【完結】王子の本命~ガヴァム王国の王子達~

オレンジペコ

文字の大きさ
上 下
140 / 234

125.薔薇の棘⑬ Side.カリン

しおりを挟む
母達が街へと繰り出した後、俺は裏稼業の男と対峙していた。

「掌握完了」

ピッとツンナガールを切り、そんな一言を溢したので俺は疑わし気に「何のだ?」と短く問いかけた。

「当然この別荘のだよ。カリン陛下」

ツンナガールで呼び出したこの男曰く、既にこの別荘の使用人達は全て把握し、誰がロキを陥れるのに協力をしたのかも全て把握し終えたらしい。
しかもここに入り込んだ裏稼業の男はこの男だけではないとも言われたし、街の方にも散っているらしい。

「ああそうだ。ロキ坊を襲った男はリヒターが殺ったらしいが、裏戸を開けて中に引き入れた庭師の男は処分済みだ。バラして庭に埋めて置いた。買収されてた下剤を盛った毒見係の男も同じくもういねぇ」
「え?」
「媚薬を盛った侍女と部屋に手引きした侍女の方もあの嬢ちゃん達から離れたタイミングで即殺ってやるよ」

男が嘲笑うかのようにロキを陥れた者達の死の宣告をしてくる。
本当に、これでもかと言う程迅速に事を運んでいくその手腕に驚きを隠せない。
まだここに来てそれほど経ってはいないだろうに…。

「……証人として残しておかなくてよかったのか?」
「いらねぇなぁ。今回の俺達の目的は実行犯達への報復なんだから」

男はあくまでも自分はただのスパイだから、上の者の考えなんて知ったことはないと言い放った。
曰く、適切な方法で排除するのみだそうだ。
実に裏稼業らしい簡潔さ。ある種その考え方は羨ましいほどにシンプルだ。
スパイが人殺しを請け負うなんて初耳だが、成り代わりで侵入する際は殺ることもあるんだと男は笑う。
手段も様々らしい。

そんな話をしながら緊張していると、徐に全く関係のなさそうな話を振って来られた。

「そう言えばカリン陛下。あんたロキ坊を抱いた事はあるのか?」
「一応あるが?」
「ふ~ん?合意で?」
「ああ。処女をもらって欲しいと言われて…」
「ククッ。可愛いとこあんなぁ。ロキ坊は」

そして男は「ならまあいいか」と言って、どこかへとツンナガールをかけ始める。

「ああ、俺だ。闇医者は今ロキ坊についてんだろ?様子は?そうか。ならいい。急ぎで軽い風邪薬でも処方して届けてもらえないか?ああ、念のため四人分。そうだ。あとはこっちで上手くやる」

そう言って男は通話を切った。

「さぁて、まずは全員体調不良にでもなってもらおうかねぇ」

その上で報復をと男が嗤う。
けれどこのままだと俺の報復ができなくなるような気がして慌てて口を挟んだ。

「待て!俺も母達にはしっかり報復をしたいんだ!」

けれどそんな俺に男は冷めた目を向けて『当然だろう?』と言ってきた。

「あんたにやる気がなかったら即殺してやってたよ。動きはとろいが一応動いてたからな。協力はしてやる」

そう言って男は現状街で母達がどうなっているかの可能性を口にし始めた。
その上で最後に二ッと笑ってこう言った。

「実行犯の奴らは俺らが全部排除しておいてやる。ま、あの張本人達にも当然きっちり報復はしてやるがな。俺達が散々報復をした後────最後の最後だけは譲ってやるから、その時はきっちり自分の手で落とし前をつけろ。そん時にヘタレたら承知しねぇぞ?」と。




それから暫くして昼食を食べ終わった頃、母達がずぶ濡れになりながらヒステリックに帰ってきた。
どうやらあらかじめ聞かされていた通り街で酷い目に合わされたらしい。

男から聞いた話によるとこの別荘がある地の領主であるハイランド子爵は元々ロキに恩義を感じている貴族で、常々感謝していたらしく、街にいる商人達もその恩恵に預かりロキに深く感謝していたらしい。

