【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
152 / 234

閑話18.小さな令嬢の王宮探訪

しおりを挟む
※薔薇の棘がシリアスなお話しだったので、ちょっとほのぼの系を入れておきます。
軽い気持ちでお読みください。

****************

私はここ、ガヴァム王国にある伯爵家の末っ子、マリア=アドルファス。10才。
この国には若い王様がいて、なんでも前の素晴らしい王から王位を簒奪した極悪人なんだとお姉様やお母様から聞かされていた。
でもね?おかしいの。
話を聞いた時はそんな王様、嫌われて当然だと思ったし、なんだったら死ねばいいのにと言っているお姉様達を見て確かに国民の為にならない王様なんていらないわよねとも思ったのだけど…。

「いやぁ…。ロキ陛下の代になってから本当に便利になったなぁ」

お買い物で街に出て馬車で道を通っている時、不意にそんな声が聞こえてきた。
お姉様達はロキ陛下の話題なんて聞く気もないのか完全無視の姿勢だったけど、私は違ったわ。
だってお姉様達が言う極悪人の王が民達にどう思われているのか気になるじゃない?
だからそっと耳を傾けてみる。

「商人達が他国から便利な魔道具を持ち込んでくれるようになったもんなぁ」
「そうそう。ロキ陛下は魔道具がお好きらしいし、商人達がそう言った物を持ち込んでも全く気になさらないもんな」

どうやら王様────ロキ陛下は魔道具がお好きらしい。

「前王は素晴らしい方だと思っていたが、古き良き時代を大切にとこういった物は全然認めてくださらなかったし、商人達に持ち込むなら税を治めろって手厳しかったものな」
「そうそう。その分高くなるから専ら便利な道具は貴族向けで、俺達には手が出なかったから」
「ロキ陛下はそういったことはなさらないから、本当に有難いよ」

どうやら民は前王よりもロキ陛下の方が有難いらしい。
そこに嫌悪は感じられないし、寧ろ好印象と言った感じだ。

そんな感じで街に出る度にそれとなく民の話を耳に入れて、ロキ陛下ってそんなに悪い人じゃないんじゃないかなぁと思っていた矢先に事件が起こった。
なんでも前王妃が貴族と共謀してロキ陛下を殺そうとしたらしい。
お母様やお姉様はそれを聞いてざまあみろとほくそ笑み、これからはカリン陛下の時代だと言っていたけど、どうしてそんな風に言えるのかが私にはわからなかった。

人を殺そうとするのは悪い事じゃないの?
そもそもロキ陛下の治世を民は喜んでいるのに、どうしてお母様達はこんな風に言うんだろう?
不思議。
そう思っていたら、案の定と言うかなんと言うか、民達が激怒した。
自分達の生活を豊かにしてくれている王を殺そうとするなんてと貴族に歯向かったのだ。

本当に悪い王様だったら民はこんなに怒らなかったと思う。
普通の王様でもこんな風に行動を起こさなかったはずだ。
きっとすごくいい王様だったからこそ皆が動いたんだと、まだ小さい私にだってそれくらいのことは理解できた。

お母様達はそのせいでドレスや宝石なんかが買えなくなったと憤ってお父様に食って掛かっていたけど、お父様はロキ陛下は民に慕われているから当然だと返していた。
いつもお忙しいお父様は王宮にいることが多いから知らなかったけど、お父様はロキ陛下をちゃんと認めているようでホッとする。

お母様とお姉様は貴族の方が偉いのよと言うけど、ロキ陛下の方が偉いのよ?王様だもの。
何を言っているのかしら?
民なんて強く言えば何でも聞くでしょうとヒステリックにお二人は言うけれど、数が桁違いよ?
何を言っているのかしら?
おかしなお母様とお姉様。
この時点で私は理解してしまったわ。
これまでこの二人の意見を鵜呑みにしていた私の世界はとっても小さかったのだと。

(これからはもっと広い世界を見なくっちゃ)

そう思ったから、王宮に戻るお父様の馬車にこっそり忍び込んだ。
もちろんすぐに見つかってお父様に帰りなさいって馬車から降ろされそうになったけど、子供の特権泣き落としで王宮に連れて行ってもらった。
でも王宮の中はどこもかしこも慌ただしくて、子供が歩き回れる状況じゃなかったから、仕方なくお父様の王宮でのお部屋に滞在させてもらった。
滞在自体は『今度お父様がおうちに帰る時に一緒に帰る!』と駄々をこねたら一発だったわ。

そうして一週間くらいしてからやっとお父様が明日には帰れそうだと言ったから、私はそういうことならと帰る前に王宮内を散策してみることに。
あんなに騒々しかったのが嘘のように静まり返っている王宮を見て、ああ騒動は落ち着いたんだなと察しつつ、ぴょこぴょこと廊下を歩いた。
もちろんお父様には内緒で歩いているから、あんまり目立たないように。
でもそんな風に歩いていたらいつの間にか迷子になって、怖い騎士さん達に道を聞くこともできずに半泣きで庭園に逃げ込んだ。

