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142.他国からの客人⑧ Side.ユーフェミア&ロキ

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鉱山ホテルの一件を受けミラルカの城に滞在することになった。
当初はそんなに長くなるとは思ってもいなかったのだけど、意外にも居心地がよく、平和な日々を過ごすことができていた。

レオナルド皇子の印象が初めから良かったかと問われれば答えは否だ。
彼は本当に皇太子かと言いたくなるほど軽率で迂闊で頼りにならない皇子というのが最初の印象だった。
三カ国事業やその他の事業を次々成功させていたから、少しは期待できるのかと思ったものの、ダメなところばかり見せられて幻滅したものだ。
けれど鉱山ホテルで暗部から放たれた矢から守ってくれたり、ワイバーンが苦手だと言えばかなり気遣って飛んでくれたり、安全が確保されるまでミラルカの城にいれば良いと仮婚約まで結んでくれるお人好しなところがあり、少し見直した面はあった。
だから印象が最悪という訳でもない。
レオナルド皇子は知れば知るほど面白い方で、頼りないかと思えばそうでもなくて、ちゃんと考えているようで抜けていて、けれどその持ち前の行動力でそこをカバーすることができる人でもあった。
わからないことがあれば人に聞く柔軟性もあり、良い意見はどんどん取り入れるぞととても前向きだ。
そんな彼を見ているうちに仄かな好意を覚えるようになった。
自分にはない天真爛漫さが眩しく映ったのもあるのかもしれない。

そんな日々を送る中、暫くしてロキ陛下暗殺未遂事件の一報が飛び込んできた。
正直驚いたなんてものではない。
レオナルド皇子はワイバーンで飛び出していこうとするし、両陛下も兎に角ロキ陛下の安否確認をと暗部を大量にガヴァムへと送り込んでいた。
それだけロキ陛下の存在はミラルカにとって大きかったのだと肌で感じたのは記憶に新しい。

それから何度目かの連絡によって、無事に本人と連絡が取れたらしく、レオナルド皇子は安堵からこれでもかと号泣していた。
大変だろうけどちゃんと無事なことをこの目で確かめたいからと、少しだけロキ陛下に会いにワイバーンで飛んでいった姿はとても眩しく見えた。
レオナルド皇子が友人を大事に思う気持ちが痛いほどに伝わってきて、こんな風に人を思える人なら信じられるとも思えた。

それから暫くレオナルド皇子はロキ陛下が心配で頻繁に連絡を入れていたのだけれど、どうやらやり過ぎだったらしく、出てもらえなくなったと愚痴を溢すようになった。

「全く…またロキの面倒臭い病が出た。心配して連絡を取ろうとしてるのに、全然出てくれない。そろそろ情勢も落ち着いただろうし、もういいよね?明日にでも押し掛けようかな」
「…………流石にそれは迷惑なのでは?」
「ユフィはロキと面識がなかったよね?ロキはカリン陛下以外の事は割とどうでもいいと思ってるから、こっちから積極的にいかないとダメなんだよ!婚約者を紹介しに来たって言えば渋々でも受け入れてくれると思うし、ユフィも一緒に行こう!」

レオナルド皇子曰く、ロキ陛下はカリン陛下中心に世界が回っているらしい。
本当なのか甚だ疑問だ。
けれど結局レオナルド皇子の勢いに押されるように私も一緒にガヴァムへと向かうことになった。
苦手なワイバーン移動だったけれど仕方がない。
私も心配ではあったし、一度くらいは会っておきたいと思ったのも大きかったのかもしれない。

そうして会ったロキ陛下は……想像していた姿とは全く違う印象を受けた。

三ヵ国事業でロキ陛下によく会っているレトロンのクリス=ハルネス公爵はロキ陛下を評す時、よく『素晴らしいです!あの発想力はとても真似できません!』と言っていたので、閃きが冴える芸術家肌の方なのかしらという印象が強かった。

でもレオナルド皇子はロキ陛下を評す時、『優しいけど言う時は言う、躾をきっちりしてくれる大親友!すっごく頼りになるんだ!』と言っていたから、正義感溢れるような方なのかしらとその印象を少し変えた。
でも実際に会ってみるとそのどちらとも言い難く、ロキ陛下は何と言うか、つかみどころのないミステリアスな方だった。
受ける印象はどちらかと言うと穏やかで、セドリック王子とは全く違う雰囲気を持っているはずなのに、どこか近しいような不思議な人。
でもこの方なら確かにセドリック王子にも平気で物申しそうだなとは思った。
とは言えレオナルド皇子が言うように、カリン陛下にぞっこんなことだけはよくわかった。
そこだけは間違いない。
目で愛を語るとはこのことかと、誰に言われなくてもわかるほどロキ陛下がカリン陛下に向ける目は愛に溢れていたから。

