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139.他国からの客人⑤ Side.カリン&他視点
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パーティーの準備を概ね整え終えて、続々とやってくる国賓達を出迎える。
皆ロキと話がしたくて仕方がない様子だ。
そんな客人達を見ていると、妙に誇らしい気持ちになる。
本人は『したいことをやってるだけですけど』と非常に冷めた態度なのだが、結果を出しているんだし、もうちょっと自分を認めてやればいいのにと思わなくもない。
基本的に褒め言葉は社交辞令としか受け取らないロキだが、俺やリヒターが言った時だけは聞く耳を持つし、少しずつ意識改革をして自己肯定感を高めていってやろうとは思っている。
ちなみに今回の招待客には国際会議で会った者達も多々いて、久しぶりに会えるのを楽しみにしていたと口々に言ってもらえた。
クレメンツの宰相で鞭コレクターのサーディ卿。フォルクスリーニアスの宰相で緊縛趣味のロッシュ卿。
フォルティエンヌからは魔道具師のジョン=カーター。
そう言えばロキとの親交を深めたいとかでロロイア国からも何故か王子と外務大臣、薬師まで来るらしい。
招待客リストに加えたのはレオナルド皇子のようだが、何故薬師まで来るのかは謎だった。
なのでこっそりロキに心当たりがないか尋ねてみたら、随分あっさりとした答えが返ってきた。
「ああ、それはあれですよ。国際会議の時にパーティーで聞いたんですけど、あの国は媚薬も有名らしくて。要するにガヴァムの裏マーケットに新作を置いてもらえないか直接交渉しに来るんだと思います」
そして俺は知らなかったが、実はジョン氏も玩具の類を幾つか裏の商人と契約しているとか、サーディ卿やロッシュ卿も自分達の手の者を使ってこっそりこっちで買い物していて、面白い物が出たら教えて欲しいとロキに頼み、裏の連中も紹介してもらっていると聞かされた。
何気に裏では色々繋がっていたのかと驚きを隠せない。
「どうもうちの技術者に認められた製品なら安全性は保障されたようなものという絶対的な信頼があるようで…」
その言葉に、そう言えば以前あそこで試した媚薬も効果は凄かったが、安全性には配慮されていたなと思い出す。
けれどここでロキの認識がちょっと心配になってしまった。
『裏の商人達は凄いですよね』とロキは楽しそうに話しているが、普通は違うからな?!
他国では非合法のものは危険と紙一重だから!
まあよくわかっていない自分が口を出すのもどうかと思うから、このあたりは裏の連中から教えてやって欲しいと思う。
俺としてはロキが危険なことに巻き込まれなければそれでいい。
そうしてやってきた者達だが、当然その中には王族も幾人か含まれていて────。
見知った者達で言えば、アンシャンテのシャイナー王、婚約者のキャサリン嬢。
ミラルカのレオナルド皇子、レトロンのユーフェミア王女。
初めて会うのはユーフェミア王女の弟のカール王子。
フォルティエンヌのオスカー王子とエリザ王女。
まだ来ていないがロロイアのキュリアス王子。
それくらいだろうか。
このあたりはロキと年も近く所謂次世代の王とも言える者達なので、どこも今後の交友を深める狙いがあると思われる。
そんな彼らとの挨拶は基本的に問題なく終わりはしたのだが、俺はカール王子が少し気になっていた。
何故ならロキが珍しく繁々と彼を見遣っていたからだ。
(どうしてそんなに見るんだ?!)
単に隣国の王太子だからという理由からではないように思えて、これは後で問い質さないとと思っていたのに、ロキはロキでエリザ王女が俺に色目を使っていたと言い出し、その日の夜はいわれなきお仕置きをされる羽目に。
(俺は何もしてないのに…っ!)
そんな風に、主だった者達が順次ガヴァムへとやってきたのだった。
***
【Side.エリザ王女】
私はフォルティエンヌの第一王女エリザ=ケイト=フォルティーナ。
先日我が国が技術協力をしている三ヵ国事業の肝と呼ぶべきガヴァムで国王の命が狙われるという事件があった。
そちらがなんとか落ち着いたとの連絡を受け、父から兄オスカーと共にガヴァムのパーティーに参加してこないかと尋ねられた。
恐らく父の狙いはロキ陛下の側室の座だろう。
現在近隣諸国では次々と結婚相手が決まっていっている真っ最中。
ブルーグレイを皮切りに、ガヴァム、アンシャンテ、ミラルカと次々と結婚、もしくは婚約者が決定した。
正直残っているフリーの王族の方が少ないのではないだろうか?
