【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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148.他国からの客人⑭ Side.ロキ&オスカー王子

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今日はとうとうパーティー本番だ。
着飾った兄は本当にうっとりする程カッコいい。

「兄上…このままベッドに攫ってもいいですか?」

だからそう言ったのに、攫ってどうすると叱られてしまった。残念。
兄の手配はどこもかしこも完璧で、料理も飲み物も警備も大臣達の配置も全てが行き届いていた。
まあ…大臣達がいるということはどうしても奥方は一緒ということになってしまうんだけど、前のような敵意を向けてくる相手はいなかったから良しとしようと思えた。
このあたりも多分兄は大臣達によく言っておいてくれたんだと思う。
配慮が物凄く感じられて、愛されてるなと凄く幸せな気持ちになった。

そしてパーティーは始まったのだけど、兎に角疲れるの一言。
あんなに夕食会で話したにもかかわらず、次々と俺と話したいと皆がやってきて、話が尽きなかったのだ。
見兼ねた外務大臣や宰相、兄やレオもフォローに入ってはくれたものの、はっきり言って辟易してしまう。
もう部屋に戻りたい。
そう思ったから少しだけ息抜きも兼ねてトイレと言って抜け出した。

一応嘘にならないよう用を足してからバルコニーに出て一息つく。
ここなら多分見つからないだろう。
そう思っていたら、同じように息抜きにやってきた様子のカール王子に遭遇してしまった。

「あ…ロキ陛下。お邪魔してしまいましたか?」

その戸惑った様子にわざとらしさは感じられない。
きっと本当に偶然だったんだろう。

「いえ。ちょっと息抜きに休憩していただけなので。カール王子もですか?」
「はい。その…先日は俺の従者が大変なことをしてしまい申し訳ありませんでした」

そしてガバッと勢いよく頭を下げられて、拍子抜けしてしまう。
まさかここでこんな風に謝られるとは思っても見なかったからだ。
レトロン王の話では問題児という話だったが、それは単なる勘違いではないだろうか?
これで問題児と言うなら、自分の方がずっと問題児だったように思う。

「あの従者として一緒に居た三人はご友人ですか?」

だから普通に会話をしてみることにしたのだけど、返ってきた言葉にも素直さが滲んでいて、全く問題児な要素は感じられなかった。

「え?ええ。側近候補として学園の時から仲良くしてきた者達で、よく一緒にふざけ合ったりもしていたんですが、まさかあんな物を持ち込んでしまうとは思ってもおらず…本当に申し訳ありませんでした」
「謝らなくてもいいですよ。こちらのチェック体制にも問題があったんでしょうし。大事に至らなくて良かったです」

(ちゃんと謝れる人のようだし、どう見ても悪い人ではなさそうだけどな)

「俺は学園に通っていないのでよくわからないんですが、どんな風に過ごしていたんですか?」

もしかしてそのあたりに問題児云々と国王に言われた何かがあるのかと少し探りを入れてみたものの、内容としては特に問題があったようにも思えなかった。

「普通ですよ?勉強して友人同士馬鹿をやって、恋をしてと言った感じでしたね」

カール王子は『まあそこで少し調子に乗り過ぎたんですけど…』となんだか苦々しい表情をしている。
そこからさりげなく聞き出したところによると、なんてことはない、恋に溺れた挙句婚約者を蔑ろにして痛い目を見る羽目になったというそれだけの話だった。
それならこちらが気にすることもないだろう。

「なるほど。学生らしく若いうちに良い経験を積めたという話ですね」
「……え?」
「え?そういう話でしょう?」

キョトンとしながらそう答えたら物凄く驚いた顔で見つめられてしまった。
何かおかしなことでも言っただろうか?
本当にそれだけだと思うんだけど…。

「え?あの?」
「何かおかしかったですか?」
「え?だ、だって…っ、俺は婚約者にも傲慢で酷い態度を取り続けてましたし…」
「例えば?」
「……その、お恥ずかしながら『いつでもこんな婚約は破棄できるんだぞ』と上から目線で言ってみたり…」
「ああ、その程度ならまだ可愛いものですよ。うちの兄は昔もっと傲慢発言を沢山してましたよ」

