【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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136.他国からの客人② Side.カール王子

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レトロン王国はガヴァム王国とミラルカ皇国の間にある国だ。
俺────カール=シン=レトロンはその国の第一王子として生まれた。
そして俺の上には優秀な姉が一人いる。
ユーフェミア=クロス=レトロン。
学園では他の追随を許さないほどの才女として有名で、姉が卒業するまで俺は常に比べられ続けていた。
まあ比べられるのは昔からだが、それでも学園でくらいそんな扱いはされたくなかったと苦々しく思ったものだ。

でも姉は女で王子は俺だけだ。
どれだけ姉が優秀だろうといずれどこかへ嫁いで行く。
そうなればもう誰かと比べられることはなくなる。
俺の天下だと思っていた。

だから怖いもの知らずなことだってこれまでしてきたし、誰に対しても傲慢に振舞ってきた。
婚約者がいたって婚約なんていつだって破棄して妃は好きに選べばいい。そう思っていたんだ。
それなのに……。

「どうしてです、父上!」

自分が選んだ相手は認めてもらえず、婚約者と普通に結婚してそっちは側妃でいいだろうと叱られてしまった。
どうして次期王である自分の意見が通らない?!
そう腹を立て、部屋に閉じこもった。
どうせ後継ぎは自分しかいないのだ。
姉はミラルカのレオナルド皇子との婚約話が持ち上がっていたし、父としても今 事を荒立てることはしないだろう。
こうやって断固とした姿勢を貫けば父だって折れざるを得ないはず。
そうタカを括っていた。

なのに姉がレオナルド皇子からミラルカの鉱山ホテルに招待を受けた後、こっそりと部屋を抜け出した先であり得ない話を聞いてしまう。

「ミラルカとの縁談はユーフェミア様はお断りになるかもしれないな」
「王も苦渋の決断だろうが…臣下からすればユーフェミア王女に王位を継いで頂けた方が…」
「カール王子では国の行く末が心配だ。ここはやはり……」

こそこそと話される臣下達の噂話。
それを聞き俺は愕然となった。

(姉上が────王位を?)

それでは自分はどうなるのだ?
婚約者である公爵令嬢の家に婿入りか?
これまで『いつでもこんな婚約は破棄できるんだぞ』と言って上から目線で言ってきたのに、今更あちらに頭を下げろと?

(そんなこと…できるはずがないだろう?!)

そう思ったから姉を脅してこいと暗部を放った。
別に殺すつもりはなかったんだ。
それなのに────。

「この、バカ者が!!」

姉を助けたレオナルド皇子から安全のためにミラルカの城で暫く身柄を預かるという手紙が届けられ、激高した父から思い切り殴られてしまった。
ついでに戻ってきた暗部から姉からの伝言として『王足りうる器になれ』とまで忠告されてしまう。
どうしてそんな風に言われないといけないんだ?
そんな事を言われなくても俺は王子で、次期国王なのには変わりなかったはずなのに。

「反省するまで謹慎しておけ!許しが出るまで一歩たりとも部屋から出ることはまかりならん!」

そうして俺は今度は自分の意思ではなく父の命令で部屋に籠る羽目になってしまった。

何が悪かった?目障りな姉が悪いんじゃないのか?
何度考えても自分の何が悪いのかがさっぱりわからなかった。
だからだろうか?結局それから暫くの間、俺には監視がつけられ自由は完全に奪われてしまう。
仕方がないとはいえ不満ばかりが溜まっていく状況に陥り、イライラは増すばかり。