まあ正妃ではなく側室という立場で行けばどこの国でもありではある。
けれど確実に我が子が次代の王となることを狙うならガヴァム一択だろう。
何故ならガヴァムは他の国とは違って兄弟婚だから。
男同士の結婚のため、正妃の子と側妃の子が継承争いになるという事態には間違っても陥らないのだ。
しかもロキ陛下はガヴァム国内の貴族の令嬢から側妃を取る気はないとの情報も得ている。
それなら他国から姫をとなるのは当然の流れではないだろうか。
ガヴァムはブルーグレイの後ろ盾もあるし、新しい事業で国を引っ張るロキ陛下がいて、且つクーデターと言うべき大問題を丸く収めることができる手腕を持つ王配カリン陛下がそれを支える国だ。
国内情勢も落ち着き国家事業も順調で、国そのものが活発化している将来性のある国だと父は絶賛していた。
だからこそ私に側妃の座を狙ってこいと、そう言いたいのだと思う。
王族として生まれたからには政略結婚は当たり前。
話を上手く持ち込めば縁談はすぐに成立するだろう。
そんな思いでガヴァムへと向かったのだけれど────私はそこで対照的な二人の姿を目にすることになった。
柔和で優し気な顔立ちをしていて、一見無害そうに見えるロキ陛下。
けれど何故かどこか色っぽくミステリアスな雰囲気も感じられて、つかみどころがない方だという印象を受けた。
その隣にいるのは王配カリン陛下だ。
男らしく精悍な顔立ち。
凛々しい切れ長の目。
どこか清廉な雰囲気を漂わせる威風堂々とした偉丈夫。
普通に考えたらこちらの方が如何にも王らしい王と思っただろう。
そんな対照的な二人を前にし、私はついカリン陛下へと目を向けてしまっていた。
単純にカリン陛下の方が好みだったというのもあるし、ロキ陛下のようなタイプには初めて会ったからどう取り入ればいいのかがわからなかったというのもある。
(絶対に私では彼を手玉に取れそうにないわ)
ロキ陛下は多分舐めてかかると怖いタイプだと思う。
とはいえ尻込みしても仕方がないし、動かざるを得ないだろう。
ここは兄にもよく相談して動こう。
ロキ陛下はカリン陛下しか興味がないと聞くし、上手くカリン陛下を持ち上げたら何とかならないだろうか?
そんな事を考えながら恭しく二人に挨拶を行った。
***
【Side.カール王子】
パーティーに参加するために隣国ガヴァムへとやってきた。
歴史ある国だけに馬車から見える光景はとことん古臭い町並みだった。
基本的に道幅は狭いし、狭い路地はあちこちにあるし、いい所なんてどこにもなさそうな国だ。
なのに国民の顔はどこか明るいのが気に入らない。
もっと辛気臭そうにしていればいいものを。
それもこれも新王の治世のせいなのだろうか?