「最初は女達とグルだったら潰してやる気満々だったが…なかなかどうして話の分かるおっさんだった」

そう呟いた男の目は酷く楽しげだった。
恐らくこの地で何があろうと全責任は自分がとるとでも確約してもらえたのだろう。
そんなところにロキ暗殺計画を実行した女達が買い物にきたらどうなるかは明白だ。
裏稼業の者達が既に街中に話を触れ回っていたお陰で母達は何一つ買うこともできずに追い返されたようだ。
ざまあみろとしか思えなくてつい『因果応報だな』と口にしてしまったほど。
ロキが苦しんだ分だけ全員もっと苦しめばいいと思った。

男は『ここは俺達に任せて帰れ』と俺に言い、不満げにすると『どうしてもと言うなら下剤だけでも盛ってやってから帰るか?』と揶揄からかってきた。
暗にそんなちっぽけな報復でいいのかと言ってきたのだ。

当然だがそれで納得できる自分ではない。
仮にここで彼女達を怒りのままに私怨で斬り殺し、その上で家を潰すのは簡単だとは思う。
でもそれだと何も変わらないし、第二第三の彼女達のような輩がロキをこれからも苦しめる可能性は高い。
母に関しても、これまでロキを苦しめ続けてきたのに一太刀で楽になるなんてとても許せそうになかった。
やるなら徹底的にやってやりたい。

最後の最後は譲ると男は言っていたし、ここで俺が帰っても勝手に母達を殺したりはしないだろう。
ロキへの愛情を量らせてもらうぞと挑戦的に言われたし、彼らにとっても俺に求めている役割がもっと大きなものであることは明白だった。
ならば最終的な目標は似たり寄ったりなはず。

どんな問題が生じても王宮の者達を黙らせ、他にも敵がいるのなら排除する────それが俺の仕事だ。
これは裏の者達ではなく俺にしかできない事。
母達が今回の避暑の件を知っていた上、息のかかった者達を潜り込ませていたのは事実。
となると今回の避暑の件をそもそも持ちかけてきた者達は全員王暗殺の被疑者となる。
取り敢えずは令嬢達の父親達は一番怪しいと言えるが、それだけとも思えなかった。
敵を一掃するためにも早急に帰って調べ上げなければならない。

とは言え帰るための足がない。
そんな俺に男は仕方がないなと言ってワイバーンを手配してくれた。

「ワイバーンなら王宮までひとっ飛びだ。さっさと帰ってどんな手を使ってでも敵を全員牢にぶちこんでやるんだな。あ、あの女達の捕縛は先送りにしろよ?俺らが見張りつつ地獄に落としてやるんだからな」

また連絡すると言って男は俺を送り出した。

「おら、しょうがねぇから乗せてやるんだ。感謝してきびきび動け!」

そして物凄く冷たい目で別の裏稼業の男に促され、暗部と共にワイバーンに乗ったのはいいけれど、半泣きでワイバーンにしがみ付きながら王宮に飛ぶ羽目になった。

「ざまぁねえなあ!」

面白そうに嗤われたがこっちはそれどころではなく、乱暴な飛行に悲鳴を上げるしかない。
大サービスだと言って宙返りされた時は気を失うかと思った。
絶対俺にも報復してるだろうと思ったが背に腹は代えられないので、必死に気をしっかり持ってなんとか王宮へと辿り着いたのだった。


***


「カ、カリン陛下?どうしてこちらへ?」
「避暑に出掛けておられたのでは?」

蒼白な顔でフラフラと廊下を歩いていると、宰相や大臣達が驚いた顔でこちらへとやって来て声を掛けてきた。
ワイバーン酔いでフラフラしているが何とか口の端に言葉を乗せる。