兄が18才頃は『女なんて黙っていても寄ってくる。婚約者なんて慌てて決める必要などない』とか言ってたらしいし。
まあ…それを聞いた大臣達が『早く世継ぎが欲しいのに』だの、『悠長に構え過ぎだ』等々文句を言ってる場に遭遇して、柱の陰でそれを聞いてしまった兄と目が合って、後で睨まれたんだけど。

『婚約者、決めないんですか?』

そう聞いた俺に兄は物凄い目で睨んで来て、『お前のように王族の責務を理解しない無能が俺のことに一々口を挟むな!反吐が出る!』って言い捨ててきたっけ。
今思えば多分兄は別に悠長に構えていたわけでもなんでもなくて、王妃に相応しい相手をこれでもかと吟味してたんだと思う。
煩い輩を黙らせるためにあんな風に『黙っていても…』なんて言ってたんじゃないだろうか?

(兄上はレオと違ってじっくり考えてから動くところがあるしな)

恋や愛なんて関係なく、国の為に一番いいと思える女性を見極めていたのだ。
そりゃあ俺なんかが軽々しく口出ししたら怒るだろう。
当時は単に『王族の責務を理解する前に教育不足なんですよ。悪かったですね』なんて内心捻くれて反発していたから、俺も兄もまだまだ若かったなと懐かしく思う。

(でも…そんな兄上が俺を選んでくれたって考えるとある意味凄いな)

凄く嬉しくてちょっと浮かれてしまいそうだ。
胸がいっぱいでもっと兄を喜ばせたい気持ちでいっぱいになってしまう。
でも兄が大好きな外でするのはしてしまったから、何か他のことを考えないと…。

まあそれは置いておいて、当時の兄は兎角発言も態度も多々傲慢だった。
俺もそうだけど、兄にとっても黒歴史そのものの年頃だ。
あれに比べたらカール王子の発言など可愛いものだろう。
許容範囲内だ。
そもそも王族とは大抵傲慢なものではないだろうか?

「反省したならカール王子はちゃんと道理を弁えられているということです。そう悲観することもないでしょう」

だからそう言っただけなのに、何故か泣きそうな顔で見つめられた。

「お、俺…は、姉上にも、王位は渡さないと警告するために暗部を放ってしまいました…」
「殺す気だったんですか?」

軽くそう問うた俺にカール王子がそんなわけがないといった表情で口を開く。

「違います!あくまでも警告のつもりだったのに、実際は危害を加えようとしてしまったらしく……」
「なら暗部の暴走ですね。今からでもしっかり調教して、主人の命は絶対だと覚え込ませれば問題ありません」

そんな暗部をカール王子に与えたレトロンの国王も悪い。

「え?」
「カール王子。世の中には俺の父親のように子供に刺客を差し向ける親だっているんですよ?それに比べ、貴方は殺す気はなかったんでしょう?問題があるとすれば管理能力の不足だと思います。レトロン王にも相談して暗部の教育を今後頑張ればよいだけの話では?」
「…………それでも姉上は許してくれないと思います」
「そういうのは誠心誠意謝ってから態度で示すしかないと思いますけど」

もう過ぎてしまったことは取り返しようがない。
許す許さないは相手次第だし、謝るのも自己満足と言われてしまえばそれまでだが、けじめにはなる。
だからそれを口にしたんだけど、何故かそのまま泣かれてしまった。
なんでだろう?
子供苛めをする気はなかったのだけど…。

「う…うぅ…ロキ陛下。あり、ありがとうございます…」
「はぁ。どうして泣いてるのかは知りませんけど、もっと強くならないと生き抜いていけませんよ?世の中には結婚式の当日に人を攫ってくる人とか、怒ったらすぐに殺気を振りまく人もいますからね。ああ、そう言えば謝り方を知らなかった人もいましたね」
「……え?」
「俺もこの立場になる前は貴族や他国の王族との付き合いなんて全くなかったんですが、国際会議に出れば各国におかしな人は溢れていましたし、実は真面な人の方が少ないんじゃないかと最近は思うようになりました」

正直言って知り合った相手は変な人ばかりだ。
まあだからこそ面白いのかもしれないけれど。

「彼らに比べたら俺なんて普通だなとしみじみ思いますし、お付き合いするのも色々疲れるので、本音を言うとさっさと引退したいです」
「え?え?」
「カール王子もそのうちわかりますよ。だから些細なことでもしっかり自分の糧にしつつ、カール王子はカール王子らしく頑張って強く成長していってください」