そんな事を考えながら城へと辿り着いた。
そうして案内されるがままに王の元へと向かうとちょうど挨拶を終えたらしい姉とミラルカの皇太子とすれ違った。
目障りなその姿に思わず舌打ちしてしまうが、今は挨拶が先だと気持ちを切り替える。
ガヴァムの王とは初対面なのだ。
たかだか三つ程年上なだけの王に舐められるわけにはいかない。
そう思って謁見の間へと足を踏み入れたのに────。
(え……)
正直言ってその姿を見て一瞬で心を鷲掴みにされたような気がした。
玉座に腰掛けていたのは柔和な笑みを浮かべながらも妖しい色香を纏う艶美な男。
流し目で見られたなら「抱いて」と思わず言ってしまいそうだし、逆に普通にしていても「抱いてもいいですか?」と誘いたくなるような不思議な魅力にあふれる男だった。
あれならどちらでもいけそうな気がする。
一瞬部屋を間違えたのかと錯覚して思考が完全に止まってしまったのだが……。
「初めまして、カール王子。ロキ=アーク=ヴァドラシアです」
耳に心地いい声で挨拶をされてハッと我へと帰り、やっとここにきた本来の目的を思い出す。
「失礼しました。カール=シン=レトロンと申します。どうぞお見知りおきください」
「宜しくお願いします」
なんとか平静を装い無事に挨拶の言葉を紡ぐことができたが、内心はかなり動揺していた。
まさかこんなに色香溢れる王だとは思ってもみなかったのだから。
はっきり言って自分の婚約者である面白みのない公爵令嬢や学園で惚れ込み妃にと望んだ男爵令嬢を前にした時よりも、ずっとずっと胸が弾んでいる気がする。
目の前にいるロキ陛下に比べたら、彼女達は幼稚過ぎるとしか言いようがなくて、見つめられるだけで顔に熱が集まり、胸がドキドキしてしまう気がした。
自分はノーマルなのになんでこんなに魅了されてるんだと思いながらなんとかその場をしのぎ切り謁見の間を後にしたのだが、落ち着くまで少々時間がかかってしまったくらいだ。
会う前はあんなにいきり立っていたのに、謁見が終わる頃にはそんな自分が酷く幼く思えて、恥ずかしくなってしまったほど。
悔しいが父の思惑に嵌められた気持ちでいっぱいだった。
(あれで三つ差……)
それを考えるともっと大人にならなければと思わされてしまう。
そして部屋に戻ってから友人達にそんな話をしたところ、そう言えばと思い出したように話が飛び出してきた。
「ガヴァムのカリン陛下がまだ王子だった頃、ブルーグレイの王太子に凌辱されたって言う話を噂で聞きましたよ」
「あれ?確かブルーグレイの王子を怒らせて、そのまま牢で快楽堕ちさせられて再起不能にさせられたとかじゃなかったっけ?」
「どうだったかな?いや、でもカール王子が実際に見てそんなに大人っぽくて魅力的だったなら、そっちは単なる噂で、そのロキ陛下が王子だった頃にセドリック王子とデキてたとかそういうことじゃないか?」
「そう言えばあの二人って仲が良いとか聞いたことがあるな」
「じゃあ今でも愛人関係ってことか。凄っ!」
自分そっちのけで盛り上がる友人達。
その会話を聞いて、そう言えば以前アンシャンテのシャイナー陛下がロキ陛下に惚れ込んで、自国に連れ去ろうとした事件があったなと思い出した。
確かにこれだけ色香を振り撒く相手ならそうしたくなる気持ちもわからないではない。
今回の挨拶でロキ陛下の隣にカリン陛下の姿があったが、その姿は偉丈夫と言った感じでとても抱かれる側のようには見えなかった。
ブルーグレイのセドリック王子も絶対に抱かれる側なはずがないし、シャイナー陛下もロキ陛下よりも背が高くてがっしりしていたはずだ。
こうして改めて考えてみるといずれと並べてもロキ陛下は抱かれる側だろうと思われた。
(うん。それならあの色香も納得がいくな)
あれで女だったら確実に傾国の美女と言われたことだろう。
(まあ…何はともあれ、兎に角仲良くすればいいんだよな?)
父の思惑に乗せられるのは癪だが、あのロキ陛下になら態度を改めてでも是非お近づきになりたいなと思ってしまう自分がいた。
皆ロキと話がしたくて仕方がない様子だ。
そんな客人達を見ていると、妙に誇らしい気持ちになる。
本人は『したいことをやってるだけですけど』と非常に冷めた態度なのだが、結果を出しているんだし、もうちょっと自分を認めてやればいいのにと思わなくもない。
基本的に褒め言葉は社交辞令としか受け取らないロキだが、俺やリヒターが言った時だけは聞く耳を持つし、少しずつ意識改革をして自己肯定感を高めていってやろうとは思っている。
ちなみに今回の招待客には国際会議で会った者達も多々いて、久しぶりに会えるのを楽しみにしていたと口々に言ってもらえた。
クレメンツの宰相で鞭コレクターのサーディ卿。フォルクスリーニアスの宰相で緊縛趣味のロッシュ卿。
フォルティエンヌからは魔道具師のジョン=カーター。
そう言えばロキとの親交を深めたいとかでロロイア国からも何故か王子と外務大臣、薬師まで来るらしい。
招待客リストに加えたのはレオナルド皇子のようだが、何故薬師まで来るのかは謎だった。
なのでこっそりロキに心当たりがないか尋ねてみたら、随分あっさりとした答えが返ってきた。
「ああ、それはあれですよ。国際会議の時にパーティーで聞いたんですけど、あの国は媚薬も有名らしくて。要するにガヴァムの裏マーケットに新作を置いてもらえないか直接交渉しに来るんだと思います」
そして俺は知らなかったが、実はジョン氏も玩具の類を幾つか裏の商人と契約しているとか、サーディ卿やロッシュ卿も自分達の手の者を使ってこっそりこっちで買い物していて、面白い物が出たら教えて欲しいとロキに頼み、裏の連中も紹介してもらっていると聞かされた。
何気に裏では色々繋がっていたのかと驚きを隠せない。
「どうもうちの技術者に認められた製品なら安全性は保障されたようなものという絶対的な信頼があるようで…」
その言葉に、そう言えば以前あそこで試した媚薬も効果は凄かったが、安全性には配慮されていたなと思い出す。
けれどここでロキの認識がちょっと心配になってしまった。
『裏の商人達は凄いですよね』とロキは楽しそうに話しているが、普通は違うからな?!
