【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

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閑話17.酒場にてⅡ

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※一応今回カリンは裏稼業の男達から無事に認めてもらえたというお話。

****************

ぶっ壊れ野郎の兄が全ての始末を終えた。
正直よくやったとは思う。
あの母親に対しても甘い対応はしていなかったし、最後まで手を尽くしていたとスパイの奴らからも聞かされた。
悔しいが今回は認めてやるほかない。

幸い闇医者からはぶっ壊れ野郎は無事に回復に至ったと聞いた。
これには皆ホッとしたもんだ。
ただ『今度似たようなことがあればいつでも他国に逃がしてやろうとあれこれ仕込んでおいた』と闇医者は腹黒に笑って言っていた。
流石だ。抜かりがない。
何だかんだと闇医者はぶっ壊れ野郎がお気に入りなのだ。
まあ俺達は皆そうではあるけれど。

今回の件でぶっ壊れ野郎は何か俺達に返せることはないかと言ってくれたらしいが、別にそんなことは構わない。
どっちかと言うと今回の件は俺達の団結を高めることに繋がったし、商人達とのスムーズな連携も可能になった。
ふざけた貴族と手を切るきっかけになったし、どことどこが繋がっていて、どこが信用できるのかを知るいい機会にもなった。
貴族ネットワークは今回の事を利用してしっかり把握しておいたから、今後に生かすこともできるだろう。
要注意な奴らのところにはスパイは多めに潜り込んでいるし抜かりは何一つない。
そのうち各貴族家の隠しルートなんかも全部報告としてあがってくることだろう。
こうなったら最早ガヴァムの貴族の全てを握ったようなものだ。
手綱は全て握ったも同然だし、後はぶっ壊れ野郎がやりやすいように上手く動かして行けばいい。

どうやら今回の件を受けてぶっ壊れ野郎は俺達や商人達に恩返しがしたいと考えてくれたらしく、少し国政に興味を持ち出したのだとか。
これは非常にいい傾向だ。

「あいつも昔に比べて随分真面になってきたなぁ」
「本当に。他国を見て色々交流を深めたりしたのも大きいのかもな」
「そうだな。後はリヒターやカークの存在もでかいだろうな」
「ああ、確かに!昔じゃ考えられないほどの心強い味方だ。今回だっていの一番に素早く動いてくれたみてぇだし」
「そうそう」

俺達の間であの二人はある種英雄だった。
手遅れになる前に連絡をくれたのは本当に助かったし、感謝してもしきれない。

「取り敢えず、今後は他国のアジトとも連絡を密にしていくか」

今後目下の課題はそこになっていくだろう。
幸いツンナガールと言う便利な道具もできたことだし、密やかに各地に散った仲間達に行き渡らせて全員が持つくらいの規模にまでしていきたいとは思っている。

そんなある日のこと。
ぶっ壊れ野郎からぶっ飛んだ話が持ち込まれて驚愕してしまった。

「は?あの山をぶち抜きたい?」
「そう」

正直言って相変わらず頭がおかしいことをサラッと言いやがるなと思った。
ぶっ壊れ野郎の考えは本当に規格外だ。
今回アンシャンテにいた奴らも力を貸してくれたとどこからか聞いたらしく、連絡が大変だったんじゃないかと思ったのだとか。
ワイバーンで向かうには人数に限度があるし、それなら山の下に地下道を掘って、そこにレールを敷いて商人達の使うルートにできたらと思ったらしい。
しかも『いつも使ってる地下道みたいな感じで作れたらと思うんだけど、取り敢えず爆破しながら掘り進めたらいいのかな?』とか、『余計な土は全部マジックバッグに突っ込んでいったら問題ないかな?』とか言い出した。
どうやら本人的には本気らしい。
誰か止める奴はいないのか?
確かにできたら便利だとは思うが、これは流石に国家事業だろう。
大掛かりすぎる。

「悪いことは言わねぇから兄貴に相談しろ」
「兄上は忙しそうだから勝手にやろうかと思ったのに」
「……勝手にはダメだぞ?」
「ぶははっ!ぶっ壊れ野郎なら夜中に一人で爆破しに行きそうだもんな」
「確かに!やりそうだ」
「生き埋めになるから絶対勝手にやるなよ?!」
「……わかった」

ちょっとずつ毎日爆破していったらできると思ったのにと拗ねたように言うとんでもない国王をなんとかストップさせて、しょうがないなと考えを巡らせる。
結局利になることだし、知り合いに声をかけまくればやってやれなくはないかと思ってしまうのだから俺達も大概大甘だ。
でもだからこそ毎日が面白いのかもしれない。

「全く…ぶっ壊れ野郎はしょうがねぇなあ。やってやってもいいが、国としてやるかやらないかちゃんと確認とっとけよ?こういうことはちゃんと筋を通さねぇとトラブルになるからな」
「わかった」
「表で話が通らなけりゃあ裏に持ってこい。知り合いに話を通してやるから。あと、今回みたいな時は一人で来ずにお目付け役を連れてこい」
「え?ああ、カークは来てるけど…」
「じゃあ呼べよ?!」

わざわざ外で待たすなと言って中へと引き込み、飲め飲めと酒を勧めて今回の打ち上げへと突入した。
カークの野郎は『暗部なのに』と言うが知ったことか。
もう身内みたいなもんなんだから遠慮はいらねえよと言ってやったらどこか嬉しそうにしてたし、別にいいだろう。
こいつはこいつで新参だから、こうして居場所ができるのは嬉しいのかもしれねぇな。

「それでロキ様が一人で二人同時に翻弄してきて…」
「はぁ~…ぶっ壊れ野郎も大人になったなぁ」
「やってることはぶっ飛んでるけどな」
「ハハハッ!確かに!」
「器用にも程があるなぁ。いっそ転職すっか?!スパイでもいけると思うぞ?」
「ちげぇねぇ。ハハハハハッ!」

そして今夜も酒場は盛り上がる。
ぶっ壊れた王が治めるこの国は裏の者にとっては楽園だ。
前王の時代はこんな日が訪れるなんて思ってもみなかったから余計に楽しくて仕方がない。

できるなら末永くこの日々が続きますように────。
そんな思いで俺達は乾杯をしたのだった。

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