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147.他国からの客人⑬ Side.ロキ&カリン
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昨夜は兄に余計な動揺を与えてしまったし、さっさとフォルティエンヌとの縁談についてはケリをつけようと思いながら執務室へと向かっていると、また昨日と同じ場所にエリザ王女が立っているのが見えた。
今日は何の用だろう?
「おはようございます。今日はお一人ですか?」
「はい。その…兄はまだ説得できていないのですが、今日は縁談のお断りのご相談に参りました」
どうやら王女的には俺との縁談は断りたいと思ってくれたらしい。
これはいい傾向だ。
昨日あの場で話した甲斐があったというものだと思った。
「そうですか。こちらとしましても無理を言うつもりは全くありませんので、今回はなかったことに」
「はい。ありがとうございます」
「兄君が納得いっていないようですが、先にフォルティエンヌの方にその旨を記した書状をお送りしても?」
「はい。構いません。先手を打っておいた方が兄も諦めがつくでしょうから」
なかなか話が分かる王女で良かった。
そうして二人でさっさと話を決めてしまい、執務室で念のため彼女にも一筆書いてもらってから手紙に同封しておくことに。
「ではこれでお送りしておきますので」
「はい。お手間をお掛けして申し訳ありませんでした」
そう言って彼女は綺麗なカーテシーをして踵を返したのだけど、ちょうどそのタイミングで執務室へと入ってきたフィリップとぶつかりかけて、驚いた拍子に尻もちをついてしまった。
「キャッ?!」
「エリザ王女!大丈夫ですか?!」
慌てて声を掛けたものの、足でもくじいたのかすぐには立てそうにない。
(はぁ…仕方がないな)
こうなったのも自分の補佐官のせいだし、王女には快く婚約の話はなかったことにしてもらえたということもある。
ここは割り切って部屋まで送ろうとそのまま横向きに抱き上げた。
「フィリップ。すぐに王女の部屋に医師の手配を」
「かしこまりました」
ぶつかりかけた本人であるフィリップは凄い速さで王宮医師を呼びに行く。
まあこの程度ならそちらで十分だろう。
「では部屋までお送りしますね」
「すみません。私の不注意で」
「いえ。確認もせず入ってきたこちらの補佐官が悪いので」
そう言って運ぼうとしたのだけど、ドレスがワサワサしていて足元が全く見えないし、物凄く運びにくい。
重さはそれほどでもないけど、ドレスの生地もなんだかサラサラしていて、これは思いがけず手を滑らせそうで怖かった。
「リヒター…」
だからつい困ったようにリヒターの方を見てしまう。
紳士としてはここでカッコよく女性を運ぶのがマナーかもしれないけど、俺は兄を運ぶ時に困らなければいいと思ってるし、できれば代わってもらえないだろうか?
「ロキ陛下。お代わりいたしましょうか?」
「……そうしてくれるか?」
リヒターの方が俺より背も高いし手も大きいから多分安定感も違うはず。
そう思って王女の了承を得てからリヒターに役割を代わってもらった。
「すみません、エリザ王女。女性を抱き上げるのには慣れていなくて…」
「いえ。寧ろこちらの方が良かったと思いますわ。万が一にでも兄に先程の場面を見られれば即婚約だと煩く言われそうでしたから」
「ああ、確かに」
そう言われてみればその通りだ。
危なかった。
そうしてエリザ王女をリヒターに運んでもらいながら歩いていると、噂をすればとでもいうべきか、オスカー王子と兄が何やら深刻な顔で話込んでいる姿が目に飛び込んできた。
何か困らされていないといいのだけれど…。
***
【Side.カリン】
今朝ロキを見送った後、大臣達の定期報告会に向かう最中にオスカー王子に待ち伏せされてしまった。
内容は当然のようにロキとエリザ王女の婚約の件について。
「カリン陛下、昨日は少々動揺してしまい話が途中になってしまいましたが、こちらとしましてはエリザを嫁がせたい気持ちに変わりはないのです」
「……気持ちは受け取ろう。だが無理に強行しても、良いことは何もないのでは?」