それからレオナルド皇子の提案で三か国事業の成功を祝うパーティーを開くことが決まってしまい、急いで父へと連絡を入れた。
ロキ陛下は乗り気ではなかったので、カリン陛下とレオナルド皇子主導で行うことになったのを見て、どうやらロキ陛下が面倒臭がりだというのは本当のようだと密かに納得したものだ。

私も陰ながら準備を手伝い、パーティー数日前にレオナルド皇子とガヴァムに滞在することが決まる。
父から弟のカールが早めにガヴァムへ行くから、そのフォローを頼みたいと手紙が来たからだ。
レオナルド皇子に相談したらロキ陛下に話を通しておいてくれると言ってもらえたので安心して任せることに。

そうしてガヴァムでの滞在を迎え、カールの顔も見ることはできた。
最初は心配したけれど、流石に他国に来てまで問題を起こす気はないのかカールもおとなしくしていた。
夕食会の席では積極的にロキ陛下に話し掛けていたし、何も問題はなさそうだと安堵していたのに…。

問題を起こしたのはまさかのレトロンの外務大臣の息子テリーで、しかもあり得ないことに罪の意識は皆無。
仮にも外務大臣の息子が不法薬物を他国の、しかも王城に持ち込むなど言語道断だというのに、自分達だけで使うつもりだったから問題ないとでも言わんばかりの態度。
心底あり得ないと思った。
これで一緒に来ていた財務大臣の息子であるネイトが万が一にでも命を落としていたらどうするつもりだったのだろう?
毒でも盛られたのかもしれないと当初は騒然となったし、一歩間違えば国際問題に発展するとどうしてわからないのかと頭が痛くなる。
今回の件に関しては薬物を持ち込んだ側が悪いというのは明らかだし、問題を起こしたテリーが拘束されてもおかしくはない状況だった。
それを許してくれたのは単なるロキ陛下の好意に他ならない。

ロキ陛下は一見穏やかに見えるし、レオナルド皇子が言うように面倒臭がり屋ではあるが、無能でないと言うのは今回の件で嫌でもわかった。
闇医者と呼んでいた人物に速やかに対処を頼んだ姿から察するに、彼はやろうと思えばなんでもできるのだ。
積極的に国を良くしようと動く賢王ではないかもしれないけれど、あのブルーグレイの王太子に認められるだけの力を持っているというのは確かなことで、改めて今回の件を穏当に済ませてくれたことに対し感謝の気持ちを抱くと共に、絶対に敵に回さないようにしたいとも思った。
きっと敵と判断した者に彼は容赦などしないだろうから。

カールも今回の件でこちらに非があることは重々理解できてはいたようだけれど、問題を持ち込んだテリー達が理解しているのかどうかは甚だ疑問だ。
不安は尽きないが、やはり目を光らせておくに越したことはないと思い、カールにも気を付けておくよう伝えておくことに。

「私への反発心はあると思うけれど、忠告だけはさせてちょうだい。ここは他国。問題を起こした彼ら含め、これからの行動には十分にお気をつけなさい」

けれどそう言った途端思い切り睨みつけられ、わかっているとばかりに肩を怒らせ去ってしまった。
やはり言っても無駄だっただろうか?
その後レオナルド皇子にも事情を話し、すぐに父に手紙を書いたけれどどうなることか。
このまま何事もなく帰国できればいいけれどと思いながら私は深く溜息を吐いた。


***


【Side.ロキ】

カール王子の従者が倒れたと聞き急いで駆け付けると毒ではなく薬物による急性中毒のようだった。
ダメ元で水を飲ませて吐かせたが正直自信はなかった。
けれどなんとか死なせずに済み、闇医者にも診てもらえたから安心することはできた。

王宮医師?俺が吐かせてる横でオロオロしていたから目でリヒターに合図を送って離れた所に下がってもらった。
あんな役立たず、いる意味があるのかといつも思うけど、兄上曰くいるのだそうだ。
あれでも貴族だから不満が出ないようにしたいんだと兄は言うけれど、代々医師の家系だと偉ぶるならもっと腕を磨いて出直してきて欲しいと思う。

そして出所は案外あっさりと判明したが、隣国のレトロン王都で商人が取り扱っていると聞き、これはマズいと思った。
万が一にでもそちら経由でガヴァムやミラルカに持ち込まれたら面倒極まりないからだ。
ここは裏の皆が右往左往する羽目になる前に手を打った方が無難だろう。
そう思ったから闇医者に頼んで裏に依頼をしておいた。
これで近日中に対処してもらえるはずだ。

そんなことを後から兄に報告したのだけど、何故か口をパクパクさせながら驚いていた。
どうしたんだろう?
まあ凄く可愛いし、別にいいか。

「兄上。兄上も気を付けてくださいね?兄上に何かあったら俺は全部壊してしまいますよ?」
「こ、怖いことを言うな!」
「怖くないですよ。当然のことしか言ってませんし」

『兄上が大事で仕方ないんです』────そう言ったら兄は顔を真っ赤にして凄く照れていた。

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