そんな俺にある日父がこう言ってきた。

「少しは反省できたか?」
「…………そうですね」

感情的に動くのではなく、もう少し計画を立てて行動を起こせばよかったとは思っていたからそう答えた。

「今度三ヵ国事業が無事に成功を収めたことを受けて、カリン陛下主導の元、パーティーをガヴァムで行うことになった」
「…………」
「ガヴァムのロキ陛下はまだ若い王でお前とそう年は変わらないが、不遇に耐えながらも立派に王位を継いでいる。もちろん傍でそれを支えているカリン陛下の手腕もあるだろうが、なかなかどうして上手く国を回している様子。今回の事業でも各所との調整は無駄がなく見事だった。社交性も高く斬新なアイデアで国を盛り立てる王とそれを傍でしっかり支える王配の二人からは学べることも多いだろうし、特にお前にとって良い手本となってくれるはずだ。お前が本気で王位を継ぎたいのなら、これを機にしっかりと心を入れ替え、レトロンの名に恥じぬよう立派に挨拶をしてくるように」

つまりは実際にその立派な姿を見て、俺に色々学んでこいというのが父の狙いのようだった。
確かに二人から学ぶことはあるにはあるだろう。
でも正直言ってあまり気は進まない。
だってあそこは古臭い兄弟婚をした王家なのだ。
ロキ陛下の功績に目を瞠るものがあるのは認めるけれど、実際は古臭い慣習に囚われているのではないだろうかという気がするし、そもそも自分の兄を嫁に迎えている時点で自分とは考え方が合わない気がした。

とは言えここで行かなければまた叱責されるのは必至。
同行者は選んでも良いと言ってもらえたし、仕方なく頷き渋々参加することに。

因みにそのパーティーにはレオナルド皇子の婚約者として姉も出席するらしく、間違っても手を出すなよと念を押されてしまう。
姉は俺が暗部を差し向けた後からずっとミラルカに滞在していてこちらには帰ってきていないが、父とは頻繁に手紙のやり取りをしているようだ。

(滞在してるからレオナルド皇子と上手くいったんじゃないか?)

それなら俺は責められる筋合いはないと思う。
口には出さないけど…。

まあ俺としてもあの二人が上手くいってくれるならそれに越したことはないし、婚約者として決まったのなら特に二人の仲を邪魔する気はない。
寧ろ破談になられた方が王位を奪われそうで困る。
なのでそこは素直に言うことを聞くことにした。
姉と会うのは憂鬱だがこの際割り切るとしよう。

「カール王子。護衛は我々にお任せを」
「隣国とは言えガヴァムに行くのは初めてなのでドキドキしますね」
「交渉は得意なので、何かあれば仰ってください!」

それぞれ在学中仲の良かった面々が笑顔で俺に言ってくる。
騎士団長の息子であるフリードリヒ。
外務大臣の息子であるテリー。
財務大臣の息子であるネイト。

彼等とは一人の女性を奪い合った仲ではあるが、今は将来の側近候補としてこうして仲良くしている。
そう言えばその彼女、ジャネットは今どうしているのだろう?
俺に捨てられたと勘違いして泣き暮らしていないといいのだが…。

そんなことを考えながら、俺はガヴァムへと向かう準備に取り掛かったのだった。


****************

※カール王子については『王子の本命~姫の護衛騎士は逃げ出したい~』のミラルカ旅行⑤でユーフェミア王女が触れていますが、婚約者の公爵令嬢がいるにもかかわらず学園で男爵令嬢に惚れこんで、婚約破棄をしたいと父王に申し出たら、『公爵令嬢と普通に結婚して、男爵令嬢は側室にしたらいいだろう』と言われ、不貞腐れて部屋に閉じこもったという経緯があります。

ちなみにお付きの者達は頭文字を取って『フテネ(ふて寝)三人組』と覚えると覚えやすいと思います。
全員『どうしてカール王子を諫めずに自分達まで男爵令嬢をチヤホヤしてたんだ』と父親に叱られ、ふて寝してた設定。
年齢的に全員18才の世間知らず。
誰とは言いませんが、そんな彼らの内の一人が薬物を持ち込んで騒動を起こすところから始まります。
カール王子はある種添え物なので『子供が粋がってるんだね』程度に読み進めて頂けたらと思います。


※次話とその次はロキとカリンの筆プレイなのでRなお話です。
苦手な方はパスしてください。
よろしくお願いしますm(_ _)m

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