「いいえ。ガヴァムには跡継ぎができますし、こちらとしてもガヴァムとの強固な繋がりができることは歓迎すべき点です。是非!エリザを側室に!」
「彼女がガヴァム式を受け入れられると?」
「受け入れさせてみせます!」
その言葉に媚薬でも盛って式に挑ませるつもりではないだろうなとつい邪推してしまう。
いずれにせよロキは受ける気はなさそうだったし、ここはキッパリと断ろう。
そもそも俺自身が受け入れられないというのが昨日の時点でよくわかった。
絶対に無理だ。
「すまないが、その前に俺が受け入れられそうにない」
「カリン陛下はガヴァムを愛しておられないのですか?王族の血を残したいと、そうお考えにはなられないのでしょうか?」
「…………」
国を大事には思っているし、できれば王族の血は残したいとも思わなくはない。
だからこそ昨日の夕食会では悩んだ。
側室を迎えた方が良いのではないかと。
でも────俺の中でいつの間にか国よりロキの方の比重が大きくなってしまっていたのをヒシヒシと感じてしまったのだから仕方がないではないか。
国よりもロキの幸せを第一に考えてやりたい。
一緒に幸せになりたいんだ。
愛し愛され生きていきたい。
「俺は────」
国よりもロキを愛してる。そう言おうと思ったタイミングで、何故かリヒターに抱き上げられたエリザ王女とロキの姿が目に入って大きく目を見開いてしまった。
何故そんなことに?
(ま、まあ…ロキが抱き上げてるわけではないし…いい…のか?)
もしここでロキがエリザ王女を抱き上げて仲良くこちらに向かってきていたら、絶対に大きなショックを受けていたと思う。
それこそ昨日以上に。
「兄上。お話の邪魔になってしまいましたか?」
ロキは思い切り普段通りのロキそのもので、全く変わった様子はない。
となると、エリザ王女が足をくじいたか何かの現場に出くわし、付き添いで移動しているといったところだろうか?
「エリザ。ちょうどいいところへ。お前からもカリン陛下にお伝えしてくれ。ロキ陛下と是非結婚したいと」
どうやらオスカー王子はこの二人の結婚を絶対に諦めたくないらしい。
けれど────。
「あ、それなら先程お断りの返事をフォルティエンヌ王に送らせて頂きました。エリザ王女も辞退させてほしいということだったので、わかっていただけて良かったと安心していたところだったんです」
ロキが空気を読まず、なんでもないことのようにあっさりとオスカー王子の思惑を蹴り飛ばしていく。
(こいつは本当に面倒臭がりのくせにたまにやることが早いな?!)
こうと決めたら全部を壊していくその手腕に脱帽してしまう。
「な……っ」
これには流石のオスカー王子も愕然としているではないか。
駆け引きする暇もないとはこのことだ。
(そう言えばあのセドリック王子もロキ相手には言っても無駄とばかりに駆け引きなんてほとんどしていなかったな)
交渉の余地を全く与えないというのはある意味凄いと思う。
「そうだ。エリザ王女が先程補佐官に驚いて足をくじいてしまったのでお部屋までお運びして、医師に診せようと思っているんですが、オスカー王子もお付き合いいただけませんか?兄上はこの後大臣達と会議でしたよね?急がないと間に合わないのでは?後は引き受けますので、どうぞ行ってください」
「あ、ああ。助かる。ではオスカー王子。また夕食会かパーティーで」
「あっ、カリン陛下!」
ここでオスカー王子から引き留められそうになったが、ロキが俺を後押しするように笑顔で頷いてくれたからなんなくその場から離れることができた。
ここはロキに任せるのが一番だろう。
(くそっ。悔しいが、ロキが頼もし過ぎる……)
俺が頼ってほしいのに、いつも気づけば逆転してしまっている。
兄としては複雑だけど、伴侶としてはカッコいい。そんな心境。
こうなったら俺ももっといいところが見せられるように頑張ろう。
そんな事を思いながら俺は自分に気合を入れた。
****************
※一歩間違ったらすれ違って大惨事な状況を今回は上手く回避。
ついでにロキだけでなくカリンも心境の変化があるんだなと思っていただければ幸いです。
今日は何の用だろう?
