているが、言ってることは最低だ。
後でロキに言いつけよう。
お前なんてロキに蔑まれて見捨てられてしまえ。
「ロキは俺のものだ。誰にもやる気はない」
そう言って睨んでやると、シャイナーはジッとこちらを見た後、さっさと話を変えてしまった。
「まあいい。それで?共闘作戦についての確認に来たのだろう?」
「ああ。そうだ」
それから色々と打ち合わせを行った。
シャイナーはこういう所はとても優秀で、やるべき事を把握しているからあっという間に話がまとまってしまう。
アンシャンテで賢王と呼ばれるのも当然かと納得がいった。
ロキが絡まなければ本当に非の打ち所がない王だと思う。
まあ…キャサリン嬢からすると、ドMなシャイナーの方が面白くていいらしいが…。
「そう言えばキャサリン嬢は?」
「キャシーなら帰る前にユーフェミア王女とエリザ王女に挨拶がしたいと言っていたから、どちらかにいると思うが?」
多分こちらが大事な話をしに来るとわかっていて席を外してくれたんだろう。
本当に、変わり者ではあるが王妃として申し分のない令嬢だと思う。
「シャイナー。キャサリン嬢を大事にしろよ?」
「言われなくとも大事にしている。お前の方こそロキを何度危険な目に合わせるつもりだ?次にロキに何かあったら俺はもう遠慮なくアンシャンテへ連れ去ってやるから覚えていろ」
流石にこの言葉はグサッと胸に刺さってしまう。
母の件は兎も角、今回はロキが迂闊な行動をしたからなのにと理不尽さを感じずにはいられない。
そもそもロキはどうしてすぐに狙われるんだろう?
あんなにドSなご主人様なのに。
普段の柔和な感じがダメなのか?
いっそ見た目から変えさせようか?
もっと短髪にしてやったらイメチェンにはなると思うが…。
「いや、でも、見た目を変えるとギャップ萌えが…」
あのギャップがまたいいのに…と思っていたら何故かシャイナーに同意された。
「ロキのギャップが良いのは勿論だ。そこは変えるな」
「……シャイナーならどうする?」
「影をこれでもかとつけるな。ロキの自由さを考慮しつつ身を守るならそれしかないのにそれをしないお前が悪い」
「ぐっ…」
そうは言っても俺の暗部は諜報活動に回すと護衛に回す人数が減るから、ロキが「兄上を守る人数は絶対に減らしたくないです」と言って傍に置くことを認めてくれないのだ。
新たに連れてくるにしてもロキの信用を得られるかどうかの問題があってなかなか難しい。
いっそ裏の者に頼んだ方が早いのではないかと思わないでもないが、彼らが俺の言うことを聞いてくれるとも思えない。
正直言って八方塞がりだ。
けれど昨日のロキの様子から、いつまでもそうは言っていられないだろう。
何か手を打たなくてはいけない。
そんな風に苦々しく思っていたところでシャイナーが思いがけないことを言ってきた。
「今ロキに付いている暗部はアンシャンテ出身だったろう?」
「ああ。そうだが?」
「あまりこちらの内情を口にするのもどうかと思うが、カーライル=ジルバートの実家であるジルバート伯爵家は代々アンシャンテ王家の影を担う人材を生み出してきた家系でな」
「…………何が言いたい?」
「なに。少し信頼のおける暗部を派遣してやろうと思っただけの話だ」
困っているんだろうとシャイナーが恩着せがましく笑って言ってくるが、誰がお前の息のかかったものをロキの傍に置くかと怒りに身を震わせてしまう。
「断る!」
「ロキを無防備な状況に置き危険な目に合わせるリスクと安全安心な暗部を傍に置き俺にだけ警戒するリスク。どちらの方がロキの身の安全を図るのに適しているのか…わからん程馬鹿ではないだろう?」
こう言うところを見るとあのセドリック王子と従兄弟だというのをヒシヒシと肌で感じてしまう。
こちらの弱いところを突いてくるところが憎らしくて仕方がない。
けれどそんなやり取りをしているところでドアをノックされる音が響いた。
「兄上?こちらと聞いて来てみたんですが…」
しかもタイミングがいいのか悪いのか、やってきたのはロキだった。
「ロキ!」
あからさまにシャイナーが喜びの声を上げ、先程の不遜な姿を綺麗に隠して爽やかさを偽装する。
「俺に会いに来てくれたのか?」
「そんなわけがないでしょう?兄上が虐められていないか心配して来ただけです」
「俺がそんな事をするはずがないだろう?」
「どうだか。それで?メルケ国が攻めてきた時に手伝ってくれるんでしたっけ?」
「もちろんだ!ロキの為ならメルケ国などすぐにでも潰して、山側からだけでなく本当の意味で隣国になろう。その方がずっとこれまで以上に親しく付き合えるようになる」
「はいはい。シャイナーはもう黙っていてください。わざわざシャイナーが潰さなくても近日中に潰れるかもしれないですし、難民受け入れ等で手伝っていただけたら有難いです」
サラッと言われたその言葉に俺はシャイナーと共に首を傾げてしまう。
近日中に潰れるとはどういうことだろう?