「ロキが…」
「ロキ陛下に何か?」
「母と貴族令嬢達に殺されかけた」
「ええっ?!」
「なんですと?!」
「そ、それで今は?」
「今は安全の為、居場所は教えられない」
「容体は?!お怪我が酷いのですか?!それとも毒ですか?!」
「容体はあまり芳しくはない。それよりも、今回避暑を勧めた者達への聴取を行う。早急に伝達をしておくように」
「そんなっ!我々をお疑いなのですか?!」
「母が絡んでいるのだ。当然だろう?一人残らず甘んじて聴取に応じるように」

そうやって話しつつ、俺は周囲へと視線を向けた。
この場にいる者達におかしな点はなさそうだが、後で暗部達にすぐさま指示を与えて探らなければならない。
あの裏稼業の男達の仕事の速さを見るにのんびりしている暇などこれっぽっちもないのだ。
歩調を合わせ、機敏に迅速に動かねば。

「準備が整い次第言ってこい。俺は俺でやることがある。一先ず下がらせてもらうぞ」
「はっ、はい!」

気遣うような目で見てこられたが大変なのは俺ではなくロキの方なのだ。
さっさと動かなくては。
幸いワイバーン酔いのせいでフラフラしているから、加担した者達も俺が迅速に動けるとは思っていないはず。
隙はある。
必ず動いてくるはずだ。

もしかしてあのワイバーンに乗っていた男はそれを狙って俺をこんな状態にしたんだろうか?

(いや。あれは絶対に報復も含めていたな)

多分一石二鳥とでも思われたんだろう。
そう言えば別れ際に気になることも言われた。

『お前の処遇は全て終わってから決められる。それを忘れるな』

あれはどういう意味だったんだろう?
常に見張っているぞと言うことなのか?

「迅速に王宮内でおかしな動きをしている者達を探れ。あと、裏稼業の者達が多々動いている。間違ってもそちらの動きは妨げるな。あれはロキの味方だからな」
「御意」

王宮内に残していた暗部達を総動員させて怪しい動きをする者達へと探りを入れる。
これで上手く炙りだせるといいのだが……。

そう思っていると、ここでここぞとばかりにロキの犬達が動き始め、あっという間に報告書の山が積み上げられた。
正直ここまで使える連中だったのかと驚きを隠せない。

「俺達のロキ様を殺そうとするなんてよくも!」
「カリン陛下!絶対に生温い判断はしないでくださいね?!」

彼らの怒りは凄まじく、なんだか本物の忠誠心を見せられたような気がする。

(これならすぐに不審な者を絞り込めるかもしれない…)

そうして俺は報告書の山を読み進め、不審な報告書が紛れていないか警戒しつつ目を通した。
そして疑わしい者達を絞り込むと共に厳しく聴取し、加担した者達を特定して投獄していく。
当然だが彼らに慈悲など掛けるつもりは一切ない。
皆纏めて地獄に送ってやる。

だが母達の実家を潰すのは一番後回しだ。
証拠は掴んだからいつでも当主を投獄し潰してやることはできるのだが、あの時の裏稼業の男から連絡が入り、母達を酷い目に合わせた上で実家に送り返すから少し待てと言われたのだ。
その上で上手く他の貴族達からの非難がそちらへと向くよう仕向けろとも言われた。

今回の俺達の目的は一致している。
ロキが安心して過ごせるように、もう二度と傷つくことなどないように全ての敵を一掃し、環境を整えてやること。
ここで貴族達の意識を変えることができたなら、今後ロキが傷つけられることはなくなる。
それがわかるからこそ、俺は『上手くやってみせる!』と気合いを入れた。

今回の件で俺は痛いほどよくわかったのだ。
繊細で傷つきやすいのは女性ではない。
あんな毒花達がそんな存在であるはずがなかった。
あんな女達に比べたらずっとロキの方が繊細で壊れやすくて守ってやらないといけない相手だったのに…。
今度ロキに会ったら『二度と間違わないから、もう一度チャンスが欲しい』と頭を下げよう。

「ロキ。待っていてくれ」

決意を新たに俺は強く前を向いた。

しおりを挟む
感想 234

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...