「おはようございます。今日はお一人ですか?」
「はい。その…兄はまだ説得できていないのですが、今日は縁談のお断りのご相談に参りました」
どうやら王女的には俺との縁談は断りたいと思ってくれたらしい。
これはいい傾向だ。
昨日あの場で話した甲斐があったというものだと思った。
「そうですか。こちらとしましても無理を言うつもりは全くありませんので、今回はなかったことに」
「はい。ありがとうございます」
「兄君が納得いっていないようですが、先にフォルティエンヌの方にその旨を記した書状をお送りしても?」
「はい。構いません。先手を打っておいた方が兄も諦めがつくでしょうから」
なかなか話が分かる王女で良かった。
そうして二人でさっさと話を決めてしまい、執務室で念のため彼女にも一筆書いてもらってから手紙に同封しておくことに。
「ではこれでお送りしておきますので」
「はい。お手間をお掛けして申し訳ありませんでした」
そう言って彼女は綺麗なカーテシーをして踵を返したのだけど、ちょうどそのタイミングで執務室へと入ってきたフィリップとぶつかりかけて、驚いた拍子に尻もちをついてしまった。
「キャッ?!」
「エリザ王女!大丈夫ですか?!」
慌てて声を掛けたものの、足でもくじいたのかすぐには立てそうにない。
(はぁ…仕方がないな)
こうなったのも自分の補佐官のせいだし、王女には快く婚約の話はなかったことにしてもらえたということもある。
ここは割り切って部屋まで送ろうとそのまま横向きに抱き上げた。
「フィリップ。すぐに王女の部屋に医師の手配を」
「かしこまりました」
ぶつかりかけた本人であるフィリップは凄い速さで王宮医師を呼びに行く。
まあこの程度ならそちらで十分だろう。
「では部屋までお送りしますね」
「すみません。私の不注意で」
「いえ。確認もせず入ってきたこちらの補佐官が悪いので」
そう言って運ぼうとしたのだけど、ドレスがワサワサしていて足元が全く見えないし、物凄く運びにくい。
重さはそれほどでもないけど、ドレスの生地もなんだかサラサラしていて、これは思いがけず手を滑らせそうで怖かった。
「リヒター…」
だからつい困ったようにリヒターの方を見てしまう。
紳士としてはここでカッコよく女性を運ぶのがマナーかもしれないけど、俺は兄を運ぶ時に困らなければいいと思ってるし、できれば代わってもらえないだろうか?
「ロキ陛下。お代わりいたしましょうか?」
「……そうしてくれるか?」
リヒターの方が俺より背も高いし手も大きいから多分安定感も違うはず。
そう思って王女の了承を得てからリヒターに役割を代わってもらった。
「すみません、エリザ王女。女性を抱き上げるのには慣れていなくて…」
「いえ。寧ろこちらの方が良かったと思いますわ。万が一にでも兄に先程の場面を見られれば即婚約だと煩く言われそうでしたから」
「ああ、確かに」
そう言われてみればその通りだ。
危なかった。
そうしてエリザ王女をリヒターに運んでもらいながら歩いていると、噂をすればとでもいうべきか、オスカー王子と兄が何やら深刻な顔で話込んでいる姿が目に飛び込んできた。
何か困らされていないといいのだけれど…。
***
【Side.カリン】
今朝ロキを見送った後、大臣達の定期報告会に向かう最中にオスカー王子に待ち伏せされてしまった。
内容は当然のようにロキとエリザ王女の婚約の件について。
「カリン陛下、昨日は少々動揺してしまい話が途中になってしまいましたが、こちらとしましてはエリザを嫁がせたい気持ちに変わりはないのです」
「……気持ちは受け取ろう。だが無理に強行しても、良いことは何もないのでは?」
「いいえ。ガヴァムには跡継ぎができますし、こちらとしてもガヴァムとの強固な繋がりができることは歓迎すべき点です。是非!エリザを側室に!」
「彼女がガヴァム式を受け入れられると?」