笑顔で言い切った俺にカール王子は複雑そうな顔をしたものの、やがて納得したかのように小さく頷き『ロキ陛下…凄く励まされたので、これから親しくお付き合いしていただけたら嬉しいです』とどこか憧憬の眼差しで言ってきた。

(……面倒臭い)

なんだか兄との時間が削られそうな予感がしたから、即断る方向で言葉を紡ぐ。

「えぇと……もちろん隣国なのである程度のお付き合いはすると思いますが、親しく付き合うならそのうち義兄になるレオナルド皇子にしたらどうです?レオはお節介なところがあるからきっと凄く仲良くしてもらえると思いますよ?」

面倒だし、ここはレオに押し付けよう。
それでレオの目がカール王子に向けば俺の方に構ってくる時間も減って一石二鳥だろう。
そう思ったのに、何故かカール王子は俺がいいと言い出した。
やめてほしい。

「父からもロキ陛下から色々学んで来いと言われましたので、是非」
「…………そうですか」

(余計な事を…)

とは言えカール王子にここで何を言っても無駄だろうと思ったから、今度レオと話した時にでも直接押し付けようと思った。

そんな結論に至ったところで、新たにバルコニーにやってくる人物がいた。
ユーフェミア王女だ。

「ロキ陛下。私の弟が何か失礼をしていなかったでしょうか?」
「ユーフェミア王女。いいえ?ただお話ししていただけですよ?」
「そうですか。なら良いのですが…」
「寧ろ泣かせてしまったのでこちらが申し訳なかったです」

変なところを見られてしまったと思いながら懐からハンカチを出しカール王子へと差し出すと、カール王子は慌ててそれを受け取り涙をぬぐう。
流石にバツが悪かったらしい。

「それよりどうしてこちらに?」
「その…言いにくいのですが、例のクスリを持ち込んだテリーという者が部屋を抜け出したと先程連絡を受けたので、ロキ陛下にお知らせした方が良いのではと思い探しておりました」

「テリーが?」

自分の従者がいなくなったからか、カール王子の顔色がサッと悪くなった。

「なるほど」

それは確かに気を付けておくに越したことはないかもしれない。
勿論巡回中の騎士達も警戒はしてくれているだろうけど、他の賓客達に何かあったら大変ではある。
そう思ったので会場へと揃って戻ることにした。


***


【Side.オスカー王子】

ロキ陛下と妹エリザの縁談が潰れてしまった。
折角上手く事を運べたと思ったのに、まさかこんなことになるなんてと悔しい思いでいっぱいだった。
ロキ陛下が自分よりも年下の王だからと侮ったのがそもそもの間違いだったのかもしれない。
そんな俺の元へロロイアのキュリアス王子がやってきてグラスを差し出してきた。

「随分ご機嫌ナナメだな」

わかっているくせにクククと笑ってくる男に腹が立つ。
ロロイア国とフォルティエンヌは近隣国だから昔から親交が深いが、俺はこの男は嫌いだった。
昔ロロイアに留学した時に半ば脅しのような形で犯されたからだ。
因みにこの男は俺にそんなことをしたにもかかわらず、その後何食わぬ顔ですぐ結婚して、今では妻も子もいるためエリザの相手として考える気は全くない相手でもあった。
こんな奴に可愛い妹をやるなんて絶対に嫌だ。
継承争いもなく平穏無事に幸せになれそうな国だと踏んでロキ陛下にエリザを勧めたかったのに…。

「協力してやろうか?」

そんな俺にキュリアス王子が甘い言葉を掛けてくるが乗る気はない。

「いらない」
「そう言うな。お前の時と同じだ。犯して脅して『エリザ王女と結婚しろ』と言ってやるぞ?」
「断る」

うっかり頼んでそれ以上の無理難題を吹っ掛けられる可能性大だ。
ここは絶対に頷く気はない。

「……そうか。残念だ。なら建前は抜きにして、お前を餌にロキ陛下を頂いてみるか」
「……え?」

そうして気づけば俺はぐらりと身体を傾かせ、意識を失っていた。

「ロロイアの薬はよく効くだろう?ついでに気が向いたら久しぶりに抱いてやるよ。おやすみ。オスカー」


****************

※カール王子は思い切って悩み相談をしてみた感じだけど、ロキはあくまでも軽い世間話のつもり。
頭の中は8割カリンのことでいっぱいです。

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