他国では非合法のものは危険と紙一重だから!
まあよくわかっていない自分が口を出すのもどうかと思うから、このあたりは裏の連中から教えてやって欲しいと思う。
俺としてはロキが危険なことに巻き込まれなければそれでいい。
そうしてやってきた者達だが、当然その中には王族も幾人か含まれていて────。
見知った者達で言えば、アンシャンテのシャイナー王、婚約者のキャサリン嬢。
ミラルカのレオナルド皇子、レトロンのユーフェミア王女。
初めて会うのはユーフェミア王女の弟のカール王子。
フォルティエンヌのオスカー王子とエリザ王女。
まだ来ていないがロロイアのキュリアス王子。
それくらいだろうか。
このあたりはロキと年も近く所謂次世代の王とも言える者達なので、どこも今後の交友を深める狙いがあると思われる。
そんな彼らとの挨拶は基本的に問題なく終わりはしたのだが、俺はカール王子が少し気になっていた。
何故ならロキが珍しく繁々と彼を見遣っていたからだ。
(どうしてそんなに見るんだ?!)
単に隣国の王太子だからという理由からではないように思えて、これは後で問い質さないとと思っていたのに、ロキはロキでエリザ王女が俺に色目を使っていたと言い出し、その日の夜はいわれなきお仕置きをされる羽目に。
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そんな風に、主だった者達が順次ガヴァムへとやってきたのだった。
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私はフォルティエンヌの第一王女エリザ=ケイト=フォルティーナ。
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ガヴァムはブルーグレイの後ろ盾もあるし、新しい事業で国を引っ張るロキ陛下がいて、且つクーデターと言うべき大問題を丸く収めることができる手腕を持つ王配カリン陛下がそれを支える国だ。
国内情勢も落ち着き国家事業も順調で、国そのものが活発化している将来性のある国だと父は絶賛していた。
だからこそ私に側妃の座を狙ってこいと、そう言いたいのだと思う。
王族として生まれたからには政略結婚は当たり前。
話を上手く持ち込めば縁談はすぐに成立するだろう。
そんな思いでガヴァムへと向かったのだけれど────私はそこで対照的な二人の姿を目にすることになった。
柔和で優し気な顔立ちをしていて、一見無害そうに見えるロキ陛下。
けれど何故かどこか色っぽくミステリアスな雰囲気も感じられて、つかみどころがない方だという印象を受けた。
その隣にいるのは王配カリン陛下だ。
男らしく精悍な顔立ち。
凛々しい切れ長の目。
どこか清廉な雰囲気を漂わせる威風堂々とした偉丈夫。
普通に考えたらこちらの方が如何にも王らしい王と思っただろう。
そんな対照的な二人を前にし、私はついカリン陛下へと目を向けてしまっていた。
単純にカリン陛下の方が好みだったというのもあるし、ロキ陛下のようなタイプには初めて会ったからどう取り入ればいいのかがわからなかったというのもある。
(絶対に私では彼を手玉に取れそうにないわ)
ロキ陛下は多分舐めてかかると怖いタイプだと思う。
とはいえ尻込みしても仕方がないし、動かざるを得ないだろう。
ここは兄にもよく相談して動こう。
ロキ陛下はカリン陛下しか興味がないと聞くし、上手くカリン陛下を持ち上げたら何とかならないだろうか?