戦争が始まるかどうかの瀬戸際だと思っていたのだが…。
「すみません兄上。難民の受け入れ対策ってどうしたらいいのか後で教えて頂けませんか?」
こちら側もネブリス国の難民がやってくる可能性が高いと思うんですとロキが困った顔で相談してきた。
何だその可愛い顔は。
頼られて嬉しすぎるんだが?
滅多にないロキのお願いに俺は笑顔で『任せろ』と胸を叩く。
貴族として云々ならリヒターの出番もあるが、国としての対処法は俺に聞くのが一番だとロキは思ってくれているようだし、ここはしっかりといいところを見せよう。
そしてそれに便乗するかのようにシャイナーもロキにキラキラした笑顔で難民受け入れを承諾する返事をした。
「ロキ!もちろんアンシャンテとしても協力するぞ。沢山頼ってくれ」
「ありがとうございます。期待しています」
そんな言葉をもらって物凄く嬉しそうだ。
腹立たしいな。
いっそその本性をロキの前で引きずり出してやれたらいいのに。
「それで?何故戦争の話ではなく難民受け入れの話になった?」
闇医者との話で何か国内での潰し合いが起こってる等情報でもあったのだろうか?
そう思って尋ねたのだが、ロキは笑顔で「さあ?」としか言ってくれない。
怪しすぎる。
「ロキ?」
けれど話せとばかりにプレッシャーをかけると渋々ではあったがちゃんと教えてくれた。
やっぱり以前より態度が軟化している。
嬉しい限りだ。
「ただの裏の潰し合いですよ。あそこはキナ臭い輩が多くて昔からこちらとは犬猿の仲でしたから。攻め込む口実がなくて放置せざるを得なかった部分があったんですけど、今回ガヴァムにクスリを持ち込むという愚かな行為が発覚したので、これ幸いとあちらの裏の連中を潰させてもらった次第です。このあたりは兄上もテリーから聞いた話でわかってますよね?」
「あ、ああ」
それは確かに聞いてはいた。
「まあそれで軍事資金が得られなくなったネブリス国としては焦りますよね?そこをメルケ国が攻めて潰そうとしてた。ここまではいいですか?」
「ああ」
「で、まあ調子に乗った彼らはこちらにまで手を伸ばす気だったんですよ。彼らの国に比べればこっちは大分豊かに映るでしょうしね」
「そうだな」
「でもそれって、先導者がいないと動けないと思うんですよね?」
「…………つまり?」
「ふふっ。兄上。ただ聞いた話を口にしただけですよ?俺は何もしていませんから安心してください」
「そ…そうか」
物凄く疑わしいが、本当に大丈夫だろうか?
「それでですね、兄上にはこれから色々ご迷惑をかけることになるので、後でゆっくり相談させてもらいたくて」
「もちろんいいぞ?寧ろシャイナーとの話が終わったらすぐ聞こう」
「ありがとうございます」
そう言って笑ったロキにシャイナーがここぞとばかりに自分をアピールし始める。
「ロキ!万が一戦争になってもこちらから兵を出すし、難民もしっかり受け入れよう。もし双方がガヴァムに何か言ってきても俺が間に入って仲裁してもいい。だから、だから…っ」
期待に染まったその表情に嫌な予感を感じてしまう。
「何がお望みでしょう?」
「もう一度抱いてほしい!」
ここぞとばかりにシャイナーはそう言い放った。
けれど対するロキの返事は無情の一言。
「却下で」
シャイナーはここまで言っても抱いてもらえないのかとショックを受けたような顔で固まったが、ロキは尤もらしく笑顔でシャイナーへと言い放つ。
「シャイナー?国王として立派な行いをしようとしているのにそんな安易な望みを口にしたらダメですよ?」
「ロ、ロキ…」
「シャイナーがアンシャンテの国王として立派な姿を俺に見せてくれたら、見直してしまうかもしれないのに」
「立派な姿を見直して…」
「大臣達もシャイナーは賢王だと褒め称えてましたよね?俺もそんなシャイナーの実力を目の当りにしたら目から鱗が落ちるかもしれません。是非惚れ惚れするような王の姿を見せて頂けませんか?」
そこからのシャイナーは早かった。
「ロキ。任せろ。情報収集も完璧にこなして情勢はすぐさま把握させよう。お前に見直してもらって惚れ惚れする姿をたっぷり見せつけてやる」
「ありがとうございます」
「ツンナガールでいつでも連絡が取れる状況にしておいてくれ」
「はい。ではお気をつけて」
以前にも思ったがシャイナーはこうと決めたら行動が滅茶苦茶早い。
今日に限っては全く名残惜しさの欠片も見せずに動き始めたほどだ。
こう言うところは俺も見習った方がいいんだろうか?
「では兄上、戻りましょうか」
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