「受け入れさせてみせます!」
その言葉に媚薬でも盛って式に挑ませるつもりではないだろうなとつい邪推してしまう。
いずれにせよロキは受ける気はなさそうだったし、ここはキッパリと断ろう。
そもそも俺自身が受け入れられないというのが昨日の時点でよくわかった。
絶対に無理だ。
「すまないが、その前に俺が受け入れられそうにない」
「カリン陛下はガヴァムを愛しておられないのですか?王族の血を残したいと、そうお考えにはなられないのでしょうか?」
「…………」
国を大事には思っているし、できれば王族の血は残したいとも思わなくはない。
だからこそ昨日の夕食会では悩んだ。
側室を迎えた方が良いのではないかと。
でも────俺の中でいつの間にか国よりロキの方の比重が大きくなってしまっていたのをヒシヒシと感じてしまったのだから仕方がないではないか。
国よりもロキの幸せを第一に考えてやりたい。
一緒に幸せになりたいんだ。
愛し愛され生きていきたい。
「俺は────」
国よりもロキを愛してる。そう言おうと思ったタイミングで、何故かリヒターに抱き上げられたエリザ王女とロキの姿が目に入って大きく目を見開いてしまった。
何故そんなことに?
(ま、まあ…ロキが抱き上げてるわけではないし…いい…のか?)
もしここでロキがエリザ王女を抱き上げて仲良くこちらに向かってきていたら、絶対に大きなショックを受けていたと思う。
それこそ昨日以上に。
「兄上。お話の邪魔になってしまいましたか?」
ロキは思い切り普段通りのロキそのもので、全く変わった様子はない。
となると、エリザ王女が足をくじいたか何かの現場に出くわし、付き添いで移動しているといったところだろうか?
「エリザ。ちょうどいいところへ。お前からもカリン陛下にお伝えしてくれ。ロキ陛下と是非結婚したいと」
どうやらオスカー王子はこの二人の結婚を絶対に諦めたくないらしい。
けれど────。
「あ、それなら先程お断りの返事をフォルティエンヌ王に送らせて頂きました。エリザ王女も辞退させてほしいということだったので、わかっていただけて良かったと安心していたところだったんです」
ロキが空気を読まず、なんでもないことのようにあっさりとオスカー王子の思惑を蹴り飛ばしていく。
(こいつは本当に面倒臭がりのくせにたまにやることが早いな?!)
こうと決めたら全部を壊していくその手腕に脱帽してしまう。
「な……っ」
これには流石のオスカー王子も愕然としているではないか。
駆け引きする暇もないとはこのことだ。
(そう言えばあのセドリック王子もロキ相手には言っても無駄とばかりに駆け引きなんてほとんどしていなかったな)
交渉の余地を全く与えないというのはある意味凄いと思う。
「そうだ。エリザ王女が先程補佐官に驚いて足をくじいてしまったのでお部屋までお運びして、医師に診せようと思っているんですが、オスカー王子もお付き合いいただけませんか?兄上はこの後大臣達と会議でしたよね?急がないと間に合わないのでは?後は引き受けますので、どうぞ行ってください」
「あ、ああ。助かる。ではオスカー王子。また夕食会かパーティーで」
「あっ、カリン陛下!」
ここでオスカー王子から引き留められそうになったが、ロキが俺を後押しするように笑顔で頷いてくれたからなんなくその場から離れることができた。
ここはロキに任せるのが一番だろう。
(くそっ。悔しいが、ロキが頼もし過ぎる……)
俺が頼ってほしいのに、いつも気づけば逆転してしまっている。
兄としては複雑だけど、伴侶としてはカッコいい。そんな心境。
こうなったら俺ももっといいところが見せられるように頑張ろう。
そんな事を思いながら俺は自分に気合を入れた。
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