そんな事を考えながら恭しく二人に挨拶を行った。
***
【Side.カール王子】
パーティーに参加するために隣国ガヴァムへとやってきた。
歴史ある国だけに馬車から見える光景はとことん古臭い町並みだった。
基本的に道幅は狭いし、狭い路地はあちこちにあるし、いい所なんてどこにもなさそうな国だ。
なのに国民の顔はどこか明るいのが気に入らない。
もっと辛気臭そうにしていればいいものを。
それもこれも新王の治世のせいなのだろうか?
そんな事を考えながら城へと辿り着いた。
そうして案内されるがままに王の元へと向かうとちょうど挨拶を終えたらしい姉とミラルカの皇太子とすれ違った。
目障りなその姿に思わず舌打ちしてしまうが、今は挨拶が先だと気持ちを切り替える。
ガヴァムの王とは初対面なのだ。
たかだか三つ程年上なだけの王に舐められるわけにはいかない。
そう思って謁見の間へと足を踏み入れたのに────。
(え……)
正直言ってその姿を見て一瞬で心を鷲掴みにされたような気がした。
玉座に腰掛けていたのは柔和な笑みを浮かべながらも妖しい色香を纏う艶美な男。
流し目で見られたなら「抱いて」と思わず言ってしまいそうだし、逆に普通にしていても「抱いてもいいですか?」と誘いたくなるような不思議な魅力にあふれる男だった。
あれならどちらでもいけそうな気がする。
一瞬部屋を間違えたのかと錯覚して思考が完全に止まってしまったのだが……。
「初めまして、カール王子。ロキ=アーク=ヴァドラシアです」
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「失礼しました。カール=シン=レトロンと申します。どうぞお見知りおきください」
「宜しくお願いします」
なんとか平静を装い無事に挨拶の言葉を紡ぐことができたが、内心はかなり動揺していた。
まさかこんなに色香溢れる王だとは思ってもみなかったのだから。
はっきり言って自分の婚約者である面白みのない公爵令嬢や学園で惚れ込み妃にと望んだ男爵令嬢を前にした時よりも、ずっとずっと胸が弾んでいる気がする。
目の前にいるロキ陛下に比べたら、彼女達は幼稚過ぎるとしか言いようがなくて、見つめられるだけで顔に熱が集まり、胸がドキドキしてしまう気がした。
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会う前はあんなにいきり立っていたのに、謁見が終わる頃にはそんな自分が酷く幼く思えて、恥ずかしくなってしまったほど。
悔しいが父の思惑に嵌められた気持ちでいっぱいだった。
(あれで三つ差……)
それを考えるともっと大人にならなければと思わされてしまう。
そして部屋に戻ってから友人達にそんな話をしたところ、そう言えばと思い出したように話が飛び出してきた。
「ガヴァムのカリン陛下がまだ王子だった頃、ブルーグレイの王太子に凌辱されたって言う話を噂で聞きましたよ」
「あれ?確かブルーグレイの王子を怒らせて、そのまま牢で快楽堕ちさせられて再起不能にさせられたとかじゃなかったっけ?」
「どうだったかな?いや、でもカール王子が実際に見てそんなに大人っぽくて魅力的だったなら、そっちは単なる噂で、そのロキ陛下が王子だった頃にセドリック王子とデキてたとかそういうことじゃないか?」
「そう言えばあの二人って仲が良いとか聞いたことがあるな」
「じゃあ今でも愛人関係ってことか。凄っ!」
自分そっちのけで盛り上がる友人達。
その会話を聞いて、そう言えば以前アンシャンテのシャイナー陛下がロキ陛下に惚れ込んで、自国に連れ去ろうとした事件があったなと思い出した。
確かにこれだけ色香を振り撒く相手ならそうしたくなる気持ちもわからないではない。
今回の挨拶でロキ陛下の隣にカリン陛下の姿があったが、その姿は偉丈夫と言った感じでとても抱かれる側のようには見えなかった。
ブルーグレイのセドリック王子も絶対に抱かれる側なはずがないし、シャイナー陛下もロキ陛下よりも背が高くてがっしりしていたはずだ。
こうして改めて考えてみるといずれと並べてもロキ陛下は抱かれる側だろうと思われた。
(うん。それならあの色香も納得がいくな)
あれで女だったら確実に傾国の美女と言われたことだろう。
(まあ…何はともあれ、兎に角仲良くすればいいんだよな?)
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