「う…ぐすっ……」

どうしようどうしようと泣いていたら、なんだか優しそうなお兄さんがこっちにやってきて、「子供?」と口にした。
見上げた私にお兄さんがにこりと笑う。

「もしかして迷子?」
「はい…。すみません」

でもこのお兄さんなら騎士のおじさん達より優しそうだし、道を聞いたら教えてもらえるかもしれない。
そう思って、「マリア=アドルファスです。父の居場所をご存じないでしょうか?優しいお兄様」と丁寧に挨拶をしたら、何故か面食らった顔をした後、クスクスと笑われた。

「ご丁寧にありがとう。アドルファスというと確か宰相補佐のアドニス…だったかな」
「父をご存じなんですか?!」

希望が見えてぱあっと顔を輝かせると、お兄さんは「知ってるよ」と言って案内してくれることに。
嬉しくて思わずその手をキュッと握ったら物凄く驚かれたけど、どうかしたのかしら?

「お手々繋いじゃ…ダメ、ですか?」

そう聞いたら何故か困った顔で「君が困らなければ別にいいよ」と言ってくれた。
でもどうしてそんな風に言われたんだろう?
それがさっぱりわからない。
でもいいよと言ってくれたんだからと私はウキウキしながら手を繋いで、お父様のところに行くまで沢山沢山お話をした。

ここに来たのは自分の世界を広げるためだと言うことと、お姉様もお母様も嘘つきだったから、自分の目でちょこっとでもロキ陛下を見たかったこと。馬車で聞いたことがある民達の話もしつつ、今回の件でロキ陛下がどれだけ民達に慕われていたのか凄く実感して、噂は鵜呑みにするんじゃなくちゃんと確認しないといけないって思ったことなんかを話したように思う。

それをお兄さんはどことなく興味深げに聞きながら私をお父様のところまで連れて行ってくれたのだけど────。

「ロキ陛下!」

(え?ロキ陛下?どこに?)

その言葉にそう思ったのも束の間。
お父様がこちらを驚愕の眼差しで見つめながら走ってきた。

「へ、陛下!娘が何か粗相でも?!」

お父様は何故か私の隣にいる親切なお兄さんにロキ陛下と言った。
思わず驚いてお兄さんを見上げると、お兄さんは困った顔で笑って、たまたま外に散歩に出て帰ってきたところだったから内緒にしててくれと言ってきた。
なんだか可愛らしい。
とてもじゃないけど王位簒奪なんてできる人じゃないじゃないかと驚いてしまったくらいだ。

(やっぱりお母様もお姉様も大嘘吐きだわ)

それが分かっただけでも良かったと思う。

「向こうで迷子になっていたから連れてきただけだ。後は任せても?」
「もちろんです!マリア!明日には帰るんだから部屋でおとなしくしていなさい」
「はい、お父様。ごめんなさい」

そうやってちゃんとお父様に謝った後、お兄さん────ロキ陛下に向き直ってきちんとお礼を言う。

「ロキ陛下。助けて頂いてありがとうございました」
「いや。これからは気を付けて」

ロキ陛下は優しい笑みでそれだけ言って去って行ったけど、私の胸はその笑顔にトスッと射抜かれたような気がした。

だから、別に悪気があったわけじゃないのよ?
帰ってからロキ陛下が優しくて、笑顔が素敵で、王位簒奪なんて絶対しないような紳士的な人だったって会う人会う人に言ってしまったのは。
言ってみれば初恋話を嬉し恥ずかしで子供心にきゃいきゃい無邪気に話してしまっただけだったの。
ただそのせいで、私周辺のロキ陛下に対する印象が良くなってしまったという…。
そこだけなら良かったのだけど、どこをどう伝わっていったのか、何故か縁談話がロキ陛下に沢山持ち込まれることに────。

「ご、ごめんなさい~!」

ロキ陛下は今21才…だったかしら?
一回り近く下の子供達からの縁談が殺到ってなんの嫌がらせ?!とか思われていないかしら?
ロキ陛下にロリコン疑惑が出たら私のせいだわと思って慌てて謝罪の手紙を書いたけど、大丈夫だからという丁寧なお返事が届けられた。
本当に申し訳なさすぎる。
お姉様は何を勘違いしたのか「ナイスな嫌がらせね、マリア。私も溜飲が下がったわ」なんて笑って言ってくるし、本当に泣けてくる。
初恋の人をそんな風に言われて腹が立ったからお姉様のリボンを全部これでもかとぎゅっぎゅ、ぎゅっぎゅと堅結びにしてやったわ!
ざまあみろ!
取り敢えずお父様に言ってもう一度王宮に連れて行ってもらって、きちんとロキ陛下に謝罪がしたいと思う。

「ごめんなさい、ロキ陛下。おバカなマリアを叱ってください」



****************

※そんなわけで、下の世代の印象は改善されましたというお話。

しおりを挟む
感想 234

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...